手に入れたかった心
主人公が女々しいです。ウザいです。
でもこれからの事を思うと読まなくてはいけない部分。
重大な部分です。はい。ウザいけどね。女々しいけどね。
舞う。バラの花びらが舞う。
己の香りが周りにばら撒かれ、
そこ一帯が花の匂いで埋まった。
薔薇だけではなかった。そこには無残にも
姿を滅茶苦茶にされ場所をも荒らされた
可哀想な花たちの末路。そして、花壇だった場所だけ。
被害は相当なもので、周りはもはや荒れ果てた地と化していた。
その原因は黒い鎧を着こんだ騎士たちのリーダーにあった。
これでもかと言わんばかりに黒く光る不気味な剣を手に
奇跡的に逃げ回り続けるヒカリを狙いながら
黒い光を剣から放ち、時折ヒカル目がけて
振り下ろされるからだった。
「ああ、神様。僕は一体何をして
こんな過激な状況になったんでしょうか?」
剣を避けながら片膝をつき手を天へと伸ばし、
その様は勝手に劇団の哀れな主役を演じるかのようだった。
勿論、そんなことをやっていれば隙は生まれるもので。
黒騎士がそこを突こうと剣を振り上げた。
しかし、彼が刺されるすんでのところで
黒騎士の体がぶっ飛ばされた。
背中を何者かによって蹴飛ばされ、数メートル飛んでいった。
黒騎士がいた場所に軽やかにスチャっと着地したのはあの女。
短髪の茶髪は色を変え、緑色をしていた。もちろん
丸いクリクリの眼も深緑色をしている。
彼女は呆れた様にヒカリを見た後、溜息をこぼした。
「そんな事をやっている暇があるならちゃんと避けてくださいよ。
シャレにならないんですよ?あの剣」
「そんなのみれば分かるよ。普通じゃないってことくらい」
ヒカルの言葉にまた溜息をする彼女。
貴方が考えている普通じゃない事以上なんです。
そんな軽々しいモノじゃないんですよ。と手をあごに寄せた。
「なにしろ、かの魔王が使っていたとされる呪われた剣ですから」
「魔王…別に君の事を信じるわけじゃないけど
疑うつもりもないな…で、なんであいつがそんな
危ない剣を持ってる分け?でなんで俺を狙うわけ??」
「魔王を倒した勇者があの人で私のフィアンセだからですよ。」
そこで彼の脳は体を硬直させた。
え?ちょいと待て。俺はモテてもすぐフラれる男。
さっきもフラれて何となく公園へ散歩して
ベンチに項垂れていた。そこへ現れたのが
この得体のしれない可愛い子ちゃんで
俺を押し倒して好きだと告って
付き合ってくださいとかなんとか言っていた割に
こいつにはフィアンセ、つまり許婚がいてしかも
魔王を倒した勇者??オカシイ。絶対オカシイ。
じゃあ何か?こいつまさか浮気相手を俺に決めたってか?
そうだとしたらもの凄く失礼だ。俺はそんなに軽い男じゃない。
むかつく。こんな女が一番嫌いなタイプだ
「彼が貴方を狙うのは私が貴方の事が好きだからですよ。」
あり?もしかして違ったか??じゃあフィアンセとの結婚が
嫌で仕方がないからってか??
あれ、ちょっとまて。俺って命狙われてんの?
「な、なんだってぇぇええ?!」
デンジャラスだ!!もはや頭が付いていかない!!
「じゃあ、こうしよう!君が俺の事を好きなのをやめればいいんだ!」
言った後、ヒカルは後悔した。
頭が混乱していてでも、いっちゃいけない事がある。
案の定、目の前の彼女は静かにうつむいていた。
またあの無邪気な笑顔を寄越すかもと一瞬思ったが
「…本当に…そう思ってるんですか…?」
悲しそうな彼女の声が、その考えを砕いた。
「あ、い、いや。その…今のは言葉のアヤと言うか…」
「貴方は…!」
胸倉をぐっと掴まれ、そばに寄せられる。
「“人を好き”な気持ちがそんな簡単に移り変われるとでも
思ってるんですか!!簡単に忘れる事が…」
彼女の言葉が震える。手が震える。
その震えから彼女の気持ちがヒカルに伝わっていくようだった。
そして、何故か自分の姿と被る。
「“人を好き”な気持ちが…簡単に忘れる事が…
できるとでも…お思いですか?」
この涙声の言葉を聞いたとき、彼の心臓は大きく脈打った。
知っている。そんなことくらい。人の感情は、心は
そんな簡単なモノじゃないって事くらい。
知っている。そんな事くらい。好きな気持ちが
簡単に移り変わることは無いって事くらい。
俺もまだ、上っ面だけ平気そうにしているけど…
「ご…めんな…お…れ…」
何て言えばいいのかわからない。
今俺は、この子を深く傷つけた。
ふと、彼女を見れば驚いた顔をしていて。
それがどうしてだか、分からないまま彼女はふっと笑って
胸倉をつかんでいた手を放しながら俺を抱きしめて
子供をあやすように、背中を撫でた。
そして目一杯に優しい声で
「…こちらこそすみませんでした。貴方は本当に覚えてないのですもんね。
全てが新しく、不思議で、怖かったでしょう。大丈夫ですよ。
私が貴方の傍についてます。絶対に離れません。そして…」
彼女は少し躊躇して、しかし優しくこう言った。
「そして、私でよければ貴方の泣き場所になってあげます」
「え…?」
「辛いことがあったんでしょ?貴方今、凄く辛そうな顔して泣いてます」
ああ、そうか――――――
俺はまだ立ち直ってない―――――
女々しいとは思う。いつまでも失恋したことを
あの女を…想っているなんて。
彼女の心は俺のものじゃなくて…あの笑顔もきっと…
俺とはお遊びだったのかもしれない。
だって、彼女があの男に見せた笑顔は、俺には決して見せなかった。
最初のころは、楽しいとか言ってたけど、
張り付けたような笑顔だったし
デート回数を重ねるごとに、つまらなさそうな顔が出てきて
しまいには殆ど会う事もなくなっていた。
俺の話を聞いてくれる存在をやっと見つけたと思った。
つまらなさそうな彼女を喜ばせようと
今年のクリスマスは二人だけの素敵なパーティーをと
店の予約もしておいていた。
結構高い値段だったけど、フランス風味のお店で
一か月前から予約をしている。
夜に内緒で呼び出して、そのお店で食事をする。
そこでその店自慢のサービスとプレゼントが来るという分けだ。
俺の給料一年分を前払いで支払ったのに…
いや、それ以前に、つまらない男と評判の俺なのに
どうして彼女は俺と付き合っていたのだろうか?
興味からか?だとしたらショックだ…
彼女のサラリとした長い黒髪が光に反射して
宝石のようにきらきら光るのを見るのが好きだった。
彼女の整った柔らかそうな唇は、きっと見る者を魅了して
たちまち虜にする。不思議な感覚を持った人だった。
お洒落だったが、ただ、派手な服を着たりするのが趣味で
そこは少し俺の嫌いな部分だったっけ。
姉にはああ言ったものの、やっぱり早くは立ち直れない。
初めて長くお付き合いした女性だった。
手を握ったり抱きしめたりは一切したことが無かったが
彼女から香る、香水は一種の花の香りだった。
甘いような…バラの香り。
彼女の様な、強そうで脆い花。
強く見せようと着飾るは棘。
虜にするような香りとその美しい花の色。正に彼女は薔薇だったのだ。
最後に垣間見た彼女の笑顔。それが自分ではなく
他の男の者だと知ったとき、怒りよりも
敗北感があった。彼女を喜ばせられない俺
笑顔を曇らせていた俺
それ全てを簡単に成し遂げていたのは
紛れもなく、あの男だったのだ。
負けた。そう思った。悔しかった。でも、憎くはない。
彼女が笑ってくれたから…たとえそれが他の男に向けられた笑顔でも。
だから、諦めた。
そう、諦めたんだ。
なのに
何故俺はまだ…彼女の事を…想っている?
彼女の見せた最後の笑顔が、そうさせているのだろうか?
あのキラキラした、子供みたいな無邪気な笑顔―――…
…俺の努力で…見たかった笑顔―――…
俺はずっと、彼女の心はどこかを向いていると感じていた。
だから、彼女の心を俺のものにするために何でもしたいと思った。
実際、何でもやった。
何かが欲しいと言えば無理ながらも手に入れてきたし
俺の範囲内で出来ることは全てしたつもりだった。
何が足りなかったんだろう。
どうしてあの笑顔は他の男にしか向けられなかったんだろう。
俺に欠けているのは何なのだろうか?
永遠と続くようなことを思考しながら
ヒカルは胸に溜まっていくモヤモヤと痛みを感じながら
それを吐き出す場所もなく、さ迷うように、うつ伏せた。
まだ続きます。少しバトルを入れたいと思ってます。
一応このお話は恋愛ファンタジーなんで。
次回をお楽しみあれ~




