巻き込まれたッぽくねぇ?コレ
正直言って、ヒカルはこういう得体のしれない人物が苦手だったりする。
それがたとえ、優しそうな笑顔がステキな
目がクリっとした可愛い子でもだ。
距離をとってしまいがちなのである。
「そ、そーなんだぁ?ごめんねぇ?俺気づかなくってさ。」
「いえ、そう大した事でもないんで!」
むかつくよ。お前の方がよっぽど!!
「じ、じゃあね。」
笑顔を引きつかせながらヒカルが去っていこうとしたとき
足元がふらりとなった。そして背中に衝撃が走る。
フラれた上に公衆の面前でこけたのかとも思ったが
どうやら彼は何者かに張り倒されたらしい。
信じられない力で締め付けられていて、
その大本を見上げた直後、彼は硬直した。
さっきの子が、彼を押し倒していた。しかも両手を地面に張り付けている。
その細い腕のどこにこんな馬鹿力があるんだ?
「なにすっ」
「黙って。動かないで」
しー…と人差し指を口元に押し付けて真剣な眼差しをしてくる
「え?」
彼女の眼があまりにも真っ直ぐで、力強くて
ヒカルは身動きが取れなかった。
その真っ直ぐな眼が、なぜかとても懐かしく思えて、綺麗だ。と思っていた
「私、一年前からずっと貴方のことが好きでした」
耳元で静かに彼女は言葉を続ける。
一年も前からずっと俺の事を想い続けてたのか…
知らなかった…
「貴方は覚えていないと思うけど、貴方に助けられたあの日から」
彼女の吐息が耳にかかるたびにくすぐったくなる
「私の心は貴方のものです。」
そして、飛び切りの笑顔。
「好きです。付き合って…「ちょ、ちょっとタンマタンマ!!」どうしたんですか?」
彼女の眼に見入ってしまって流されるままになっていたヒカルは
やっとのことで思考回路を動かす。おかしい。おかしいぞと。
力が緩んだすきに彼女を上からどかす。
「何言ってるのか、イマイチ…君って誰?
助けたって…記憶にないんだけど」
「ああ」
そういいながら彼女は頭をうなだれた。やはり、ショックだったのだろう。
悪い事をしたかもな。とヒカルは少し自分の言った言葉の重みを悟った。
なにせ好きなやつが覚えてなくてしかも告ってしまったのだか…
「気にしないでください、そんな些細なことなんて」
彼女の笑顔は顔を上げた瞬間増していた。
どうやら彼女にとってはそんなことは、些細なことで
しかも気にするどころか、笑顔に輝きが増している。
「些細って…結構重大じゃあ?」
「理由なんて必要ないですよ。大事なのは私が貴方を好きってことです!」
ああ、神様。
僕は一体何をやらかして、こんな苦手強引自己中人間に
好きになられなくちゃいけないのですか。
可愛いけど、めっさ可愛いけど…何故か俺の胸はトキメキもせず
むしろ怖がってドキドキしていた。
いや…少し、すこーーーーしだけは…。トキメイタかな。
そんな時に、耳が痛くなるような音が聞こえて、二人が身をかがめたときに
見知らぬ彼女が真面目な顔でぽつりとつぶやいた
「やはり、来ましたか…」
「え?だ、だれが?」
「敵です!下がってくださいね…危ないですよ」
そう言いながら彼女はヒカリを庇うように腕を前へ突き出した。
「お嬢!!観念して捕まれ!!」
そこに現れたのは十数名の黒い馬に乗った黒い鎧の騎士たちだった。
「許婚との結婚式の日に逃げ出すなど!!さぁ、戻りましょう!!」
しかし、お嬢と呼ばれた女はさし延ばされた手を払いのけた。
「私の愛する者は別にいると言ったじゃあないですか」
「ただの人間に恋するのは禁じられているのですよ。諦めなさい。」
その言葉を聞いて、彼女はアッカンベーをした。
騎士のリーダーは溜息をこぼす
「お転婆なのは相変わらず。まぁ、そこが貴方の可愛いところ。
しかたがありませんね。」
そして、彼は剣を抜いた。
「おい!か弱い女の子に刃を向けるなんて騎士失格だぜあんた?」
思わず、ヒカルの身体が反応し、彼女の前へと出て
己の身を盾にしながら相手を睨みつけていた。
そのヒカルの行動にメロメロになっているのはお嬢と呼ばれた彼女だった。
はぁ~~~vvvと言いながらハートを周りに出現させている。
「ヒカル…やっぱり貴方はあの頃と同じ、優しいジェントルマンです…」
「え?なんで俺の名前しってんの?」
「貴方が名乗ったんですよ。あの時に」
「お喋りは後にしてもらえますか」
先ほどの剣を持った騎士が言えば、たちまち剣は黒い光を放ち始めた。
「おいおい…なんなんだあの剣…」
「魔法剣です。気を付けてください。あいつは本気できますよ。
魔法の傷はやっかいですから、なんとかして逃げましょう」
「魔法?なにいって…冗談も休み休みいえ…」
「あれを見ても信じられませんか」
「…」
ヒカル、25歳。精神が擦り切れそうなぶっ飛んだ世界に
足を踏み入れようとしていた。
「つーか、巻き込まれたッぽくねぇ?コレ」