ツイてない男
「ふざけるなよ」
「ふざけてません」
男女の声が聞こえた。もう11月も抜けてもうすぐクリスマスという時期に
カップルらしい男女が言い争っていた。
クリスマスマジック 1
「なんだって急に別れようなんて」
「もう、貴方の理想にはついていけないの」
コツコツと高そうなハイヒールを鳴らしながら毛皮のコートをなびかせて
彼女は冷たく目の前の男を見やった。
「『さよなら』しましょ。」
「待ってくれ!」
しかし、男が手を伸ばそうと腕を前へ出したとき
彼女はとびっきりの笑顔ですぐそばにいた男へ駆けていく
「ごっめ~ん。宏待った?」
「いいや。じゃあ、今日はどこへ行こうか?
恵梨香の好きなとこ行こうな」
夜の街灯に照らされてその二人は輝いていた。
吹きすさぶ風がより一層、もう一方の男へ荒々しく吹きかける。
伸ばした手が空しくカラを掴んだ。
「…二股だった…?いや、なんかあっちのほうが本命っぽいぞ…」
膝が無残にも地に落ちた。
フラれた男、蒲生ヒカル。25歳。独身。
黒髪で肩までのチョイ長めの髪。切れ目の眼。一見イケメンで優男だが
どうしても彼女は作れても一週間ともったことが無かった。
「今のでクリスマス計画が台無しだ…」
一か月も前から片思いして、やっと成就。
珍しく一週間切っても別れなかった。
もしかしたらこれは いけるかも?と秘密に企画していたクリスマス計画。
彼女のためにと思ってしたことだった。なのに何故?
「…帰ろう」
恋人たちが集まるこの場所は 今の彼にはきつい。
気が付けば周りはカップルでいっぱいだった。
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「はぁ~一体何がいけなかったのかなぁ」
「何よ。溜息なんて25の大人が情けないわよ?」
「だってよ…聞いてくれよ姉さん!俺…」
「フラれたんでしょどうせ」
「何でわかった?!」
「フラれるたんびに、まったく同じセリフに溜息だからよ」
そういいつつ、腕に抱くは今年生まれた姉の赤ん坊。
「ほうら、この子を見なさい。可愛いでしょう?」
「見たってなにも得なんて「いいから見ろや」はい!とてもお可愛いです姉上様!!」
ヒカルは姉には敵わない。彼女を怒らせば血の雨が降る。
ふと、姉の表情が柔らかいものに変わった。
「新しい命を見て、感じれば今悲しんでる事や悩んでることが
馬鹿らしく思えちゃうじゃない?こんなに小さくて守られるような
何もできない赤子が、不安も何も感じずに笑ってるのよ?
悩む気力さえ失せるわ。」
「姉さん…」
姉さんがあまりにも幸せそうに、優しく見守るまなざしで赤子を見ながら
笑うものだから、何故だか納得してしまいそうになる。
一時は命の危機に追いやられた赤子。それが今は何もなかったかのように
笑ってるのだ。
「…話聞いてくれてありがとうな。マユ姉。俺もういくよ。」
「あら。もう立ち直ったの?毎度あんたは早すぎるんじゃないの?
恋するのも別れるのも。だから成就しないのよ。
長持ちする秘訣はゆっくりと恋しゆっくりと相手の良いも悪いも受け止めて
一緒に力を合わせるものよ?」
はたして、それは本当の事か
「ちょっと、なにその沈黙は?」
今の俺には知る余地もない。
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出会いは俺にとっては突然で、そして別れも突然にやってくる。
「はぁ~何でこう、上手くいかないかなぁ…」
「何がです?」
公園のベンチに黄昏ていると、可愛らしい声が隣から聞こえてきた。
「えーっと、誰かな君は?」
恐る恐る聞いてみたヒカル。すると、20代くらいの短髪の茶髪な彼女は
笑いながらこういうのだ。
「よかった!やっと聞いてくれましたね!!さっきから話しかけても
うんともすんともしなかったんで、正直(-_-メ)じゃなくて
むかついてたんですよ!」
なんだ、この馴れ馴れしさと晴れ晴れしたオーラは?