●きっと、分かり合える。…たぶん。 2
「え、仕事って……何をしているかってこと?」
何だろうなあ、と思いつつ、ティラミスは首をかしげた。
「どこで働いているかってことは、知ってると思うけど……」
ウィルフレッドは、愕然とした顔になった。
「知っているのか!? 詳しい内容も!?」
「や、詳しい内容は知らないと思うけど」
ティラミスは答えた。会社でパソコンをどんな風にいじっているかとか、普通は親でも知らないだろう。
「む、そうか。それでは、……いや。おまえ、ティラミス!」
真剣な顔になったウィルフレッドに、ティラミスはいきなり、がしっと肩をつかまれた。思わず条件反射的に背筋を伸ばし、「はいぃ?」と妙な声をあげる。
「そのような仕事は、今すぐやめろ!」
「はあ?」
なんで。
「良いか。おまえは若い。若くて、うむ、俺から見ても、可愛らしい顔をしている。先々、夫を持つことになろう。
その夫がどのように思うか、考えたことはあるか?
事情はあるやもしれん。俺には、そのあたりはわからん。しかし。しかしだな。
女性の評判と言うのは、傷がついたなら、取り返しがつかんのだぞ!」
「はうえあ?」
なぜ、いきなりエキサイトされるのだろう。
混乱するティラミス。なお、ここで一応説明しておくと、中世の時代に生きるウィルフレッドの常識では、女性が足首や、ふくらはぎを見せる、というのは、相当にきわどい服装に見えている。
ティラミスの服装は、仕事帰りのこともあって、落ち着いたモスグリーンのスーツ姿である。スカートは膝丈。ブラウンがかったストッキングに茶色のローヒール。
会社の周辺や電車の中では、まったく目立つことのない服装と言える。
しかしウィルフレッドの生きる世界では、あり得ないほど短いスカート丈であり、ストッキングで足をまるまる見せているのは、罪深いほどはしたない姿であった。
現代の感覚で言うなら、下着姿で堂々と、公共の場を歩き回っているようなものである。
そんな服装を強いる職場。
そこにいる女性たちがみな、このような姿をしているという職場。こう聞いて、ウィルフレッドがどう考えるかと言うと。
「金銭に余裕なく、事情を抱える若き娘らを言葉たくみにだまし、肌もあらわな姿を晒させ、奴隷のように働かせて暴利をむさぼろうとは……なんたる外道!」
このような誤解が生じる。
「え、外道って、誰が。いや、何を怒っているのかがまず、わかんないんだけど……えーとえーと」
ウィルフレッドの怒りについてゆけず、ひたすら混乱するティラミス。
「仕事やめろって、なんで。えっとその前に、あれ? ほめてくれた? え?」
可愛い顔してるって言ったよね? え、なんで突然。あれえ? ここはお礼を言うべき?
混乱しているティラミスの前で、ウィルフレッドは続けた。
「良いか。おまえはもっと、自分を大切にせねばならん」
「え、あ、はい」
「自分を安く売るような、そんな仕事はいかん! もっと己を大切にして、気高く生きることを学べ! そういう生き方をせねばならんのだぞ。わかっているのか、ティラミス!」
「はえ? え?」
えーと、これは、何か人生論を説いている? え? でもなんで?
「その仕事からは、すぐに足を洗え。それとも、借金でもあるのか。逃げ出すこともできんのか」
「え、借金? いやあの。えっと。社会人としては、いきなり辞めるとかは無理っぽい? 契約ってわけじゃないけど、無責任だって噂になったら、次の仕事も見つからなくなるし」
うろうろしながら答えると、「何か事情があるのだな」と言われた。深く息をついたウィルフレッドは、なぜか悲壮な顔をしてティラミスの手を取ると、言った。
「良いか。志を高く持て。おまえは時に、良くわからん理屈を述べたり、生意気にも見える態度を取る娘だが。しかし、おまえの心根が真っ直ぐであることは、俺が良く知っている。
望みを捨てるのではないぞ。おまえは優しく、そして強い。その強さが運を引き寄せることもあろう。
そうだ、これをやろう」
そう言うと、年代物らしき指輪を懐から取り出し、ティラミスの手に握らせた。