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一夜の魔法亭 2 ~秋分の夜の出来事。  作者: ゆずはらしの
それは、秋分の夜の出来事。
4/11

●きっと、分かり合える。…たぶん。 2


「え、仕事って……何をしているかってこと?」



 何だろうなあ、と思いつつ、ティラミスは首をかしげた。



「どこで働いているかってことは、知ってると思うけど……」



 ウィルフレッドは、愕然とした顔になった。



「知っているのか!? 詳しい内容も!?」


「や、詳しい内容は知らないと思うけど」



 ティラミスは答えた。会社でパソコンをどんな風にいじっているかとか、普通は親でも知らないだろう。



「む、そうか。それでは、……いや。おまえ、ティラミス!」



 真剣な顔になったウィルフレッドに、ティラミスはいきなり、がしっと肩をつかまれた。思わず条件反射的に背筋を伸ばし、「はいぃ?」と妙な声をあげる。



「そのような仕事は、今すぐやめろ!」


「はあ?」



 なんで。



「良いか。おまえは若い。若くて、うむ、俺から見ても、可愛らしい顔をしている。先々、夫を持つことになろう。

 その夫がどのように思うか、考えたことはあるか? 

 事情はあるやもしれん。俺には、そのあたりはわからん。しかし。しかしだな。


 女性の評判と言うのは、傷がついたなら、取り返しがつかんのだぞ!」


「はうえあ?」



 なぜ、いきなりエキサイトされるのだろう。


 混乱するティラミス。なお、ここで一応説明しておくと、中世の時代に生きるウィルフレッドの常識では、女性が足首や、ふくらはぎを見せる、というのは、相当にきわどい服装に見えている。


 ティラミスの服装は、仕事帰りのこともあって、落ち着いたモスグリーンのスーツ姿である。スカートは膝丈。ブラウンがかったストッキングに茶色のローヒール。

 会社の周辺や電車の中では、まったく目立つことのない服装と言える。


 しかしウィルフレッドの生きる世界では、あり得ないほど短いスカート丈であり、ストッキングで足をまるまる見せているのは、罪深いほどはしたない姿であった。


 現代の感覚で言うなら、下着姿で堂々と、公共の場を歩き回っているようなものである。


 そんな服装を強いる職場。


 そこにいる女性たちがみな、このような姿をしているという職場。こう聞いて、ウィルフレッドがどう考えるかと言うと。



「金銭に余裕なく、事情を抱える若き娘らを言葉たくみにだまし、肌もあらわな姿を晒させ、奴隷のように働かせて暴利をむさぼろうとは……なんたる外道!」



 このような誤解が生じる。



「え、外道って、誰が。いや、何を怒っているのかがまず、わかんないんだけど……えーとえーと」



 ウィルフレッドの怒りについてゆけず、ひたすら混乱するティラミス。



「仕事やめろって、なんで。えっとその前に、あれ? ほめてくれた? え?」



 可愛い顔してるって言ったよね? え、なんで突然。あれえ? ここはお礼を言うべき? 


 混乱しているティラミスの前で、ウィルフレッドは続けた。



「良いか。おまえはもっと、自分を大切にせねばならん」


「え、あ、はい」


「自分を安く売るような、そんな仕事はいかん! もっと己を大切にして、気高く生きることを学べ! そういう生き方をせねばならんのだぞ。わかっているのか、ティラミス!」


「はえ? え?」



 えーと、これは、何か人生論を説いている? え? でもなんで?



「その仕事からは、すぐに足を洗え。それとも、借金でもあるのか。逃げ出すこともできんのか」


「え、借金? いやあの。えっと。社会人としては、いきなり辞めるとかは無理っぽい? 契約ってわけじゃないけど、無責任だって噂になったら、次の仕事も見つからなくなるし」



 うろうろしながら答えると、「何か事情があるのだな」と言われた。深く息をついたウィルフレッドは、なぜか悲壮な顔をしてティラミスの手を取ると、言った。



「良いか。志を高く持て。おまえは時に、良くわからん理屈を述べたり、生意気にも見える態度を取る娘だが。しかし、おまえの心根が真っ直ぐであることは、俺が良く知っている。

 望みを捨てるのではないぞ。おまえは優しく、そして強い。その強さが運を引き寄せることもあろう。


 そうだ、これをやろう」



 そう言うと、年代物らしき指輪を懐から取り出し、ティラミスの手に握らせた。


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