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一夜の魔法亭 2 ~秋分の夜の出来事。  作者: ゆずはらしの
それは、秋分の夜の出来事。
2/11

●朝ごはんは、にぎやかに。~それって常識? 2


「オートミールって、こんな風にして食べるものなの?」



 店主の器が空になるのを待ってからティラミスが尋ねると、「こういう風にも食べられる、というだけですよ」という返事がかえってきた。



「ジャムや牛乳を入れて、甘くして食べるのが普通ですが。お米と同じで、麦の味は本来、それほど強いものではないので、塩味でも食べられます。だからこんな風に、だしやお味噌を入れて、和風にすることもできますよ」


「おかゆにジャムを入れるのって、日本人としては想像できないんだけど……なんかこう」


「まあ、ライスプティングの説明をすると、大抵の日本のかたは固まりますしねえ」


「ライスプティング?」


「お米に、砂糖と牛乳を入れて作るお菓子です」



 ティラミスは絶句した後、身震いした。



「うわ。ダメ。そんなのダメ! いや~、想像できない! お米に砂糖って、お米に砂糖って!」



 ぎゃー、と叫んでいると、



「おはぎも、お米に砂糖ですよ」



 と、店主に言われた。



「え。あ。あああ、……そっか」



 言われてみれば、そうである。



「おこしとか、ポン菓子も、お米に砂糖でしょう」


「あ。そう……だね。ああ。ポン菓子はお米でできてた……あー。そうなんだ。

 なんかでも、つい、炊きたてのごはんに牛乳と砂糖って考えちゃって……うえってなっちゃって。おかゆは塩味でしょうって」


「先ほども言いましたが、お米自体は味が強くないので、調味料の使い方次第で、甘くも、辛くもできるんですよ。

 ただ、人は、長年の自分の習慣で判断してしまいますからね。

 何も考えずに食べてみれば、ライスプティングは美味しいものですし。オートミールも、そういうものだと思って食べれば、美味しいです。


 自分の持っている常識にとらわれて、そこにあるものを正しく見れないというのは、もったいないですよ。人の持っている常識って案外、狭くて、よそでは通用しないものばかりだったりしますし」



 ティラミスは、うーん、とうなった。


「そう、かなあ。そう、なのかなあ。でもやっぱり、おかゆに牛乳とかジャムとかっていうのは……」


「オートミールは、麦ですから。小麦粉に牛乳、ジャム。そこに油と卵を入れてオーブンで焼けば、クッキーです」


「え」


「オーブンで焼かずに、鍋で似たもの。クッキーに似た料理だと思えば、甘くてもおかしくないでしょう?」


「え。あ。小麦粉……麦……ああ。そっか」



 なんとなく、納得した。



「そうか。お米だと思うから……麦だよね。そこに牛乳とか砂糖とかバター入れて焼いたら、確かにクッキーになるわ……オートミールクッキーっていうのも、聞いたことあるし」



 じゃあ、甘くしたオートミールも案外、美味しかったりするのかも。そう思っていると、厨房からじんがやって来た。



「あああ! ずるい! 二人で朝ごはん食べてるっ! おれ、おれ、ずーっと鍋に張りついてたのに~~っ!」



 真っ白な割烹着に頭を三角巾でおおい、『食堂のおばちゃん』スタイルでばっちり決めた、どう見てもスポーツやってました! という感じのがっしりタイプの青年が、涙目で叫んだ。



「あ、すみません。先にいただいてしまいました……じん。あなたの分には、果物もつけますから」


「肉も食いたいです」



 真顔で答えた青年に、あー、とか、うん、とか言ってから、店主は答えた。



「いただいたベーコンがありましたから、それで野菜炒めを作りましょう。それで良いですか?」


「はいっ!」



 元気よく答えた青年に、ティラミスは思わず笑ってしまった。男の子ってホント、朝っぱらから良く食べるのねえ。



* * *



 会社でパソコンとにらめっこをしていると、同僚のみゆたんが声をかけてきた。



「ティラミス~。明日の夕方、ヒマ?」


「え? 何かあるの?」


「うん、駅の近くにね。新しいレストランができたんだって。イタリアンのお店。わけちゃんと、うとちゃんがね。一度そこで食べてみたいって言ってるの」


「へえ~……あ、でも、ダメだわ」



 興味が引かれたが、ティラミスは残念そうに言った。



「明日の夜は、紅さんのお店で貸し切りのパーティーがあるの。あたし、お手伝いを頼まれてて」



 そうなのだ。


 今朝の食事の後、ちょっと雑談をしていたら、パーティーの話になった。夏至の夜にあったような、外国の人が集まって、食べたり飲んだりする集会が明日、あるらしい。


 じんが作っていたあんこは、その時に提供するお菓子になるのだそうだ。


 ちょっと人手が足りない、と二人が言っている言葉を聞いて、ティラミスはお手伝いしましょうか、と申し出た。いつも開店前に朝食をごちそうになっているし、こんな時ぐらい、何か手伝いたいと思ったのだ。



「え、例のお店の? うわ~……なんか楽しそう。あたしたちも参加できない?」



 みゆたんの言葉に、ティラミスは首をひねった。



「うーん、どうだろ。外国の人ばっかりが集まる、貸し切りパーティーらしいの。会員制みたいな。参加するにもいろいろ、制限がある? みたい」



 夏至の夜の出来事を、思い出しながら言う。



「外国人ばっかり? 英語ができないとダメかな」


「いや、日本語のうまい人ばかりだったけど……なんだか、怪しげな人もいたよ」



 乙女の敵の変質者とか。



「いろんな国の人が集まるから、常識とか、いろいろちがうのね。あたし、前にちょっとのぞいた時にね。スカートが短か過ぎるって怒られたの。普通の服装だったのによ?


 それに今回は、お客じゃなくて、裏方のお手伝いするだけだし」



 そっかー。残念。とみゆたんは言った。



「ねね、そしたら、イタリアンのお店はまた今度にして。そのパーティーの話、そのときに聞かせて」


「良いよ~。じゃ、わけちゃんたちとも、あとで打ち合わせしよ」



 イタリアンのレストランは、相談した後、三日後に改めて行くことになった。何か面白そうな土産話をよろしく! とみゆたん、わけ、うとの三人に言われ、ティラミスは笑ってうなずいた。





「常識とは、十八歳までに身につけた、偏見のコレクションである。」


アルバート・アインシュタイン


出だしの言葉は、アインシュタインの名言の超訳でした。もうちょっと崩しても良かったか?



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