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マリエッタの思いも寄らない勧誘に理香は少し考えたが、彼女の提案は今身寄りのない理香にとってとても良い提案に思えた。
これを断ったらもう理香は行く所などないのだ。
「本当に私に魔女になる資質はあるんですか?」
「もちろんだよ。多くはないが質がいいんだし、リカはまだ小さいから魔力値の上限なんて修行しだいでどうとでもなるさ。」
マリエッタの頼もしい言葉に、理香はとうとう決心した。
「マリーさん私を魔女にしてくれますか。」
その返事にマリエッタは顔中をしわくちゃにして笑った。
「ああ、もちろんだよ。リカはアタシが責任持って立派な魔女にしてみせるよ!」
マリエッタは嬉しそうにそう言うと、慌しく椅子から立ち上がって近くの引き出しから便箋と封筒を持ってきた。
なにやら手紙を書くらしい。
「リカが生活するのに必要なものを揃えないとね。
お金の心配なんかしなくたっていいんだよ。アタシの一番弟子に払わせるからね。
どうせあの子は有り余るほど金を持ってても使う暇が無いんだ。リカの生活用品一式に庭付き一戸建てを王都の一等地に買ったって気付きやしないよ。
まったく本ばっかり書いておもしろくないったら…。」
ぶつぶつ文句を言いながらも、マリエッタはさらさらとなにごとか書くと、それを封筒に収め、蝋で封をする。
それをそっと覗いてみるが理香には分からない記号の羅列を見て、魔法に加えて文字まで勉強しなければならないとは、頭が痛い。
それはともかく、マリエッタは手紙をどうやって届けるのだろうか。
やはり魔法で転送みたいな…そんなまさか。
そんな事を考えている理香など知らずに、マリエッタは指にはめていた指輪をそっと撫でた。
指輪には乳白色の宝石がはめ込まれていたが、それがきらりと光ったと思うと、そこから蜃気楼のように灰色のふくろうが飛び出してきた。
「わあ!」
「手紙を届けるときはいつもこの子にお願いするのさ。リッキー挨拶しなさい。」
テーブルの上に降り立ったふくろうはその茶色のくりくりとした瞳で理香を見つめると、首をかしげた。
『おうおう、こいつはおかしな匂いのする人間だぜ。』
「喋るの!?」
なんと目の前のふくろうが喋ったのだ。
なんとも生意気な喋り方ではあるが、確かに人の言葉を喋るふくろうは大きな翼を広げて胸を張り名乗りをあげた。
「なんだなんだ。そんな事も知らねぇのか。俺様はタダのふくろうじゃない。マリエッタの大事な手紙を確実に運ぶ崇高なる翼の使者、リッキー様だ!」
「ただの伝書ふくろうだよ。ただのふくろうより頭がいいのは、こいつとアタシが契約を交わしているからさ。ヘタに魔術で転送すると妨害があったりするからね。」
「私はリカです。よろしくお願いしますねリッキーさん。でも時間がかかるんじゃないんですか?」
「リッキーには特殊な魔法がかけられているから、案外早いもんだ。」
そう言ってリッキーの足首につけられたホルダーに封筒を丸めて収める。
何も言われずともリッキーには届け先が分かっているらしく勢いよく羽を広げると、リッキーは窓から夜の空へと羽ばたいていった。
「さあ、今日はこれくらいにして寝る準備をしよう。
風呂場に案内するからついておいで。」
リッキーの飛び去った空を眺めていた理香は慌ててマリエッタの後を追って風呂場へと向かうのだった。