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理香が目を覚ますと、そこは森であった。
森は森でも今まで見たことも無いような鬱蒼と茂った木々に背中を冷たいものが走った。
自分はアパートの階段から落ちてしまったはず。
しかもアパートがあったのはこんな森など無い、住宅街のど真ん中だ。
混乱しながらも慌てて身体を起こすと、違和感に気がついた。
なんだか視点が低いような気がする。
地面についた手が視界に入って、理香は驚きに目を見開いた。
つい先日綺麗に整えてもらったネイルが輝いているはずの手は、まるで幼児の手のように小さくなってしまっているではないか。
慌てて立ち上がって全身を見てみれば、まさに幼女の身体になっていたのだった。
「はは…親より先に死んだからってもしかして賽の河原で石でも積めって言うの?」
もちろん理香の両親は健在だ。
しかし、ここは賽の河原どころかただの樹海のど真ん中である。
きょろきょろとあたりを見渡してみるが、前後左右森森森…。
「いつから賽の河原は干上がったのかしら。」
見当違いな事をつぶやきながらも、全身の確認をしてみる。
どうやら三歳くらいにはなっていそうな体格である。
数歩歩いて分かったのは、普段より頭が重くて、足元が非常に不安定だという事だけ。
そして身体にかろうじて引っかかっているのは、理香がついさっきまで身にまとっていた、いかにもOLの通勤服らしいスカートにジャケット。
スカートは既に足元へ落ちてしまい、ストッキングが小枝に引っかかって理香の動きを封じていた。
「とにかく鬼が来る前に装備をどうにかしなくちゃね。」
理香はため息をつきつつ、小枝に絡まるストッキングを強引に引きちぎったのだった。
助かったのはバッグとコンビニの袋を握り締めていたことだった。
コンビニ袋の中には僅かながら食料も入っているし、バッグの中にはハンカチが入っていたため、それをストッキングでぐるぐるに巻いて足を保護した。
下がすーすーするの仕方ないので、ブラウスとジャケットはそのままに、袖をまくっていざ、樹海の冒険へと一歩踏み出したのだ。
が、冒険は序盤から難航する。
目の前に現れた灰色の狼が目の前に現れたのだ。