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ある高校生のバレンタイン Type B

作者: 高平 由孝

バレンタインの話第二弾。

ホントは当日に載せたかったんですけどねぇ(;--)

間に合わなかった……orz


 淡野 冬花は、ヘンなヤツだ。

 付き合ってかれこれ十ヶ月経つが、俺は冬花の笑った顔を見たことが無い。

理由を聞くと「不細工だから」と言うが、正直そんなことは無いと思う。

 今時珍しい腰の辺りまで伸ばしている真っ直ぐな黒髪に、ぱっちりとした猫目。

すっとした鼻筋に薄い桃色の唇。スタイルだって、現役のグラビアとタメ張れる位の巨乳にモデル並みに綺麗な足、等など。どこを取っても「不細工」と言える要素は皆無なのに、人前では本当に笑わないのだ。

 思えば、俺が告白したときから冬花はヘンだった。

きっかけは麻雀。何時もなら負けたヤツは放課後、ゲーセンやファミレスを奢らされるのだが、その日は趣向を変えて「負けたらクラスの女子に告る」事になり、運悪く俺が負けた。で、俺は人目を避けるように昼休み、冬花がいるだろう図書室に向かった。

 これは別に狙ったわけじゃないが、俺と冬花は同じ図書委員だった。それで知ったのだが、冬花は昼休みになるといつも決まって図書室に来るのだ。流石に「教室内で告白」なんていう公開処刑に耐えられる訳は無く、かと言って人気が無い場所に女子を呼び出せるような度胸も無い。そこで思い至ったのが図書室にいる冬花だ。あそこなら人も居ないし断られるダメージも少ないだろうと。

 だが、返答は「いいよ」だった。

「そうだよな、うん。わかったそれじゃ……ってええぇ!」

 驚いた、ただただ素直に驚いた。本当に開いた口が塞がらない俺に構わず、冬花は続ける。

「で、何に付き合うの?」

「……はぇ?」

 その言葉の意味を理解するのに、数十秒かかった。

「あ、あぁ。そういう意味の「付き合う」って事じゃなくて。ええと、その、男女のお付き合い、的な? なんていうか、彼氏、彼女としての交際、みたいな、さ……」

俺のしどろもどろな受け答えに、冬花は眉根を寄せ若干怒り気味に、

「そうならそうと最初に言ってよ、紛らわしい」と返す。

その対応に「ダメだ。キレる」と思ったその直後。

「いいよ」

「……はぇ?」

 と、そんなこんなで付き合う事になった訳で。

最初はもう有頂天どころの話じゃなかった。何せ、(高校生にもなって恥ずかしい話だけど)初めての彼女である。そりゃもう毎日あんな事やこんな事を妄想した。

 が、現実はそう甘くは無かった。

「手を繋ぐまでならイイよ」

 最初のデートの時に、冬花はこう告げた。

事実、その言葉通りに冬花は「それ以上」の事をさせてはくれなかった。海に行くのも「肌を露出するのはイヤ」と言うし、遠くへ旅行へ行くにも「あんまり遠出したくない」でNGだし。

 それに、付き合ってからも冬花の無表情っぷりは健在だった。

映画館で、俺も含めほぼ全員が泣いた映画を見ても、遊園地で、ジェットコースターに乗っても、ゲーセンで景品を取れたとしても。本当に、冬花は笑わなかった。

 これが続いたら流石の俺も疑問に思う。「冬花は俺と付き合って楽しいのか?」、と。

「もしかして、俺に無理して付き合ってくれてるんじゃないか」、と。

 で、付き合い始めてそろそろ一年経とうという頃に俺は冬花に告げた。「別れよう」、と。

その時初めて、冬花の顔に焦りの表情が浮かんだ。

「ダメ、待って」

「は?」

「ダメ」はまぁ分かる。けど「待って」ってのは何だ?

俺が少なからず疑問に思っていると、冬花は俺の目を真っ直ぐ見つめて続ける。

「あと一週間だけ待って、お願い」

 その一週間後、その日になって思い出した。バレンタイン、そして、冬花の誕生日を。


 「放課後、図書室に来て」

 直接言えばいいのに、当日の俺の机の中にはこう一言だけ書かれた紙が入っていた。放課後、若干緊張しながら、俺は図書室のドアを開ける。

「――……くん」

俺の名前を呼んだのだろうが、掠れて良く聞こえなかった。

「ありがとう、来てくれて」

顔はいつもの無表情だが、声は何時もより少しだけ嬉しそうだった。

「あ、あぁ」

 後ろで手を組んだままとことこと近寄ってくると、冬花は俯きながら、両手を俺に突き出した。手には、ピンク色の紙と真っ赤なリボンで綺麗に包装された四角い箱があった。

それが何なのか分からないほど、俺は馬鹿じゃない。

「あぁ、ありが」

 とう、と最後まで言い切る事は出来なかった。

何故なら、俺の口は冬花の口で塞がれてしまったからだ。

「……っ!」

 まさか、いや、いきなり過ぎるっていうか、え?

突然の事に唖然としている俺に構わず、冬花はそっと離れると、もじもじしながら蚊の鳴くような声で呟いた。

「あ、あの、今日で、十六才になったから。その、キスまでなら、していいから。これからも、付き合って、くれる……?」

 途切れ途切れに、恥ずかしそうに、上目遣いで問いかける冬花。

「え、ええっと」

「『十六になったからキスまでイイよ』って何だそれ」とか。

「チョコ渡すと同時にキスするって、何処のギャルゲーだよ」とか。

「そもそもお前は何でそこまで俺と付き合いたいんだ」とか。

まぁ、色々言いたい事はあったけど。

「べ、別に。俺はイイけど……」

「……うんっ!」

 その時になってやっと初めて笑った冬花の笑顔を見たら、何か色々どうでも良くなってしまった。頑なに笑う事を拒否していただけに、ホントはちょっとだけ、「マジで不細工になるんじゃないか」と邪推していたが、そんな事は無く。

無表情でも可愛い冬花は、笑ってもやっぱり可愛かった。


 ――そんな訳で。

ちょっとヘンな彼女との関係は、まだまだ終わりそうに無かった。


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