蝉
湿った空気が頬をなでた。相変わらず蝉の声が耳を痛くする。
何処からかピアノの音色が蝉を遮り、私の耳に集中させた。
感想は、ただうまいな。ピアノは嫌いでは無かった。それ故に、誘われた。
持っていたキンキンに冷えた缶ジュースが、手の平だけ、体温を奪った。缶に付いた水滴が、乾き暑くなったアスファルトに落ちて行った。それと同時にピアノの音色が耳に途絶えた。面白みが無い蝉の声がまた、耳に入る。
ふと、日光により額が汗ばんだ。故に伝って行った。
暑い。五月蠅い。の思考しか思い付かなかった。ただ、家に帰ってもクーラーが無いため体感温度は変わらないだろう。だけどたまらなく、蝉の声から逃げるように走っていた。無意識と言うのだろうか。
家の玄関で立ち止まり、膝に手を付いた。
しゃがみ込んだが、膝裏の汗が嫌で、そのままの状態で軽く屈伸をした。
玄関は日陰になっていた。日なたよりは涼しいと考えたからだ。
視線を庭に移した。丸い影の少し先にバスケットボールがあった。あれは初めて誕生日に買ってもらった物。だいぶ昔の産物で、いろいろな所から糸状の何かが出ている。昔、大好きだったバスケ。今は正直、好きかどうか何て分からない。それでも、近付いてみる。長く放置にあったボールは、姿からその年月が見て取れるようだった。両手で挟み、自分の目の高さに上げてみる。ボールのわきから覗く太陽は、知っていたけど眩しかった。夏はこんなに騒がしい季節だったのか。
そう悟った。