孤独のテンポ
神山粟音(13)合唱部所属。週3しか練習が無かった彼女は、毎日暇していた。特に放課後は、友達もみんな部活で、ただ夕暮れが寂しく沈んで行くだけだった。
粟音はこんな暇な時間が嫌いでは無かった。夕暮れに浸り、一人で広い教室を独り占め。時に今日の分の宿題をしていた。日直であれば日誌を書いたし、宿題が出来れば隠し持っていた少女漫画を読んだ。粟音の家は母子家庭であり、そして一人っ子で7時まで母親が迎えに来ない。ただ、父親や、裕福を求めて無い粟音は、不満など言うことは無かった。今日、宿題も出来て、そして漫画を読み、満足した粟音は、男子バスケ部が廊下を走っているのを横目で、ただ歩きたいといった様子で、トボトボと歩きはじめていた。
窓から覗かす夕陽はもう時期完全に沈みそうだった。バスケ部が去った廊下は静けさを保ったまま、粟音を孤独に誘った。それを振り切ろうと、粟音は靴音で統一性の無いステップを刻んでいった。今まで足下をずっと見て来た気がした。空が青いことを忘れていた気がする。ふと、何の意味も無く足下から目を反らした。ボロくなった靴は醜い物だった。孤独なテンポはやがて止まり、廊下に静けさが戻った。時折、どこかの教室の、窓が開いているのか、風が泣いた。教室のドアに近づき、時計に目をやった。気付いた頃には7時を過ぎていた。
「お母さん、迎えに来てるカモ。」
誰に言う訳でも無いその独り言は、行き場無くして廊下で響いた。粟音は教室に戻り、机に上がっている鞄に手を通した。背負ってみて、溜め息をつく。
「バイバイ。」
靴音が響いていた。