第壱話②
「おい!ルナに怪我でもさせてみろ!!奴の次にお前を殺すかなっ!!」
「当たり前でしょう?誰が好き好んで可愛い娘が傷つくようのな事をすると思いますか?もちろん可愛い息子もです。」
「誰がてめぇの娘で息子だ!気色悪いこと言うんじゃねぇ!!」
「可愛い娘と息子は、父親の俺が全力で守ります。」
「人の話を聞けっ!」
T字路をすぐ親子らしき会話が聴こえて来て、俺は立ち止まった。
違う。もちろん聞こえていたけれど聴いてはいなかった。
俺は彼らの数メートル先にいる【黒い何か】が視界に入り固まってしまったのだ。
(何だアレ?何だアレ?何だアレ?)
丸いボーリングの玉くらいの大きさの【黒い何か】は動いていた。
空中で靄の様に揺ら揺らとていた。月に照らされ揺ら揺らと。
(あの二人には視えてないのか?アレが?)
でなければ、喋れる訳がない。立ち止まらず歩ける訳がない。
自分に霊感の類はないと思っているが、アレはヤバイ。
逃げたいと思うのに足が動かない。叫びたいのに声が出ない。
身体からは冷や汗が噴出し、身体は小刻みに震えている。
それは紛れも無い恐怖だった。
(どうする?もし、あの二人があのままここから居なくなったら。)
それは俺があの【黒い何か】と取り残される事を意味する。
そうなれば、死ぬと思った。根拠も無くアレは人を殺すと思った。
(ヤバイ。それは、まだ死ぬのは・・・。)
「さて、いい加減、仕事をしましょうか?」
「ふん・・・判ってるよ。」
(え?)
親子らしい二人は【黒い何か】の2メートル程、手前で止まった。
【黒い何か】は、痙攣したかの様にピクリと動くと静止した。
すると、ボーリングの玉くらいだった大きさがどんどんと大きくなり、ものすごい速さで迫ってきた。