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第七話

 視界が元に戻ると、周りの景色が一変していた。

 森の中、というより雑木林の中といった枯れ葉が積もった木々の間に私達はいた。

 もちろん、人気はない。


「ここが神聖グラシア帝国?」


「そう。正確には王都はずれの雑木林。ここから西にまっすぐ行けば城壁が見えてくるよ」


 神子召喚を行ったという、神聖グラシア帝国。

 人間界にある様々な国の中でも一、二を争う国土と軍事力を持ち、精力的に周辺諸国を侵略中なのだとか。

 悪魔がいなくても物騒な国だねぇ。


「早速行こうか。アモン、この結界どうするの?」


 私達が到着したと同時に周囲には結界が張られた。 そうしないと魔力の強い人間には悪魔が来たと感付かれるのだ。

 でも、ずっと結界の中にいるわけにもいかない。


「まずはカナ様の魔力を封じて、あとは見た目もすこーし変えましょうか」


「見た目を?」


「髪と目の色を変えるだけですよ。『黒目黒髪』は神子の代名詞でもあるからネ」


 アモンの言葉にキョトンとなった。


「黒髪って珍しいの?」


「珍しいですねぇ。魔界でもカナ様以外いなかったでしょ?」


「そういえば・・・」


 カラフルな髪と目の悪魔ならたくさん見掛けたけど、私と同じ色はなかったな。

 誰も何も言わないから気付かなかったよ。


 アモンの指が私の額に触れる。

 すると、何かが身体の中を走ったような気がしたがそれも一瞬だった。

 特に違和感とかは感じないけど、少し身体が重くなったかな。

 あ、髪の色が茶色になってる。


「もしかして目の色も変わってる?」


「はい、髪の色と同じ茶色にしてみました。希望があればピンク色とかにも出来ますけどー?」


「いえ。結構です」


「そーお?残念。あ、サーナちゃん達も人間に怪しまれない程度に魔力抑えてね」


「わかっている」


 みんなの準備も終わって結界は解かれた。

 遮断されていた空気が流れ、冷たい風が頬を撫でる。

 ベルゼブブが言っていた通り、人間界は冬の季節に入ろうとしていた。


「カナ様、お寒いでしょう」

 ブルッと震えた私に、ベレッタがロングコートを取り出して着せてくれた。


・・・今、どっからコレ出したんだろう。


 何もない空間から手品のように現れたコートを不思議に思いつつ礼を言った。

 私以外の四人は魔力を上手に扱えるので寒さは感じないみたい。

 逆に私は魔力を抑えるなんて芸当はまだ出来ないから、魔力ごと封じられた。 魔力は身体から発するオーラでもあるので、その保護がない今は普通の人間ように寒さを感じるのだ。

 とはいえ、魔王サタンの魔力である。

 私が念じれば、アモンの封印も簡単に壊れてしまうのだけど。


「さて、これからどうします?転移してすぐにボクんちに行きますか?それともゆっくりお散歩しながら行きましょうか?」


「せっかくだし、お散歩したいな。王都の街並み見てみたい」


「了解、お姫様。ではこちらの馬車で参りましょう」


 アモンが気取って指し示した場所には立派な栗毛の馬に引かれた馬車があった。


・・・だから、一体どこからそんなものを(以下略)


 アモンが開けてくれた扉から馬車へと乗り込む。

 中は意外と広くて、布製のソファーは細かい刺繍が施されていて綺麗だし、皮肉なことに天井に描かれた天使画も豪華だった。


 御者をつとめるのはアモンだ。


 動き出した馬車の揺れを感じながら、向かいに座るサタナキアに声をかけた。


「サタナキアはこの国に来た事ある?どんな国なのかな」


「私はアモンのような趣味はないゆえ詳しくはありませぬが、昔から戦が絶えぬ国らしいですね。神の名の下に他国を侵略し、蹂躙し、奴隷も多いとか。フン、神の忠実なる下僕とやらが聞いて呆れる、人間の残虐さは時に悪魔も裸足で逃げ出すほどです」


 サタナキアは嘲笑を浮かべながらこの国をそうこき下ろした。

 あまり評判は良くないみたい。

 大きい国が良い国だとは限らないもんね。


「アモンみたいに人間界で生活する悪魔って多いのかな?」


「アレは特殊です。悪魔の突然変異です」


 今度は嫌そうな顔でアモンを一刀両断する。

 意外と表情豊かだよね、サタナキアって。


 アモンは私が帰還する一年前までは人間界で暮らしていたんだって。

 いろんな国に人間としての名前をいくつか持っていて、神聖グラシア帝国ではレイヴァン・ベルフェノルを名乗っているのだとか。


 なんとこの名はアモンが作った偽名ではなく、本当に実在する人物の名らしい。

 正確には実在「した」人物だけど。

 アモンの手口はこうだ。

 気に入った人間を見つけたら「喰べて」その人間の人生を代わりに歩み、人間社会に溶け込む。

 悪魔を呼び寄せるくらいだからその魂は何らかの負の感情を発しているものらしいけど、アモンがレイヴァン・ベルフェノルを「喰べた」のは彼が五歳の時だそうで。


 そんな幼子に一体なにが。


 私達が今向かっているのはそんな哀れなレイヴァン坊やの生家なので、どんな羅刹の家が待っているのか今から楽しみです。



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