第四話
本来、魔力の強い悪魔は人間のように食事をとらなくても生きてゆける生き物だ。
そんな彼らが食事をたまにする理由には二つある。
一つは、悪魔とはいえ味覚はあるので美食を楽しむこと。
もう一つは食される『モノ』の恐怖と絶望を愉しむことだ。
私の場合はもちろん前者で、さらには前世からの『習慣』で一日三度の食事をとらないと何となく調子が狂う。
そんな私に付き合って、ベルゼブブ達が一緒に食事をしてくれるのはもう見慣れた光景だった。
「神子?」
食後の紅茶を楽しみながら悪魔達と談笑していると、アスタロトが「あぁ、思い出した」と話のついでのように報告した。
曰く、人間界に神子が召喚されたらしいとのこと。
「神子って・・・何?」
私が首を傾げて尋ねると、ベルゼブブが答えてくれた。
「悪魔討伐の為に喚ばれる異界の人間のことだ」
あ〜、異世界トリップ小説で定番のアレね・・・。
「ん?てことは討伐対象は私?」
「まさか。ゴミごときがカナコを討伐など出来ようはずもない。魔界の気にあてられただけで死ぬ、脆弱な生き物共よ」
ベルゼブブが淡々と言う。
その顔は本当に人間をゴミとしか認識してないな。
私は全然大丈夫なんだけど、魔界の空気は人間にとって毒らしい。
九層ある魔界は下へ行くほど毒の濃度が濃く、どんなに魔力が強い人間でも辿り着く前に死んでしまうのだとか。
人間が魔界に来るには悪魔か、それこそ天界の天使の守護が必要だった。
先日、アモンが連れて来た人間達がそれで、悪魔は気まぐれに人間を魔界に連れ込んでは『玩具』として遊ぶのだ。
それでも死にはしないが数年で発狂してしまうらしいのだけど。
魔界の気にあてられてすぐ死ぬのと、悪魔に弄ばれた挙げ句発狂するのはどっちがマシなんだろうかとふと思ったが、どっちも非道いことには変わりない。
「じゃあ、討伐される悪魔って誰のことなの?」
「人間界で悪さをしている悪魔のことさ。神子召喚に頼るってことは、人間には手に負えない中位あたりの悪魔かな」
アスタロトが言うには人間が相手出来る悪魔はせいぜい下位まで。
それでさえ人間は王軍や魔力の強い術師を数十人は用意せねばならず、中位悪魔一体でも現れれば国が滅ぶレベルなんだとか。
そりゃあ人間達も大変だわ・・・と他人事のように考える。
「中位悪魔でそれなら上位悪魔が人間界に手を出したらどうなるの?ベルゼ達は人間界に興味ないの?」
「ない。ゴミを支配してなんになると言うのだ」
「たまに遊ぶのはいいけどねぇ。すぐ壊れちゃうから物足りないんだよね。私達が手を出したら人間界なんてあっという間に焦土になるから」
「そうそう、人間っていうのは〜チョット自由を与えて勘違いしちゃったトコロを奪うのが愉しいんであって、絶望と恐怖に慣れちゃうとすぐ従順な奴隷になっちゃってつまんないんだよネ〜」
えーと、つまり弱すぎて相手にするほどでもないと言うことですね。
何気にヒドイよね、アンタ達も。
「人間界で悪さしている悪魔ってやっぱり人間達を恐怖で統治してやるぜ!って、そんな感じ?」
ここの悪魔達を見ていると、そんなやる気のある悪魔がいるとは思えないんだけど。
「悪魔は愉しいこと大好きだし、中には支配欲も強くて、強欲な悪魔もいるからね。ただ、魔界は私とベルゼブブ、それにカナコがいる限り、支配するのは無理だから」
人間相手に支配欲を満たそうとする悪魔もいるよ、とアスタロトは笑いながら言った。