第三話
さて、約一年前まで日本という平和な国で平穏に生きてきた私が、何故悪魔達と暮らすようになったのかを説明しよう。
無事成人式を終え、堂々と酒を飲めるようになったとはいえ、まだまだ親のすねをかじって平凡な大学生をやっていた私、こと深谷加菜子。
両親と弟がいて、彼氏はいなかったけど仲の良い友人がたくさんいて。
クセの強い黒髪が悩みだったけど、深刻な悩みはなくて、それなりに幸せだった。
そんな平穏な人生が一変した、あの日。
私は暴走したトラックにはねられ、二十年という短い人生に幕を閉じた。
そう、深谷加菜子の人生は確かにそこで終わった。
問題はそこから。
肉体を失った私の魂は、どうやら普通の魂ではなかったらしく異界に飛んでしまったのだ。
で、目を覚ましたら異世界だった、というファンタジーな展開に。
しかも、飛ばされた先が魔界の最下層、悪魔達の住む魔宮殿だった。
そして、そこで私を迎え入れてくれたベルゼブブ達に教えてもらった驚愕の事実。
ーーーそう、私は魔王サタン様だったのです。
・・・・。
なんか、引くわー。
いや、自分で言ったんだけどね?
私も最初は信じられなかったけど、どうやら本当のことらしい。
事実、こっちに来てから魔力が使えるようになったし。
他にも色々と変わった。
自分が魔王だという自覚がないのは、サタンの記憶がないせいだ。
何故か前世ーー、深谷加菜子の記憶が強く残ってしまったのだ。
その影響なのか、この魔界に魂が帰還した際、元のサタンの姿には戻らず、加菜子の容姿が形作られた。
加菜子の記憶に、加菜子の容姿、だから『私』はカナコなのだ。
サタンの記憶が戻るかどうかはベルゼブブ達でさえ分からないらしいけど、別に私はこのままでいいと思っている。
これも悪魔になった影響か、元の世界に残して来た家族や友人のことを懐かしいなぁと、思い出すことはあっても、涙するほど会いたいとか、帰りたいとかという感情が一切湧いてこないのだ。
魔界で悪魔達と暮らすのに何の不満もないし。
ただ、たまにカルチャーショックが激し過ぎて、部屋に引きこもっちゃったりはするんだけど。