第二話
ヴェルサイユ宮殿並みに絢爛豪華な食堂に着くと先客がいた。
私がいつも座る上座の左右に対のように座っていた二人の男は、私の姿を認めると立ち上がった。
「ああ、座って座って。いちいち立ち上がんなくていいから」
そう言って手を振ったのに、二人の男は座らない。
向かって右側の男が私の元まで進み出て、アモンから私を受け取った。
「ベルゼ」
「我がお運び致そう」
これぐらいの距離自分で歩ける・・・と言いたいのを我慢する。
言ったら最後、「アモンごときは良くて、何故我では駄目なのか」と地獄の無表情で問い続けてくる。
非常に面倒くさい性格なのだ、この強面は。
ベルゼ、ことベルゼブブはアモンより位が高い上位悪魔で、魔王サタンが不在だった一千年もの間、魔界を統治していた君主の一人。
当然、(強面だけど)目が潰れそうな超絶美形で、黒に近い暗茶色の髪を後ろで結び、腰までたらしている。
そんな悪魔の中の悪魔、威厳溢れるベルゼブブに抱っこされると、ついつい恐縮してしまう小市民な私。
本人が嬉々としてやっていることが分かるので、余計頭が痛い。
アモンがひいてくれた椅子に下ろされると、ベルゼブブと私が運ばれるまで立ったままだったもう一人の男が着席する。
「ご尊顔を拝するのは三日ぶりかな?カナコ。今度はどんな理由で『ヒキコモッテ』いたんだい?」
面白がるように聞いてきたのは右側に座る男、アスタロトだ。
椅子に腰かけている姿さえまるで貴族のように優美な美青年である。
クセひとつない真っ直ぐなプラチナブロンド、世の女性が嫉妬しそうな輝く白い肌、労働を知らない長く美しい指先。
その仕草ひとつひとつが容姿と相まって理想的な王子様だというのに、彼から漂う過剰な色気と退廃的な雰囲気がそれを裏切っていた。
彼もまた上位悪魔で、ベルゼブブと並ぶ君主の一人だった。
アスタロトの質問に私はアモンへ冷たい視線を送った。
「そこの馬鹿が余計なモンをプレゼントしてきたのよ」
「フム。もしかして例のアレかな」
どうやら心当たりがついたようで、アスタロトの笑みが深くなった。
「カナコにはまだ早かったかな。玩具用の人間奴隷は」
「ーー玩具用だろうが何用だろうが、そんなけったいなモンは入りません!」
事の発端は、三日前まで遡る。
いつもアホみたいに上機嫌な男は、その日もニコニコとアホ面さらしながら私に言った。
ーーーカナちゃまー、本日は人間の奴隷を五十人ほど献上いたしますっ、煮るもよし、焼くもよし、魔術の練習用に使うもよしっ、ただし、性奴隷にするのはやめてねんっボクちん嫉妬しちゃうからー!
私はその場でアホをぶっ飛ばした。
もちろん、連れ去られて来た人達は元の場所に戻させました!
今思い出しただけでもこめかみに血管が浮きそうなのに、アスタロトが追い打ちをかけた。
「そう?結構面白いし、使えるよ。そこにいるベルゼブブだってカナコの帰還祝いに千人の奴隷を用意してるのに」
何ですって!?
「ベルゼ!今すぐ元の場所に返して来なさい!!」
「・・・うむ」
何なの、その非常に残念そうな顔は。
そんな顔しても、奴隷はいりませんよ!奴隷は!!