第一話
しくしく、しくしく。
鬱陶しく泣きながら、身体が再生するのを待つ変態。
どうせ嘘泣きなのは分かり切っているので無視だ、無視。
ふぁ、と欠伸をしていると、挨拶しながら侍女のフルーレティとベレッタが入ってきた。
「おはようございます。陛下」
「おはよう、って言ってももうお昼なんだけどね。ごめんね、またヒキこもっちゃって」
謝る私にインキュバスな二人の侍女はニッコリ笑った。
地味な侍女服だと言うのに魅惑的なボディがハッキリ分かってしまう罪作りな美女達である。
床に転がる変態は当たり前のように無視して私の身仕度を始める二人。
二人が用意したゴシックロリータ風の黒と濃紫のドレスを諦めの境地で私は見た。
平凡な日本人として、平凡な容姿を持つ成人女性の私がこれを着るのはキツいものがある。
しかし、抵抗しても無駄なのは百も承知なのでおとなしくしている。
もともと、日本でも童顔に見られ、高校生に間違われることもしばしばな私だったけど、こちらでは更に幼く十二歳ぐらいに見えるらしい。
体格が全く違うのもそれに拍車をかけている。
いまだに転がっている変態も見上げるほどの長身だし、フルーレティとベレッタも私より十センチ以上は背が高いのだ。
子供に見られても仕方ない・・・と思いつつも、膝丈のふわふわドレスはやっぱりキツいわけだが。
着替えが終わると、それを待っていたかのようにひょいっと、抱き上げられた。
いつの間にか復活していた変態である。
「カナコ様ったら、いつの間に復元が遅くなる攻撃術を覚えられたんですかっ。なかなか腹が埋まらないからボク痛みに悶えちゃいましたヨ」
ニコニコと何が嬉しいのか私の顔を覗き込む変態。
名をアモンと言う。
魔界の上位悪魔の一人である。
上位悪魔だけあって、半端ない美貌の持ち主だ。
侍女二人も美人だか、このアモンとはレベルが違う。
ゆるくウェーヴする濃い銀髪を肩まで伸ばし、(黙っていれば)冷酷に見える端麗な顔に蒼氷色の瞳。
白い頬から首にかけて黒いトカゲの刺青が這うようにして入れられている。
「サタナキアからアモンにまた寝込みを襲われたらやってみたらいいって。あんま効果なかったみたいだね」
サタナキアは魔界の軍を指揮する将軍で、アモンとは仲が悪い。
というより、お堅い職業軍人であるサタナキアがチャラいアモンと合わないだけだけど。
ちなみにサタナキアは女性である。
凄い女性もいたもんだ。
「へぇ〜、サタナキアが。じゃあ、今度お礼言わなきゃねぇ」
「アモン、あまり彼女をからかわないように」
「御意」
嫌〜な感じの笑顔を浮かべるので注意すると咽喉奥でクツクツと笑われた。
転移すればすぐに食堂に着くのに、わざわざ散歩するように私を抱っこしたまま歩くアモン。
私も慣れたもので最初の頃のように暴れたりはせず、おとなしく身を預けた。