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第十七話

 アザゼルへの対処は、結局アモンが提案したもの以上の有効な策は出なかった。

 向こうの出方を待つという策にカレンなどは不満そうな顔をしていたけど。


 当面のことが決まったので解散となったが、これから由梨亜がジェラルドに剣術の稽古をうけると言うので見学させてもらうことになった。

 神子専用の訓練場とやらがあるらしく何故かみんなでそこへ移動した。


「由梨亜さんは剣を持って悪魔と戦うのは怖くないんですか?」


 隣を歩く由梨亜へ尋ねる。


「・・・確かに、最初は戸惑いました。今も怖いです。私に悪魔を倒すことが出来るのか・・・でも、私には支えてくれる人達がいるから」


 由梨亜の決然とした表情に迷いはなかった。


「確かに、支えてくれる人がいるのは心強いですよね」


「カナさん・・・いえ、カナって呼んでいい?私のことも由梨亜って呼んで。私達同い年くらいでしょ?」


 ・・・まあ、十二歳に間違われるよりはいいか。

 いちいち訂正するのは面倒くさかった。


 外に出て訓練場に辿り着くと、ジェラルドが由梨亜に剣を渡した。

 女性にも扱いやすそうな細い剣だったが、それ故にすぐ折れそうだった。

 あの剣で大丈夫か?と疑問に思った私の目の前で、由梨亜が持つ柄の部分から剣先まで光り輝く神力が帯びはじめた。

 なるほど、神力で強度を上げるのか。



「ハッ」


 由梨亜が気合いの入った一声とともに、ジェラルドに向かって剣を振るい始めた。

 一合、二合と打ち合っていく。

 さすがに剣の腕前はまだまだ初心者と言った感じだが、剣に神力を込めている分ジェラルドは打ち合うたびに吹き飛ばされるのを踏み止まってるようだった。

 なかなか形になっているし、運動神経が良いのが見ていて分かる由梨亜の動きだった。


 稽古をする二人を眺めていると、激しい足音が聞こえてきた。

 振り返ると、バルハンが物凄い形相でこちらにやってくるのが見えた。


「レイヴァン!」


「あれ、チチウエ」


「お前は何という事をしてくれたのだ!陛下に縁談を断ったらしいな!」


 アモンと顔を合わすなり、唾を飛ばさん勢いで怒鳴り散らす。

 どうやら、金ぴかの間での一件を人づてに聞いてすっ飛んで来たらしい。

 勝手な事をした息子に怒り心頭なようで周りを気にせず喚いている。

 この騒ぎに気付いたのか、由梨亜も稽古をやめて心配そうにこちらを見ていた。


「・・・ベルフェノル公爵。ここは神子の稽古場です。騒ぐなら余所でやってもらえませんか?」


「なんだと・・・っ、これはミリアン殿下!」


 注意した相手がミリアンだと分かった途端、畏まるバルハン。

 変わり身早えーな。


「レイヴァンに話があるなら連れて行けばいい」


「はっ、お気遣い有り難く思います。・・・行くぞ、レイヴァン!」


 アモンの腕を掴んで連れて行こうとするバルハンだったが。


「むっ、むむむ〜っ」


 アモンがてこでも動かない。

 力付くで動かそうとしてもピクリともしないもんだから、バルハンがまた喚きだしそうだった。

 それを見た私はアモンに目線で「行け」と命令した。

 アモンは眉を八の字にして情けない顔をしたが、渋々バルハンに引っ張られるまま訓練場を後にした。


「大丈夫?」


 由梨亜が私に声をかけて来た。


「うん。修行の邪魔してごめんなさい。続けていいですよ」


 笑う私を見て何を思ったのか、由梨亜が気を遣いはじめた。


「ねぇ、カナも剣術を習ってみない?もちろん、実際の戦闘には巻き込まないつもりだけど、何があるか分からないから」


 まぁ確かに。

 身を守るすべは身につけておいた方がいいだろう。 だけど・・・。


「由梨亜、大丈夫だよ。私にはサタナキアがいるから」


「サタナキアさん?」


「彼女が私を守るから、私は強くならなくていいの」


 それに私、身体動かすの得意じゃないし、好きでもない。

 私の返答に初めて由梨亜が不快そうな表情を見せた。


「・・・それって、サタナキアさんに危険なことは全て任せっきりにするってこと?確かに、彼女は護衛だからそれが仕事かもしれないけど、相手は悪魔なんだよ?カナも守られてばかりじゃなくて強くならなきゃ!」


 うわ、物凄くうざ・・・じゃなくて熱いな、この神子は。

 別にそういう意味で言ったんじゃないんだけどな。


「・・・神子殿。カナ様に剣を持たせるはやめて頂きたい」


「え?」


「カナ様に武器を持たせて戦わせるなどありえん。私に対する侮辱か?」


「えええ?」


 サタナキアに眼光鋭く睨み付けられて、由梨亜は戸惑いを隠せない。

 なぜ責められたのか分からないのだろう。


「サタナキア殿、ユリアを睨むのはやめろ。ユリアはただ討伐隊に加わるなら危険なこともあるだろうから、護身術を習った方がいいと言っているだけではないか」


 ミリアンが由梨亜を庇うように間に入った。

 それをサタナキアは冷たく見やる。


「必要ない。カナ様は私がお守りする」


「たいした自信ね。確かに魔力は強いみたいだけど、私達討伐隊に入れるほどの実力なのかしら?」


 今度はカレンが口を挟んできた。


「カナさんはレイヴァンを引き込む為にやむなく討伐隊に加えたみたいだけど、足手まといは正直これ以上いらないわ」


 おっと、ハッキリ言ったね、この人。

 魔力もなく、特に秀でた武術の才もない私をそう容易く仲間だと迎え入れるわけないとは分かってたけど。

 それに、悪魔討伐隊は国の精鋭達を集めたとされている。

 中身が貴族ばかりなのでそこに疑問は残るが、周囲にはそう認識され英雄扱いされていて、その為か彼らのエリート意識は高い。


「どう?サタナキアさん、ジェラルドと試合をしてその実力を私達に見せてくれない?」


 勝ち気そうな緑の目を細めてカレンが意地悪く言う。

 私が稽古を断っただけで、なんでこんな話になったんだか。

 言い方が悪かったのは認めるけど、私は守られるのが役目なのだ。

 カレン達が討伐隊に選ばれたのを誇りに思うのと同じ、いや、それ以上の誇り高さでサタナキアは私を守ってくれている。

 彼女の私に対する忠誠、そして強さを信じているからこその発言だったのだが、由梨亜には誤解されてしまったようだ。

 サタナキアの実力を知って貰う為にも、一度手合わせをさせてみるのもいいかもしれない。

 私の判断を待っているサタナキアに一つ頷いてみせた。


 というわけで、サタナキアVSジェラルドの試合が行われたわけだが。

 結果から言うと、サタナキアの圧勝だった。

 まぁ、分かっていたことだけど。


 エリクの合図とともに、先に仕掛けたのはジェラルドだった。

 素早く踏み込んで身体を沈め、サタナキアの懐に飛び込んできたまでは良かったけど剣を一閃する前に横っ面をぶん殴られた。

 木の葉のように二メートルは吹き飛ばされたジェラルドを見て思わず合掌。

 もちろん、サタナキアが本気で殴っていたらこんなものではすまなかっただろうけど。

 幸い気絶はしなかったものの、すぐには立ち上がれないジェラルドに周りは唖然となっている。

 それはそうだろう、 サタナキアは剣さえも抜いてないのに決着がついてしまったのだから。

 カレンもなんとも言えない表情で黙り込んでしまっていた。

 その様子を見るにサタナキアの実力は分かってくれただろう。良かった良かった。

 つか、討伐隊弱くね?と思ったのは胸の奥にしまっておく。


「サタナキア殿!」


 ようやく立ち上がったジェラルドが何に目覚めたのか、サタナキアをキラキラした目で見ていた。

 若干頬が紅潮している。危ない。

 ドシドシ近づいてきたジェラルドがいきなりサタナキアの手をガシッと掴んだ。

 サタナキアの美しい柳眉がピクッと動く。


「素晴らしい一撃でした!これほどお強い女性とは初めてお会いしました!不肖私、新しい扉を開けた気分です!」


 一体何の扉を開けたんだ、何の。

 サタナキアが冷たーい瞳で見ているのにも関わらず、ジェラルドは「ぜひ私に武術を指南して頂きたい!」と熱く口説いている。


 マッチョの暑苦しさに加え、若干の変態臭漂うジェラルド。

 そんな彼にまとわりつかれたサタナキアに思わず本日二度目の合掌。


 さらにジェラルドと同じく熱い由梨亜にまで稽古をつけて欲しいと頼まれたサタナキアは私を見た。


「・・・まぁ、いいんじゃない?」


 OKサインを出した私に、サタナキアは先ほどのアモンと同じように眉を八の字にしたが頷いた。

 こうして何故か教え子が二人に増えた訓練場で、これまた何故か師匠になったサタナキアの稽古が始まった。

 魔界では将軍をしているサタナキアである。

 指導は鬼のように厳しかった。

 それを嬉々として受け入れるジェラルドにマゾ疑惑がますます深まる。


 三人の稽古の様子を眺めていた私だったが、しばらくして飽きた。

 アモンもまだ帰ってきそうにないし、ちょっとお城を見学してこようかな。

 お城の中だからそう危険でもないだろうし、不審人物もいないだろう。

 むしろ一番の不審者は私か。


「エリクさん、少し席を外します。すぐに戻るのでサタナキアにはそう伝えて下さい」


 近くにいたエリクに伝言を頼んで、私はお城見学をするべく城内に戻った。




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