偽物の娘と打ち捨てた私が実は大国の姫だったことを知っても許しませんよ?
魔法事故によって入れかえられた事実が発覚して我が家は今てんやわんやだ。当事者のルレアは、この日から人間としての尊厳を全てゴリゴリと引き剥されている。
使用人部屋なんてところではなく、野宿しろと追い出されて、馬屋で寝た。起きたら転生していたことを思い出して、馬屋ってどこの童話なんだと己に突っ込んだ。ちょっと非現実過ぎて空笑いしてしまう。
それにしても娘ではないと発覚したからといって、感情的に何もかも取り上げるのは時期尚早なのではないのか?と思ってしまう。どこの誰と入れ替わったのか、まだわかってないというのに。
見つからないうちに移動すると元兄弟たちとばったり出会って向こうは何か言いたげにしていたが、何も言えずに向こうへ行く。
そりゃそうだ。いきなりあなたたちの姉妹は血が繋がっていなかったと知らされても、当然すぐに受け入れられない。数分前まで共に育った家族だったのだから。いや、それにしても親の子供だった人間に対する差が酷い。
今まであった愛情がどうやら反転して憎くなったみたいなのだ。殺しそうな目で射抜く視線は、いつ殺されてもおかしくない。早く出て行かないと。そもそも、誰がルレアとその子が入れ替わったことを告げたのか気になる。
ルレアと入れ替えられた方の人たちの方にも入れ替えが伝えられたのなら、入れ替えられた身内の人たちの身分がお互い誰なのかも、明明にやり取りしているのだ。
こんなに冷遇されるということはかなり身分の低い人間と判定されたのか、なんなら平民だったり孤児だったりするのかもしれない。
そうなると出ていく準備を早々にしなくてはいかないな、とまだ受け入れられない現実が頭の痛みと共にやってくる。
姉妹や兄弟たちは話さないように言われているのか、こちらへ寄ることもせず馬小屋にやってくることもない。
「なにしているの!」
「えっ、あ、おかあさ」
思わず今までの習慣で母親のことを呼んだら平手で叩かれた。バシッと鈍い音を立てて吹き飛ぶ体。
「うぐぅ!?」
初めての痛みだ。外に出されたときは使用人たちに両腕を持たれて放り出されたので直接暴力に晒されたのは初めて。
「な、なんで」
「穢らわしい!母親と呼ばないで頂戴!」
「お、奥様!おやめに!」
使用人たちが止めようとしたが母親が睨みつけると動きを止める。門より外に出せと命令するのが聞こえて、頭を打ったのか体がうまく動かない。
「早く捨てて!私の目に入れないで!」
ボヤける視界を最後に頬に血が流れるのを感じて、意識を失った。
*
「お母様、でしょうか?」
「ルレア?」
「あ、いえ、名前はあちらで名付けられております」
やたらと物腰が高貴な身分らしきもので家族たちは首を傾げたが、周りにいる面々は外交官ではなく事故により入れ替わった国の両親たちだと知る。
こちらの国の王たちもこの場にいて、王城で面会をしている。お前たちの娘はどうしたと聞かれて「元気にしています」と伝えると気落ちしていたりして、心の整理ができなくてここに来れなかっただけかと王族たちは納得してしまった。
もうどこにもいなくて、怪我をさせて門の外に出したということを言わなかったことがのちに名家がなくなる憂き目に合うとも知らず。それどころか、王家の存命も危ぶまれるとも。
「そちらの国は」
「なんだ、聞いておらぬのか?」
「詳しいことはここ数日、忙しくて」
「ふむ。あちらはかの大国の王家、魔法大国と名高い王妃様と陛下である。お前たちの娘は大国の姫として大事にされておった」
「え……?あの、娘は、あの、私たちの娘は魔法の国の姫、なのですか?」
思わぬ大国の名に家族たちは驚いたと共に親たちは、喜びにあふれた顔を浮かべた。縁が結ばれたと。てっきり王からの使者から聞かされてどこぞの国の平民に近い格下と、使者から聞かされていたから。混乱していた中での聞き間違いだった。
「わ、私たちは大国と縁を結べたのね」
「うむ!実にめでたい!」
王が笑みをこぼしているとあちらにいた、実の娘を育てていた王家のトップがこちらへゆったりやってくる。
「私たちの娘を育てていただきありがとうございます。そちらの家におられるのでしょうか」
問われた瞬間、脇から汗がルレアの父親と母親からびっしょり出てきた。夫たる男は使用人からも妻からも穢らわしい娘を外に出したと聞き、少し時期尚早なのではないかと思ったが目に入れたくない気持ちは同じだったので報告を捨ておいた。
「そ、それは」
怪我をさせたと聞いていた。外に治療もせずに放り出したと聞いた。急に体が冷えて震える。自分たちはなにか取り返しのつかないことをやらかしたのではないか、と頭が止まる。
「どうした?早く彼らを娘のところへ案内せぬか」
王はこの国と太い縁を結べたことに僭越な顔を浮かべ、夫婦たちを足す。
「ねえ」
「うん……」
ルレアの血の繋がっていなかった姉妹たちは、お互い顔を見合わせてそういえば馬小屋どころか最近みないことを、目配せもしながら確認し合う。
彼らは親に会いに行くな言われても今更関わるなと言われても、命の危険があればなんとかかんとか皆で助けようと話し合っていた。既に母親が淘汰した、なんて最悪のシナリオは頭にない。
親からするとカッコウのようなことをさせられた気持ちが強いのだろうが、子供たちからすると長年共に育った姉であり妹。今になってじゃあ捨てます、と感情面で割り切れるわけもない。
様子を見に行ったりしていたが、目にしなくなって出て行ったのかと話していたところに本当の姉妹が会いに来ると王城に集められた。親たちの変化にも子どもたちは親が思っているよりも、敏感に感じ取る。
「そ、その、む、娘は、その、家出をっ」
「はぁ?家出?」
突然の行方不明を示唆されて、王は眉間に皺を寄せる。
「私たちの娘が家出ですか?」
大国の夫婦がこちらに向けて厳しい目を向ける。愚かな夫婦の本来の娘の名を呼び、目の前にいた娘がパタパタと本当の親から離れて育ての親の方に雛鳥の如くすぐに近寄る。大切にされているのがわかる。娘と知っても娘であることは変わらないと言っていた器の大きさ。
「私たちの娘をまさか、追い出したの?」
「えっ、いえっ、そんなことはっ」
「ここで虚偽を述べると罪に期すぞ」
味方のはずの自分たちの王が敵に変わった瞬間だった。
「私たちの娘はどこ……?」
「私の代わりにあなたたちと暮らしていた子に、何をしたの?」
「……ひっ!」
「あ、そ、れは」
大国の娘として育てられていた子供は、純粋に実の親への嫌悪の瞳を隠さずルレアの育ての母親が娘ではないと知ってから、馬小屋にいた娘に向けた軽蔑の瞳は確かに親譲りだった。
*
目をぼんやり開けると長姉と長兄が座って、それぞれ話をしていた。目をぱちぱち何度かすると医者を呼ばれて診察を一通りすると、話しかけられる。
「ルレア、覚えてる?」
「うん……」
「そう。あなたが病院に運ばれてから、気を失ってから一週間目を覚さなかったって聞いたわよね」
姉が頭の傷に触らないように撫でてくる。撫でられるのは久々で涙が浮かぶ。転生者だろうと精神の部分が大人だろうと今まで母や父たちのことは嫌えなかった。
それなのに、あの日打たれた衝撃は痛み以上。何もしてないのに、非がない形での嫌われるという心無い行動は深く心にトラウマを植えつけた。
「そうよね。あなたは他人に叩かれたんじゃない。母親に打たれたのよね。たった数日で受け入れられるものなんかじゃないのよね」
長姉と長兄はそれぞれ社交や仕事で忙しくしており、父と母が間も無く娘をあっという間に追い出すなど思ってなかったと伝えてくる。外に出したと聞かされたのは馬屋に逃げた時。
馬屋に居ると聞き、駆けつけると母に打たれて使用人たちに外へ投げ出された後らしい。見つけてすぐに病院に駆け込んだそうだ。
親たちに知られないように離れた病院に運び込んだのだと全て教えてくれる。忙しいし、今は未曾有の事態に遭っているのにここに連れてきてくれただけではなく、ずっと起きるまで見ていてくれた。
「あの子たちもあなたのことはちゃんと気にしていたのよ。ただ、うまく助けられなくて私たちに会いにきてくれたの」
兄弟姉妹たちは無視していたのではなく、話しかけて親たちの怒りに触れてさらに酷いことをされることを危惧して話しかけなかったのだと申し訳なさそうに言う。
娘もどきに実子が話しかけたら、あの親なら瞬間湯沸かし器みたいにルレアをボコボコにしただろうとは己でも想像できた。
話しかけないことで親の目を向けさせないようにしたのはいいが、どうすればいいのかわからないので長兄たちに任せるよう、言い含めていたらしい。
「恨むなとは私たちは言う資格はないが、嫌ったわけでも気にしなかったわけでもなかったことを知っておいて欲しい」
兄が俯いて頭を下げた。兄や姉、下の子たちがなにかをしたわけではないのはわかっている。心がまだなにも処理できていないだけだ。許す許さないのところにまだ来ていない。
さらに数日後、実の親が見舞いに来た。家を取り潰す話しも進んでいると聞き、慌てて頭を下げた。
「すみません。親以外はどうか罰するのはやめていただきたいのです」
頼むと彼らは驚いていた。血のつながりがなく大国の娘と知らない彼らが己を助けてくれた事情を話せば、両親は暖かく抱きしめてきて悪いようにしないと言ってくれた。
それから、ルレアは大国に移り住み入れ替えられた子供についてもここで暮らさせないのかと聞くと嫌じゃないのかと聞かれる。嫌ではない。
首を横に振り、気にならないと伝えると親は嬉しそうに抱きしめて優しい子ね、と笑った。
ルレアもそうだが、昨日今日でいきなり実はそうじゃなかった、と聞かされても今まで過ごした親子や身内の時間や事実は、決して消えない。
今入れ替わったもう一人の子はこの大国の知り合いの家に住んでいるらしい。本当に生まれた国に行くつもりで来たが、本当の親が自分と違って娘を酷く扱って捨てたと知り、ルレアの実親たちがこの国に置いていくことなんてとてもではないができないと取りやめたと言われる。
「あなたに言うべきではないと思っていたの」
「私は確かにあなたたちの娘ですが、だからと言って彼女が娘でなくなるわけじゃありません。気にせず、今までのように娘として暮らしてください」
ルレアは転生者なので本当の親の愛情を求めるほど、子供ではない。勿論、嬉しいけれど、自分には頼りになる愛する血縁関係にない大切な家族がいてくれる。
彼らと手紙のやり取りをしながら、聞いた話では父と母は当主と妻の座を下されて今は領地の小さな家に押し込められているらしい。大国の王たちを激怒させてしまい、自国の王の反感もがっつり買ってしまったのだ。
爵位返上さえ声が上がったが、ルレアが本物の親たちに頼んだ結果、爵位は長兄たちに移動してそれ以前の歴史は一度閉じられた。大国に示しがつかないので育ての親たちの隠居だけでは到底足らなかったらしい。
再度爵位を貰った彼らの爵位譲渡理由は、大国の姫を今まで大切に扱ってきた大国との橋渡しに大きく貢献したことによるものになった。
皆から手紙が届き、数ヶ月後に落ち着いた時にはこちらに泊まりに来ると書かれており、両親に伝えると快く王城を場所として提供してくれることになった。
親のことに関しては身内たちに影響が強いので、娘にしたことは周知していない。大国の娘を今まで育てていた栄誉を逃した彼らにとって、今の生活は不満だらけだろう。
助ける気は起きない。今も両親という気持ちが消えたわけではないが、叩かれるまでにあったどうしても助けたいという恩も敬意も、家族としての情もあの時吹っ飛んだ。
大国の両親は育ててきた娘を慈しんでいたので、同じくルレアの育ての親たちだって同じことができたはずだ。それが無理なら居ないものとして扱うか無視すればよかった。わざわざ手を出しに近付いて貴族生活を終わらせたのは、他でもない彼らだったというだけ。
他人の子供に手を出してしまえば激怒されるのは世の常だ。子連れの動物に近づくなというのは、この世界でも変わらない常識。暴力を仕掛ける必要などないのに、感情に身を任せてしまうとは貴族として足りないと判断されたのだとわかった。
血の繋がりはないのに助けてくれた彼らには、感謝してもしきれない。本当の両親たちが罰する対象を絞ってくれたので最小限で済んだ。
大国で勉強や魔法を鍛えて恩を返すためにも、ここでたくさんの人と交流をして育った彼らが困らないように土台を厚く太くしようと気張る。
こちらで育った両親たちのもう一人の娘と共に協力して、家族を否定しない形を作っていく。大国の王妃ら、彼らにとって本物ではない娘だとしてもその子もまごうことなき娘であると、周りと変にすれ違わないようにたくさん話あった。
自分の親から否定されても、自分は彼らと育ててきた娘との確執や離れ離れで暮らさせる理由もないのでこれでいいと、かけがえのない向こうにいる家族たちを思い出して口元がそっと上がる。
「ルレア様、準備が整いました」
大国で本来の婚約者とは入れ替えられた娘の子がそのまま婚約を続けることも決まり、自身は移されたこちらの病院で出会った入院していた男の人と意気投合してしまい、姫である意識がなかったために驚かれたが交際するかしないかの、ふわふわした進み具合となっている。
「ありがとう」
呼ばれて向かうと実親たち、入れ替わった娘、大切な兄弟姉妹たちがすでに集まっていた。手を振って彼らに駆け寄ると、最近開発されたばかりの魔導カメラがセッティングされていて並んだ。
「では、お願いします」
撮影者が合図すると皆が返事をして静止画が作られていく。終わるとそれぞれ力を抜いて笑ったり話したり、思い思いに移動する。
「ルレア姉様〜」
下の年齢の子たちがあの実親に「話しかけるな」と言い聞かされて威圧され悲しそうだった表情が嘘だったように笑いかけてくる。
「頭痛いのもう大丈夫?」
心配そうに問いかけられて頷く。頬の腫れもとっくに完治しているので見た目も元気だ。大丈夫だよ、もう元気だよと伝えると嬉しそうに目を輝かせて喜んでくれる。
親の愚行の因果に幼い子たちが巻き込まれてなくてよかった。今はもう騒動が落ち着いているので、姉たちも気負いしている様子はない。
共に育った人たちに囲まれながら少しズレていたら国はなくなっていたかもしれないなと、己の肩書きの強さにまだ実感がわかないなぁ、と苦笑した。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。数秒前まで家族だったからこそ急に他人扱いは難しいでしょうね




