人間60
ナオたちは長いこと歩き続けた。雨はすでに止んでいたが、夜の闇はなお深い。厚い雲が星々を覆い隠し、草木の放つかすかな燐光だけがぼんやりと見えていた。静寂の中、ときおり聞こえてくるのは、野獣の息遣いと、草葉をかすめる蹄の擦れる音だけだった。
湿った土の匂いが風に乗って漂い、冷たい夜気が肌を刺す。誰も口を開かず、ただ足音だけが小さく響いていた。闇の向こうでは、何かの気配がじっとこちらを窺っているようにも思える。ナオは無意識に肩へ手をやり、背後を振り返った。しかし、そこには揺れる草の影と淡い燐光があるだけで、果てしない闇が静かに広がっていた。
参考文献
Boex, J. H. H. (1911) La Guerre du feu(=『火の戦い』).
Abrams, M. H. (1999) A Glossary of Literary Terms(=『文学用語辞典』).
Genette, G. (1972) Figures III(=『物語のディスクール――方法論の試み』).
Ryan, M. (2001) Narrative as Virtual Reality: Immersion and Interactivity in Literature and Electronic Media(=『ヴァーチャル・リアリティとしての物語――文学と電子メディアにおける没入とインタラクティビティ』).
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