Sunshine on my shoulders
太陽はとても満足していました。
太陽はこの宇宙の中で明るく輝ける事を誇りにしていたのです。
太陽はエネルギーに満ちていました。
何億年も何億年も太陽は輝き続けました。
ある日、太陽はふと思いました、
「おや、考えてみれば、ずっとワシが輝いていたのでは、ワシの偉大さが分からぬではないだろうか? たまにはワシが見えぬ方が、見えた時にワシの偉大さが分かるのではないか?」
そこで太陽は「夜」を作る事にしました。
太陽は星を引き寄せ、星達に太陽の周りを回るよう命じたのです。
星達は太陽の周りを周り始めました。
そうして星の表面に太陽に当たらない部分が「夜」になったのです。
夜になると太陽が見えなくなりました。
そして昼になると太陽が輝くのです。
太陽は非常に満足しました。
それから何億年も経ちました。
ある日、太陽は考えた。
「昼も作った。夜も作った。しかしいったい誰がワシの事を偉大だと思ってくれている?
誰も居ないではないか!」
太陽はそのように考え、悲しくなりました。
そこで太陽は自分の周りに回っている星のひとつに相談をしました。
「おい、そこに居る星よ。誰もワシの事を偉大だと思っておらぬのだが」
「あら、それはそうですわ。あなたはとても大きななエネルギーがあるのに、この宇宙に何も生み出していないではありませんか。ただ単に明るいってのはあまりにも芸がありません」
とその惑星は答えた。
「そうか・・・・・。いったいどうすれば良い?」
「あなたは自分の子どもを作る必要があるのですわ!!私と結婚してくださいまし。
そうしますと私は貴方の子を作れます。そしてその子が育つと貴方の事を偉大な創造主として崇めるでしょう!」
そのようにして、太陽とその惑星は結婚をしたのでした。
結婚指輪の代わりに、太陽は惑星に月をひとつプレゼントしました。
太陽はその惑星に子が生まれるように光と熱を送りました。
惑星も子づくりの準備の為、惑星の表面に海を作り太陽の光と熱がそこに当たるようにしたのです。
何万年も時が過ぎていきました。
そしてある日、ようやく惑星の海に最初の生き物が生まれたのです!
それはとてもとても小さな生き物でした。
しかし、太陽と惑星は喜びました。
なんせ、彼らの最初の子供だったのですから!
父は喜びその生物にふんだんの熱と明かりを与え、母は海にたくさん栄養を与えました。
生き物はまたたくまに増えていきました。
ある日、太陽は妻に言いました。
「この子達の為に、そなたはもっともっと美しくなって欲しい。そうするとこの子達も喜ぶであろう」
太陽は妻に春夏秋冬、四つの季節をプレゼントしたのでした。
何百万年も時が過ぎ、惑星には植物から大きな動物まで様々な生き物が暮らすようになりました。
太陽と惑星はその子達を愛した。
しかし、少々不満が無いではない。
生き物達はとても満足して生きていたのですが、
父と母である太陽と大地を認識していなかったのです。
やはり実の親である以上、自分たちの事を子達に知ってほしかった。
そこで、彼らは生き物達に不満を植え付けたのでした。
不満があれば少しは太陽と大地のありがたみを分かってもらえると考えたのです。
そしてその試みは成功しました。
中でも、大型の動物は不満が強くなり、腹を空かし、ようやく食べ物にありつけた時には空や大地に向って何か言いたげにするようになったのです!
太陽はある夕暮れ時、オオカミが自分に向って吠えているの見て、身も心も震えました。
ようやくワシの事を認識してもらえたのか!!
太陽は何十億年生きて、こんなに嬉しい事はありませんでした。
もっともっと我々の事を知ってほしい、いや愛してほしい、太陽と大地はそのように思いました。
それから何万年も経ち、奇妙な種族が現れました。
その種族は大きな頭を持ち、2本足で歩いていました。
そして、彼らは太陽と大地をキョロキョロと観察していたのです。
これは珍しい種族が現れたものだ、と太陽と大地は思いました。
太陽と大地は彼らも愛し、恵みを彼らにも与えました。
すると驚いた事に彼らは太陽と大地に「感謝」したのでした!!
この時ばかりは母なる大地もびっくりし、おかげで大地に地震が起きた程です。
かれらは太陽と大地に「名前」を付け、崇めたり祈ったりするようになりました。
今までそんな種族はいませんでした。
太陽と大地の事を「父」や「母」と呼ぶ者も居ました。
太陽と大地は嬉しくてしかたがありませんでした。
太陽と大地はその時、自分たちが何故宇宙に居るのかが分かりました。
そしてなんとかして、その種族にその事を伝えたいと思いました。
しかし、それを伝えるには何千年も待たなければいけなかったのです。
種族はとても頭の良い生き物でした。
種族は便利な道具や機械を作り、自然を征服していきました。
彼らは人工的な太陽を作る事にも成功しました。
人工太陽のおかげで、もう夜も暗くありません。
誰も太陽と大地を「父」や「母」と呼ばなくなりました。
太陽と大地はとても悲しくなりました。
「なあ、おまえ、どうやら我が子達は反抗期に入ったらしいぞ。おまえも最近肌荒れがひどいなあ」
「ええ。最近あの子達、大地や空気を平気で汚すのよ。・・・でも私はそれでもあの子達を愛しています。それをなんとかして伝えたいのです」
そしてようやくその日が近づいてきました。
種族は大気圏を突破して、宇宙へと飛び出す乗り物を発明したのです。
宇宙飛行士は今か今かと離陸の時を待ち構えていました。
彼はもう何年もこの時を待ちわびてきたのです。
「あの声」を確かめる為に。
その宇宙飛行士は子供の時、空から声を聴いたのです。
その声は「話がしたい」と言いました。
少年は驚き、空を見上げましたが、そこには太陽しかありませんでした。
その事を両親や友達に話しても誰も信じません。
しかし彼は、あの空の彼方から誰かが自分に話しかけたのだと信じていました。
秒読みが始まりました。
宇宙飛行士はコックピットに座りながら、何故なのかロケットに積んでいる燃料の事を考えていました。
燃料は何で出来ている?
決まっている、化石燃料だ。
化石燃料は太古の生物が地中に埋まって出来た物だ。
なんの為?
我々人類がそれを利用する為だ。
ロケットを打ち上げるには膨大な量の化石燃料が必要だ。
秒読みが終わり、ロケットは火を噴きながら宇宙へと舞い上がりました。
強い重力を感じながら宇宙飛行士は考え続けました。
何故なのかは自分でも分からなかった。
そう、引力だ。地球には引力があるから重力圏を抜ける為に膨大なエネルギーが必要なのだ。
宇宙飛行士は何故だか引力そのものと対話しているような気になってきました。
引力はどこから発している?
そう、この大地、地球だ。
引力とは我々人類に与えられた試練だ。
つまり、試練とは大地だ。
我々人類は大地から試練を受けている。
我々は地球から試練を受けている。
なんの為に?
宇宙飛行士は自分の頭が強い引力でおかしくなっているのではないか、と思いました。
しかし宇宙飛行士の考えは止まりませんでした。
なんの為の試練だ?
その時宇宙飛行士の頭に「対話」という考えが浮かびました。
いったい誰との対話だ?
母なる地球から離れていったい誰と「対話」をするというのだ?
そうか!!
その時、宇宙飛行士は気が付きました。
大地、地球とは「母」。
「母」は重力という試練を我々に科しながらも、何億年分もの恵み(化石燃料)を我らに与えてくれた。
化石燃料となったかつての古代生物達も我々人類を助けてくれている!
私に対話をさせる為に。
それを私ははっきり感じる。
古代生物達よ、いったい私達人類に何をやってほしいのだ?
その時、重力圏から脱し、ロケットは漆黒の宇宙の中へと飛び込みました。
宇宙飛行士は重力が0になる瞬間、背中を誰かが優しく押すのを感じました。
後ろを振り返ると窓から青い地球が見えた。
宇宙飛行士は息を飲んでその地球を見た。
真っ黒い宇宙の中に静かに静かにその惑星は浮かんでいた。
しかし宇宙飛行士にとって、その惑星は「地球」と呼べる存在ではありませんでした。
それは「意味」そのものだったのです。
それは観察の対象でもなく、「美しい」や「青い」などという形容詞がどれも当てはまりませんでした。
それは「存在」そのものでした。
そしてその「存在」は宇宙飛行士に言葉にならない無言の言葉で語りかけました。
「さあ、お父さんにご挨拶しなさい」
宇宙船の反対側を見るとそこに「父」が居ました。
父は明るく堂々と光輝きながらそこに居た。
その瞬間、宇宙飛行士は理解しました。
どうして地上に生き物がうまれたのかを。
どうして人類が生まれたのかを。
父と母は子に愛されたかったのだ。
その子が「人類」だったのだ!
宇宙飛行士は地球と太陽を見ながら、ただただ涙を流し続けました。
その感情はすぐに太陽と地球に伝わり、太陽と地球も涙を流した。
その感情はひとつに解け合い、ひとつの宇宙になりました。
END