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氷の令嬢の転職計画〜私を追放した祖国が破産寸前ですが、今は皇帝兄弟からの過剰な愛情表現の処理で手一杯です〜  作者: ぱすた屋さん


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第23話『公開処刑〜帝国財務卿の冷徹なる計算〜』



 アウグスト帝国の帝城、大広間。

 先ほどまでの華やかな夜会の空気は完全に消え去り、そこは今や冷酷な「債権回収(取り立て)」の法廷へと変貌していた。


「セバス、プロジェクターの起動を」


「かしこまりました、お嬢様」


 私が指を鳴らすと、セバスが魔導プロジェクターのスイッチを入れた。

 大広間の照明が一段階落とされ、空中に巨大な光のパネルが浮かび上がる。そこに投影されたのは、緻密なグラフと、末尾にゼロがいくつも並んだ暴力的なまでの「数字」だった。


「さて、アルフォンス元殿下。現実逃避は終わりです。貴方の国(会社)が現在どのような経営状態にあるのか、客観的なデータで振り返ってみましょう」


 私は指示棒ポインターを手に取り、空中のパネルを指し示した。


「現在、グランゼール王国が我がアウグスト帝国に対して負っている債務総額は、元本だけで『金貨一億五千八百万枚』。これに、貴方が婚約破棄(契約不履行)を宣言した日から発生している法定遅延損害金5パーセントが加算され、本日の時点で『金貨一億六千五百九十万枚』に膨れ上がっています」


「な……っ、い、一億六千……!?」

 アルフォンスが目をひん剥き、口をパクパクと動かした。


「い、いいや! そんな馬鹿げた金額、認められるはずがない! だいたい、お前の家が勝手に国に出資していただけだろう! なぜそれが帝国の借金にすり替わっているのだ!」


「先日もお伝えしたはずですが? 私は帝国にヘッドハントされる際、持参金としてその債権を帝国に譲渡したのです。合法的な債権譲渡手続きは完了しており、現在の債権者はレオンハルト陛下(アウグスト帝国)です」


 私が淡々と事実を告げると、大広間の帝国貴族たちから一斉に嘲笑が漏れた。

「自国の首根っこを握るスポンサーを自ら追い出しておいて、借金は踏み倒すつもりだったのか。厚顔無恥にも程がある」

「グランゼール王国の一年の国家予算は、確か金貨二千万枚程度だったな。つまり、国家予算の八年分を一括で返せと言われているわけだ。破産確定だな」


 貴族たちの容赦ないヒソヒソ声が、アルフォンスの耳を打つ。


「う、嘘だ! これは捏造だ! 私は王太子だぞ、こんな書類のサインなど無効に——」


「無効にはできません。セバス、原本の投影を」


 空中のパネルが切り替わり、一枚の契約書が映し出された。

 そこには、アルフォンスの不格好なサインと、国王の署名、そしてグランゼール王家の『血の王印』がくっきりと押されている。


「王族の血と魔力で封印された契約書です。捏造など不可能なことは、魔力を持たない貴方でもお分かりでしょう?」

 私は氷のような視線で彼を見下ろした。


「ついでに、この一億五千八百万枚の内訳も公開しておきましょうか。王都のインフラ整備費に金貨四千万枚。騎士団の給与立て替えに金貨五千万枚。ここまでは百歩譲って国益のための負債としましょう」


 私は指示棒で、パネルの端の真っ赤に塗られた円グラフを叩いた。


「問題は残りの使途です。王族の遊興費に金貨六千万枚。そして、そこの自称聖女ミリア様に買い与えた宝石やドレスの代金が、なんと金貨八百万枚。……自国の民が飢えているというのに、一人の愛人のために国家予算の半分近くを使い込むとは、トップとして完全にコンプライアンス(倫理)が欠如しています」


「ひぃっ……!」

 ミリアが悲鳴を上げ、アルフォンスの背後に隠れた。

 帝国貴族たちの視線が、一気に氷点下まで冷え込む。他国の使節団でさえ、「なんて愚かな王太子だ」と呆れ果てていた。


「だ、黙れエルゼ! お前は私を陥れるために、わざとこんな大衆の前で……っ! 私はお前の婚約者だった男だぞ! 少しは情というものがないのか!」


 論理で勝てなくなったアルフォンスは、ついに「情」という最も無価値なものにすがりつこうとした。

 私は深い、深いため息をついた。


「情? 経営に感情を持ち込むのは三流のやることです。それに、貴方はまだご自身の置かれている状況(絶望)を正確に把握していないようですね」


 私は指を鳴らし、プロジェクターの映像を「グランゼール王都の現在の姿」へと切り替えた。

 そこに映し出されたのは、美しい王都の姿ではない。

 魔導灯が消え、闇に包まれた街。あちこちから上がる暴動の火の手。そして、王城の門を打ち破ろうとする怒り狂った民衆たちの姿だった。これは帝国の諜報部隊が先ほど送ってきた、最新の魔導映像である。


「な……っ!? お、王都が……燃えている……!?」

 アルフォンスが腰を抜かし、ガタガタと震え始めた。


「インフラを支えていた『不採算部門(私)』をリストラした結果です。現在、貴方の国はインフラ停止による物流の崩壊、食糧難、そして暴動により、国家としての機能が完全に停止(倒産)しています。貴方は王太子として、この負債をどうやって処理するおつもりですか?」


「そ、そんな……。私がいない間に、こんなことに……っ。騎士団は何をしている! なぜ暴徒を鎮圧しない!」


「給与未払いでストライキを起こしたと、先ほどお伝えしたはずですが? 人件費を削れば労働力が逃げるのは当然の帰結です」


 私は手元の計算機を無慈悲に叩いた。


「アルフォンス元殿下。我がアウグスト帝国は、グランゼール王国に対し、金貨一億六千五百九十万枚の『即時一括返済』を要求します。期日は、現在時刻をもって終了といたします」


「い、今すぐ払えるわけがないだろう! 少し待て! 国に戻って税を搾り取れば……っ」


「暴徒と化した民衆から、どうやって税を回収するのですか? 現実的な返済計画ロードマップが全く提示されていません。よって、帝国は契約書第十二条に基づき、『担保権の行使(強制執行)』へと移行します」


 私は宣言し、彼に最後通牒を突きつけた。


「グランゼール王国の有するすべての魔石鉱山、王族の私有地、および王城の所有権は、たった今、アウグスト帝国に差し押さえられました。貴方はもう王太子でも何でもありません。ただの『無職の多重債務者』です」


「む、無職……? 私が……多重債務者……?」

 アルフォンスは虚ろな目で呟き、崩れ落ちるように床に両手をついた。


 自分の無能さを突きつけられ、権力も財産もすべて失ったことを、数字という「絶対的な事実」によって理解させられたのだ。彼のちっぽけなプライドは、完膚なきまでに粉砕された。

 大広間には、アルフォンスの荒い息遣いと、ミリアのヒックヒックという泣き声だけが惨めに響いている。


(ふむ。見事な自己破産ですね。これにて不良債権の事実確認と、担保権の行使は完了です。スムーズな債権回収プロセスでした)


 私がバインダーを閉じ、業務の完了に満足していると、ずっと私の背後で黙って事態を見守っていたレオンハルト陛下が、ゆっくりと前に進み出た。


「エルゼ。君の完璧な財務処理には、いつも惚れ惚れするよ。これでグランゼールという土地は、合法的に我が帝国のものとなったわけだ」


 皇帝の漆黒のブーツが、床に這いつくばるアルフォンスの目の前で止まる。

 レオンハルト陛下は見下ろすように冷酷な視線を向け、絶対的な権力者としての宣告を下した。


「さて、ただの『無職の債務者』よ。貴様が我が帝国の心臓たる財務卿に対し、数々の無礼と侮辱を働いた罪……万死に値するが、どうやってその身で購うつもりだ?」


「ひぃぃっ……! ほ、皇帝陛下、お慈悲を……っ!」


 アルフォンスは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、レオンハルト陛下のブーツの先にすがりつこうとした。しかし、その手は陛下の放つ覇気によって弾き飛ばされ、無様に床に転がった。


 もはや話し合いの余地はない。

 公開処刑(債権回収)のフェーズは終了した。彼らに残されているのは、帝国の最高権力者たちによる「徹底的な蹂躙」と「ゴミの分別作業」だけである。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【★★★★★】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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