表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の令嬢の転職計画〜私を追放した祖国が破産寸前ですが、今は皇帝兄弟からの過剰な愛情表現の処理で手一杯です〜  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

第19話『最高権力者たちからのプロポーズ?』

そろそろざまぁカウントダウンです……



 建国祭のメインイベントである夜会。

 帝城の巨大な大広間は、数千個の魔導シャンデリアの光と、着飾った国内外の貴族たちの熱気でむせ返るようだった。


「……皇帝陛下、ならびに第二皇子殿下、帝国財務卿閣下のご入場です!」


 豪奢な両開きの扉が開き、私たちが姿を現した瞬間。

 ざわめいていた大広間が、水を打ったように静まり返った。

 右手に絶対的な支配者であるレオンハルト陛下、左手に天才たるルカ殿下。そしてその中央で、金貨八十万枚の『月光蜘蛛の糸』と『海神の涙』を纏った私が歩みを進める。


 圧倒的な権力、財力、そして魔力。

 他国の使節団たちは、私たちが放つ「一ミリの隙もない陣形」を見て、完全に気圧されたように道を開けていく。


(素晴らしい……! これぞ宣伝効果の極致! 私が身につけているこの制服ドレスの資産価値と、両脇のトップエグゼクティブたちのカリスマ性が合わさることで、アウグスト帝国のブランド力は今、ストップ高を記録しています!)


 私は完璧な営業スマイルを浮かべながら、内心で利益計算を弾き出していた。


「さあ、エルゼ。約束のファーストダンスだ。他国の連中に、君が誰の所有物であるかをはっきりと刻み込んでやろう」


 レオンハルト陛下が優雅にひざまずき、私の手を取った。

 ルカ殿下が「ちっ……後で絶対代わってもらうからな」と舌打ちをして引き下がる。


 オーケストラが、緩やかで甘美なワルツを奏で始めた。

 私はレオンハルト陛下に手を引かれ、大広間の中央へと進み出た。

 彼の大きな手が私の腰に回り、グイッと強く引き寄せられる。二人の距離はゼロになり、彼の高い体温と、高価な香木の香りが私の理性をくすぐった。


「……驚いたよ、エルゼ。君は計算機を叩くのと同じくらい、ダンスのステップも完璧とはね」

 ステップを踏みながら、レオンハルト陛下が耳元で低く囁く。


「当然の嗜みです、陛下。ダンスは相手のリード(経営方針)に合わせて最善の動きを返す、究極のコミュニケーションツールですから」

「君は本当に、どんな時でもブレないな。だが……」


 レオンハルト陛下の腕にさらに力がこもり、私を抱きすくめるように密着した。

 黄金の瞳が、私を逃げ場のない熱で射抜く。


「もう、ただの『ビジネスパートナー』という肩書きでは、私のこの渇きは満たされない」

「……陛下?」


「国庫の鍵だけじゃない。私の隣という玉座も、私の私生活も、これからの私の人生のすべてを、君に管理してほしい。……私の『伴侶』になってくれないか、エルゼ」


 音楽に紛れて落とされた、真っ直ぐで重い、本気の求婚。

 周囲の貴族たちは二人の密着ぶりに息を呑み、使節団たちは「ついに皇帝が伴侶を決めたか」と青ざめている。


 だが、私のビジネスファイアウォールは、この甘いプロポーズの言葉すらも、瞬時に論理的なビジネス用語へと変換していた。


(……なるほど!! 伴侶=生涯のパートナー。つまり、これは皇帝陛下直々の『終身雇用の共同代表(COO)への就任要請』ですね! 私のこれまでの圧倒的な業績アップが認められ、ついに役員待遇からトップ層への完全な引き抜き(永年契約)が提示されたというわけです! これほど名誉なことはありません!)


 私は感動に打ち震え、彼の肩に置いた手にギュッと力を込めた。


「喜んでお受けいたします、レオンハルト陛下!!」

「……っ! ほ、本当か、エルゼ!?」


「はい! 貴方が私にそれほどまでの重役(伴侶)を任せてくださるというのなら、私も骨の髄まで、一生涯をかけて帝国の利益のために身を粉にして働くことを誓いましょう!」

「骨の髄……? いや、働かなくていい、私が君を甘やかして——」


「——はい、曲終わり! 兄上のターンはここまで!」


 レオンハルト陛下が感極まって私の唇を奪おうとした瞬間、ルカ殿下が風魔法で強引に私たちの間に割って入った。

 ワルツの第一曲目が終わったのだ。


「ルカ、貴様……っ! あと少しで完全な言質が……!」

「兄上ばっかり狡いんだよ! さあエルゼ、次は僕の番だ! ちょっと風に当たろう!」


 怒り狂う皇帝を置き去りにして、ルカ殿下は私の腕を掴むと、大広間から続く夜のバルコニーへと私を連れ出した。

 涼しい夜風が、火照った(熱狂した)体を冷ましてくれる。


「ふぅ……ルカ殿下、休憩のタイミングとしては適切ですね。しかし、抜け駆けは社内の派閥争いを再燃させるリスクが——」


「エルゼ。あのさ」


 バルコニーの手すりを背にして、ルカ殿下が真剣な顔で私を見つめた。

 夜の闇の中、彼の黄金の瞳だけが、獲物を狙う獣のようにギラギラと光っている。

 彼は一歩、また一歩と距離を詰め、私を壁際に追い詰めた。いわゆる『壁ドン』の体勢だ。


「さっき、兄上がお前にコソコソ言ってたの、聞こえたよ。伴侶がどうとか。……腹が立つ。兄上はいつも、権力と大人の余裕で、僕の欲しいものを先取りしようとするんだ」


 ルカ殿下は少しだけ泣きそうな、それでいて強烈な独占欲に満ちた顔で私を見下ろした。


「僕は、兄上みたいに帝国全体を動かす権力はないし、上手い口説き文句も言えない。でも……僕のこの規格外の魔力も、これからの時間も、全部お前のためだけに使いたいって思ってる。他の奴の指示なんか聞かない。僕のすべてを、お前に捧げるよ」


 彼は私の手を取り、自分の左胸——心臓の鼓動が激しく鳴っている場所へと押し当てた。


「だから、僕の投資先パートナーは、お前だけだ。僕を選んで、僕だけのものになってよ」


 不器用で、熱っぽく、そして逃げ場のないほどの『全存在を懸けたプロポーズ』。

 年下の皇子が、自分のすべてを投げ打って一人の女性を求めているのだ。普通の令嬢なら、この一途な情熱に絆されて即座に頷いていただろう。


 しかし、私のビジネス脳は、ここでも完璧な処理能力を発揮した。


(素晴らしい……!! 『すべてを捧げる』『他の指示は聞かない』。つまりこれは、帝国屈指の魔力リソースであるルカ殿下が、私個人の『専属契約フルコミット』を申し出ているということです! 皇帝からのトップダウンの指示を無視してでも、私のプロジェクトに全力を注ぐという、圧倒的な忠誠心の現れ! なんという優秀な部下でしょう!)


「……ルカ殿下。貴方のその熱意(提案)、しかと受け止めました」


 私は彼の心臓の鼓動を感じながら、最高の営業スマイルで力強く頷いた。


「私も、貴方という最高の資産を手放すつもりはありません! 貴方のすべて、私が責任を持って運用(投資)しましょう! 専属契約、喜んで結ばせていただきます!」


「ほ、本当!? エルゼ、僕を選んでくれるの!?」

 ルカ殿下の顔が、パァッとひまわりのように明るく輝いた。彼は嬉しさのあまり、私を力いっぱい抱きしめようと腕を伸ばす。


 ——が、その腕は、背後から伸びてきた漆黒の腕によってガシッと止められた。


「おいルカ。抜け駆けをして何を言っているかと思えば……エルゼは先ほど、私の伴侶(皇后)になるという提案を受け入れたばかりだぞ」

 バルコニーに現れたレオンハルト陛下が、絶対零度の声で弟を睨みつける。


「は!? 兄上こそふざけるな! エルゼはたった今、僕のすべてを受け入れて、僕専属になるって約束してくれたんだ!」


 バチバチッ!

 またしても、最高権力者兄弟による「私のものだ」というドロドロの主張のぶつかり合いが始まった。


 私は二人の争いを前にして、少しだけ首を傾げた。


「お二人とも、なぜ揉めているのですか? 私はレオンハルト陛下からの『終身雇用の役員待遇』も、ルカ殿下からの『全リソースの専属契約』も、どちらもありがたくお受けしただけですが」


「「…………は?」」


 兄弟の動きが、ピタリと止まった。


「待て、エルゼ。終身雇用? 役員待遇?」

「全リソースの……専属契約?」


「はい。お二人が私という人材を高く評価し、過剰なまでの福利厚生と破格の条件プロポーズをご提示くださったこと、有能な経営者として心より感謝申し上げます。お二人の期待に応えるべく、明日からも馬車馬のように帝国の利益のために働きますので、どうかよろしくお願いいたします!」


 私が深々と一礼すると、バルコニーには夜風の音だけが虚しく響き渡った。


「…………エルゼ。君は、私が言った『伴侶』という言葉の意味を、本当に理解しているのか?」

 レオンハルト陛下が、顔を片手で覆い、肩を震わせながら問う。


「もちろんです。生涯のビジネスパートナー(共同代表)という意味ですよね?」


「…………」

「…………兄上。僕たち、完全に会社の業務として処理されてるみたいなんだけど」

「ああ、ルカ。……分かっていたさ。この女が、一筋縄でいくはずがないことくらい。だが、ここまで徹底しているとはな」


 二人は顔を見合わせ、まるで敗北を認めたかのように、同時に深い深いため息をついた。

 しかし、すぐにレオンハルト陛下の黄金の瞳に、ギラリとした肉食獣の光が戻る。


「だが、エルゼ。君は私の提案を『喜んで受ける』と言ったな? 理由はどうあれ、言質は取ったぞ。この契約は、帝国の全権限をもって絶対に反故にはさせない」

「僕だって、専属契約結んだからな! もう逃がさないからな、エルゼ!」


 二人は左右から私の手をガッチリと掴み、逃げ場を塞ぐように迫ってきた。

(おや? やはりトップのお二人は優秀な人材(私)を手放さないための囲い込みに必死ですね! 素晴らしい会社への帰属意識です!)


 最高権力者たちからの本気のプロポーズは、見事に「終身雇用契約」へとすり替えられたが、彼らの執着(重すぎる愛)が消えることはない。むしろ、「いかにして彼女のビジネス脳を恋愛脳に書き換えるか」という、新たな戦いの火蓋が切られたのだった。


 ——一方その頃、祖国グランゼール王国では。

「急げ! 馬を潰してでも帝国へ向かうのだ! エルゼを連れ戻さねば、私が平民たちに殺されてしまう!」


 暴動が起き、火の手に包まれる王都を背に、アルフォンス王太子と自称聖女ミリアを乗せたボロボロの馬車が、逃げるように国境へと走り出していた。

 「エルゼが自分を待っている」という究極の勘違いを抱えた愚者たちが、最高権力者(皇帝兄弟)の逆鱗に触れるために、自ら帝国という死地へ向かっていることなど、知る由もなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ