1-8 アンから逃げ出したい
【カイル】
──────────
良い朝だ。
ここに来て一日。
僕は成長した。
飛び起きる前に意識を飛ばして確認する。
……部屋の中には一人、扉の外には二人か。
許容範囲だな。
……いや、まだ油断はできない。
薄目を開けて部屋の一人を見る。
やっぱりアンだ。
危ない。飛び起きたら殺気を飛ばされる……たぶん。
出会いがもう最悪だった。
苦手意識しかない。
……仲良くなりたい訳じゃないけど。
常に見張られて、きゅうくつだ。
どうしよう。
消えて出ていこうかな。
それとも転移でもいいかな。
そんな、やりもしない無駄な事を考えていると。
トントン
扉を叩く音がした。
アンが「……どうぞ」と促す。
いつも思う。僕に決定権はないんだね。
誰だろう。やだな、王女かな?
「かの方はどうでしょうか?」
知らない男の人の声だ。
……知ってる男の人って、よく考えたらいないや。
「先程、起きたみたいですが。あの状況です」
やっぱりバレてた。
どんな力なんだ。なぜわかる。
「そうですか。お嬢様の言伝を預かりました」
意識が僕の方を向いているのがわかる。
「そのまま伝えます。
『本日は急な用が出来てお迎えに上がれない事を申し訳なく思います。アンを付けますので、健やかにお過ごし頂ければ幸いです』との事です」
声……!? 王女の声したよ? 何が起こったの?
この国って面白い技術があるから。
録音魔道具みたいな物があるのかな……
いやいや、それも驚いたけど。
聞き捨てならないセリフが。
アンを付けるってどういう事?
嫌なんですけど。
ダメだ、聞こう。
……薄目を開ける。
「あ、あの、アンを付けるとは?」
「そのままの意味でございます」
答えになってないよ!
この世界の女性は、しがみつくからそういう意味だと、僕はどうしたらいいの?
……アンにしがみつかれたら人生終わる。
僕は必死で考えて、考えた末。
一つの境地に辿り着いた。
——人は命を捨てれば、結構何でも出来るのかも知れない。
覚悟を決めて起きた僕は。
目を瞑り、両手を横に広げて、しがみつきなさいポーズをした。
……つまり諦めた。
【アン】
──────────
この方は何をしているんでしょうか?
——姫様がまだ幼少の時から、姫様の専属でメイドをさせてもらっているけど。
あの時ばかりは、全てが終わったかの様に取り乱してしまった。
どうしようもない不安と焦りが続く中。
姫様が助かったと情報を聞いてから、私の心は早く姫様に会いたい気持ちでいっぱいだった。
姫様が馬車から出てきた時、涙が溢れて崩れ落ちた程に。
ただ一つ例外は彼だった。
どう見ても、ひ弱な姿の彼が姫様の恩人だと言う。
真っ白い髪に、服装。どう見ても幽霊だ。
私はこう思った。
きっと姫様に近づくゴミだと。
その為、最初こそは殺気を飛ばして警戒していたけど。
どうも彼の行動を見ていると、ここには居たくないらしい。
私と彼の利害は、聞いてもいないのに一致していた。
何とか彼を外に出して、もうここには戻らせない方法はないだろうかと、私は考えた。
……そして。
今日はたまたま姫様が城を離れるので、私が彼に付く事になった。
くれぐれも彼の希望に応えて下さいと念を押されたが。
……さて、どうしようかと迷っていた矢先のこれだ。
両手を広げて、何をしてるの?
着替えを望んでいるのでしょうか。
彼の意図は分からないけど、これはチャンスかもしれません。
「セバス。彼を着替えさせます」
執事のセバスは、私の意図を汲み取って迅速に準備に入った。
すぐに複数人が中に入り、軽い衝立で遮る。
着替えが始まるが、文句も言わず、なすがままにされて、時間も掛からずに着替えが終わった。
「お疲れ様です」
と、セバスが全員を連れて部屋から出て行く。
私と彼だけになったので考えた。
魔法で着替えられるのになぜ。
昨夜の食事前は、着替えさせられるのを嫌がったのに、抵抗すらしなかった。
意図はなに?
こちらとしては有り難いですが。
彼がわからない。
【カイル】
──────────
恐怖のあまり、やられる前提で考えてたけど、ボイドすればいいだけだと気がついて、すぐ使った。
全てを認識しなければ、どれだけしがみつかれても問題ないじゃん。
アン、敗れたり。
さぁ来い。
多分、今全力でしがみついているんだろうね。
初めてアンに勝った気がした。
——
……そろそろいいかな?
流石に何にも認識してないと、不安になって来た。
一度解いて、まだしがみつかれていたら、即ボイドしよう。
意を決して解いてみたら、目の前にアンが居た。
心でガッツポーズした僕は、自分の現状を見てびっくりした。
いつの間にか、僕の服装が変わっているんですが……
何なの? しがみついたよね?
しかもこの服やだ。昨日のコピーした服と似てて、動きづらいし、黒だ……
一人で混乱している僕に、アンが。
「それでは参りましょう」
と、笑顔で言ってきた。
その笑顔が怖すぎて、文句も言えず、目を瞑って歩き出すしかなかった。
※「女性はしがみつくのが好きは」あくまでもカイルの考えです。
ぜひブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!




