1-7 会食から逃げ出したい
【カイル】
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せっかく覚悟を決めたのに、僕の服装ではダメと言われた。
「じゃあ行かない」
って言ったら、「着替えはこちらで」と突然入って来た五、六人ににじり寄られたので。
パチンッ
と指を鳴らして、近くにいた執事のような渋いおじさんの服をコピーした。
色だけは僕の好みの白に変えたけど、一瞬で着替え終わった僕を見て、みんな驚いていた。
動きづらいけど、これで文句ないよね。
そんな一悶着があったけど、覚悟を決めた僕のお腹はペコペコだ。
ご飯に、ちょっと嬉しくなる。
初めて寝室の外へ出た僕は、そのあまりの色鮮やかさに言葉を失った。
足元には、ふかふかした赤色の絨毯が敷き詰められ、壁には大きな絵画が並んでいる。
寝室の中も、何に使うのか分からない物で溢れていたけれど、通路も負けず劣らず凄かった。
窓から差し込む光を浴びて、中身のない甲冑がピカピカに輝いている。
横には大きなツボが無造作に置かれ、派手で座りにくそうな装飾の長い椅子まである。
何の意味があるの?
上は、全ての無駄をなくした様な場所だったのに、ここは無駄が溢れた場所だ。
まさに正反対。面白いね。
道中、そんな事を思いながら歩き、やっと目的の部屋に辿り着いた。
食事をする部屋に通されて、僕は思った。
嘘つき!
ここに来る途中の会話で「私と貴方の二人ですよ」って言ったのに、何ですか、この人数は。
………数えただけでも、十数人おりますよ。
王女って、こんな空間で食事するの?
耐えられないよ。
凄い長いテーブルに、僕と王女の二人だけが座るみたいだ。
だから二人って言ったの? 感覚おかしいよ。
椅子がいっぱい並んでいる中、王女から離れて一番遠くに座ろうとした。
けど……それも許されず、王女に促されるまま、向かいの席にしぶしぶ腰を下ろした。
最初からなかった逃げ道が、完全になくなった。
僕は辛くて、心でボヤいた。
ずっとそうだけど、ここも無駄が多すぎる。
この長い横の空間は何?
二人しか居ないのに、何でこんなに椅子があるの。
横の偉そうな椅子は意味あるの?
……そして、周りを取り囲む人、人、人。
唯一、知ってるアンは……話し、ほぼしてないや。
王女以外、他人だけじゃん。
……ごめん、無理。
僕は、周りを『ボイド』する事にした。
王女と食事だけ認識出来ていれば、いいでしょ。
【アルテル】
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やっと、少しでも恩返しできる時が来た。
最初だけ、彼は何処に座るか迷っていたけど、場所を教えたら今は座って、静かに待ってくれている。
先ずは、食事を食べながら、ゆっくりと話が出来れば。
……今日の目標は、名前を教えてもらう。
私は密かに目標を定めた。
料理が運ばれて来る。
彼を見てみると、堂々としたものだ。
先程は嫌がるそぶりをしていたけど、不思議なものね。本番に強いのかしら。
「料理の方は、お口に合いますか?」
彼は笑顔で食事を楽しんでくれているようなので、感想を聞いてみた。
「美味しいよ。特に、このスープは凄いね」
良かった。会話もスムーズだ。
次々と、代わる代わる料理が振る舞われる。
作法も、ほぼ完璧。
どこで覚えたのでしょう。
驚きのあまり、手を口に運んだら、彼も同じ事をしたのには可笑しくなりましたが。
お父様がいないので、気にしなくても良かったのですが、心配事が杞憂で済んで、ほっとしました。
その後も、運ばれてくる料理を彼は次々と美味しそうに食べてくれた。
食事中の会話は最低限。
もっとお話をしたいけれど、今日は名前を聞くのが最優先。そろそろ頃合いね。
ドキドキしながら聞こうとした、その時——扉が開く。
え? この状況……まさか、お父様?
事前に、今日は来ないでって言ったのに。
強制的に、一瞬にして部屋全体に緊張が走る。
私は慌てて席を立つ。
彼も即座に立ってくれた。
お父様が入って来たので、全員が一礼する。
彼もしてくれた。
凄い。
お父様に、全く動じないお方がいるなんて。
お父様が、私と彼を挟んで中央に座り、一言。
「皆、騒がせた。二人は座りなさい」
お父様の言葉で、私が座ると、彼も座った。
「礼儀は抜きだ。
娘の命の恩人と、堅苦しい食事はしたくない。
そのまま二人で楽しみなさい。
私は居ないものとしてくれ」
やはり、この国で歴代最高の王だと言われるだけあります。
娘の私でさえ、プライベート以外では少し震えてしまうのに。
そんなお父様が目の前にいるのに、居ないものなんて無理よ……試してるわね。
でも、驚く事に、彼は本当にお父様が居ないかの様に振る舞った。
たまに彼に目を向けるお父様の姿に、一瞬ドキッとする場面もあったけど、突然の陪食になった食事会は、何事もなく終わった。
最後に、お父様が彼に伝える様に言った。
「此度は、急な同席を許してくれたことに感謝する。
次回は、其方の武勇を聞いてみたいものだ」
彼の反応を微笑みながら見ていたら、彼も微笑んだ。
それを見たお父様が、満足したのかお帰りになるみたいなので、同じ様に立ち上がり、礼をして見送った。
勿論、彼も同じように。
お父様との同席で、あそこまで自然体で居られるなんて、やっぱり只者ではないのね。
私の方が緊張して、結局、名前を聞けなかった。
【カイル】
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あー、美味しかった!
食事の後、アルテルに感謝を伝え、
僕は、最初に寝ていた寝室に案内された。
もちろん、服装はいつもの白服に戻している。
着心地が良く、お気に入りだ。
そして今は、一人、ゆっくり仰向けで食事会を思い出してた。
毎回、認識をカットしちゃえば、全然いけるね。
色んな物が並んでて使い方が分からなかったし、同じ料理だったので、動作全部を王女を『トレース』して乗り切った。
何度か立ったり座ったり、明後日の方に礼をしたり、不思議な経験だったけど、全自動で料理を食べれたから楽だった。
まぁ、特に何も言われなかったし、大丈夫だと思う。
明日も、また食べられるかな?
あーでも、流石にもういいかな。
人が多過ぎて嫌になるよ。
さて、お腹もいっぱいだし、寝よう。
僕は、フカフカの布団を被り、眠りに落ちた。
【国王】
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ここは、何時も王という私の重い衣を忘れさせてくれる。
寝室で一人、椅子に座り、
月明かりとランプの淡い灯りの中で、軽いアルコールを嗜む。
私は、会食の事を思い出していた。
………自ずと笑みが生まれる。
あの豪胆さは何だ。
この私が、まるで居ないかの様に振る舞うとは。
数ある食事の席でも、感じた事のない感覚だった。
あの時、私がもし『居ないものとしてくれ』と言わなかったら、あの者はどうしたのだろう。
娘の手前、あれが最善かと思ったが、今になって少し後悔した。
そして、また笑みが溢れる。
くくく……初めて会ったというのに、興味が湧く。
娘の言葉を聞いただけでは、やはり分からないものだな。
だが、万が一もある。
悪いが、監視は引き続き付けさせてもらおう。
……しかし、無理矢理会ってみて良かった。
左手に持ったグラスを口に運び、喉を潤す。
そして私は、外を見ながら呟いた。
「娘を助けてくれて、感謝する」
……感謝だけで済むなら、どれほど楽だったか。
立場とは、難しいものだ。
嫌なことからは何とかして逃げていきます!
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