5-12 空想上の世界6
【勇者】
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あの後、また船に乗り、今度は緑の四天王を倒しに東に向かう事になった。エルも最初は弱かったので確認のためにステータスを見たらアンも弱かった。
仲間になると弱くなるのはなぜ?
その為、寄り道を重ねに重ねて、わたしが58、エルが36アンが27にまで持ってきた。
「足りないわね……」
「もういいじゃろ……辛いわ!」
「私も早く強くなってアルテル様を救いたいです」
アンはやる気だ! アンの職業は『盗賊』最初は魔法も使えないからわたしと変わらないと思ったら『特技』を覚えた。
エリア内の宝物の数、敵とのバトル避け、逆にバトルを増やすなど、わたしが欲しかった物が目白押しだった。
極めつけは『ぬすむ』だが、これがまた凄かった。
ある一定の敵から『種』ステータスを少量上げるアイテムが盗めたのだ……ステータスが上げ放題に気づき集めに集めた『力の上がる種』58個。
誰もいないところで、両手の手のひらにドン盛りの種を今まさに。
「食べます!」
一気に食べられなかったので……船の移動中小腹を癒すかの如く地味に食べ続けて、最終的に力が136上がった。1から3で変動していたけど、運が良い方だとは思う。
ただ、今後は貯めずに使おうと固く誓った。
さて、準備はまだまだだけどいい加減行きますか! この流れだと次のボスはあの子ね。
わたしの攻撃で殴って大丈夫かな?
——辿り着いた緑の四天王のいる場所は大樹だった。
近くの村の人に「極悪な魔女から大樹様を助けてくだされ」と悲願された。
『ヒア』は何をしでかしたのだろう……
「みんな、いくよ!」
ザッザッザッザ——
空にでっかく『大樹』ってなんの捻りもなく出てきた。
大樹っぽい音楽に変わるがそこは『プルパピレーネ』の世界に入った様な感覚に襲われた……これはどういう事なんだろう。
「エル!」
「うん、間違いない。ここのお菓子は食べられない」
「いや、そうじゃなくて……」
エルは道中、事あるごとにその辺の物を齧っていた。それはもう美味しそうに。
船に乗っている時も船体を千切っていた。
わたしはすでに慣れてしまったので、余程ではないと宿で食べるようになったけど。
これを伝えると、「どれだけ狩りに付き合っていると思ってる?」 と逆に怒られた。
(不思議だよね?)
(…………じゃな)
これも信頼の証かな? 適当に合わせてきたよ。
「プルパピレーネですね」
アンはちゃんと意図を汲んで答えてくれた。
「やっぱり……ということはそれがここのボス?」
「だと思われます」
え……四人目の仲間植物なの? ヒアは?
これも一応、師匠絡みだよね……
「エルは何か聞いてないの?」
「残念。お菓子の話を聞けばよかった」
「そうじゃない! 最後の仲間の話!」
「え? ヒアじゃないの?」
ダメだ……それを聞きたかったのに。
とりあえず、行けばわかるか。
アンに敵とのバトルを避けてもらいながら宝箱を全部取ろう!
——『大樹の葉を手に入れた』
おおー、生き返らせるアイテムだ。これは貴重だね。
でも、一つ疑問が浮かぶ……
「その辺の葉っぱと、この葉っぱとの違いは? 全部むしっていけば生き返らせ放題じゃない?」
「それ言ったら、ここで手に入れた物を食べたら草生えない?」
エルが恐ろしい事を言う。
な、なにそれ……これ使って大丈夫なの? 怖いんですけど。そういえば、ここで手に入れたやくそうとか、ふくろの中で混ざっちゃったよ……どうするの?
「一回試してみる?」
「急に物騒じゃな……」
「ここから、飛んでみるといい」
エルが大樹の大きな枝の上で下を見下ろしながら言った。それで初めて知ったけど、下を見たら……わたしたちがいる場所は物凄く高かった。
「いつの間にこんなに登ったんだろう」
「四つ蔦で出来た梯子を登りました」
アンは細かいところまで覚えてるんだね。
わたしは宝箱の事しか考えてなかった……
「そんなに梯子登ってたんだ……」
「正確には系八回梯子を使いました」
いつの間に……上がったり下がったりしたのだろう。
なんでなのか聞いてみたら宝が欲しいとわたしが言ったせいだったらしい。
我ながら自分が恐ろしい。
確かに木に人工的に作られたような蔦の梯子を登った気もしないでもない……こんな梯子登ったら覚えてそうなのに。
さてさて、アンのおかげで宝物も全部取ったし後はボスだけね。
「そろそろ、ボスが近いかと」
アンが居てくれて冒険が捗る!
——そのまま最上階に到達し、大樹の中なのに大きな木が見えてきた。
「もしかして、あれが『プルパピレーネ』? あれだけわたしたちを引っ掻き回してまさかここで出会うとはね」
「違う……あれはケセド」
「ケセドってまた? 前も似たような事なかった?」
ピンク色の蕾がわたしたちに気づいたように花開く、中からエルが言った通り……あの巨大エルフと同じ顔を持った『ケセド』が現れた。
「やはり、カイルは凄い……これは、考えもしなかった」
「どういう事?」
「話は終わってから」
今にも襲ってきそうな『ケセド』が高音で吠えた。
「ああぁぁぁぁぁぁああーーーーーっ!!」
——暗転しながらボスの音楽が流れ出す。
『四天王プルパピレーネ・ケセドが現れた』
「名前が、合体してる……?」
強そうだけど、今回は全力でかまわないのは、ありがたい!
わたしにとってはどっちも敵でしかない。
「アメリア様、指示をお願いします」
——戦闘開始だ!
正直言って、ケセドは強かった。
毒の花粉、眠りの花粉など多彩な状態異常から、お菓子を使った謎の攻撃なのに全体に60ダメージとか……なぜか、プルパピレーネとケセドがいるからなのか二回攻撃と、今までのボスとは大違いだったが。
わたしの攻撃力は素で482だ。ティアを装備したら700を超える。数字の暴力にボスはなす術もなく消し飛んだ。
ザザザッザン!!
『会心の一撃! 四天王プルパピレーネ・ケセドは745のダメージを受けた。四天王プルパピレーネ・ケセドを倒した』
ドルルルールン
終わった! しかし、名前が長かった……あれ? 暗転しない、まさか?
『ケセドが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?』
えー……これは仲間にする流れなのか。
『はい』、名前は『ケセド』でいいです。
——暗転していく……あれ? ならヒアちゃんはどうしたの?
「ぎゃああぁぁああーーーっ!」
叫び声のする方を見ると人の姿のケセドが裸で横たわる後ろでプルパピレーネが叫びながら消し飛んだ。
「あ、ありがとう。まさかこんな形で生きられるとは、思わなかったわ」
ケセドなら何か事情を知っている?
せっかく助けたんだから洗いざらい話してもらおう。
「お礼はいい、貴方は何を知ってるの?」
「……休ませてはくれないのね。いいわ、わかる範囲で話します」
——ケセドの話は、ここに入る前の話がほとんどだった。わたしたちが行方不明になり姉様と一緒に探しに来たところ、『イスカ』というエルフに『プルパピレーネ』の苗床にされた。
長い眠りの後この世界で目覚め、意識を取り戻した時に『とりあえず、貴方も助けます。勇者が来るから、今から言う事をちゃんと伝えておいて下さい』と謎のメッセージを貰った。
「それはなに?」
「この後の行動ね。南の氷河地帯の祭壇に行けと」
なるほど……多分師匠なんだろうなぁ。
なぜ、わたしに直接言ってはくれないんだろう。
別にいいけどさ、なんか腑に落ちない。
「なら、目的地は決まった! 早速行きましょう」
「待って、先ずは休む」
「確かに、アメリア様。急いでもする事はレベル上げなのですから、一旦休みましょう」
「それは、助かるわ」
うん、確かにね……少し頭に血が昇ってしまった。
「先ずは、休もう」
——わたしたちは宿に戻り明日に備える事となった。
【魔王】
──────────
「プルパピレーネ・ケセド様が勇者に敗れました」
「わかったわ。報告ご苦労様、行っていいわよ」
部下が去っていくのを見届けてから、一息つく。
「ふぅ……貴方に先に聞いておいてよかった」
四天王の二人がアンとケセド様……先に聞いてなければひっくり返る情報ね。
しかも、今は勇者の仲間になっているというから驚きは二倍だ。
「これは、どう思います?」
「わかりません。何者かが裏に居るのは確実だとは思いますが……」
そう、ツアドの考えだと、アンとケセド様は勇者の仲間にならなかったらそのまま消滅していた可能性が高いとの考えだった。
つまり、第三者が糸を引いているなら助けている事になる。
「味方でいいと思う?」
「少なくとも今の所は……としか」
そうなんですよね。ここまで出来る人が裏で動く意味がわからない……その人に助けてもらうというのは楽観的ですね。
外が急に慌ただしくなり、玉座の間の扉が開く。
バンッ
「何事だ!?」
今、口が勝手に……油断していたのか、これが強制力……。
「はっ、ご命令の通り姫を捉えてきました!」
どういう事? すぐにカイル様を見たが変わらず眠っている……
「どこにいるの?」
「現在、地下の牢獄に入れてあります」
「わかったわ。下がっていいですよ」
部下は一礼して去っていく。
このイベントは何? 姫ってどこのよ……
「見にいくべき?」
「……私が見てきます」
なるほど、それが一番ですね。
一人きりになると、途端に心細くなる……
私はやっぱり、弱い——
ゆっくり歩いてカイル様に近づき顔を見ながら思う。
「貴方はいつまで寝ているのですか? もう朝ですよ……ふふ」
「……ふふ」
突然の声に振り返る。
「!? は、早いわね。びっくりするじゃない」
「見てきました。あれは、行かなくてもいいでしょう、会うべきではないですね」
急に饒舌ね……何かあるなら話して!
(分かりました。彼女はイスカ、元ケセド様の同僚的な存在ですね)
その方がなぜ?
(……このタイミングでそんな大物がこの世界にいる訳は?)
その方が元凶?
(はい。ただ、見に行った時に『ふざけんな! 白いのー! ここじゃなーい』と、喚き散らしていたので、そこがよく分かりませんでした)
待って……『白いの』? 後ろのカイル様を見る。今の現状で考えられる白い方はこの方しか思い浮かばない……まさか、動いてくれている?
(一つ教えて欲しいのですが、貴方の殿方はそこまでの事が出来るのですか?)
ふふふ……出来ますね! 確実に。
(なら、なぜ未だに起きないのでしょう)
そ、それは……
(起きて話してくれた方が簡単でしょうに)
ツアドは意地悪ですね。その通りなんです、何かしらの理由があるのかもしれません。
ただ、カイル様が動いたのなら、アンやケセド様が勇者の仲間になったのも理由がつきます。
(確かにそうですね、そこまでの方ならその方が一番仲間を助けられる。凄い方なのですね)
「そうなんですよ! 時間もありますし、私とカイル様の出会いを聞きますか?」
「いらないです」
「話しましょう! それは、私が——」
「……変なスイッチを押してしまった」
——第二王女『フラン・ソワーズ』の事などすっかり忘れて思い出話に花が咲いた二人だった。
【フラン・ソワーズ(イスカ)】
──────────
「開けろよ! ここじゃなーい」
ガチャンガチャン
三度目の攫われイベントが起きて、喜んでいたのに何で牢屋なんだよ!
これなら、お城の方が良かったよ!
「そうだ! お菓子なら鉄格子も食べられるはず」
ガキンッ!
「硬ったーい」
概念か! 概念の問題か! 牢屋はお菓子でも牢屋か!
ガチャンガチャン
お菓子のはずなのに、鉄みたいな音がするし……ペロッ、甘い。格子風の飴細工だ。
(ほら、ここから出る方法、教えてよ)
放置されるかと思ったけど、来やがった。こっちの気も知らずに淡々としやがって。
「約束が違うだろうがよ!」
(約束? 魔王のところじゃん)
確かにそうだが、くそ……目の前とか言っておけば良かったのか? その辺は察しろよ!
「目の前で見ないと駄目なんだよ! わかってくれよ……」
(へぇ、目の前で見ると分かるんだね?)
「そうだよ!」
(めんどくさいなぁ……待っててよ)
これで、魔王の所に行ける!
——かなり待ったけど……階段の方から人の話し声が聞こえてきた。
やった! 白いのやるじゃん。
「……なんの様ですか?」
違う……そうじゃない!
(ほら、目の前だよ)
こいつ、魔王を牢屋に連れてきやがった。
「初めまして、フラン・ソワーズです。ここから出して下さい」
焦って自己紹介してしまった……
「……イスカさん。貴方のせいで此方は大変な目に遭っているのに、その茶番に付き合わないと行けませんか?」
バレてるのか、白い奴のせいかな?
——はぁ……白けちゃったよ。
「そう、それならもういいや。この世界を最後まで楽しんでね」
(で? どうするの?)
……うるさいなぁ。
「嘘だよ、バーカ!」
「!? 急にどうしたのですか?」
「は? 白いのに言ったんだよ。知ってるんだよ、ぼくの事も白い奴に聞いたんだろ……馬鹿にしやがって」
ガシャン
「い、今なんと?」
なんだコイツ、急に前のめりになって。
「ぼくの事を白い奴に探らせてたんだろ……もういいよ、ぼくはここで君たちの最後を想像するさ」
——突然、考え込みだす魔王。
「…………そうですか。私のお願いを聞いてくれたのなら上にお連れしますがどうでしょう?」
は? どういう事だ……何か相談している様に見えたが、白いのか? でも、またとないチャンスだ。
「交渉成立だね。いいよ、なんでも聞くさ」
「嘘ついたら、牢屋ですよ」
笑顔こわっ……何を企んでいるのかは知らないが、まぁ、ぼくは勇者が来るまで時間稼ぎをするだけさ。
その後、ぼくはすぐに牢屋から出されて上に向かう事となる。
道中、不気味なほどに喜んでいる魔王を見ながら階段を一段ずつ上がっていくと、妙な不安が押し寄せてきた。
選択を誤ったかな?
「ふふふ……まさかの受信機」




