5-10 空想上の世界4
【アメリア】
──────────
「くそっ! また逃げられた——」
(もう、いい加減いいじゃろ……レベル48じゃぞ……)
「ここまで来たら。ご、50まで上げたいじゃない?」
アイツがいけないんだ……あの銀色の経験値いっぱい持ってる奴! そう、アイツと出会ったのは……(やめーーーーい! 長くなるわ!)
(なんで、わかったの?)
(流れじゃよ……もう、外にいた時よりここの方が長い付き合いな気がするぞ……)
(確かにね……棒の方がもう愛着あるもの)
(それは流石に妾も泣くぞ……)
「仕方ない、一回街に戻って宿に泊まってから……目的の場所に行こうか」
「前と流れが同じじゃな……きっとまた泣くぞ、あのフランとかいう姫様」
イベントに期限がないし、いくらでも待たせておけば良いのよ。怪しいし。
それにしても、姉様や師匠、エルにアン……ここに来てから何故かそんなに心配じゃなくなっているわたしが居る。
もちろん大切な人たちだ、なのに……やっぱり思考誘導なのかな?
この世界だと認識が『他人』なんだ……
(ねえ、今最悪な事を考えちゃったんだけど)
(なんじゃ?)
(もしもよ、師匠が『魔王』だったらどうしよう……)
(……詰むな)
あー、やっぱりなぁ。もう、だいぶ前になるけど、模擬戦を思い出す。強すぎた……
考えても仕方ない、今は姫を助けに行きますか。
——チャラチャラチャチャチャーン
一応、レベル上げだけしていた訳ではない。今回は最初の大陸から次の大陸に移動して、新たなお城にまで行く羽目になった。
そこで、姫が連れ去られたという新しい情報を手に入れている。
まさか、『海賊』に攫われているなんてね……どうやってあの短時間で海賊に攫われるんだ?
シナリオが謎めいている……
とにかく、その海賊のアジトがあるという『海賊の入り江』に行こう。
街を出ようとするとご老人が話しかけて来た。
イベント中は毎回話しかけてくるのかな? もう何回目だろう……
「よ、よすのじゃ。あそこには海賊がおるのじゃぞ!」
そりゃ海賊の入り江だしね……いない方がおかしい……それにしても。
「ティアみたいな話し方のご老人ね」
「妾はあんなんじゃないのじゃ!」
同じだと思うけど……
ここから、西か、場所ももちろんもう分かっているけど、また西ね。
ザッザッザッザ——
入ると暗転して空に『海賊の入り江』と浮かぶ。
(最初の塔の時は気にしてなかったけど、ちゃんと名前出てたのね)
(正式名称なのじゃな……)
こんな分かりやすいのに国は動かないのね……シナリオは全部、勇者が動かないと進まない、魔王もわたしが動かないと動かないのかな?
(そういえば、今更だけどさ……もしかしてずっと一人で冒険するのかな?)
(確かにな、でもレベルも高いし問題ないじゃろ)
(何言ってんの? 四体敵が来たら一匹倒しても三回攻撃されるんだよ?)
(……前にも似た様な事を聞いたのぅ)
この辛さは分からない……素早さに何の意味があるんだ! 範囲攻撃とかないのかな?
わたしは未だに『たたかう』しかできない、『じゅもん』の項目になんの意味があるの?
あ、言ってる側から海賊風の敵が四体いる……
『海賊たちを倒した』
「むぅ……48レベルもあるのに一体につき6ダメージもくらった……」
(はよ、行くぞ!)
もう、ティアはわたしの愚痴を聞いてくれなくなってきている……仕方ないか、さて、ここにはどんな宝があるかなぁ。
良い防具があると良いのだけれど。
『鎖かたびらを手に入れた』
「嘘だ! 買っちゃったよ……出るの分かってたら買わなかったのに」
「……諦めい! 目的を思い出すのじゃ!」
むぅ……鎖かたびら2枚着とかできれば良いのに。
その後も目ぼしい物は見つからなかった。
そして、とうとう海賊の入り江の最深部に到達した。
また、動かないけど、あの屈強な男がボスかな?
……ボス戦は緊張するなぁ。
「行く!」
「ぐはははは! よくも我らのアジトを荒らしてくれたな! 姫を助けに来た愚か者どもめ。我ら海賊団が相手だ!」
ボス戦が始まる——
いつもの暗転が始まりボスの音楽が鳴り始めた。
『海賊赤 海賊青×6が現れた』
「六人増えた!?」
暗転するまで、一人しか居なかったじゃん……
攻撃すると……何回攻撃されるんだろう……先を考えると、憂鬱だよ。
(なにを惚けておるのじゃ! はよせい)
(わかったよ——)
案の定一回攻撃すると残った敵の複数攻撃を待つしかない辛い戦いだった……幸いにも海賊青が一撃で倒せたのでそこまでの時間は掛からなかったが、バランスがおかしいよ!
ドルルルールン
——『海賊たちを倒した』
長い戦いだった……本当に一人で戦う戦闘なの? 何か仲間になるイベント見逃してない?
割に合わないんですけど……
「ぐあ……す、すいませんボス……」
「え? 前座なの?」
「いや、しかし、姫がおるぞ」
「確かに……」
その時、奥のドアが開く。
ガチャ
現れたのは……ボスとは名ばかりの小さな風貌、あれは……
「エル!?」
「よくも、私の仲間を、ケホッ……倒して、くれたな」
棒読み! しかも、いきなり喋ったからなのか咳き込んだし、緊張感も何にもなくなった。
「エルが海賊のボスなの?」
「そう」
そう言って徐ろに、姫を人質にして交渉してくる。
「ぐははは。ひめを助けたいなら、武器をすてるのだ」
「いやー、助けてー!」
なんだろ……エルのせいで姫も下手くそに聞こえると言うか、姫、疲れきってるね。
——『武器を捨てますか?』
『はい』
『いいえ』
……いいえ
「えぇ……もう一回言いたくないのに……」
「ぐははは。ひめを助けたいなら、武器をすてるのだ」
「いやー、助けてー!」
——『武器を捨てますか?』
(エルのセリフはさておき、こうなるんだ……)
『はい』
『いいえ』
はいにするしかないのね、『はい』
ドゥクドゥクドゥクドゥク……ドゥーンドゥドン。
——物凄い邪悪な音楽が流れた。
『武器は呪われているので捨てられない』
「え……ティア、呪われているんですけど!」
「し、知らんぞ! 妾は悪くないのじゃ」
どうしよう……このままじゃ、話が進まない。
「武器を捨てるとは、愚かな勇者め!」
捨ててないのに、話、進んだよ!
……しかも、人質いるのに暗転してボスの音楽が鳴り始めるって事は。
『海賊の親玉が現れた』
「人質取ったのに、結局戦うのかい!」
わたしのツッコミを無視してボスの姿が現れる……凄い剣を持ってるが、まんまエルだった。
正直、弱そう……とりあえず未だに『たたかう』しか出来ないので。
『たたかう』
『アメリアの攻撃』
バコッ!
『海賊の親玉に382のダメージを与えた。海賊の親玉を倒した』
「……いたい」
「仕方ないじゃない……」
あれ? 戦闘が終わったのに暗転しない……
『海賊の親玉が起き上がって、仲間になりたそうにこちらを見ている』
『仲間にしますか?』
『はい』
『いいえ』
「な、なんで!」
……これはどっちなの? 物語上、仲間になるの? それともエルだからなの?
(呪いの棒は、どう思う?)
(いじっとらんか? 仲間が欲しかったんじゃから良かったじゃろ?)
確かに、それは良かった。
めっちゃうるうるした目でこっちを見てるよ……
わたしは『はい』を選んだ。
仲間になったからなのか、軽快な音楽が流れて目の前のエルが嬉しそうに飛び跳ねる。
『海賊の親玉が仲間になった』
『名前を付けてあげてください』
もう、エルでいいよ……
暗転していく——
「ぐあ……おのれ勇者め! 我らの悲願が……」
さっきまで飛び跳ねて喜びながら仲間になったエルがうつ伏せで倒れて未だ敵の立場で話している。
これは、さっきまでより棒読みじゃないし、言わされてるのかな?
(なんとも、見てられぬな……)
(まぁ、頑張ってるし、孫を見る感じで見たらいいじゃない)
(妾はおばあちゃんではないぞ!)
(女性の自覚はあるんだ……)
(な!? 妾は……どっちなんじゃ?)
(え、知らないの?)
(女性だと思うのじゃ……声だって可憐じゃし)
(そうね……)
目の前でまだ親玉が話しているのに、ティアが性別わからないとかぶち込んできたので聞き逃してた。
うつ伏せで言いづらそうなのに聞いてなくてごめんなさい、親玉の話が終わりそうなので最後はしっかり聞いておこう。
「——船で海に出たかった……がはっ」
「海出てなかったのかよ!」
倒れたエルは起き上がって「ふぅ、よろしく」と何事もなかったかのように話し始めた。
「船あるよ」
今までのは何だったんだろう……それにしても船あるのかぁ。
「貰っちゃっていいの?」
「うん」
「エル、説明が欲しいのだけど……」
「船に乗ってから」
「分かった」
わたしたちが行こうとすると、後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「待てーーい! ぼくを置いてくなよ……もう城に帰りたくない……このまま連れて行って」
「ヤダ」
エルの知り合いなのかな? 物凄い嫌っているけど、やっぱり村の人かな?
「知ってるの?」
「知らない」
知らないのかよ!
「じゃあ、何でそんなに嫌ってるの?」
「え? そいつ敵」
「な、何でバレた!?」
……わたしが驚く前にフランが暴露した!
「ふっ」
「お前! ムカつくぞ! ぐっ……思考が……」
フランが強制力に抗えずに流れを無視して話し始めた。
「みなさん、また助けてくださりありがとうございます。私は助けに来た兵士と一緒に帰りますので、みなさんは魔王の討伐、頑張って下さいね」
すると、兵士が突然出て来て姫を連れて行く。
「やだ……行きたくない……やだーーー!」
「悪は去った」
久しぶりのエルは変わらなかった。
「勇者なのに、置いてけぼりね」
「そうじゃな、しかしエルが仲間になって少し前進じゃな」
確かにね……やっと戦いが楽になる。
次は船の旅なんだろうけど、どこに向かうのかな?
【カイル】
──────────
精神世界で寝てたら突然サタンがやって来た。
(終わったの?)
(さあな……)
(……終わってないなら、出てってよ!)
(出られないんだよ!)
(なんだそれ……)
(表はどうなったの?)
(はは、情けない奴め。見てみればいいだろ)
くそ、バカにしやがって!
お前だって、できないくせに。
見てろよ。僕だって、そこまで言われたら黙ってはいられない……
——意識を肉体に戻す……あれ? 動かないな……
どうなってんだ? 仕方ない目を開けるぞ!
……開かない事に、少し喜んでいる僕がいる。
身体は動かせないが近くに誰か居るのはわかる……話し声が聞こえて来た。
この声はアルテルだ……いつの間にか僕はエルフの首都に戻っちゃったのかな?
(ねえ……アルテルは何やってるの? 『魔王』とか言ってるけど)
(真面目にわからん。なぜか、アメリアと戦っていたらいつの間にかここに居たんだからな)
(は? アメリアとなんで戦っていたんだよ!)
(修行だな)
(何がどうなると、でっかい植物人間と戦ってそうなるんだ?)
(知るか! 逃げたお前に言われる筋合いはない)
……ごもっともで。
さて、どうしよう。思念体は……出せるじゃん! なら、アルテル……確かに魔王なのかな? 周りを見てみると、めっちゃ魔王が居るような場所にいる。
でも、誰と話しているのだろう……独り言かな? まぁ、わかる気もする。
さて、思念体が出せるなら簡単だ。
いつも通り『糸念話』を——
(アルテル。聞こえる?)
…………
(おーい。聞こえないの?)
……うんともすんとも言わないな……念波が悪いのかな?
何度か場所を変えたり繋ぐ場所を変えても繋がらなかった。
なぜだ? アルテルは未だに話しているが、間違いなく誰かと話している……知らない女性の声がたまに聞こえる。
念話で誰かと話しているなら、この場でもう一人の声が聞こえるのはおかしい。
可能性があるとすれば精霊? でも、それもおかしいなぁ……精霊はこの世界にも今のところ見当たらない。
と、なるとここも異空間的な場所なのか。
——話からすると強制力とやらでアルテルは出られないらしい。
更に話している相手は『ツアド』……そして『勇者』が存在していて、出れる条件が『魔王』の死。
僕はこの世界のどこかの第一王女。
これが一番の謎だが、一番どうでもよかった。
その強制力のせいで僕は動けないのかな? 凄いなこの世界。あのコクマーさんに閉じ込められた部屋より強制力があるね。
だって身体は本当に動かないからね。
まぁ、思念体はやっぱり理が違うんだろうなぁ。このアドバンテージを使って、他のみんなを探してこようか。
(て事で、サタンはお留守番だね)
(まて、ふざけるな。外がどうなっているか教えろ!)
(……情けない奴め。見てみればいいだろ)
(ぐぬぬぬ——)
(真面目に頑張ってみなよ、思念体になれば行けるから!)
サタンが何か言っているが無視だ。
さて、城をでて……何だこれは……城の外は真っ暗だ。
——ははーん、これは『プログラム』だね。こんな事が出来るのは、今のところ『魔道具』しか知らないな……
ふーん。
面白いな……今度は僕がこの世界の『ウイルス』になるわけか。
思い出したくもないけど、ロイのウイルスを見ておいて良かったよ。
さて、さて。
——侵入開始だ!
【海賊の親玉】
──────────
海賊……ダサい。
エルフだった私は気がついたら、海賊の野郎どもの親分になっていた。
(なにかのタイトルみたいだ)
しかも……部屋から出られない。
部屋の中は自由に動けるけど、ギルドマスター時代の部屋と大きさは大して変わらない。つまり狭い!
「…………」
声も出せない! 何これ……みんなどこ?
あの時やっと外に出られたと思ったのに、これは夢?
ギュー
ほっぺをつねるが痛くない……夢か、寝よ。
(エル、聞こえる?)
布団に入って目を瞑るとカイルの声がした。
やっぱり夢だったんだ! 起きたら宿かな?
「おは」
周りを見ると親分部屋だった。
「夢じゃない?」
(何言ってんの? ここは『魔道具』で作られた世界みたいだよ。話せて良かった)
(なるほど。また閉じ込められた?)
(そうみたい。待ってて、だいぶ慣れたけど——)
カイルが何かをしている。
(よし、部屋から出てみてよ)
よく考えると、いつの間にか声が出てた。という事は。
ガチャ
出れた!
(カイルは相変わらず凄い。どうやったの?)
(んー、これは多分、エルには出来ないと思うよ)
(違う、出来なくても知りたい)
「お前まさか……」
急に誰かが話し始めたので、相手にするのもめんどくさかったから少し会話をして部屋に戻った。
バタン
「教えて!」
(良かったの? さっきの人)
(どうでもいい、誰だか知らないし)
(……見てみたら、『所有者』って出てたからこの状況にしたのは、あいつだね)
(え? 元凶が何で海賊に捕まってるの?)
(それは、知らない。もし、一緒に巻き込まれてたら間抜けだね)
(ふっ、元からエルフは嫌いだからそれはいい気味)
いいこと思いついた。
ガチャ
(どこ行くの?)
(ちょっと)
私は元凶に軽く嫌がらせをした。
——バタン
(ふぅ……)
(どうしたの?)
(ううん、気にしない)
その後もカイルは私にこの世界の事を色々教えてくれた。カイルも全部を知った訳じゃないらしいけど、『魔道具』、『魔王』、『勇者』、『盗賊』、『僧侶』そして、『賢者』の情報をもらった。
話し終えたカイルは、まだやる事があると言って去って行った。
私のやる事は、今は『勇者』を待つ事だけらしい。
早く来ないかなぁ……
音楽は全部、脳内再生でなんとなく流してください。




