5-9 空想上の世界3
【勇者】
──────────
(……主人よ最初の街でレベルを上げすぎじゃないのかのぅ)
(何を言っているの……まだまだ上げ足りないんだけど、まだ32よ! 不安しかない)
(もう、妾を装備しなくても無双ではないか!)
あれからわたしは、この世界に慣れる為に色々試していった。そこでやっぱり一番の壁は戦闘の拘束だった……順番に攻防が繰り返される戦いほど、わたしの強みを発揮出来ないものはなかった。
その為の最適解がレベル上げだったのだ! もうこの世界に来て何日目だろう、三十日くらいかな? まだ不安だがそろそろ西の塔に行こうか。
「ティア! わたしは進む事に決めた!」
「阿呆じゃな。やっとか……」
「それにしても、ティアってやっぱり凄いのね」
最初の城から西に進まず少し北に進むと新しい街があった。そこで装備を整えようとしたら、一番高い武器でも攻撃力が12だった。
見た目は棒より強そうなのに、謎のティアだ。
なので、武器は買わずにお金は殆ど防具に回す事ができた。ありがたい!
散々レベル上げで歩き回ったので目的地の場所は何度も見ていた。
迷う事もなく……
——目の前に塔が見えて来た。
「緊張する……」
「正直に言おう。多分楽勝じゃぞ!」
自分が戦わないからそう言う事が言えるんだ!
二匹以上敵が出ると一回で終わらないのに……1ダメージだって痛いんだぞ!
よし! 塔に入ろう。
ザッザッザッザッ
何故か塔に入るのに階段の音だ。
そして、音と共に暗転する。
(何の意味があるの?)
(さぁ……謎じゃのぅ)
音楽が変わった……塔の音楽なのかな?
「不気味な音楽ね……」
塔っていうくらいだし、きっと上よね。
塔の内部は、当然、全部カラフルなお菓子だ。どのくらいの糖分で出来ているのだろう。
「いい加減、美味しそうね」
この何十日か宿にも泊まったけど、出てくる料理は見た目は違うのだがお菓子で出来ていた。甘くてもたれるかと思ったし草が生えるかと危機感もあったけど、最終的には空腹には勝てずに食べた。
美味しかった。お菓子なのにどれだけ食べても問題なく食べられた。
そこからだ、お腹が空いたらその辺のお菓子を食べ歩きしながら狩をする様になったのは……
こ、これは、今はいいわね。
とりあえず、小腹対策はバッチリだ! 草も生えないし!
さて、なるべく戦いたくないけど早速新しい敵がお出ましね……
緑色のスライムかな?
戦闘が始まる——
『——アメリアは58の経験値を手に入れた』
「しょぼい……」
「ほら、言ったじゃろ」
「まだ、わからない!」
その後、とりあえず塔の中にまでツボや樽があったので漁り。やくそうが99個以上持てないので手に入れる為に1ダメージでも減っていたら使い。宝箱には『銅のつるぎ』とか要らないものが手に入ったり。
余裕な攻略かと思ったが、戦闘で緑のスライムを後回しにした時にそれは起きた。
『アメリアがどくになった』
「ぐはっ——」
「主人ーーーっ!」
『アメリアはどくけしそうを使った』
「ほら見た事か!」
敵は弱いが油断するとこれだ……ただ攻撃されただけで毒とは、恐ろしい……
どくけしそうが98個になってしまった……不安だ。
「主人よ、ここに何をしに来たか覚えておるか?」
なんだっけ? 西の塔を目指せと言われた事しか……
「覚えてない」
「ここに姫が囚われているのじゃが?」
「あれ? 魔王に捕まったんじゃ?」
「……そもそもじゃこの塔は西の塔ではなく『儀式の塔』じゃ! 更に、生贄にされる姫を助けてくれと言う話だった筈じゃ」
……そんな事になっていたなんて……これは、もう手遅れなのかな?
「やばい、急ぐわよ!」
わたしは上まで急ぐ事にしたけど、ツボや樽や宝箱はもちろん全部取った後にだ!
「はぁ、はぁ、走ると……疲れるのね」
ここが、最上階みたいね。何かボスっぽい敵が両手を上げながら待っている……
「動かないわね……」
「後ろに姫っぽいのもおるぞ」
「間に合ったの?」
「みたいじゃな」
これは、わたしにとっては良かったけど、中々間抜けな敵だな……目は合っているはずなのに止まっているし。
とりあえず近づいてみよう。
儀式の台座の上に姫が仰向けで眠っている。
「ぬっ、何者だ! 後少しで儀式が完成するというこの時に邪魔が入るとは!」
(ギリギリだったのかな?)
(うーむ……多分じゃが、いつ来ても同じセリフじゃろうな)
「ま、まさか! お前は『勇者』だと言うのか? おのれ……この儀式は我の命に変えてもやり遂げる。だが、まずはキサマを血祭りにあげてからだ!」
勝手に話が進んでいる……面白いわね……。
暗転して、ボスの音楽が流れ始めた。
『魔法使いが現れた』
さすがに強そうね……でもやるしかない!
『たたかう』
アメリアの攻撃——
「たぁー!」
バコッ
『魔法使いに264のダメージ。魔法使いを倒した』
ドルルルールン
「終わりなの?……」
「だから言ったのじゃ……強くなりすぎなんじゃ!」
戦闘が終わりまた暗転する。
バシュシュン!
やってもいない攻撃音が流れたわね……
「ぐはっ……なんだこの強さは……魔王様……すいません……」
「ぐああぁぁぁぁ」
魔法使いは燃えるように消えていった。
「……呆気なかったわりに、カッコよく死んでいったわね」
「いい演出じゃったな!」
さて、姫は誰なんだろ……アンとかかな? そのまま姉様だったり? それなら尚の事、間に合って良かった。
「ん……」
起きたけど——
「誰?」
目覚めたまだ幼い女の子は一旦周りを見た後、わたしにつかみかかって来た。
ガシッ
「遅いわぁぁぁーーーー!」
起き掛けでテンションが高いっ!
「ここに来るまで何日かかってんだよ! こっちは動けなかったんだ! おまえ勇者だろ! すぐ助けに来いよ! 何なんだ! まさかここまで……ここまで……時間がかかるなんて……」
胸ぐらを掴まれ思いっきり揺らされる……しかも、泣き始めた……
(悪かったわよ)
でも、とりあえずチョップ。
ドンッ
「痛っ!? な、なにすんだ!」
「貴方、エルフね。もしかして私たちと同じく巻き込まれた人?」
「そ、そうだよ! 巻き込まれたんだ……因みにぼくは姫役さ」
やっぱりね。この世界に来て初めてだもの、こんな自己表現している人。
それよりも、おかしい……エルの故郷の住人かな?
「どのような経緯でここへ?」
「え? 森に居て気がついたら——」
姫の話によると、森で遊んでいたら突然ここに飛ばされて、空から「君は姫役ですぐに勇者が来るから待っていてね」と、声が聞こえてドキドキして待っていたらいつまでも来ず、動こうにも動けないどころか、目の前に動かない不気味な魔法使いと一緒に途方もない時間を過ごしていたと。
(どう思う?)
(酷い話じゃな……)
(そんな意味じゃ無いんだけど)
(一人で待ちぼうけは地獄じゃぞ!)
(まぁ……ティアは経験あるものね)
んー、話の辻褄は合っているんだと思うんだけど、どこがどうなのかはわからないけど、物凄い作り話に聞こえる……
ティアは共感しちゃって駄目だ……って、聞くべきことを忘れていた。
「貴方、名前は?」
「ぼくは、『フラン』第二王女のフラン・ソワーズ」
名前を伝えたフランはそのままお辞儀をして話し始めた。
「この度は危ないところを助けて下さり、ありがとうございます。お城で晩餐会が開催されておりますので、是非ご参加くださいませ」
なぜか急に話が飛んだ……これも強制力? しかも、今まで囚われていたのにお城の事がわかるとか、恐ろしい!
——お城まで飛びますか?
『はい』
『いいえ』
いいえを選んだ場合、自分でお城まで移動しなければいけなくなりますので気をつけて下さい。
……はい。
ザッザッザッザッ
階段の音が鳴って暗転した。
——「おおー! これは勇者様! こんなに早く姫を助けて下さりありがとうございます!」
まだ真っ暗なのに声だけ聞こえる……
(しかも、早くないけどね)
「ささ、こちらへ! 宴の準備ができております」
貴方は誰? とりあえず早く明かりを下さい。
——その日、勇者は夜通し楽しんだ。
チャラチャラチャチャチャーーン
「……は?」
周りが明るくなる——
「なに? もう旅立つと申すのか! さすが勇者だ。それでは、もう一人の我が娘を頼むぞ……」
理解が追いつく前に王様によって旅立つ事に決まった様だ……言うだけ言ってまた全員止まってるし。
別に宴に興味はなかったけど……
(暗転ですますなよ!)
(最もな意見じゃな……)
わたしは王様の隣にいるフランの側に行き、頬っぺたをつねった。
「い、痛い! なにすんだよ!」
「やっぱり、貴方は多少自由があるのね」
「当たり前だ。今は強制力は働いてないからね」
「説明してよ!」
「なんのさ……ぼくにもわからないよ。ただ、次のイベントは外に出れば自ずと始まるさ」
知ってるじゃん。
(ティア、外に出るわよ!)
(次は何が待っとるのやら……)
「もう、会う事もないわね。バイバイ、フラン」
——城の外に出ると、早速兵士が駆け寄って来た。これが、フランが言っていたイベントか……
「ゆ、勇者様! フラン様が攫われました!!」
コトンッ
(わ、妾を落とすなー!)
「ふざけんなああぁぁぁぁぁーーーー!!」
【フラン・ソワーズ】
──────────
「ふざけるなー! なんで、またぼくが攫われなければならないんだよ!」
物語のイベントが、またぼくだなんて……どんだけ攫われるんだこの姫は、攫われ方も勇者が城を出た途端に盗賊のアジトだし。
なにかモブにもイベントくれよ!
また目の前にボスが止まってるよ……動いてよ……つまんないよ……
く……こんな事になるならもう少し媚びておけば良かった、今度はすぐ助けに来てくれるよね?
ガチャ
後ろからドアの開く音が聞こえる。
「うそ……もう助けに? 早すぎない?」
「…………」
「お前はまさか……」
目の前に現れた少女はぼくを見るなり
「間違えた」
と、一言呟いて、踵を返して去ろうとする
「ちょ、待って! お願い待って」
振り返った少女はものすごく嫌な顔を見せた。
だが、今のぼくにはそんな事は関係ない……これは、またとない暇つぶしだ! 逃しちゃ駄目だ。
「君、なんで自由に動けるの?」
「……教えない」
怒っちゃ駄目だ、怒っちゃ駄目だ……
「そ、そんなこと言わずに……」
「ヤダ」
この野郎……あの白い奴の仲間はおかしな奴ばっかりだ……こいつはあの中にいたエルフ、ぼくと同じ種族で初対面なはずなのに、なんでこんなに嫌われてるんだ。
「ね、ねえ……わからないんだけど、ぼくのこと嫌いなのかな?」
「うん」
そのまま、戻って行った……何だアイツ。
バタン——
ガチャ
え……すぐ戻って来た。
「もしかして! 話してくれるの?」
ぼくの目の前まで来て、ニヤッとした。
「ふっ」
コイツ……ムカつく! 今まであった誰よりも神経を逆撫でしてくる……こんな状況じゃなきゃ捻り潰してやるのに!
「じゃっ」
バタン
何故かやっぱり、ボス部屋の入り口ではなく、奥に入って行った。
え? この目の前のはボスじゃないのか?
あれ……配役は全員、見たはずだ。
あのエルフの役は……
「ここは、まさか!」
【魔王】
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あれから色々試してみたが、『魔王』って引きこもりなのね……とにかく表に出れない。
何の強制力なのか、ちょっと勇者に会ってこよう! 的なノリで移動しようとするものなら、問答無用で玉座に座らされる……多分、思考誘導はされてないのが幸いね。
少し前——
「魔王様! 四天王の配備完了致しました」
四天王……いたのね。
「ちょっと、話がしたいので四天王を此処へ」
「…………」
「ん? 聞こえなかった? 此処へ呼んで」
「…………」
「よ、よくやったわ。下がっていい」
「はっ!」
恐ろしいわね……決められた事しか出来ないの?
(多分、そのようですね)
なら、なぜカイル様の時は大丈夫だったの?
(考えられるのは、定められた物語に大きな問題がなかったからでしょうね)
なるほど……定められた物語って、何だか嫌な予感がする。
(貴方の考えは当たっていますよ。この魔道具から出るには、この物語を最後まで完遂するしかないでしょうね)
つまり……『魔王』の……
(確定でしょうね……)
覆す方法はありますか?
(勇者が来るまで、もちろん逃れる術を探しますが……難しいでしょうね)
カイル様が起きてくだされば、望みはあるのですが。
(きっとこの方も、こういう役割なのでしょうね)
なるほど……本当は死んでいると?
(そこまでは……可能性がある程度です)
ちょっと外を見て来ます。
私が玉座の間を出ようとすると——
シュン——ストッ
カイル様の上に座っていた。
「あ……ぁぁ」
少し恥ずかしくなって、すぐ退いた。
(ふふ、貴方でも恥ずかしくなるのね)
む……咄嗟のことには思考が追いつかないのです! と、とにかく、出られませんね。
(そうですね。貴方の思考だけは何故か物語に逆らえる不思議さはありますが……)
確かに……私は魔王のはずなのに……待って、ものすごく分かりやすいのに何故気づかなかったのだろう……ツアドも気づかないなんてね。
(なるほど、ありえますね)
つまり、ツアド。私は今回魔王なので勇者が来ない限り安全。どういう意味かわかりますね?
(ええ、わかりました。やってみますね、時間は勇者がここに来るまで、何とか探してみます)
これで、少しは望みが出たのかしらね。
強制力というのは恐ろしいものです。




