5-6 エルの故郷5
【ケセド】
──────────
「……ここは」
意識が徐々に戻り始める……
部屋に飛び込んだ瞬間意識が飛んで、どのくらいになる? 身体は動く、痛みはない、辺りを見渡しても真っ暗だ。
精霊は……駄目ね、呼びかけても反応がない……
「——どこかに飛ばされたとみて、間違いなさそうね」
パチパチパチ
「正解だよ! まさか君が訪ねてくるとはね。ケセド」
突然人の気配が現れる。
暗くて見えないけど、この声……まさか!
「イ、イスカなの?」
「おー、また正解! ご褒美に明かりを付けよう」
パチッ
急に周りが明るくなる——
目が慣れてくるにつれて、周りの状況が異質な事に気づく……甘い匂いはこれのせいだったのね。
そこは部屋の中だったが、見ただけで分かる。壁も椅子もテーブルもお菓子だった。
私は椅子に座らされていたけど、まさか座っていた物がお菓子の椅子だったなんてね。
そして、目の前の古い友人だった彼女は、昔第十席を巡って争い敗れた『イスカ』
「どうして、貴方が? ずっとここに隠れ住んでいたの?」
本当に大昔の話だ、私もここの事を思い出していなければ直ぐにはイスカだと分からなかったくらいだ。
「んー、それを答えるにはこちらからも質問していいかな?」
私は頷く。
「ありがとう。今はぼくが追放されてからどのくらい経つ?」
……時間の感覚がない? そうね、正直に言ってもしょうがない。
「……百数十年くらいよ」
品定めする様に、顔を覗いてくる。
どっちにしても、昔のままなら信じないでしょ。
「三百年は経ってるとみた。
へぇ……現状を見る限り多分そのくらいかなぁとは予想していたけど、当たりかな?」
まぁ、妥当な判断よね……実際は三百年じゃきかないけどね。
それにしても、よく分からない……封印? それとも、眠っていた?
「さて、嘘をつかれたけど教えてあげるよ。僕は本人じゃない『魔道具』さ」
「!? あ、貴方まさか……でも、どこで!」
「それは、教えない。本体にも悪いし、でも一つ面白い情報をあげるよ。もし今後、ここから出られたら『人格』には気をつけてね」
今の言葉だけで『ユダ』の事件がほぼ分かってしまった。
もう、解決している事を知らないのね……そうやって相手が悩んで居る姿を見るのが好きだったわね。でも、この状況は何とも皮肉な感じね。
ただ情報を手にした以上……逆に言えば死ねなくなった。しまったわね、死ぬつもりだったから何にも策がない。
せめて、精霊と繋がる事が出来れば情報を届けられるのだけど。
あまり長く思考していては怪しまれる。
「本当に私たちとは、相性最悪ね。エルフの貴方がどうやって魔道具を使えたの?」
「簡単だよ。埋め込んだのさ。」
うめ……こんだ? そんな事が出来るはずが……
「そんな事が出来るはずがって顔しているけど、目の前にその成功例があるんだから信じなよ」
懐かしい、正にあの時のイスカが蘇る。本人と言われても分からないが、ここにいるはずが無い……となると『魔道具』で生み出されたが、しっくりきてしまう。
「そうね。そして、追放された本人の代わりに貴方が外の植物を引き継いだのね」
パチパチパチ
「ご明察だよ! 話が早くて助かる。この後もどうなるか分かるかな?」
このままじゃ、私は間違いなく無駄死にね。
意味はないけど、誰か助けに来てくれる事を祈って時間を稼ぐしかないか……。
「分からないわね。どうせ、暇なら少し話に付き合ってもらえないかしら」
貴方も、久しぶりの会話を楽しみたいでしょう……何だかんだ変わっていなければ頼まれたら断らないタイプだったはず。
「えー、あんまり時間がないんだけどなぁ。でも少しなら良いよ! 久しぶりなのは確かだし」
「ありがとう」
違和感が出始めるギリギリまでゆっくり溜める。
「……ここは何処?」
「いきなり直球だね。『プルパピレーネ』の複数点在するドームの一つだよ」
どおりで、精霊を呼んでもこないはずだ……空間が違ったのね。内から外の干渉は無理みたい。
「なるほどね……」
もう一度くらいなら、ゆっくり溜めても違和感ぐらいで済むかな。
「……因みにこの悪趣味なお菓子は何?」
「え? 元々のプルパピレーネは『小さきおとぎの国』って言われるくらい甘いお菓子の匂いが特徴の虫などを食べる植物だったでしょ?」
イスカは徐ろに壁のクッキーを取って食べ出した。
パリ
「うん、美味しい。僕なりのイメージだよ! 食べられた人間たちはお菓子の世界で植物の養分になるんだ。どう? 夢があるでしょ」
いくつか取ってお皿に盛ったお菓子をイスカはテーブルに置いた。
コトッ
「どうぞ! 君たちが食べたら身体中から植物が生えてくるけどね」
子供が無邪気に話すかの様に楽しそうなイスカの思想は昔と変わらない様だ。
やっぱり誰も助けには来てくれなかったか……
「最後に一つ。まだ人間は嫌い?」
「嫌いだね。多分本体が今も居るなら同じ気持ちだよ? 後、本体はきっと君たちも嫌いだよ。人間と同じくらいにね」
貴方も私たちを嫌っていそうだけどね。
「……話は終わりだね。さて、君には『苗床』になってもらうよ。ぼくの育てた『プルパピレーネ』が何者かにやられてしまってね」
やられた? まさか、カイルくんたちが? これは望みが出て来たかしら……寄生されても何とか情報を伝える事が出来れば……
「君が来てくれて丁度よかったよ。ある程度、頑丈な肉体が欲しかったんだ、何度か試したけど直ぐ壊れちゃってさ——」
説明好きなのも相変わらずなのね……どっちみち精霊も使えず逃げる事もできない。私はこの状況を受け入れて、託すしかない。
「あ、ごめん、ごめん。話し込んじゃった……じゃあ行くよ」
私の中に何かが流れ込んできた……
意識が——
塗りつぶされて——
「んー、成功したかな?」
…………
【カイル】
──────────
「これで、ここにいた妖精さんたちは大丈夫かな?」
中々にたくさんいたね……数えると三十八匹? 体? まぁ、数え方はなんでも良いけどさ。
「襲って来た妖精族を助けてあげるなんてさすが師匠です」
「確かにのぅ……特に義理もないのにな」
いや、そう言われると反応に困るけど、助けられるならその方が良くない?
(何か間違っているかな? サタン)
(知らん……俺に聞くな)
「私の同胞は?」
「ごめんね」
二度目だね……腑に落ちないかな?
何とか助けてあげたいけど、くるくる巻きにだけはして遠くの方にまとまっている。
エルが言うには後二、三人いるらしい、と、言う事は僕にとっては朗報でしかない!
そのくらいなら死ぬ事はないからだ!
たぶん……きっと。
「エルの村の人たちは、外に出てからゆっくり考えるしかないね」
「わかった、一応心配しておかないと」
……え? ボソッと恐ろしい事が聞こえた気がしたけど、忘れよう。
「エル……村の人嫌いなの?」
「うん、嫌い」
「殺伐としておるのぅ」
アメリアが普通に聞いて来たけど……なるほど、嫌いなのか。それならしょうがないね……
「そろそろ、出る方法を考えようか」
「——ん……」
おや、ここでヒアが起きた。
「ヒアちゃん! 良かった……」
アメリアがヒアに飛びつく。エルも近づいて喜んでいた。
「痛いよ…………あーーーーっ!?」
急に大声をだして僕の方に飛んでくるヒア。
何があったんだ? ちゃんと治したはずだぞ?
「お腹すいたーーー! ご飯ちょ……え?」
久しぶりにイラっとして、そのまま羽を掴んで投げた。
「やっ、なんで! やあぁぁぁぁぁーーーっ!?」
ピカーンッ
「——さて、出る方法を……」
「だ、大丈夫なんでしょうか?」
「自業自得じゃろ」
「うん、あれはない」
ヒアを投げた後、二人とティアを交えて話し合ったが特に良い案も出てこなかった。
当初すぐ出れそうかと思っていたけど、中々に難しい状況だ、植物のお腹の中なのは間違いないがどうも空間が別になっている……ただ破れば良いってわけでもなく、転移なども効果がない。
精神体を外に出してみたがやはり外は地上ではなかった。入った当初に考えてたが、そういえばヒアのせいで考えられる状況じゃなくなったんだよな……
「きゃあぁぁあああーー」
そうそう、ちょっと違うけどあの時も誰かが叫んでいた様な。
「え?」
遠くからヒアが叫びながら飛んできてた。
飛んでくるヒアの後ろになんかいますね……この植物魔物の本体は逃げたと思ったんだが、回復でもしたのかな?
「あれ、なんですか?」
「花の巨人じゃの」
「私は戦えない、よろしく」
まぁ、エルはしょうがないけどさ、潔いよね。
ここは、僕がやっても良いけど……アメリアに任せてみようか。
「アメリア! 敵だけどいける?」
「ひゃい! 任せてください。行くよ、ティア」
「任せるのじゃ」
さて、僕たちは観戦と行こうか。
「助けてぇぇぇーーーー」
ヒアは今回はダメダメだね。
迫って来た敵が目視できるくらいになってきて悟った。
(あ、これ無理だ……サタンに委ねます)
僕もヒアと似たり寄ったりだった。
——僕は全てを投げ出した。
(おい! 俺は何もせんぞ。本当に何もしないからな!)
(…………)
【アメリア】
──────────
せっかく夢のあるお菓子の世界に来たのに夢も何もない恐ろしい世界だった。
師匠のおかげでやっと、元凶を退けられてヒアちゃんも助かり後は出るだけだと思ったら。
目の前の花の生えた……これは何?
「あの、師匠。これは巨大なエルフですよね?」
あれ? しかも巨大エルフの下には大量の同じ形のエルフたちが……
「師匠!? 大群です!——師匠?」
何故か師匠が動かない……こんな時だっていうのにエルは師匠をツンツンしているが、呑気すぎるエルからとんでもない言葉が飛び出した。
「カイル……あれ、ケセド……なんで?」
「誰?」
「主人よ……十一賢の『慈悲のケセド』じゃよ」
え?……でっかい奴から大量の小ちゃい奴まで全部がおんなじ形してるけどこれ全部、コクマーと同じ十一賢のケセドなの?
「それが、なんで植物生やしてわたしたちに襲いかかってくるの!」
ドスンッ
ガササ
ドスンッ
ガササ
巨大な物体が歩く足音と葉の擦れる音が同時に聞こえて来た。
お菓子の地面がその振動で揺れる。
「いやあぁぁ——カイル様あぁぁ」
ヒアが師匠のフードに突撃していった。
それでも、師匠は微動だにしない……わたしに全て委ねている? 信じてくれている?
(どう思う?)
(何がじゃ! ちゃんと全部念じてくれんと、聞き取れないんじゃが……)
(もう、来る……ティア、行くよ)
(ええーい。中途半端で、もやもやじゃがわかったのじゃ)
「エル! 斬っていいのね?」
「仕方ない」
(ティア、最初から使う!)
(ほう、やるとなったら早いのぅ)
心を極限まで落とす……徐々に周りの動きが遅くなる感覚がくる。
目の前に馬鹿でかいケセドと取り巻きの小さいケセドが迫って来た。
わたしは、前方に走り出し……敵の懐近くまで迫って技を発動した。
「空刃——」
周りの小ケセドたちが一瞬で細切れにされていき、大ケセドが足元から崩れていった。
——どのぐらい、やっただろうか……
「くっ……」
(時間がかかりすぎじゃ! 一旦やめい)
感覚が戻りだす——
それと同時に、デカいのが崩れ出していく……
「はぁ……はぁ……やった?」
ドゴーン!!!
大ケセドが支えを失ってお菓子の地面に激突した。
「おぉー! アメリア凄い!」
「やる。止めを刺して!」
師匠は、まだ何も言ってくれない?
まさか……まだ終わってない?
(どう思う?)
(だから、何がじゃ! 今回は分かるが、ちゃんと念じてくれい。多分動かないから——終わっとらんな……)
大ケセドの周りから植物が生え出して小ケセドが現れた……それも、何体も。
「最初から大技は失敗だったかな?」
「結果的にはな……しかし、これは辛いのぅ」
生え切る前に斬るしかない!
ザシュ
バシュ
何体か斬った所で此方に向かってこない事がわかり、小ケセドが向かった方向を見ると斬られた脚に飛びつき出しているのが見えた。
(これは……)
(間違いなく、復活してくるのぅ)
「し、師匠。どうしましょう……」
もう一度、あのデカさを斬るのは辛い……技も精神と肉体が合わさらないと難しい。
今はさっきの反動で肉体が精神より浅い。
無理矢理状況を作る方法が一つだけある……
(わざと死にかける?)
(何を恐ろしい事を言っとるのじゃ!)
「何やってるの! アメリア。もっとこうよ! そしてこう!」
「カイル……アメリアが死んじゃう」
コイツら……ヒアちゃんはフードの中で暴れていて見えないし。エルは、わざとなら本気で友達辞めようかな。
——ゴゴゴゴゴッ
あぁ、無駄な事してたら、復活しちゃったよ。何処を斬ったら良いのかわからない奴は嫌いです! 私は師匠の後ろに行き全てを託した。
【カイル?】
──────────
「お任せします、師匠!」
(小娘! なに諦めているんだ……)
くそっ、やらん。絶対に動かない、俺は知らない。
——腕を組んで仁王立ちスタイルを崩さない。
しかし、あの時の十一賢のケセド……何を乗っ取られているんだ、情けない。
この男の様に取り込んで解析くらいする度量はないのか? 見た目だけか、アイツらは。
馬鹿でかいケセドの足がカイルに迫って来た。
(流石に動くだろう……)
「し、師匠!」
「カイル……逃げよ」
「カイル様の近くが一番安全よ」
「どうすんじゃ! 共に逝くのか? ここまでか……」
お前の仲間は、面白い奴らだな。
さて、お手並み拝見と行こうか。
ゴゴゴゴゴ
動かないな……もう目の前だぞ?
ドゴーーーーーーン!!!
「アホかあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」
(おい、カイル! 真面目に動け! ……何か言え! まじで逃げたのか?)
「さ、さすが師匠です!」
「掛け声、ダサい」
「ほ、ほ、ほらね! あ、安全なの……よ」
「わ、妾は信じておったぞ!」
くそ、俺とした事があまりの恐怖に力を使ってしまった……
ふざけやがって、本当に精神に引きこもりやがった……何処まで人が苦手なんだ?
普通に考えて、目の前の植物は人の枠に入っているのか?
俺は手を前に出し、カイルの力をそのまま使ってシールドを張った。
敵は今も足で俺たちを踏みつけている。
ミシミシッ
(普通に考えて、こんな巨大な奴の踏みつけをまともに受けたら、ひとたまりもなさそうだが……全く問題ないな)
「お前たち、大丈夫か?」
ガバッ
エルフの小娘が抱きついてくる。
「怖かった」
なんだこの片言は……
「え、エル! 師匠から離れなさい!」
くっついたエルフを引っ張るな!
「カイル様! さっすがー」
頭で暴れるな……フードからでろ! くそっ、髪を引っ張るな!
「いいかげんに……」
俺の怒りを感じ、周りが静まり返る。
「しろおぉぉぉぉおおおーーーっ!?」
メキメキ……
シールドにヒビが入る——
「あ」
パリンッ
ドスーーンッッ!!!




