5-3 エルの故郷2
【妖精】
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妖精は常に愛玩として虐げられた歴史がある。ある方の協力のおかげでこの力を手にしてやっと変える事ができる様になった。そして他種族から姿を隠して数百年、今の平和を手に入れた。
でも、それもまた破滅に近づいている——
『プルパピレーネ』名前の可愛さとは全く違いその恐ろしい特性を持つ植物に妖精族は危機に陥っていた。
別名『小さきおとぎの国』と言われ甘い香りに誘われて中に入った者は命ある限り出る事は出来ない不思議の国に捕らわれてしまうと子供の頃よく聞かされた、私たち森に住む種族の童話などによく出て来る魔物だ。
普段はセフィロトの庇護下で凶悪な魔物は寄ってこないのだが、最近エルフの首都の方で起こった事故だか事件のせいで普段目覚めないものが目覚めてしまったのか、童話の世界の話と思っていた植物の魔物がそのまま出てくる事態になってしまった。
妖精族はこの短時間で次々と捕らわれ、命尽きるのを待つばかりになっていた。
これだけなら、ただ滅びを待つたけなのだが、ここからが実際体験して知った植物の魔物であるプルパピレーネの嫌らしい特性だった。
この植物は意思を持ち頭の中に語りかけて来る。言葉を使い同胞を人質に取り逃さない様にし更に栄養価の高い獲物を連れて来させ養分を蓄え根を張る。
一度、誰かが捕まると。肉体的、精神的に囚われの身となってしまう。
私たちには選択の余地がなかった。
捕らわれた同胞を助けるべく、不可侵条約を結んでいたエルフを売ったのだ。
言われるままに一番近くの村の住人を不思議の国へと招待した。
方法は至って簡単、直通の生き物だけが通れる『鍵』を渡され獲物の足元に投げるだけで地面がそのまま通路に変わり落ちていく。
原理はわからないけどそういう事らしい。
寝ている時を狙いたかったが、魔物は夜まで待ってはくれなかったので、それならと、油断しそうなお昼に決行するしかなかった。
思いの外上手くいったと喜び同胞を返してとお願いに行こうとしたら、訪問者だ……しかも人間。
運が悪い——
魔物の言った事はこうだ。
『村の居る住民を全員捕まえられたら解放してやる』
訪問者は住民に入らないだろうが、きっと説明しても無駄だろう。仕方がないのですぐにでも送るしかないと近づいてみたら、白いヤツが私たちを目視できると知らせがきた。
すぐに向かうと、話を持ちかけて来たので何とか友好的だと示し妖精を集めて一斉に光る事で油断を誘い、指示を達成できた。
「危なかった、まさか私たちが見えるなんて」
あいつは何だったんだろう?
でも、本当に運がない人たち。私たちを恨まないでね……この世は結局、強いものが全てなのよ。
【カイル】
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「と、言う事なんだけど。信じる?」
「も、もちろんです!」
「……俄かに信じがたいのぅ」
「植物?」
「ゲップ……」
予想通りだね。もちろんヒアも含めてね……
ヒアにこのお菓子の真実は告げない方が良さそうだ……よく見るとお菓子の形をした何かだね、この中に居れば飢える事はないけど色々無くしそうだ。
「エルは村の人たちを助けたいよね?」
一応確認はしないとね。出るだけなら簡単そうな気もするけど、住民を助けるとなると至難の業だ……遠くに反応があるので、まだ生きているみたいだけど。僕には荷が重い……重すぎる。
「うん、助けられるなら助けてあげたい! 私には十一賢としての責任がある!」
エルはぐっと拳を握りしめて力強く答える。
……だけどね。声に出して言葉を紡げるのが嬉しいと顔に出ちゃっているのは少し抑えた方がいいと思うよ。
まずは、アメリアに魔物を倒してもらってから考えようかな……正直僕がいればここにどれだけ居ようと消化される事はない。
ゆっくり探索したい気持ちはあるが、助けたいのなら時間がない。早急にここの特性を理解しないとね。
「アメリア。とりあえず敵は斬っちゃっていいよ」
「ひゃい……いきます!」
——アメリアが剣を振ると糸に包まった敵が消し飛ぶ……凄いね、斬った音が聞こえなかった。
……さて、これで見えさえすれば剣で斬れる事がわかった。僕の糸でもバラバラにできる。
あとは、魔法だとどうなのか知りたいけど……エルは無理。
そもそも、ここの空間はなんだ? 植物の腹の中なのは理解できるけど……面白すぎる。
「師匠、次は何をしましょうか?」
そもそも、入った当初は明かりもなかった……暗くする意味はあったのか? 植物だから明るさの概念がないとかかな。
「何か考えとるな……」
「よくわかる。考えるのは楽しい」
「そうでしょうか? 動いた方が……いえ、師匠は正しいと思いますが!」
「そういうの要らない」
なら、暗かったのはここの特性で他に捕らわれた者たちは暗闇のなか養分に? それだと今度はお菓子を形作る意味がわからない?
「趣味?」
「おー、戻って来たぞ!」
ティアの声が聞こえた——
口に出てしまったようだ。
周りを見ると、全員にガン見されていた。
あれ? そういえば、ヒアは?
目に入ったヒアの姿に驚いた……
「……な、なにこれ?」
「きゃあぁぁぁーっ」
「これは……」
「きも」
ヒアが……ヒアから……花が咲いていた。
間違いなく、食べたからだな……もうさ、最近活躍していたから、許していたけどヒアはこれが普通なんだよね。
「ばびろにあ、びびりに」
久しぶりに喋ったと思ったら、”喋らされてるね”……『侵食』って出てるし。
「これ以上、やられるとまずいね。」
——『浄化』
ヒアを光が包み込む。
が……
……戻らない。
「これは、多分この世界から出ないと戻らない」
エルが言う、見てわかるのか……?
へぇ……神の力が効果ないとかもあるのね、『魔道具』とかもそうだったけど、本当に面白い。
ならこれ以上侵食させないために……
——『封印紋』
ヒアを封印で縛る。
……これは効果があるみたいだね、今はこれで良しとしよう。とりあえず誰も食べないと思うけど、他のみんなに「食べちゃ駄目だよ」と、言っておく。
僕たちパーティーから早々に『ヒア』が離脱した。特に問題はないし、むしろいい結果をもたらしてくれた。経過を見たい欲求はあるけど、戻らなかったら最悪だからそこはグッと堪える。
「さて、エルの村の人達を探しに行こうか」
僕たちは、この不思議の世界へと足を運び入れた——
【アルテル】
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「アン、説明して!」
私は宿の中で怒鳴り散らした。それは仕方のない事だ……カイル様の隣で馬車に揺られながら、楽しく喋っていたら急に馬車が止まり、カイル様が外に飛び出して行った。
追いかけようと私も外にでたらそこは、真っ暗闇……探せど探せどカイル様は何処にも居らず、これは何か悪い夢だと思ったら。
——夢でしたっ!
「アルテル様、お仕事お疲れ様です。エルフの国との国交がこれで一歩前進いたしました。一度、国に帰りますので支度を」
淡々と……本当にアンは変わらないのね。
私だって行けるとは思ってないわよ……ただ、もしかしたらがあるじゃない? その希望にすがって何がわるいの! ちゃんと仕事したじゃない。
「わかりました。次は負けません」
「負けませんて……自覚を持ってください」
全てを捨ててまで自覚なんていりません。やる事やっているんだからいいじゃない! 私の読みなら二日は余裕があったはずなのに……
トントン
ん? 何故ノックが……ここに私がいる事を知っている人がいたかしら? まさか!カイル様!
「絶対、違いますよ」
アン、貴方は何でいつもそうなの……少しくらい希望を下さい!
トントン
本当にこんな時に誰なんでしょう
「はい、どうぞ」
一応、大丈夫だとは思いますが私は少し離れ、私の合図でアンが扉を開けた。
ガチャ
「アルテル王女殿下」
そこに現れたのは十一賢の『ケセド』様だった。
「ケセド様! どうしてここに?」
私がエルフとの国交を結ぶにあたって私寄りに話を進めてくれた方だ、そのせいか当然十一賢の中で一番印象がいい。
その方が突然宿に来るとは、何かあった?
「突然ごめんなさい。中に入ってもよろしいかしら?」
「もちろんです。どうぞ」
少しの不安を持ちつつ、部屋の中央にあるテーブルの椅子へ促した。
私とケセド様が対面に座り私の後ろにアンが控えた。
「その節はありがとうございました」
まずは、国交会談の時のお礼を伝えて反応をみればどういった意図で来たかもわかるかも。
「あれは、別にいいの。どっちにしてもこれからでしょ?」
この話とは違うみたいね……なら何が目的?
私の表情で察してしまったのか、急に真面目な顔になり話し始めた。
「落ち着いて聞いて欲しいのだけど……貴方の妹さんの一行が急に消えてしまったの」
——え?
待って……どういう事?
まだ別れてからそんな時間も経ってないじゃない……私は恥ずかしながらあまりの疲れで丸一日寝てしまっていた。
なので、カイル様は昨日の今くらいの時間にエルフの首都を出発して、エルの故郷に向かった。
行くつもりだったのでその辺も調べてある。馬車で半日……全く危険のない長閑な街道だったはず。往復で一日、予想では二日余裕が出来る筈だったのに……だったのに!
落ち着かないと……
「質問させて下さい。何故消えたとわかるのです?」
疑いたくはないが、仕方がない。一対一で話す機会なんて中々ない、ここで見極めないと。
「もちろん、精霊のおかげよ。私の精霊は少し特殊でね……アルテル様にも見せるわ」
——私にも分かるくらいに空間が歪み出して人型の精霊がケセド様の横に現れる。
「挨拶して——」
「初めてまして。ツアドといいます」
今までの未経験領域がいっぺんに来てしまった。精霊が見えたうえに喋った……
いえ、喋ったという表現は少し違うわね……頭の中に直接響いたが正しそう。
「は、初めましてツアド様。私はアルテルと申します」
よく考えると、精霊との接し方がわからない……どうするのが正解なの? 様はあり? なし? なんて考えていると丸い眼球のない目が細くなる。
「面白い子……気に入りました。貴方の力になりましょう」
え?……よく分からないけど、気に入られた。それは良かったが話が見えない。
「良かったわね。この子は今後アルテル様に付きます。仲良くしてあげてね」
な!? 私に付くの? 精霊が? そんな事あって良いの? すぐに私の隣に『ツアド』様がやって来て「よろしくね」と言って消えていった。
「ま、待ってください。これはどう言った事なのでしょう……」
「説明するわね——」
ケセド様の話によると、アメリアたちが向かったエルの故郷の住人が突然全員消えてしまったと報告を受け捜査を精霊を介してし始めたのが今日。
探し始めるとアメリアたちが乗った馬車もあり、更には無数のエルの精霊たちも攫われたと言っていた為に事件が発覚。
国交を結んだばかりだと言うのに、エルフの国内で重要人物が謎の集団失踪に巻き込まれた為、一番初めにその事件を知ったケセド様が訪ねて来たと、そう言う話だった。
十一賢で捜査をするのが最も当たり前の話なのだが、色々なごたごたが重なって人手が足りないらしく、もし良ければ一緒に捜査をしませんか? と、そんな流れになりました。
——好機!
「行きます!」
アメリアにはカイル様が付いている。多分大丈夫だろう、なら私が行っても行かなくてもいずれ解決する。だとすると、行かない理由はない!
「んー。少しは渋ると思って精霊を渡したけど……即答とはね。軽率だったかな?」
なるほど、精霊は交渉の材料でしたか。それなら軽率は当たってますね。なくても行きました! むしろ……こちらから願いでていました!
アンを見るが今回は諦めたようだ。
(よしっ!)
「あの……危険ではないのでしょうか?」
アン……何のための精霊かを良く考える事ね。ケセド様なりの冗談よ、行くと言ったらどんな状況でも守りの為に精霊を寄越したと思う。
「大丈夫よ。その為の精霊だもの」
ほらね。
「でも、まさかすんなり気に入られたのは予想外だわ。もっと時間がかかるか……もしくは私の命令で守るしかない場合もあったわね」
そうだったの?……運が良かったのね。それにしても消えてしまった『ツアド』様はどこにいるのでしょう?
(いますよ。私は常に貴方の側におりますので、ご安心くださいね)
「きゃっ」
びっくりしたー! 急に声を出さないでください。なるほど、姿は見えなくても近くにいるのね……って、まって、なんで私の心の問に答えられたの? これって心の声ダダ漏れ?
「アルテル様? ……どうしました?」
(ダダ漏れですね)
ですねって……プライベートは?
(カイル様の事ですか?)
あーあーあー、言わないで! どうしよう……この子いらない!(……ふふ) 笑ってる!
「……多分ツアドと話しているのでしょうね。最初はみんなびっくりするのよね」
「なる……ほど?」
心を読まない方法はあるの?
(ありますよ。でも無理) なんでよ!
(貴方の心を気に入ったから)……傍迷惑っ!
(ふふ) 泣きそう……
「ああ、ごめんなさい。貴方には何の事かはわからないでしょうけど、先程も言っけどアルテル様に精霊を差し上げたの」
あれ? ケセド様とアンがいつの間にか話していた。……貴方の話ね。(……そうね)
アン、分からないのにメイドの立場を通していたのね……この辺はさすが。
アンに貴方を紹介する事はできる?
私がそう言うと、すぐにツアドの姿が私の後ろ、アンのすぐ隣に現れる。
「こ、この方が精霊?」
「アンにも見せられて良かったわ」
「初めまして、アン。私はツアド、よろしくね」
何故か、ケセド様が驚いている。
「驚いたわね。こんな短時間で姿を現せる事が出来るなんて……」
——ケセド様に色々と教えてもらった。
ケセド様は、精霊を生み出す事ができるらしい。ただ、上位は数十年に一度しか作れない。それを今回の事件があり、私の為に作ってくれたという事だ。
何度か他の方にも作ってあげた事はあったみたいだけど、私みたいにここまですんなりと仲良くなったのは初めて見たと……聞けば聞くほど荷が重い話だ。
「あの、私も行きます」
「全然いいわよ」
多分そうなのかと思ったけど、私とケセド様とアンで向かう事になった。
カイル様、待っていてください!
私が貴方を助けに行きます!




