4-15 ユダ
【コクマー】
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力ある者には従う道しなかない……
まさにそれを体現した事態が目の前で延々と行われていた。
(サタンめ——
カイルは何をしてくれたの?……全て思い通りじゃない!)
報酬、国交、更にはダアトまで奪われる。
普段の十賢ならこのまま黙っている訳がなかった、しかし……今はそれどころじゃなくなった。
「ユダがいる」
私たちは互いを見る。
爆弾どころの騒ぎではない、十賢に『ユダ』が紛れている事自体が『セフィロト』を揺るがす大きな溝になる。
一番の理想は『ダアト』がユダ——
「因みに、エルはユダではない」
サタンが遮る……しかし、お前が虚言——
「俺は嘘は言わない」
見透かした様に、思考を潰される。
頭を抱えるしかなかった……
言葉の世界で嘘は守りだ、守る物のない悪魔の言葉は真実という攻撃しかない。
精神世界での戦いでは悪魔を縛る為に『契約』と言う真実の言葉で縛る事はよくある事だ。
なぜ、今まで忘れていたのだろう。
答えは明白だった、思考が塗り替えられていた。
誰に?——『ユダ』しかいなかった。
今回の事だけでも、おかしい事ばかりだった。
なぜ、『一の無神論』の事を私一人で片付けようとした?
なぜ、カイルをハイエルフだと確信した?
あの時カイルを攫ったのも私としては短絡的すぎた。
カイルの存在が大きすぎて全てを深く考えず最初からそこしか見えていなかった。
自分の思考を探る——
だ、誰?——
一気に記憶に無かった言葉に塗りつぶされた。
「ねぇ、あの森の祭壇に興味がない?」
「これは不味いわね、その“指”の事は秘密にしておくべきよ」
「今度この国にハイエルフが来るらしいわね」
「あの身体は依代に最適ね」
「助かるのよ! それ以外に何が必要?」
(あぁぁぁーーーーーーっ!!)
声には出さずに恐ろしい記憶に必死で耐えながら、恐怖を飲み込む。
汗が全身から湧き出る。
——いつから?
記憶に流れた最初の言葉は私が『クリフォト』の祭壇に行くきっかけの言葉だった。
あの時からもう……
嘘であってほしかったが……
全ては『ユダ』から始まっていた。
でも、声も顔も思い出せない……九人の顔を見るが全く分からない、言葉だけなら女性?
ケセド、ティファレト、ネツァク、マルクト。
この四人……
「さぁ、最後の取引だ」
私たちの混乱が少し収まるのを待っていたかの様にサタンが話を次に進めた。
——サタンの話はこうだ。
今までの条件を全て呑むなら、『ユダ』から解放を約束する。
報酬、国交、エル。
私たちは、最後の話し合いをした。
【報酬】この国の自由と滞在中の旅費の負担。
私たちの言い分は全てにおいて許可を求める。
これは、双方意義なしで決定。
【国交】人間とエルフが手を取り合う……今までのわだかまりが解消する事はないだろう。
この問題は未来永劫消えない。
「お前のした強制と言う主張はついて回るぞ」とケテルは言うが、サタンはテーブルを用意しただけだと、言う。
確かにそうだ、強制なら無理矢理結ばさせればいい。ただ、単純にちゃんと話し合って決めろとそう言いたいらしい。
そこに何の違いがあるのか分かる十賢は少ないだろう、私は分かってしまった。
アルテル第一王女。
少し話しただけだが……理知的で私たちとも対等に話せる。
憶測だが、人を信じられないなら先ずはアルテルを信じてみろと言う事なのだろう。
現に私はアルテルを信じても良いと思っている。
十賢の何人かも同じだろう。
癪だけど、王女の協力者になってあげましょう。
【エル】十一席の『ダアト』。
これは、無理だ。
すぐに抜けられたら、我々の沽券に関わる。
ましてや、『セフィロト』にさえ影響が出るかもしれない、と全員が苦言を示したが。
エルの言葉で方向が変わった。
そもそも、抜ける気はないらしい。
ただ、「私がここに居座る意味はない、何故ならセフィロトに許されたから」と、更に言葉は続き「外からセフィロトを守る。安心して、私は『ダアト』」
全員がポカンとしてしまった。
セフィロトから離れる? 許される事なの?
——それは魂にまで刻まれた意思。
ここに国が出来た時点でエルフはセフィロトから産まれセフィロトへ還ると定められた長い歴史がある。
エルだけが違う?……確かにこの子は人の国で過ごした。我々にはない意思を持っているの?
「外の世界にもセフィロトは根を張る。
今後の私を見てみると良い」
清々しい顔で言い放つエル。
この言い分なら人間の国と国交を結ぶ事と合わせて批判は出づらくなる。
ただ、長年の考え方が変わるのだろうか?
……悪くない未来だとは思う。
不思議と、私たちにエルを止める者は居なくなった。
因みにだか、エルの言葉は単語だけの短文で要領を得なかった、エルの言葉は全てサタンの補足だ。
これは、結局、私たちだけが不利益になる様な事は一つもなく『ユダ』の炙り出しを願えるのだけど、それでいいの? サタンには何の理があるの?
「カイルよ、貴様の望みは何だ」
ケテルも当然この流れは把握しているわね。
決断が早いから聞きたい事を聞いてくれて助かる。
「簡単だ。
国交を結ぶ国に『ユダ』がいるからだ」
悪魔の言葉とは思えないくらいに理性的ね。
間違ってはいないが全てではない、これは分かりやすい。
「他にもあるでしょ?」
全て吐き出させないと安心はできない。
「思いの外、頭が悪いのだな。
ユダが誰かを知りたいのなら自分達で見つけるしかないのだぞ」
「!?——貴様、最初から言うつもりは無いのだな」
な、なるほど、『ユダから解放』確かにサタンは教えるとは言わなかった。
サタンからすれば、この国からユダが消えればいい。
もちろん私たちにとっても国からいなくなるだけで理がある。
ただ、ケテルの気持ちもわかる。
受け入れたら断罪は出来ない……
ここまで好き勝手にしてきた『ユダ』を逃すのは……
やっぱり悪魔ね。
「お前たちにはどうせ見つけられない。
俺の言葉の意味も理解できないお前たちにはな」
本当に嫌なやつ。
私は、よくこいつに抗えたと思う。
答えは決まっているが、ケテル待ちね。
怪しさで言ったら全員、もし逃げられても一人減れば…………え?
この中の誰かがユダなら一人は裏切り者になる。
サタンの言葉は特定の一人に向けられていなかった……
——おかしい。
何故、気が付かなかった?
「解放してやる」
「見つけられない」
「理解できない」
最初からユダは私たちの中には居ない……
突然ピースが見つかる事はよくある。
これは、ケテルより私の方が得意なのかもね。
「一つ、十賢全員に聞きたい——」
私は、全員に記憶にない“誰か”と会話した事はないかと聞いた。
その中で、すぐに四人が思い当たる事があったと答えた……これで確信できた。
一人二人なら偶然だが私を含め五人居たらそれは必然と足りえる。
最後にダメ押しで、バチカルが顕現した時『バチカル』の名前が頭の中に流れた人は? と聞いたら全員が手をあげた。
これで、確信できた。
私は一つの結論を答えた。
「ユダは……全員——」
私の言葉に全員が私を見た。
そしてサタンが笑う。
「ハハハハ——良かったよ。理解できる奴がいて」
そう言う事なのか…..違和感しかなかった考えが一つになった。
私の思考に流れた言葉は私自身の言葉。
ここまでわかれば、それぞれ他の十賢も似た様な顔をし始めた。
何かしら思い当たる所かあったと見て間違いないのでしょう。
恐ろしい……私たちに誰がユダを仕込んだ?
そもそもいつからこんな事に……
「さて、どうするんだ? 自分達で片付けられるなら、俺はもう何も言わないぞ」
わざとね、多分現状すぐに『ユダ』から逃れるにはサタンに頼むしか無い……このままの状態でセフィロト(国)の管理なんてできる訳がないし、こんな気持ち悪い状況はごめんだ。
結局、最初から選択の余地はなかったけど、結果あまりある恩を受ける事になる。
「……よろしく頼む」
ケテルの言葉で全員が頭を下げた。
これで、交渉は終わり。
「目を閉じろ。すぐ終わる」
全員が目を閉じた。
パチンッ
音を聞いた瞬間何かが消えていくのを感じた。
【???『ユダ』】
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バチッ
「痛っ——」
凄いな……完全に効果を消されたよ。
この魔道具『侵食の権化』の良いところは一度発動すれば後は遠隔でいける所だけど。
悪い所は発動までの手順なんだよね……十賢全員に侵食させるまで苦労したんだけどな。
条件がきつすぎて、もう一度同じ状況に持って行く事はできないね。
あーあ、これで、時間をかけて築いたぼくの国も終わりか……
「ねぇ、ボスに伝えてよ。
エルフの奴隷の確保はもう僕には無理だって」
「嫌ですよー」
まぁわかるけど、ぼくの立場は君より遥か上なんだけどなぁ。
こういう時、許しちゃうから甘く見られるとかあるのかもね、もちろんぼくだって嫌だよ、確実に怒られるし。
(ボスは失敗を許してくれないんだよなぁ……イヒトなんてその場に居ただけでボスに呼ばれたらしいし)
それにしてもさ、カイルってか『サタン』? その辺りがよくわからなかった。
十賢の目から通して見ても理解不能。
わかるのは、アイツらが来てからあっという間に全部潰された事だけ。
道中の『梟の目』のアジトの壊滅。
エルフの奴隷の解放。
『アオバ』の資金源の奪取、撤退。
コクマーを使ってのカイル捕獲に成功して、依代にして『サタン』の解放。
神名を呼ばせて『バチカル』まで出したのに……結局は撃退。
ただ、あれは倒してくれて良かった。
ちょっと調子に乗って『バチカル』呼んだらどうなるかな? とか、遊び半分でやるものじゃないね、エルフの国滅ぶかと思ったよ……
でも、ユダから解放されちゃうなら滅んでもよかったか。
ままならないねー
後は……そうそう、『エルトゥア』か、懐かしいね。
昔、十賢を使って追い出した子が戻って来て、まさかの十一席とか何の冗談だろう。
面白い力を持っていたから操りたかったが無理だったので今回もすぐに追い出そうと思い手を回したが、自分から出ていくとか最後まで分からない奴だったよ。
——とね、こんなに頑張ったのにさカイル……いや『サタン』なんだよね?
これはぼくの問題だけどさ、政治的とか、交渉とか難しすぎて会話に入れないまま……
最後には『ユダ』を見破られた。
「笑えるくらい全滅だよ」
長年、自分達でエルフの同胞をぼく達に差し出してたとか笑えるくらい面白かったんだけどなぁ……
それも、今回で終わりか——
さて、他の国の仕込みもやらないといけないし、それでどうにか帳消し? 出来るといいなぁ。
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




