4-14 エルフの英雄 3
【アメリア】
──────────
覆せなかった。
あの後——
(理性的に怒鳴り散らして頑張ったのに……)
(主人よ、それは理性とは言わんぞ)
剣に言われた……結局わたしはこれから始まる式典のエルの騎士として『根原宮』の二階に居る。
ハイエルフの降臨の儀を執り行う予定だった場所には多くのエルフが今か今かと『英雄』の登場を待ち侘びて詰めかけていた。
エルは完全にこの状況を受け入れて、今は着替え中だ。
終わり次第わたしの居る部屋からバルコニーに出てケテルの演説の元エルのお披露目という流れだ。
個人的に、どこも似たようなものだと思うが、これほど嬉しくない式は初めてだ。
(師匠……)
(思念を飛ばしているのは、わざとか? 何度目だ! 終わったら会えるのだから我慢せい!)
もう、一人で悩みすぎていい加減反応が欲しかったんです。コクマーの話だと自由に過ごしていらっしゃいますよ? と言ってきたが、信用なんてできるもんか!
エルの問題も師匠とならきっと解決できると思うのだが、式典が終わったらエルは『英雄』で『セフィラ十一賢』になってしまう……それでは遅くないだろうか?
(師匠……)
(鬱陶しいっ!)
——ガチャ
扉が開いた。
始まってしま……入って来たエルフの姿を見て思考が一瞬止まってしまった。
凄く、着飾ってまさに人形の様な出立ちの——
「誰?」
人形はジトメになりながら
「エル」
と、答えた。
人形が喋った——
頭を振る、思考が……戻って来た。
あぁ、よく見ると面影はエルだった。
後ろの冴えないおっさんが話し始める。
「さて、準備はよいな」
見覚えのあると思ったらケテルだった。
エルを見た後だと、冴えないおっさんだ!
この際、十賢なんてそんなやつらだ!
(心の中で貶し続けてやる——)
(主人よ……やるなら思念を飛ばさんでおくれ)
「はい、大丈夫です」
(表と裏が言行相反じゃのぅ、怖い怖い)
「うん」
『げんこうそうはん』って何だ……分からない事言うな! ティアはたまによく分からない事を言うよね。
エルに小声で「本当にいいの?」と聞いたらニヤッとした。何か考えが? まさか……
(式典を火の海に?)
(!? やったら終わるぞ!)
わたしじゃない! でも、確かに終わる。
無駄な事を考えていたらケテルが歩き出してしまった。
くそっ! もう駄目だ。
仕方ないので、後ろについて行く。
エルはまだらしい。
ケテルがバルコニーの窓を両手で開いた。
「始まりだ——」
バンッ
「わぁぁーーーーーーーーーっ!!」
パチパチッ
「うおーーーっ!」
地鳴りの様な歓声が巻き起こる——
それを、心地よく聞き入るケテル……
その姿は悪の親玉みたいだった。
(悪い顔じゃな)
ティアも同じ意見のようだ、間違ってなかった。
「静粛に!」
この辺は上に立つ者らしく、歓声の中でも重く通る一声で民衆は静けさを取り戻す。
「さぁ——皆の熱望する『英雄』の誕生だ!」
ケテルがさぁ来い! と言わんばかりにエルを迎える様に振る舞う。
エルがゆっくりバルコニーの手摺りまで移動して、階段みたいになった台にあがる。
わたしもケテルに横に付けと促されエルの横についた。
それを見た民衆は——
「うおーーーーーーーーーーっ!」
また、すごい歓声が蘇る。
「あの時の『英雄』様だ!」
「騎士様もいるぞ!」
「ありがとーーー!」
どれだけ嫌っていても命が助かった人たちに感謝されると、良かったと思ってしまう自分が少し嫌になる。
エルは健気に手を振っていた。
もう、受け入れてるのかな……寂しくなるなぁ。
「皆の者! 英雄の言葉を聞け!」
また、ケテルの言葉に鎮まる。
なんか、側から見ると偉さって自己が出るなぁと思う。
エルが話そうとする、何て言うんだろう……
「……よろしく」
だよね! エルは偉くなってもエルだった。
すごい……この静寂を自分が作ったらわたしは耐えられない!
「さ、さぁ——今一度、讃えよ!」
ケテルの言葉でまた盛大に湧く。
そして、エルとわたしは部屋に戻った。
不覚にもあの状況を押し切ったケテルを少し見直してしまった……
「また」
エルは何かあるみたいなのですぐに移動して行った。またって事は後は『報酬』の時か……師匠に会えるがそれと同時にエルとのお別れか。
——とうとう師匠に会える!
はやる気持ちを胸に『根原宮』の奥の奥に通された。またここか、エルが決断した場所に真っ白い……後ろ姿だがわかる!
「師匠!」
ガバッ
わたしは、走って背中に飛びついた。
「ほう、うい奴だ。撫でてやろう」
な、撫でられた。
し、師匠? 少し見ない間に凄く変わった?
そういえば、ヒアはどうしたんだろう。
今は聞くのは無理かな。
「さて、十賢よ。報酬を貰いに来た」
凄い迫力。こんな師匠見た事ない……エルフの偉い人たちが分かりやすいくらいにやりづらそうだ。
コクマーなんて、頭を抱えている!
あ、よく見たらエルがいる……椅子に埋もれてて、円卓から頭しか出てなく分からなかった。あれで状況がわかるのだろうか。
「か、カイルよ。なぜ其方が?」
あのさっきまで上で偉そうな事を言っていたケテルが……ケテルが……ふっ
頭を撫でられる「ひゃ——」
「呼ばれたからな。悪いが俺がカイルだ」
いきなりは卑怯です。
会話がよく分からないが、わたしからすると全く問題ない。きっと今までの鬱憤が溜まっているのだろう。わたしも同じだ!
やってやりましょう!
「わ、わかった」
ケテルが、書状を数点テーブルに並べた。
この全てがエルフの国の自由を約束する物になっているらしい。
ただ、全て何かする場合は一言断りは欲しいと。
師匠……こんな約束をしていたんですか! 凄い、こんな事絶対に今まで誰も成した事ないですよ。
「……不満だな、意味は分かるだろ?」
それぞれが顔を見合わせる。
ここは、押すのですね! 搾り取ってやりましょう!
(アメリアよ、面白いな)
(ひゃ、聞こえていたのですか?)
(……お前の国。やるべき事があるだろ?)
師匠?
「その話、乗ってやるが、こちらも一つ乗せるぞ」
師匠に目配せされる……なるほど、自分の立場を忘れていました。
わたしはここに来て第二王女になった。
「ありがとうございます。
では、我が国との国交を——」
最初からそうであったかの様に振る舞う。
もちろん、この場で決まるわけではない。
わたしは話をつけるだけでいい、後はお父様と姉様しだいだ。
話の席が決まるだけでも歴史が動くくらいだ。
それなのに、師匠の一声で国交会談が成立した。
すぐに、我が国に書状が行くだろうと思ったら師匠が少し待てと、消えた——
その間にケテルたちが話し合っている……意味のない事を!(師匠は最強だ!)
(なにを急に興奮しとるんじゃ……)
(師匠が凄かったから!)
(確かにのぅ、普段からは想像できんかった)
(あ、そんな事思ってたんだ?)
(ち、違うぞ! 妾はただ……)
「きゃ……ここは?」
ティアと師匠談義していたら、まさかの人が師匠と現れた。
「ね……姉様!?」
もう、何でもありとはこう言う事だ。
急に師匠が姉様を連れて来た……十賢の一人がこの事態に叫びだす。
「いい加減にしろ! サタ——」
パチンッ
師匠が指を鳴らすと、叫んだ男の口が閉じる。
「止める必要は、なかったが……それを言ったら終わるぞ」
殺気が十賢だけに飛ぶ。
隣でいきなりエルフの偉い人の中に放り込まれた姉様がついて行けてない!
わたしもです姉様!
「す、すまぬな。だが『ゲブラー』の事も察してはもらえぬだろうか?」
「フハハハ!」……師匠が笑ったのを初めて見た。
そのまま師匠は話し始めた。
「エルフの特性上、人間との国交など、最初から結ぶ選択もなく会合が開かれる。意味のない事に時間は使わせん、この場で形だけでも決めよ。俺からは口を出さぬが見ているぞ」
「アルテル。お前の仕事だ」
突然、人間とエルフ……国同士の会合がはじまった。
【アルテル】
──────────
アンといつもの様に自室で仕事をしていて良かった。後少し遅かったら晩餐会の準備が始まり欠席しづらくなる所でした。
カイル様が急に現れて、喜んだら「国交会談だ。ついてこい」と、私は攫われて——
「ここは?」
なるほど、目の前に十人居る。この方たちはセフィラ十賢……まさかここまでお膳立てされているとは、いきなりですね。
カイル様はいつもこうです。
「アルテル。お前の仕事だ」
分かりました。やりましょう!
私はエルフの国の十賢に向き合った。
と……なぜエルトゥア様が?
「初めまして。
突然のお招き嬉しく思います。」
こちらが無理矢理来たとは言わない、足元は見せません。でも、挨拶は一番の礼節を持って。
「人族の国の第一王女アルテルと申します」
人の国は沢山あるけど、今は人の代表でいい、余計な情報は無駄なだけだ。
「うむ、紹介感謝する。
我らはセフィロトの子『セフィラ十一賢』」
十賢ではない? この状況を見る限り、エルトゥア様が十一席? 椅子が合ってないので見づらいけど。お人形みたいで可愛いです。
いや、違う。
あまり無駄な会話はいい、私はこの状況を知らない、なら言うべき事は一つだけ。
「国交を結んで頂けると言う事で、人族を代表して感謝を申し上げます」
どうでしょう? カイル様には国交会談しか言われていませんが、決定事項でと言う事で逃げづらくなるはず。
——思った以上に困ってますね。
十一人もいるのに……やはりカイル様の存在の所為なのでしょう。
「待って待って。話が唐突すぎ、僕たちはまだそこまでの話をしてないよ」
あ、僕はビナーよろしくね。と自己紹介をしてくれた。黒髪の男性、この方が『理解のビナー』様——
お父様に聞いた事がある。十賢の何人かは話術が人のそれではないと、その中にあった名前だ。
なんて事のない発言なのに……と、言う事はこの時点で流れを持っていかれたと見て間違いない。
仕方ない、押してみよう。
「え? 私はそう言われてここに連れてこられたのですが……カイル様?」
さぁ、巻き込ませてもらいます。
カイル様がどう出るかで話を変えましょう。
「そうだな。そのつもりで連れて来たんだが」
……えーと、カイル様の発言力がおかしい。
少し見ない間に別人の様になっているのもそうですが。
一言発しただけで、十賢が黙ってしまった。
ここは、無理に私が発言すると持ってかれるので待ちましょう。
「もう、国交結んでもいいと思うよ」
あ、アルテル王女殿下。私は『慈悲のケセド』よろしくね。もし決まったらお茶でもしましょ。
と、青髪の綺麗な女性で気さくなケセド様だった。
これで、流れが完全にこちらに向いた。
私自身……こんな歴史的偉業が簡単で良いのかと思ったくらいにその後の流れも筒がなく終わった。
私は数日滞在する事になった。
これは、願ってもないチャンスだ!
国交はついで……さっさと書類をまとめて一緒に遊べたら!
などと計画していたのに——
後ほど、ケテル様と取り決めなどをまとめるので執務室にと、移動する事になってしまった。
立場が邪魔をする!
【アメリア】
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久しぶりの姉様が怒涛の快進撃ではけて行った。単純に凄かった……いきなりこんな所に来て出来るものなの? 王族って凄い。
(主人とは大違いじゃな!)
(最近さ、当たりがキツくない?)
(それだけ、心開いておるわけじゃよ)
そう言う事にしておく。
十賢がみんな呆然としているけど、国交が決まったのならそこに頭を走らせれば良いのにと思う。
「さて、俺は報酬を貰って帰るぞ」
あ、もう終わりなのか……やっぱり師匠でもエルは無理なんだ。
わたしは諦めたくなかったけど、仕方ないんだね。
師匠がテーブルまで行き複数の書状を持ち去る。
「行くぞ」
最後の挨拶さえ出来ないくらい遠くに行ってしまったのか……寂しいです、師匠!
わたしは少し涙目になる。
「よいしょ」
よいしょ? エルっぽい声が去り行くわたしたちの後ろから聞こえた。
十賢が一斉にエルの行動をみる。
「待って」
エルが師匠に駆け寄る。
何が始まるの?
「それじゃ、十賢諸君。俺たちはもう行く」
と、言ってわたしたち三人は、ここからすんなり出ようと出来るわけもなく、怒り混じりの言葉が飛んできた。
「ふざけているのか? エルトゥアよ、いや『ダアト』!」
ケテルが声を張り上げる。
うん、わたしは全然この状況嬉しいけど流石に駄目だろうとも思ってしまう。
「真面目」
エル……わかるけど。
お人形の様な格好のエルは真面目でも真面目に見えない、可愛さがある。
これには、十賢の何人かがお怒りだ。
ただ、なぜか全員ではないところが不思議。
「ふっ、この状況。まさかいつまでも気が付かないとは滑稽だな」
本当に今回の師匠は無敵すぎて、恐ろしい。
言っている事は全然分からないが、何か起こるのだけはわかる。
「な、何の事だ!」
師匠、悪い顔……してる。
「ユダがいる——」
ガタッ
一斉に全員が立ち上がりそれぞれを見た。
『ユダ』?
(わかる?)
(まさかのぉ……裏切り者じゃな)
これは、凄い事になって来た。
十賢の中に裏切り者?
それと、エルの行動にどんな意味が?
エルもビックリしてますよ?
分かりません……
師匠——
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




