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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
4章 エルフ国編

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4-13 エルフの英雄 2



【コクマー】

──────────

 

 カイルが私に提示した提案は二つ。

 仲間のこの国でした事を全て帳消しにする。

 交渉により仲間が望む事を全て受け入れる。

「もちろん、報酬は別だよ!」と、おまけ付きで。


 目の前のカイルがとんでもない事を言って来た。

 当然、無理だと断ったが「ならこれ返すよ」と『目玉のサタン』を私に渡して来た。


 触れた瞬間あの時よりも禍々しい恐怖を感じ反射的に投げた。

 「別に触っても大丈夫なのに」と、拾い、手の中でサタンをこねくり回すカイル。


 これは……交渉の余地はあるのか? 完全に強制だ。私のした事はカイルにとっては最低最悪だったのは認める。


 しかしだ……思案する——


 つまりこれは、極論を言えばあの二人がこの国を潰してと言ったら潰さないと行けなくなる。


 もちろんそんな事は言わないだろう。

 しかし、私を憎んでいる二人だ交渉で憎しみから出る言葉から何を言われるか、わかったものじゃない。


 それ以前に私だけの裁量で決められない事だ。


——ふと、気づく。

 なら……ケテル……いや、他の十賢も気づく。

 私は試しに確認した。


「あの二人と話し合うのはありなのよね?」


「もちろんさ、話し合って決めて」


「なら、その結果が貴方の望む物では無くても?」


「僕の望む事は『帳消し』と『仲間の望む事』だけさ」


 この人はわかっているのだろうか?

 今ので流れは変わった。

 後は十賢と話し合うだけだ。


「分かったわ、少し時間を貰います」


 そう言って向かおうと思ったら、カイルから「僕は適当に寛いでいるから、これをコクマーさんに渡しておく」と言われ『目玉のサタン』を渡される……私が反論する前に「頑張って交渉してね」と言って文字通り姿が消えた。


 見透かされているの? 確かに十賢との交渉にはこれがあれば楽に進むけど……問題は山積みだ。


(よろしく”元宿主”さん)

(話せるのね……二度と話したくなかったわ)

(連れないなぁ。そういや、カイルからの伝言だ。俺の事は二人には伏せろとよ)


 言わないわよ!

 カイルの言葉なのか、サタンの虚言か……どうせ言うつもりはないから考えるだけ無駄ね。


 さて、ケテルに召集をかけてもらいましょう。



【セフィラ十賢】

──────────


 この数日で何度規則を破るのか……

 横にいるコクマーの持つ目玉を思いながら『霊門』を消す。


「行くぞ」


 中央の円卓には既に全員が集まっていた。

 わしとコクマーもいつもの場所に座し、わしの号令で始まる。


「さて、今回は——」


 すぐに多くの十賢から反論が来る。

 当然だ、さて答えはもう決まっておる。

 時間は有限、無駄を省きそこに持って行きたい。


 わしの思考を読んだのか、コクマーが目玉のサタンを転がす。

 転がる目玉はたまたまだろうが、ゲブラーの方を向く。


「ぐっ……」

 目が合っただけで冷や汗か、当然だ。


 性質は我らとは真逆、無神論のカオス……さて、十賢はどうでる?


「美しいわね——」


 美のティファレトが触れる。

 すぐに、カオスの思考に飲み込まれ始めた。


(お前の美とはなんだ?)

(簡単な事よ。永遠に残る変わらない存在ね、例えるなら『セフィロトの大樹』そのものよ)


(ほう、それを破壊するのが最も美しいとは?)

(な、何を言っているの? そんな訳——)


 勝ち負けではない、固定概念の最も弱い所だな……カオスの思念が全員に共有される。

 抗える物がいれば……無駄だとは思うがな。


(……好奇心は好きか?)

 すぐにわしにも思念が飛んでくる。

 わしも、好奇心には抗えぬか——


(所詮。光だ何だと言っていても欲に塗れているじゃねぇか……一人は面白い思考を持っていたがな)


 カオスに抗った十賢が一人おるのか……

 コクマーか?

 さすがと言うべきか、一度経験があったからなのか……

 しかし、他の十賢は全滅か。

 さて、これで反論も減るだろう。


 ここからが交渉の始まりか——


「第十一の席『ダアト』を作る」


 カオスの話で面白い事を聞かされた。

 それと、わしが精霊の言葉に民の話を合わせて導き出した答え。


 エルというエルフが自ら『アビス』を生み出した。

 この事実は『セフィロト』の歴史上初めての事だ。

 コクマーから聞かされた条件を聞いてすぐに覆せる事に気がついた。

 提案してきた依代の本体。


 わざとなのか何も考えていないのか、エルを十一席に据えれば全てが丸く収まる。


 エルの力はそれに値する、この流れは我らにとっても理しかない。

 面白い子を連れてきてくれたな、偽物のハイエルフよ。


——思考している間に、話は纏まった様だ。


 ここはわし自らエルと言うエルフを見に行ってみようか。



【エルトゥア】

──────────


「あなたは『解放者』よ」


 コクマーの言葉にうずくまる——

 解放者……何で知ってるんだ!

 アイツのせいか!

 他人に言われると恥ずかしくて死ぬ。


——この国が私の故郷。

 でも思い入れは一つもない。強いて言えば精霊が沢山いる事くらい。


 セフィラ十賢……遥か昔、会ったことのあるのは私を人の国に送ったそこの女だけだ。

 

 特に何の反応もない、協力は期待するだけ無駄なようだ。

 

 どちらにせよ答えは決まっている。


「無理」


 二度目の拒否に十賢は条件を出して来た。

 今回の精霊の返還の不要、『根原宮』の不正使用。アメリアの剣の盗難、無断使用。

 と、罪状を並べ立てられた。


 罪にするかどうかは答え次第らしい。


 最初以外は拒否した時点で仲間に迷惑が行く。

 カイルの話を出しても無駄に終わった。

 結局は私が受け入れるまで続く無謀な交渉……


 望みを言えと言われても仲間以外に望むものはない。私は英雄を受け入れようとした、と言うより受け入れるしか無かった。


 そこにおどおどしながら挙手をし話し出した一人の男がいた。


「あ、あの……ちゃんと全部、話してあげるべきでは?」


 なよなよとした言葉だが芯の通った声で発言したのは紫の髪をした『基礎のイェソド』


 ……全部とは何の事?

 まだ何かあるの?と思ったら。


 突然、議論が始まる……その話の中で私を第十一席に据えると言う話が出て来た。


(これが、目的なの?)


 私がセフィラ十賢に名を据える?

 ありえない……落ちこぼれで、一人ぼっちで

やり過ぎて、逃げるようにこの国を出た私が?

 英雄を受けていたらそのまま私はこの国のセフィラになっていたかと思うとゾッとする。


 議論は続いているが、私の扱いをどうするかになっている以上、もう私の意思はそこにはない。

 悔しさで嫌になる……


 でも、何かおかしい、議論の方向が少しずつ変わって来ていた——


「なら、国を出しては?」


 !? 今誰が言ったの? 十人がそれぞれ話をしている中、確かに聞こえた声。

 すぐに議論の波に消えて行ったがこれは使える。

 私自身考えていなかったけど、それが通るなら別に英雄でもセフィラにでもなってやろうじゃないか!


 私は少し手を挙げて、一言口にした。


「なる」


 突然の言葉にアメリア含め全員が私を見た。

 

 

【カイル】

──────────


 カオスから連絡が入り、コクマーさんの部屋に飛ぶ。


「やぁ、終わったの?」


 コクマーさんは『目玉のカオス』をテーブルの上に転がして結果を伝える。

 僕の条件は守られた。


 二人の罪はなくなり、話し合った結果、エルはこの国のセフィラになるらしい。

 つまり、エルとの旅はここまでだ。


 そっか、エルがそう決めたのならしょうがないね……僕は残念だと思った。


 カオスを左目に戻しながら——

 あれ、どうしてだろう。

 胸が痛い。

 不思議な感覚……これはある意味コミュ症の僕にとっては成長なのでは?

 頭の上に帰って来たヒアもお別れするのを察して残念がっている。


「アメリアには会える?」


 突然言葉がでてしまったけど、それは今は無理らしい。

 アメリア自身がエルに直訴しているのもそうだが、明日直ぐにでも英雄の誕生を知らせる式典を始めるのでそれに騎士としてアメリアが同席するのも決まったと。


 なるほど、少し会えればと思ったけど。

 二人が決めたのなら問題ない。


「不満を言わないのね」


 不満? 何に対してだろう、特にないなぁ。

 強いて言えばそろそろこの国は飽きたくらいかな……ずっとヒアと缶詰だったし、解析も精霊も見るべきものは終わったし。

 アメリアが帰って来たら、報酬……


「あ、報酬は?」


 コクマーさんに呆れられた。

 式典が終わり次第、しっかりと言われたものはくれるらしい。既に話も通してあるので絶対だと。


 良かった。なら元々の目的地『ハイエルフの墓所』に今度こそ行こうかな。

 あー、エルに場所を……

 そうだ、もう一緒には冒険出来ないのか。


(ねぇ、カイル様。寂しいならそう言えばいいのに)

(僕は寂しいの?)

(知らないよ!)


 うん、ヒアに言われて気づく。

——寂しいのか。


 決まってしまった事を後悔してもしょうがない切り替えよう。


「式典はいつ終わるの?」


 明日の日が昇り切る前に始まると言われても……十時頃かな? 時計がないのって不便だ!


 本当にお披露目だけなので、お昼頃にはアメリアとは会えると。


 ただ、報酬はちゃんと十賢……その頃には十一賢の元で受け取ってほしいらしい。


 ほう——僕に報酬を渡さないつもりだな?

 コクマーさんとエルを除いても九人!


 十分命懸けだ……くそっ!

 ここに来て、飛んだ仕打ちだ……


 報酬は意地でも、受け取るぞ。

 そっちがその気ならこっちだって——


「いいだろう! 首を洗って待つがいい!」


 僕は準備のためにセフィロトの枝の上に飛んだ。



【コクマー】

──────────


 カイルが消えた場所を見つめながら焦る。


 な、なぜ報酬をただ渡すだけなのにあんなに凄むのかしら……やはりこの結果に納得いってない? 私は少なくともカイルの出した条件は全て飲んだ。


 今回はなんの落ち度もない。

 これはケテルにも確認済み。

 サタンを使役したカイルにこの国は抗えない、だからこそ、根が善人で良かった。

 嘘さえ付かなければ、御し易い。


 ……だめね、彼とは対等でいるべきね。

 長年、上に居るとどうしても十賢以外を下に見てしまう……そのせいで国を失う所だった。


 私はもう間違えない。

 この国はセフィロトの木の元にあるのだから。


 


面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)

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