4-12 エルフの英雄 1
【コクマー】
──────────
私は異変の終息を見てから一度自室に戻っていた。
この事態で『根原宮』の中は民でごった返している、なぜこんな事になったのか……これは十賢の招集があるわね。
正直、非常時くらい開放すれば良いと思うが、セフィロトの繋がりは規則を重んじる、必ず誰かは不満を漏らすだろう。
今後、すぐにでも慌ただしくなる。
それまででも、一人になりたかった。
自室の中央にあるテーブルの椅子に座り重荷を捨てる様に突っ伏した——
「はぁ……」
蓋を開けてみれば、全てが終わった。
被害もあの二人のおかげでほぼ無かった。
『バチカル』はどうなったのかは分からない。
だが、闇が晴れ黒霊が消えた事で……可能性が出て来た。
「私は……国は助かったの?」
言葉にして初めて実感が湧く。
それと同時に自分のした事を重く受け止める。
頬に水が流れ落ちた。
反射的に頬に手がいく。
「涙——」
どっちだろう、安堵か懺悔か……分からない。
ただ、誰も居ないこの場所でよかった。
少し眠りたいと思い目を瞑ったら突然後ろから声がした。
「やぁ、報酬を貰いにきたよ」
「!?」
ガタンッ
いきなりの声に心臓が止まるかと思った。
すぐに立ち上がり後ろを振り向くと、その訪問者を見て更に目を疑った……
「な、なぜ?」
白い男……いえ、カイルは私の問いに難色を示した「なぜ? って約束の報酬を貰いに来たんだよ」と、私のした事を考えれば報酬をあげるのは正直構わない。
だけど……
「報酬は渡しましょう。
でも、一つ答えてくれない?」
カイルが生きて現れた事で関係あるとすぐに関連付け頭に思い浮かべた疑問を投げかけた。
その問いに、カイルはめんどくさそうに話し始めた。
【カイル】
──────────
どうせ教える流れになると思ったけど、まさか取引とはね。
何故か前より話しづらくなっている所を見ると……『無神論』は関係あるのかな?
ただ、きっと一度話せる様になると普通の人よりは慣れてしまう。
そんな感じなんだろうね。
『アルテル』みたいなものかな?
僕にとっては会話の出来る人が増えるのは嬉しいよ。
さて、めんどくさいけどコクマーさんに今までの事を話してあげよう——
「ありえない……」
コクマーさんの目は全く僕を信じていなかった。
信じてよ! あれかな、自分が嘘つきだから他人も嘘をつくみたいな?
まぁ、この為の準備もして来たけどさ。
僕は一言「驚かないでね」と付け足しフードを取って左眼を見せた。
「そ、それは……何ですか?」
あれ? サタンが言うには長年共にした仲だって話なのに(サタン、どう言う事?)
(悪いが、目を見せて理解しろって方が無理だ)
(めんどいな。コクマーさんにパスを繋ぐから説明して)
「今、サタンが話すからちゃんと聞いてね」
僕は待つ——するとコクマーさんは段々青ざめて来て、膝を付き謝り出した。
いや、何してますのよ……偉い方でしょ?
物凄く取り乱し、赦しを得ようとしている。
(なんて言ったの?)
サタンはニヤつきながら——
(コイツに取り憑いて絶賛侵食中だ。
いずれコイツを食い破って、またお前に挨拶しに行くから楽しみにしてな!)
って……僕は左眼を取り出して地面に叩きつけた。
ドンッ!
コロコロ
(何しやがる!)
(このくらいで済ますんだ、感謝しなよ)
「コクマーさん——」
今の行動もそうだが、終始驚いているコクマーさんに信じてもらうまでに、中々の時間を費やした。
僕の用意したカードは不発どころか暴発だった……
「で、では『バチカル』も『サタン』も終わったのですか?」
「はい、そうですよ」
その言葉を聞いてコクマーさんは涙を流しながら感謝してきた……何とも忙しい人だ。
感謝とかいらないから、本気で泣かないでほしい……
(カイル様ーーーーーーっ!)
ヒアから突然念話が飛んできた。
このエルフの国では、妖精族が当たり前らしいのでヒアは比較的自由に飛び回れるっぽい。
僕を心配してか、ずっと一緒だったが……僕が動き出したこのタイミングで今までの退屈が爆発して飛び出していった。
確かに、最後の方はヒアの活躍がなかった。だけど、僕からするとずっと大活躍だったよ。
(外が凄いことになってるーーーっ!)
人がいる事自体が凄い嫌な事なんだが、それ以上はないだろ……と聞いてみると確かに凄い事になっていた。
——ヒアの話からすると。
このエルフの国に『英雄』が生まれたらしい。
それが、なんと『エル』で今日儀式によって降臨するはずだった、ハイエルフ様とむすびつけて、この『根原宮』の大広間で崇められているとの事だ。
アメリアは? と聞くと、英雄を支えた騎士になっていた。
(もうアメリアたちに話しかけてもいいよ)
(うーん、人が多過ぎてさすがに……)
なるほど、ヒアでも怯む量か……あり得ない。
良い情報をありがとう。
後でご飯をあげよう——
僕が逃げている間にみんな出世したね。
コクマーさんはこの状況を知ってはいたらしい、そして十賢の判断次第だが『規則』で判断すると何故か勝手にこの『根原宮』に立ち入った罰は免れないと言う。
僕はその辺りはよく知っている……上でどれだけルールでがんじがらめになっていたか! それを当たり前の様に過ごしていた盲目的な自分にも。
それに近い状況になってるね、これは。
ほんと嫌だね。
二人が望むかは分からないけど、このままだと、くだらない規則に泣く事になる。
それだけは見たくない。
「コクマーさん、この状況を使ってさ——」
僕は、ありったけの権利と弱みを使った。
【アメリア】
──────────
師匠に会いたい!
もう訳がわからない……外が片付き『根原宮』の中に居るはずのエルを迎えに来たら——
「英雄の騎士様だ!」
とか、すごくどうでもいい!
助けたのは勝手に動いた……いや、エルの為だ。
助かったんだから好きに喜んで下さい。
そもそも、お前たちの上に居るコクマーがわたしたちに何をしたと思ってるんだ。
根原宮の入り口の広間はエルフでごった返しておりエルがどこに居るかも分からない….
わたしは、堪えながら優しく話しかけた。
「エルはどこ?」
出したつもりのない殺気が出て、言葉を待たずに人の壁が道を開きエルが寝ている場所が見えた。
すぐにエルの所まで駆け寄ったが、何とも幸せそうな顔で寝ていて安心した。
わたしはエルを優しく背負って宿に戻ろうとした——
「ま、待ってください……英雄様を連れて行かないで!」
周りも同じ意見なようだ、言葉は理解できる。
だけど……言葉だけだ。
宿で静かに休ませたいから、無視した——
「皆の者、静まれ!」
突然、階段の上から聞こえた静かだが力のある声に誰もが静まり返る。
「ケテル様——」
近くの人がその人物の名前を呟いた。
見上げると。師匠と同じ様な真っ白い色の長髪で長身の男がこちらを見下ろしていた。
あれがケテル……名前だけで見たのは初めてだったが、存在感はわたしのお父様と良い勝負だった。
ケテルは物凄い眼光で私の方を見て。
「エルとその友よ、こちらへ」
結局、宿には戻れないようだ。
この国はなぜだか、のんびりした雰囲気なのに窮屈な思いしかしていない。
でも、上が出てきたならもしかしたら師匠の事を聞けるかもとわたしはついていく事にした——
無言で前を歩くケテルに私は師匠の事を聞いてみたが、返ってくる言葉は「すぐに分かる」だった。なぜ、この手のタイプは説明しないんだ!
お父様、騎士長、セバス……みんな同じだ。
——こんな下にも道があったのかと思うくらい下った先に半透明の靄があったがケテルの一言で掻き消えた。
そこを通ると広い書物庫? みたいな所に……九人のエルフが座っていた。
みんなケテルの様な凄みがあり、その中の一人は忘れもしないアイツだった。
「コクマー! 師匠を返せ!」
苛立ちの言葉を投げたが、特に変化もなく会話が始まる。
「あれ? コクマーの知り合いなの?」
それぞれ、個性的なエルフ達の会話がわたしの目の前で続く……話の内容から全員が師匠を知っているらしい。
(全員共犯か!)
(主人、よさぬか!エルも居るのじゃぞ)
(でも——)
ティアと念話をしている間にケテルがこちらを向き他の全員もわたしの方を向き静まり返る。
少しの間がありケテルが頭を下げた。
「この国を……民を救ってくれて感謝する」
急な言葉に思考が止まる——
そのまま、全員が席を立ちわたしの前に来て片膝をつき、各々から感謝の言葉を貰う。
あまりの出来事に未だ混乱しながらも言葉を搾り出す。
「やめてください! わたしは……何も」
わたしの言葉を聞き、急に和やかになるエルフたち……その時、いつ起きたか分からないが背中のエルが呟く。
「十賢」
え? これがこの国を代表する『セフィラの十賢』……結局、全員が師匠の誘拐を目論んだ黒幕?
なんで、お礼が言えるの?
混乱する頭が更に混乱する。
しかも、わたしの直感は敵じゃないと言っている……あまりの混乱でエルを支えている力が抜けてしまったことに気づかなかった。
ドンッ
「痛っ」
「あ、ごめん」
何人かに笑われた。
和むな! むかつく——
エルが服をパンパンしながら立ち上がり、わたしの聞きたかった事を簡潔に聞いてくれた。
「カイル無事?」
「無事だ」
ケテルが一言告げる。
わたしはそれを聞いて少し、いや、かなり安心した。
エルが起きた事により頃合いと思ったのか、その後に続く言葉に唖然とした……
「エル、この国を救ったお主を英雄にする話が出ている」
エルは「いらない」と即答した。
わたしもあの時のエルは英雄と言われても不思議ではないと思ったが、らしいと思った。
ケテルは答えを聞いても驚きもせずに続ける。
「早まるな、意見を聞いているわけではない。
決定事項を伝えているだけだ」
つまり、何を言っても無駄なわけね。
毎回、毎回、なんで上の人たちは同じなんだ!
——これは、いわゆる交渉だ。
決まった答えに双方納得のいく物を積み上げていく。
王族の間では、よくある話だ。
わたしの旅の始まりの時も父上は否定ではなく望む物を積み上げて答えを出した。
エルは何を望むのだろう。
「私は簒奪者」
あの時の言葉……意味は分からないが良い言葉ではない事はわかる。
エルの言葉の意図に気付いたのか、これに答えたのはコクマーだった。
——中々にすごい話を聞かされた。
エルはこの国の中位以下の精霊を根こそぎ奪ったらしい……数は総勢十五万——
そんな事を寝ながらやっていたとは思わなかった。
あの『アビス』を見た時は驚いたけど、元々精霊が見えないわたしには正直よく分からない。
だが、そのおかげで『黒霊』に、弱い精霊達が侵食されずに最悪の事態を免れたと言う。
もし、エルが精霊の制御権を奪わなければ、黒い球体がこの国の精霊を奪い続けもっと大事になっていたらしい。
エルはこの国の精霊を奪った悪だと言いたかったみたいだけど、それをまるで見透かした様に潰して行くコクマー。
事実を知っている私には結果論でしかないのだが……事実エルの行動全てがこの国を救った。
本当の意味での『英雄』だった。
最後にコクマーは笑顔で伝えた。
「あなたは『解放者』よ」
解放者にどんな意味があるのだろう。
エルを見るとその言葉を聞いてうずくまって頭を抱えていた……恥ずかしがっているとわたしでもわかる。
(これは今後、聞いてはいけないことだ。
エルの為にも心に留めるだけにしよう)
この流れ次第ではここでエルとお別れも考えないと行けない……
拒んでくれれば全力で止めるけど……
万が一でもエルが留まりたいと言ったら——止めるのはきっと無理だ。
師匠はどうするべきだと思いますか?
わたしは流れに身を任せるしかなかった。
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




