1-5 二人で森を出る
【カイル】
──────────
お礼をされる為に、王女について行く。
どのくらい森を彷徨ったろう。
「……はぁはぁ」
疲れたのか、はぁはぁ言ってる王女が心配になってくる。
そろそろ僕も、当てもなく歩くのは精神的に疲れて来たよ。
「どこに向かってるの?」
結構、慣れたのかな?
自然に言葉が出て来て、びっくりした。
「はぁはぁ……ごめんなさい。
街道に出られさえすれば、後は……」
街道?
ちょっと大変そうだし、探してあげよう。
…………
僕は意識を上に飛ばして、上空から見てみる。
こうやって見ると、よく分かる。
僕達がいる場所は森の中だった。
それも、かなり広大。
食べ物探しの時は、そんな事気にも留めなかった。
そういえば、あの盗賊団って結構深いところに住んでたんだね。
人見知りかな?
そんなことより、街道探さないと――
んー……街道、どこだ?
……あ、あった。
「ねぇ、ここから右に真っ直ぐ行くと街道に出るよ?
このスピードだと、三日くらい」
僕は、見つけた街道の場所を教えてあげた。
それを聞いた王女が、急に力を抜いて膝をつく。
「……そんな。せっかく助かったのに。
あと三日もなんて、無理……」
何を驚いてるんだろう。
目的の場所が見つかったんだし、後はそこに向かうだけだと思うんだけど。
……と、そういえば。
上から見たら、魔物も結構いたなぁ。
結界を、あと二回り大きく張っておこう。
何度か結界を破ろうとする魔物に襲われてるんだよね。
今の王女には刺激が強そう。
二回り大きくすれば、見えないでしょ。
でも、安心したなぁ。
この森、あんまり強い魔物はいないみたいだし。
これなら今の僕でも問題ない。
王女は相変わらず、へこたれている。
このままでもいいけど、木の実の謝罪も上手くいかなかったし、街道まで連れて行ってあげよう。
「あの、僕が街道に連れていくよ?」
「え?……でも、私これ以上歩けません」
申し訳なさそうにしてる。
でも、この世界の女性はしがみつくのが好きみたいだし。
あれだけしがみつかれても気絶しなかったから、この子に掴まれても大丈夫そうだ。
いけるかも。
「僕に掴まって」
「……いえ、無理です」
なんで?
さっきは泥だらけになるまで掴まってたじゃん。
あ、汚れてるからかな?
なら。
パチン
それっぽく魔法を使った感じで、王女のボロボロの服を綺麗にしてあげる。
「これで掴まれる?」
王女は自分の格好を見て驚く。
「凄い……ありがとうございます。
でも……殿方にしがみつくのは、ちょっと……」
何、言ってんの?
さっき、物凄くしがみついてたよね?
……もういいや。
「目を瞑ってて。一気に行くから」
僕は王女を無理やり持ち上げて、目的地に向かった。
このくらいのスピードで限界か。
身体の重さにも慣れて来たけど、いざ全力で動かすと、自分の弱体に悲しくなる。
「キャアァァァァ! 無理です!
お願いします、降ろしてー!」
抱えた状態だと、王女の顔が丁度耳の側に来るので、うるさかった。
森の中を突っ切るというより、木の上を渡って飛び抜ける。
この速さなら、すぐ着きそうだ。
「急ぐよ! 口は閉じていてね」
うるさいから。
「むりですー! いやぁぁああ!」
——
ふぅ……疲れはあまり感じなかったけど、耳が……。
抱えられていた王女を見ると、ぐったりしてた。
「……着いたよ」
一応、街道に着いたから伝えたけど、どうりで静かになっていると思ったよ。
僕は王女を、街道沿いに立っていた柱にゆっくり降ろした。
放心状態の王女は、ぐったりして視点が合っていなかった。
そのまま、王女が元に戻るまで端っこに座って考えた。
それにしても、王女は何で街道に出たかったんだろう。
僕はそんな所はごめんだけど、助けを求めるなら、この先の人が集まっている街の方がいいと思うんだけど。
変わってるなぁ。
僕と同じで、人が苦手なのかな?
やる事もないので、上を向くと鳥が飛んでた。
……可愛い。
——
「ん……こ、ここは……」
あ、王女が起きた。
あれから結構時間は過ぎたけど、この何もない時間も有意義だった。
お礼を貰ったら、もっと色々回ってみようかな。
起きた王女は立ち上がり、キョロキョロして僕を見つけると、こっちに来た。
「あ、ありがとうございます! まさか本当に街道に出られるなんて」
周りを見て、驚き喜ぶ王女。
喜んでもらえて良かったよ。
せっかくだし、さっき少し思ったことを聞いてみる。
「でも、王女さん面白いね。
同じくらいの距離に人のいる街があったのに、街道に出たいなんて」
一気に言えて、僕も成長したなぁ。
王女を見るとプルプルしている。どうしたんだろう。
「な、な、何で言ってくれないんですか!
それなら街の方がいいに決まってます……あーもう」
何で僕が悪くなるの?
聞かれなかったのに。理不尽じゃない?
……僕はへこんだ。
それを見た王女は、自分の言葉を思い返したようで、あたふたしだす。
「あ……ご、ごめんなさい。
せっかく連れて来てくれたのに。
それに、街道で大丈夫です! 見て下さい。
街道に転々としている、あのクリスタルの付いた柱」
王女の指差す方を見ると、確かに街灯みたいな物が等間隔で並んでいて、上の部分に青い透明な石が付いていた。
「私の持っているこれと、あのクリスタルが共鳴すると、
それを受け取る対となる受信具が、すぐに居場所を特定してくれるんです」
そう言って、ネックレスに付いている同じ色の石を見せて街灯に向けると、光が上に放たれ、どこかに飛んでいった。
「へぇー。凄い、面白い」
この世界の技術は、結構面白いな。
僕は意識を飛ばして、光の行く先を見た。
おや。
さっきの街の近くで大人数が群がっている所に飛んで行ったと思ったら……その大人数が慌て出して、こっちに向かって来たぞ。
え、待って。
これはやばい。想像したら震えてきた。
少しは慣れたと思ったら、全然だ。
無理だ。あの人数が、今からここに来るの?
……ありえない。
お礼はもういらない。
——お別れだ。
……何も言わずに行くのは、悪い気もする。
せっかく話せる数少ない人だし、お別れだけは言おう。
「あの、今から迎えが来るみたいだから、僕はもういいよね。
お礼はいらない。さようなら」
【アルテル】
──────────
急にどうしたんだろう。
せっかく迎えが来るのに、なぜか急に去ろうとする彼を、何とか引き止めないと。
私は意を決して——
——彼にしがみついた。
一度しがみついた時、彼は振り解かなかった。
なぜだか分からないけど、引き止めるにはこれしか思いつかなかった。
「もうすぐ迎えが来るなら……尚のこと待って下さい!」
本当にごめんなさい。
でも、どうしてもお礼をさせてほしいんです。
「……やめて、もう無理だ」
必死でもがく彼。
この人の力が異常なのは知っている。
未だに振り解かれないのは、力を弱めてくれているからだ。
変わっているけど……優しい方。
どのくらい、しがみついていたのか分からないけど、急に抗う力がなくなった。
見ると、彼はぐったりしていた。
「え?……気絶してる」
うそ、どうして?
……やっぱり無理をしていたのね。
それを私に見せまいと、立ち去ろうとした。
……なんてお方。
——
ガラガラガラ
倒れた彼を介抱していたら、街道の向こうから馬車の音が聞こえて来た。
「姫様ー!」
……はぁ、これで本当に助かった。
張り詰めていた気が抜けていくのを感じていた私は、彼を見ながら、今回の事はきっと忘れないだろうと思った。
迎えに来た騎士長や兵士の皆さんと、執事のセバスが涙を流して再会を喜んでくれた。
が、すぐに私の状況を見て驚き出す。
どうしたのだろうと、私の膝の上で寝ている彼を見たら——真っ赤だった。
色々あって忘れていた。
赤い木の実を食べて、白い服が真っ赤に染まった今の彼。
この状況……
真っ白だった服が真っ赤に染まった人を膝枕している私は、側から見たらどう映るの?
「ひ、姫様! その死体は何なのですか!」
ですよねー……。
騎士長がすぐに駆け寄って来て、私から彼を剥がそうとする。
「待って、お願い。彼は命の恩人なの」
ガバッと覆い被さって遮る私に、セバスが「お労わしや、姫様」と勘違いして泣き始め、騎士長はさらにまくし立ててきた。
「な、何を言っているのですか!
血だらけではないですか。確実に死んでますよ?」
いえ、分かりますよ。
この状況を見たら、私だってそう思うかもしれません。
でも彼は、ちゃんと……
「生きています!」
私の言葉を聞いても信じてもらえず、みんな泣き出した。
その後は言うまでもなく、拗れに拗れた。
せっかく助かったのに、これは何?
どうしたらいいの?
今となっては、私の膝の上で呑気に寝息を立てている彼を、少し羨ましいとさえ思ってしまった。
「息してますよー」
「スピー、スピー」
【カイル】
──────────
毛布って最高だなぁ。
ガラガラガラ
現実が蘇って来る。
気絶しているうちに、僕はもう逃げられなくなったようだ。
ふわふわの毛布をかけられて、隅っこで寝かされている。
周りを気にしなければ快適だ。
それにしても、あんなに心配してくれる人がいるなんて。
あの子……王女って人気なんだね。
知ってたら最初から逃げてたよ。
この後の事を考えると憂鬱だ。
なんか、毛布のせいか服が張り付いて体がベトつくから、綺麗にしておこう。
パチンッ
……指を鳴らすと、ベタつきが消えていく。
指を鳴らす行為になんの意味もないけど、なんかカッコいいよね。
ふぅ。
スッキリしたし、モフモフだし、もう一眠りしよう。
後は、起きた後の僕に任せる。
拗れ中
騎士長「姫様の服に血が……まさか!」
姫「……違います」
セバス「処理します」
姫「やめてください」
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