4-10 顕聖祭 3
【アメリア】
──────────
——顕聖祭当日。
準備はできた。
儀式を待ち侘びてか物凄い人だかりだが、この場所なら中心がよく見える。
儀式場は中央が少し下に下がっている為、人が多くても見やすくなっていた。わたしのいる場所はそこから少し離れた柱の裏に潜んでいる。
後はエルの精霊の合図で師匠を奪還する。
(まだ、刻はある。力み過ぎじゃぞ)
(仕方ないじゃない! 何日師匠に会ってないと思ってるの)
心でティアに怒鳴っても仕方ないが、どうにもならない、結局ろくに眠れもしなかった。
たった青六がこんなに長いなんて……
待ってるだけで心が張り裂けそうだ。
落ち着け
落ち着け
落ち着け……
「おかしい」
へ? 精霊から不審な言葉が聞こえた。
始まるまでは不審に思われない為に言葉のやり取りはしない筈じゃ?
「何か起こる」
「上」
わたしは広場の中央に注視していた目を上に上げる。
空に小さく黒い球体が浮いていた。
「何、あれ……」
どう考えても不気味だ、絶対何か起こる。
あの『ビブリナのダンジョン』の時と同じくらいの異質さを感じる。
「どうするの?」
(これは、広がるぞ)
広がるの? え……儀式は? 師匠は?
「師匠はどうするの?」
「状況」
街の人たちも気づき出した。
それぞれが疑問を投げかけはじめた。
「おい! 警備隊は何やってんだ!」
恐怖から怒鳴り散らす人もでてくるが、突然の事で状況がわかってないみたいだった。
「変わった」
分かるけど……何の為に準備して来たのよ!
ティアの言葉通りに黒く小さな球体はゆっくり広場に降りて来て——急激に広がった。
ブフォォーーーーンッ
黒い闇が風となって押し寄せる。
お祭りの為に集まった周りの人たちと一緒に私たちも闇に呑まれた。
「仕方ない」
真っ暗な闇の中でエルが何かをし始めた。
【エルトゥア】
──────────
もう、こうなったら意味がない。
精霊の制御権を全部貰う。
(待たせてごめんね。私の友達、全ての精霊よ私の元へ)
これが私の成果!
精霊、十五万——
「目を閉じて」
アメリアに伝える。
(さぁ、みんな光り輝け——)
どのくらいが闇に染まったか分からないけど、広範囲十五万の精霊の光をくらえ!
ピカーーーーーーン
エルフの人たちは、まぁ、ごめん。
国が今度は光に包まれる——
なるほど、見えた。
数カ所にこの光に抗う異質な闇の塊が現れた。
光が収まり、闇を飲み込んで青空が再び姿を現す。
一時的で、良かった。
広間の中心、先ずはあそこならアメリアもすぐに行ける。
「アメリア」
私の言葉にアメリアの目線はすぐに中央を捉えた。
敵の強さにもよるが、どうだろう……
精霊から見るアメリアは何をしているのか全く分からない……が、塊が八つ裂きにされて消えていくのは分かった。
「凄い」
「強かった。というか、ティアじゃないと無理だった。
あの時と似ている」
黒い時点でそうかと思ったけど、なんでエルフの国に来てまでこうなるのか。
カイルはどうなったの?
空を見上げると球体が幾つも浮いていた。
これは、どうするべき?
私がエルフを助けるの?
「次はどこ?」
アメリアはやる気だ。
仕方ない今は仲間と、敵を倒す事を考えよう。
【コクマー】
──────────
『神を信じてますか?』
一瞬驚いた言葉。
私の情報から導き出した?
神か……それに答えられる気がしない。
セフィロトのセフィラ十賢の一人なのにだ。
後ろの白い男はどちらなのでしょうね……
白い男は私の言葉に健気に従ってくれている。
何とも滑稽だ。
心に揺らぎのない穏やかな存在、私にとって理解ができないが御しやすい者。
嘘と言うものは、命のある者だけに意味がある言霊なのですよ。
後ろをついて来る愚かな『ハイエルフ』貴方の命を私が使ってあげます。
辿り着いた祭壇はとても質素な造りだが、それも仕方ない事だ。セフィロトとクリフォトの歴史がそうさせた。
だが、質素だからこそ、その存在感が恐怖を煽る……私が、いや、クリフォトが目の前に来たのをわかったかのように祭壇は反応を示した。
私は立ち止まり、後ろの白い男に伝えた。
「ここです。この祭壇の前に立って下さい」
白い男は私の言葉通りに祭壇の前に立った。
そして、その眼で私を見据える。
あまりにも曇りのない目に心がたじろぐ。
そんな私を見透かしたように話しかけて来た。
「始めないの?」
今から命を無くす者の台詞なのか……知らなくても少しは疑問を持つ。
そこまで愚かなのか?
それともそこまで私を?
思考が回る、こんな時ほどケテルが羨ましく思う。ケテルなら即断即決だろう。
でも、今の私には時間がない。
無理矢理、覚悟を決める。
さぁ……時間です。
「カイル、目を瞑って。
後は受け入れるだけ……」
長かった。
曲げたままの人差し指を見ながら振り返る。
周りの準備も整った。
指を立てる。
(何だ?)
(お別れです)
人差し指を白い男に差し込んだ。
ズプッ——
サヨナラです。
心が晴れて行くのを感じる、上手くいった。
私から出て行く、まだ始まったばかりなのに歓喜の感情に支配されて行く。
(あぁ……ありがとうカイル)
え? 目の前の男は私をずっと見つめていた。
苦痛も何もなくただ真っ直ぐ。
そして、口が動き出す。
「残念だよコクマーさん、嘘をついたね。
信じていたのに、あぁ……残念だ」
何を言っている、嘘はその通りだが。
この状況で意味がわからない。
「僕は帰るね。後は君達の問題だよ、バイバイ」
帰る? それは駄目だ。この場で滅ぼさ……
白い男は糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。
「こ、これは?」
帰ったのではないのか?
——触れようとしたその時。
動かなくなった男から闇が滴り落ち溢れ出した。
ドロリ……ブシャーーーッ!!
それは産声をあげるかの様に復活を遂げた——
「ハハハーーーっ! まさかこれ程の依代を俺に与えるとはな、コクマー! 願いを言え」
復活した!? 結局何だったの?
予定通りではないか、私は定めた場所に移動してケテル達と合流する——
「ケテル、準備は?」
「問題はない」
ケテルが右手をあげ光を飛ばす。
同時に中央の祭壇を囲み、セフィラ十賢が動き出した。
時間はこの一瞬、顕現して間もない敵に全てをぶつける。
「守護天使を行使する」
ケセドの号令が響き渡る。
「王冠のケテルが命じる『メタトロン』」
「知恵のコクマーが知る『ラツィエル』」
「理解のビナーが解く『ザフキエル』」
「慈悲のケセドが与える『ザドキエル』」
「峻厳のゲブラーが断ずる『カマエル』」
「美のティファレトが彩る『ミカエル』」
「勝利のネツァクが求める『ハニエル』」
「栄光のホドが架ける『ラファエル』」
「基礎のイェソドが固める『ガブリエル』」
「王国のマルクトが築く『サンダルフォン』」
総勢十体の守護天使が祭壇を取り囲む。
それは『セフィロト』の大樹の枝の如く定められた位置に座した。
エルフの歴史でも未だかつてない程の神々しい天使達が一斉に力を振るった。
その光景は、見るもの全てが輝く光に平伏すような、短い一瞬の出来事がとても長く十賢ですら結果は分かりきるほどに….たった一つの敵を消し去った——
——かの様に見えたのはほんの一瞬
すぐに光の中から闇が溢れ出す。
ブフォォオオオン
パリッ
パリパリッ
守護天使達に亀裂が入る。
「コクマー、冗談はその辺にしろ」
何も変わらず平然としている『クリフォトの化身』
あまりの存在にマルクトが呟いてしまった。
その場の誰もが思い描いた……最悪な言葉。
「バ、バチカル」
「言うなぁぁーーーー!!」
ケテルの叫びも虚しく『無神論の神名』が紡がれた。
動きの止まる『バチカル』その神名により完全体となってこの地に顕現された。
「終わりね……」
マルクトがなぜ無神論の神名を知っていたのか、考えられるのはバチカル本人が言わせたのね。
私にも名が頭に流れ込んできた….気のせいではない、十賢全員が無意識に抗ったはず。
だが、この状況。
攻撃が不発に終わり、心が恐怖に支配されている時が一番操り易い……マルクトは悪くない。
一番最初に口にしてしまっただけだ。
「全力で叩け!!」
再びケテルの号令が入る。
そうだ、まだ諦めるわけには行かない。
全守護天使がそれぞれに動き出した。
私も『ラツィエル』に呼びかける。
(好きなだけ魔力を持っていきなさい)
先程より長い攻撃が開始された。
神々しさも何もない破壊する事だけを考えた攻撃。
——全ては国の為『バチカル』を滅ぼす為。
どれだけ攻撃を繰り返したか、それは何事もなかった様に話し始めた。
「ああ、何千年ぶりだ。ありがとうみなさん」
ここまでやって……傷一つ付かないなんて……。
しかも神名を得ると理性的になるの?
バチカルが手を横に切ると、静かに守護天使達が横に裂けて消し飛んだ。
そして、私を見据えてバチカルが言葉を発すると同時に目の前に現れた。
「「願いを言え」」
二重で声が耳に飛び込んできた。
願いなんて、貴方が居なくなる事以外ないわよ。
「出来れば……この世界から消えてくれない?」
言葉がすんなり出てきて我ながら驚いている。
他の十賢なんてもう天使を行使し過ぎて動く事も出来ないようだ。
こんなに、圧倒的だとは思わなかった。
「面白い、やってみよう」
は? 私の驚きとは裏腹に律儀に願いを叶えようとする『バチカル』は自分の中に力を流し込んでいる様だ……闇が溢れ出し身体が吹き飛んだ。
ブシャァァァァーーーン
え? 終わった?
「……すまぬな。無理なようだ」
瞬きをした瞬間再び目の前に現れた。
何だっていうのよ……わざとなの? それとも本気?
バチカルから漏れ出る闇が小さく丸くなる。
「……黒霊か」
黒霊……精霊の対義?
バチカルから溢れ出てくる、黒い球体が周りに増え出しどこかに飛んでいく。
私に出来る事は….
「一つ質問、いいかしら?」
「願いか?」
何でもいいわ。
「そうね、真実を教えて。貴方の強さは何」
光と闇にここまで差があるのは理を完全に逸脱している……もしそれが分かれば、まだ。
「気づかないのか? この身体だよ……ああ、そうだ持ち主の願いも叶えてやらんとな」
何を言ってるの?『ハイエルフ』ってそこまでの者? 身体一つで何が変わるの……そこである事に気づく。
“肉体の順応が早すぎる”
あれだけの力を行使しても、ましてや復活してすぐに神名を受けて顕現しておいて、何もないなんてあり得ない……
まさか、そこまでの身体なんて、全てが誤算だった。
「私はもう行くよ。
この世界はいずれクリフォトに染まる。
短い命をそれまで楽しんでくれ」
『バチカル』はそう言うと去って行った。
黒霊という置き土産を残して。
「せめて、民を守るぞ」
ケテルの決断は本当に早い。
私たちが先に諦めたら駄目ね、出来る事はやらないと。
【バチカル】
──────────
この身体は不思議だ。
全く疲れがこない、眠っている間に感覚を忘れていたのか?
(サタンよ、長い間変わりを務めた事、感謝する)
(……なぁ、あんた本当にバチカル様か? 感謝なんて背筋が寒くなるぜ)
なるほど、やはり肉体に引き寄せられているのか? 万能感と引き換えに何故か感謝を返さなければと身体が勝手に動き出す。
今もそうだ、身体の持ち主に感謝したくてたまらない。これを返せば私は元に戻れるのだろうか。
目的の男は『セフィロト』の枝の上で寝ていた。
「さて、君がこの身体の持ち主だろ?
……願いはあるかい?」
急に現れた私に驚きもせず、ただこちらを見ている白い人間。
「ねぇねぇ、カイル様の身体じゃない! なんで?」
男の周りを飛び回るのは……
妖精族か? この男はカイルと言うのか。
「ん? その身体は捨てたよ。
嘘つかれたし仕方ない」
私を無視するか、豪胆だな。
さて、願いを叶えたいがどうするか。
「カイルと言ったか? 私はバチカル。
願いはないのか? 何でもよいぞ」
——考えているな。
やはり欲には抗えぬ、何かしらはあるのだろう……
「バチカル! 私の願いは叶えてくれないの?」
妖精が語りかけてくる。
少し思考するが、無理だな何の感謝も湧かない。無視だ。
「……嫌なやつ」
怒り出してカイルとやらのフードの中に入って行った。
カイルは何かを閃いた様に話し出した。
「そうだ『コミュ症』治してよ」
コミュ症? とは何だ……私が知らない言葉があるとは、どうする……聞き返すか?
無理だ、無様を晒す事になる……
治してと言う事は病気、怪我などと予想はつく、もしかしたら物かも知れないが。
それならその物を出すはず。
なら、ほぼ何かしらの症状と見て間違いない。
「ねぇ、あの人考え込んでるよ?」
羽虫がうるさい。
む、羽虫……私の中にない言葉だ肉体に引っ張られている。
くっ……なぜ私がコイツの願いを。
「ぐぅぅ」
「何か今度はもがき出したよ?」
羽虫が本当にうざい……
カイルが私の方に歩き出した。
「ねぇ、君さ儀式で顕現した人でしょ?」
右手で、私の顔を鷲掴みにして来た。
(どうせ、話からすると悪い奴でしょ?
せっかくだし、少し解析させてよ)
不思議な思考が私の中に入ってくる。
「ぐあぁぁぁ、何だこれは内側から抉られる」
(サタンよ! コイツを殺せ)
(いいのか! ありがてぇ久しぶりの狩りだ)
(一の無神論が命ずる『サタン』)
私の後ろにサタンが姿を現す——
「ハッハー! 久しぶりの外だぜーー! 悪いが」
「うるさいよ、少し黙ってて」
何!? サタンの動きが止まる……何が起こった?
(サタンよ、どうした?)
返事がない……封じられた? そこに存在しているのに?
「があぁぁぁぁ……」
身体の中が痛みとは違う、内部から削られていくこの感覚は何だ。不快感しかない。
「や、やめろ……我がお前に何をした」
私は何を言っているのだ……こんな慈悲を求めるような言葉を言うなど。
このままだと、私は壊れる。
身体を捨てるしかない。
「あぁ、逃がさないよ。
あとさ、今、下で起きてる事って君のせいでしょ? 何もしてないって嘘つかないでよ」
違う、お前に何もしてないんだ。
間違うな……
「下の雑多などどうでも良いだろ。
私はお前に何も——」
な、殺気? 何故だ……
「あのさ、仲間がせっかく楽しみにしていたお祭りをお前は壊したんだ。
それをどうでもいいって」
中が壊れ始める……さっきまでとは違う。
無理矢理やられているのが分かる。
抗い続けたが、こんな攻撃は知らない。
防ぎようがない……
何処からだ——
最初からか
こうなる運命だったのか
……消える。
……
「んー、少しがっかりだ」
消えゆく意識で聞こえた最後の言葉がそれか……
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




