表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
4章 エルフ国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/76

4-8 顕聖祭(けんせいさい) 1



【アメリア】

──────────


——顕聖祭二日前


 エルの予定通り、街が動き始めた。

 このタイミングに乗じてティアを取り戻す事が出来れば、後は師匠の事に集中できる。


 わたしは、既に人混みを掻き分け検問のティアと話した壁の付近に来ていた。

 問題はここからどうやって検問の中に入るかだ。


(ティア? 答えて……)

 おかしい……反応がない、昨日まではここで会話出来ていたのに。


「いない」


 エルの精霊からの言霊だ。

 多分、精霊が中に入っての情報だろう。

 ここに来て思ってもない事態に陥ってしまった。



【クレメンティア】

──────────


——アメリアが来る少し前。


「なぁ、ここの荷物どうする?」


 なんじゃ? 急に人が増え出したぞ。

 主人達を待っておったのに何があったのじゃ?


 そういえば、人の気配もいつもより多い。

 くぅ、一人は辛いのじゃ! 早よ来とくれー。


「あぁ。これから祭りの為の荷物が運ばれてくる。ここにも来るだろうから、ここら辺の物は街の奥の保管庫にでも入れとけ」


 ぬおおーーーっ! まさか移動じゃと!

 男が妾に触れてくる。

(嫌じゃー! 触るでない! くそー)


ピカーーーーーーン


「ぐぁ、何だこの光は……」


カランッ

 光が収まったが特に何の状況も変わらなかった。


「何だったんだ?変なもんでもあったのか?」


「おい、早くしろ!時間がないぞ」


 妾は無力じゃ……何か、魔力の残滓でも残せれば……何もできん、無力じゃ。



【アメリア】

──────────


 あれから壁際を進んでみたが反応は来なかった。

 途方に暮れていたが、エルの応答があり、状況がわかった。


 精霊で情報収集をしていたエルによると、この『エルクレスト』に複数点在する保管庫のどれかにティアがいる筈と言う話だった。

 今も複数の場所に荷物などが運ばれているらしい。


 その複数の保管庫の一つ……中を見なくても近づけば念話でティアの存在は分かる。

 急がないと……


「二箇所」


 エルがすでに二箇所見つけた。

 運ぶ人を追って行けば他もすぐらしいので安心した。

 見つかった二箇所は東と西……真逆だ。

 

 精霊で中を見たけど見当たらないらしい。

 でも目印もなければ埋もれている可能性があるから絶対に無いとは言い切れないと。


 わたしはその話を聞きながら、エルの案内で先ずは近い東に向かった。

 森の中を抜けて、人が余りいない場所に保管庫が見えたが……反応がない。


「はずれだ……」


 くそっ……次は西か。


「北に」


 三箇所目だ、タイミングがいい。

 北を回れば無駄な時間も省ける、すぐにエルの精霊について行く。


 今更だが全然人に会わないのもエルが誘導してくれているからだと気づく。


「ありがと」


 小さく呟いた。

 何も解決していないのに今お礼を言うのはおかしいと思ったからだ。

 北の保管庫にたどり着くがやはり反応がない。


 すぐに西に向かいながら不運を嘆く。

 (またハズレ……今日くらい師匠のためにも少しはいい事あったって良いじゃないか……)


「いた」

 

 四つ目の保管庫の中にかと思ったが、どうやら違うらしい。

 今いる場所より更に北にずっと光が点滅している場所が見つかり、覗いてみたらティアがいたと。

 何をしているのか分からないけど、見つかったのならそこに向かうまで。

 

——森の中に光が見えた。

 小屋の中に複数人のエルフ。

 エルの話からすると『エルフの盗賊』らしい……どの国にもそういうのはいるのか。


 小屋の窓際に近づき中の状況を確認しようとしたとき、ティアの叫びが聞こえた。


(嫌じゃー!こんなオッサンエルフに触られるのは嫌じゃー)


ピカーーーーーーン


「くそ、なんなんだこの剣さっきから——」

「おい……こんな所でもそんな頻繁に光られるのはまずいぞ」


 光る剣で揉めている……


(ティア、どういう事?)

(おおーーっ! 主人! 良かった。

 本当に良かったのじゃ)


 ティアの話によると、保管庫に運ばれた後に変なエルフがティアを持ち出して、あまりの不快感に光りまくっていたらしい。


(すぐに助ける)

 タイミングを見てもう一度光って! と作戦を伝えていたら、中から声がした。


「おい、その剣を貸せ」


 声と同時に殺気が走る。

 わたしはすぐに後ろに飛んだ。


ガザーーーンッ!!


 周りが吹き飛ぶ——切ってもないのにティアを使う意味があったかは分からないが、わたしの居た場所を自分の仲間もろとも消し飛ばした。

 

「エル、あいつ何?」


「危険」


 エルの声がわかりやすく焦っていた。


——土煙が晴れて出て来た姿は、金色の目をした茶髪の優男……

 自分の仲間を躊躇なく殺した……そして、どう見ても“人間”だ。


「よう、嬢ちゃん。

 こんなエルフの国で人間が何してるんだい?」


 へらへらしているが殺気が凄い……隙もない。

 今は武器も無いのにこれじゃ下手に動けない。


 チャンスは、目先に映るあの剣を拾う事だ。

 さっき小屋が吹き飛んだ時に、アイツの仲間もろとも吹き飛ばされた際、偶然にも近くに剣が飛んできていた。


「それは、こっちの台詞。お前は何だ」


 わたしの問いに答える前にこの惨状を見た他のエルフ達が優男に抗議しだす。

 当たり前だ、いきなり仲間を殺したのだから……もっと言ってやれ、そして仲間割れしろ。


「うるせぇなぁ、お前達——もういいや」


バシューンッ

 武器を振ると複数人のエルフが斬られたと言うより消し飛んだ。


 !? また殺した。

 それもだが、振りがおかしい……軽く振っているのに尋常じゃない音、完全に何かある。


「なぜ、殺した」


 戦闘にまだ入ってないからか、無駄な事を聞いてしまったと我ながら思う……


「あ? お前、面白いな。

 多少出来るみたいだが、どうする? 戦うか?」


 問いの答えは当然答えてもらえなかったが、戦わずにすむ?


「ティア」


 エルからの言葉が飛んでくる。

 ……そうだ、どっちにしてもコイツと戦わないとティアが取り戻せない。

 異質な男に弱気になっていた。


 男を倒すより、先ずはティアを奪う。

 エルも力を貸してくれる。


 その為には周りに散らばっている剣をどれか拾えれば……考えを巡らせる——


「良いぜ、拾えよ。待ってやる」


「!?」


 わたしの意図が分かっているのに拾わせるの?

 このままじゃ、どのみち状況は変わらない……

 男を警戒しながら一番近くの剣を拾う。


「警戒すんなよ。

 んな、お前みたいなチビに卑怯な手なんて使わないさ」


 ムカつく……ハインツと被る。

 誰だか知らないけど、負けたくない。


 それに一つおかしな事もある。

 さっきからティアに呼びかけても返答がない。

 ティアが光れば少しは油断を誘えるかも知れないのに。


「そう、甘く見た事を後悔しろ」


 そう言って拾った武器を構えて向かい合う。

 もう、言葉はいい……集中しろ。

 こんな状況で作戦なんて無理だから、エルには小声で好きにやってと言ってある。


 後は合わせるだけ。


「いいね。

 つまらない場所に派遣されたと思ったけど、少しは楽しめそうだ」


 どうでもいい。

 わたしはエルの攻撃を待つだけ……

 男の上空が光出した瞬間、無数の雷が男目掛けて降り注ぐ。


パシャーン!


ブォンッ

「怖っ」


 降り注いだ雷は男の一振りで掻き消えた。


「おいおい、一対一じゃねーのかよ。」


 頭を掻きながら「まぁいいか」とか……そんな簡単に片付けられる攻撃じゃなかったはずだ。


 呆気に取られて、完全に攻撃のタイミングを見逃した。


 ニヤつきながら男は腕だけ動かして剣を横に振る。


「小手調べ……行くぜ」


ブホォンッ


 剣から凄まじい風圧が放たれた。


 剣を構えて抑えようと迎えるわたしはエルの「避けて」と言う言葉に咄嗟に下に低く屈む。


 そのまま剣圧はわたしの後ろの木々を吹っ飛ばして行った。


バキバキバキバキ


 その、あまりの光景に距離の意味がないと悟ったわたしは優男に向かった。

 ガキンッ、キンッキン! 何度か剣を交える。

 近距離だとエルの援護は難しいけど仕方ない、でもこれなら戦える。


 「よっ」「へぇ」「面白っ」どうやっても攻撃が入らない。

 今まで戦った誰よりも強い……ずっと遊ばれている、屈辱だ。


「楽しいな——

 だが、時間もない。

 せっかくだから一度、本気を見せてやる」


 一気に殺気が辺りに広がり木々が震える。

 これはわたしでもやばいと分かる……

 すぐに後ろに下がるのが正解なのだろうが、わたしは男に向かった。


 わたしの行動に初めて男の顔が変わった。

 そして、わたしにあの感覚が勝手に再現される……死の感覚。

 

 男の声が聞こえる——

 徐々に全体が遅くなり始めた。


「生きていたら褒めてやる」


 男がゆっくり腰を落とす。

 声と共に剣を振るった。


「秘剣……『アザミナ』」


 無数の剣筋が見える……その全てが、止まった世界でまたゆっくりと動き出すのが分かった。


 身体が自然に右に左にと危険を避けていく。


(この人凄い、一瞬で何回切ってるんだ……)

 触れたらおそらく命はない程の一撃一撃を紙一重で避け続ける。


 この感覚……楽しい——


 もっと楽しみたかったが限界が近いようだ、命懸けだというのに冷静に終わりを感じる。


 この一太刀、避けられない。

 わたしはそこで初めて自ら無理やり動いた。


バシュン!


「ぐぁっ」


ドバシャーーーンッ!!

 男の放った一撃は森一体を男を中心に円形に根こそぎ薙ぎ倒していた。


 ギリギリで避けられたが、少し腕を掠めた。

 危なかった……でも、これ以上戦っても勝てないと悟るには十分な攻撃だった。

 

「驚いた。全部避けやがった……一人には無駄が多すぎるんだよなぁ」


 なぜか驚きながらブツブツ呟く男。

 避けられても、結局負けじゃない……

 男は剣をわたしに向けながら周りを見回し叫ぶ。


「おい、どっかで見ているエルフ! やめとけ、攻撃するならガキを殺す」


 何を言ってる? どうせ殺すのに……

 わたしの考えとは裏腹に男が緊張感もなく話しかけて来た。


「俺は『アオバ』よろしくな。

 なぁ、あんたウチに来ないか?」


 ティアを持つ右手を肩に掛け、伏せったわたしに左手を差し伸べて来た。


 向こうから近いて来た、チャンスだ。

 わたしは笑顔で手を取ると見せかけて、剣を持っている手に思いっきり噛みついて、緩んだ手からティアを奪い、相手の体を蹴り上げ後ろに飛ぶ。


「いって、何しやがる」


 上手くいった!

 (主人!怖かったのじゃ、何じゃあやつは気持ち悪いのじゃ、掴まれた瞬間意識が切れたのじゃ)


 急にティアが息を吹き返した様に叫び出すがそれどころじゃない。

 わたしはそのまま『アオバ』と名乗った男を背に走り出す。


「ちっ、まじか……剣が狙いだったのかよ!」


 悔しがってるが知らない。

 このチャンスしかもうないと思い全力で逃げる。


「おーい! 俺は『梟の目のアオバ』興味あったら覚えとけー! いつでも歓迎するからよー!」


 後ろで呑気に自己紹介とかウザすぎる……

 でも、追ってくる気配がない……逃げられたの?


 わたしはそれでも全力で街まで走った。


「——危なかった」

 身体中が震えてる……戦闘で人に恐怖を感じたのは初めてかも。


(本当じゃ、もう妾は主人から離れんぞ!)


 ふぅ、やっとティアが手元に戻った。

 『梟の目』あの時の……なぜここに居たのかは知らないが今はいい、これで師匠の事に集中できる。


 わたしはすぐにティアを布で包んで隠し、エルの元に戻る為、宿に移動し始めた。


(なぜ、包むんじゃー!)



【アオバ】

──────────


 行っちまったな……

 走り去って行く少女を見ながら自分でやった惨状を見回す。


「まぁ、いいや。」


 ここでやった事、無駄になっちまったなぁ。

 最後は楽しかったからいいけど、組織の資金集めも中々に大変だぜ……


バサバサ

 遠くで鳥たちがざわめきだした。


 と、向こうが騒がしくなってきたな。

 もう守備隊が来たのか、少し派手にやり過ぎた。


 さて、またどこかで会える事を祈るぜ。


(お嬢ちゃん)


 アオバは、森の中へと消えて行った——



【エルトゥア】

──────────


 アメリアの方は何とか解決。


 それにしても『梟の目のアオバ』ここに来て余計なのが現れた。

 もう時間がないのに……


 あれは絶対に『魔道具』だ、精霊は魔道具と相性が悪い。

 持つ人間を見ると存在が薄く見えるのだ。

 それは魔道具の力で変わる、強ければ強い程、精霊からは見えなくなる『アオバ』はほぼ見えなかった。

 前に王国で会った鍛冶屋の『ビルゴ』もアオバよりは濃かったがそうだった。

 ドワーフは魔道具持ちが多い私と相性が悪いので嫌いだ。


 この状況は一つ問題が増えたと見てもいいけど、監視をつけたアオバはもうどこに行ったか分からなくなった。

 しかもあの後すぐにあそこの小屋の周りはエルフの警備隊に囲まれた。


 どうしようもない……

 一旦置いておくしかない。


 意識を一旦戻す——


「ふぅ」


 私の方もほぼ準備はできた。


 後は時間までにどれだけ精霊を増やせるか……


 急に精霊の権限を奪い制御出来なくなったら祭りの前に混乱が広がる。

 その為、奪った精霊達にある『お願い』を頼んだ。

 それまでは今まで通り過ごしてと言ってある。


 昔すぎて忘れていたけど、祭りに来た事はあった……嫌な思い出だけど。

 今回の為に使えるなら意味があった。


 ハイエルフの儀式の始まりの時に必ずあれが来る。


 欲を言えば、根原宮の中も探りたかったけど無理だった。

 私の精霊が中に入るのを拒む……あそこには私が見える精霊より更に上がいる。


 悔しい。


 ここまでやっても中位までなのかと、上位を強制的に作ることは出来ても。

 上位はまだ私の力では見えないらしい。

 そもそも、力なのかもわからない。


 精霊はその辺を把握はしていない、精霊からすると皆同じだと言う。

 でも、それぞれ属性も違えば内包する魔力も違う、まだまだ謎は多い。


 逆に言えば、まだまだ成長出来ると言う事だ。


 残り二日、明日丸一日の猶予があるのは大きい、見えない精霊は仕方がないが見える精霊はこのままいけば明日までにほぼ終わる。


 そりゃそうだ。

 私と精霊が尊厳を無視して本気を出せばねずみ算式に増えるのだから。


 でも、楽観はできない。

 やはり問題は『根原宮』に戻る。

 コクマーの情報が少しでもあれば。


 外がドタバタして来た……帰って来たみたい。

 アメリアたちと相談しよう。




面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ