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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
4章 エルフ国編

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4-7 ようこそエルフの国へ 3



【アメリア】

──────────


 わたしは師匠と一緒に冒険をし始めて初めて喧嘩をした。


 エルの言う事は——


 立場的に冷静に行動。

 人道的に傷つけては駄目。

 政治的に交渉が先。


 わたしも王族だ、意味はわかる。


 でも、感情はそれを理解してはくれない。


 エルは契約により言葉数が少ない、師匠がいないと念話ができないからエルの言葉は冷たく機械的に聞こえてしまう。


 違うとはわかっていても、やり取りをする度に(何でそんなに冷静なの?)と、憤りを感じて、心ない言葉をぶち撒けてわたしは宿を飛び出した。


「もういい!わたしはわたしで行動する」


バンッ!


 外に出て改めて見るエルフの街は、わたしの感情を逆撫でするくらい落ち着いていて穏やかだった。

 (この人達は何も知らない……)


 少しは成長できたと思っていたけど、だめだ……冷静になれない。


 街行く人に意識を傾けると怒りに変わってしまいそうで逃げる様に人の少ない方に移動して行くと、ここに来た時の検問にたどり着く。


 (ここは……あまりエルフの国に訪れる人は少ない。ここに辿り着いたのは必然か)


 それでも、もしかしたら入って来る人が来たらと思い入り口から壁伝いに奥に逃げるように進んで行った。


 どのくらい歩いたろう、突然頭の中に聞き覚えのある声がした——


 (なんじゃ?主人あるじではないか)


 ……ティアの声がする。

 何で? 幻聴?

 (おい、何を惚けておる。主人らしくもない)


 (嘘……会えてよかった)


 しかし、辺りを探してもティアは見当たらない。


 (妾も暇で、錆びつくところじゃった……)


 (錆びるんだ、大変ね)

 (冗談じゃ……)


 でも、紛れもないティアの声だ!

 これで少しは変わる。


 (師匠が攫われた、協力して)

 (へ? 急にどうした……師匠が攫われた?)

 (そう! 昨日あの後、師匠が)

 (待て待て、要領を得んちゃんと説明せい!)


 ティアに出会えた事で少し冷静になれたわたしは、あの時の状況を覚えている限り説明した。


 その話を聞いたティアはエルが正しいと言う、わたしはまたその事に反論しようとしたが、ティアの言葉は的を射ていてすんなり入って来た。


——対話って大事だと思った。

 エルとの会話と要点は全く変わらないのに説明の順序や言葉の数で、これ程理解度が違うなんて……今になって思うとエルに酷い事を言ったなとティアに愚痴った。


 (どっちもどっちじゃよ。

 こんな時でも精霊の契約優先のエルも感情優先の主人もな)

 (ただ、仲直りは早よせい!)


 その通りだ。

 でも、その前に冷静になれた事で初めの疑問に戻る。


 (何でティアと念話できるの?)

 (その事じゃがな……)


——まさかのわたしが居る検問のこの壁の丁度向こう側にティアがいるなんて、距離感的に念話のできる範囲内に入っていた様だ。

 少し、動いて確かめたけど、だいたい大人四十歩分くらい離れてもいけた。


 特にティアが壁の向こうに居なくても念話は出来たが、ティアの場所が分かったのは運がいい。


 (ティア、待っててすぐ助けるから)

 (何とも、元に戻って良かった。無理はせんようにな)


 わたしはエルに謝るために再度、宿に戻る事にした。



【エルトゥア】

──────────


 アメリアが怒って飛び出して行った。

 ごめんね、今は会話に精霊は避けない……


 少しでも増やさないと、カイルみたいに念話が繋げると良いのだけど、今はそれに費やす時間すら惜しい。


 精霊をエルフの国全体に飛ばして、奪い始めたが昔の私が過って罪悪感に呑まれ始める。


——140年くらい前、私は独自で精霊と契約する方法を編み出した。


 当時の私は精霊もろくに使役できない落ちこぼれの部類だった。

 その事でどんどん友達は離れていった。

 親とも上手くいかなくなり口数も少なくなり、独りぼっちの日々を過ごしていた。


 そんな絶望の中、一体の精霊と出会った。


 たまたまだったのか必然だったのか、一言二言会話をする事で露骨に喜んでくれた初めての精霊。

 これで親や友達とも分かり合えると思ったら私の精霊は誰にも見えなかった。


 今度は嘘つき扱いになる……当時の私には誰にも見えない精霊がどんなに異質な事か分からなかった。

 

 人との繋がりを諦めた私は唯一の精霊の友達となり心を通わせ続ける様になる。

 私を心配してくれた精霊は精霊を呼び始めてくれた……私は喜んで全ての精霊を受け入れた。


 その頃はもう同胞からの私の見る目はどう映っていたかは知らない、私も他人に興味がなくなったからだ。

 精霊だけが、私を見てくれる。

 精霊だけ居れば他はいらない。


 そうやって精霊と心を通わせる事で一つの事を知る。

 知れば知るほど、精霊は嫉妬深く、そして饒舌だった。

仲間になった精霊たちは、前の主人をボロカスに言う。まるで冷え切った夫婦が、外で互いの不満をぶちまけるように。

 それを聞かされた当時の私は、(エルフは精霊を傷つける悪だ)と信じ込むようになった。


(なら、この国は敵。精霊は全部私の友達だ。精霊を傷つける人は、みんな悪)


 私の歪んだ思想は、程なくして『簒奪者』という形になってエルフの国を飲み込んでいった。


 嫌だったので『解放者』にしたが——


 あれから100年ほど経ち、私はある人の協力で人間の国へ渡ってそれなりに変わった。


 故郷に戻り、墓所を案内しながら昔のやり方ではなく、ゆっくり精霊を増やすつもりだった。

 

 でも、それも叶わなくなった。

 こんな事態になるとは思わない、本当にこの国はなぜこんなに私を嫌うのだろう。


 せっかく出来た仲間を奪うなんて。


(迷っちゃ駄目だ)


 改めて覚悟を決めて精霊を奪い出す。

 私に精霊との『信頼度』で勝てる奴はいない。

 寝ながら顔がニヤける。


 その時。


バンッ!


 ビクッとなり、開いたドアを見るとアメリアが立っていた。



【アメリア】

──────────


バンッ!


「はぁはぁ、エルごめんなさい!」


 わたしは扉を開けてすぐに謝った。

 驚いたエルはすんなり許してくれた。

 なぜか、嬉しいはずなのに少し胸がちくっとした。


 わたしが何かしても、基本みんな怒らない。

 今回もそうだ、怒って欲しかったけど……他にやる事も出来た。


 切り替えよう。


「エル、協力して!」


 最初は師匠の事だと思い、同じ様に断って来た。でも、今回は違う、ティアの事をゆっくり丁寧に、エルの言葉もちゃんと聞いて判断を待った。


「わかった」


 良かった。

 でも、エルの言葉はわたしの浅はかな考えとは違った。

 まず、わたしの考えはティアを取り返して根原宮に乗り込むだった。


 すぐにエルに呆れられた……


「悪かったわね……なら何かあるの?」


 当然の疑問にエルは答えてくれた。

 これから三日後にエルフの『顕聖祭けんせいさい』があるらしい。


——『顕聖祭』

 この国の立役者、ハイエルフ様をこの地に呼び戻し、感謝を込めて国全体で祝うお祭り。


 エルが言うには普段はもっと何もない街並みらしい。

 こんなに賑わっているのは準備しているから、明日になると精霊が更に飛び交い祭りの準備も本格的になるとの事だ。


「だから何?」


 楽しめと? ちゃんと話し合うと決めた矢先にわたしの気持ちはぶれる……


「聞いて」


 そうね、ここで踏み止まれた事が成長かな!

 自画自賛で気持ちを落ち着ける。


——エルの計画はこうだ。


 祭りの準備が本格的に始まれば人が増え細かいところに目が届かなくなる。

 エルの精霊でこちらは状況の把握は完璧だ。


 その流れを使いティアを持ちだす。


 これの利点は剣を剣だと分からせなければ荷物として祭りの持ち物だといくらでも誤魔化せるところらしい。


 そして、エルはエルで準備にまだかかるから師匠を助けるのは祭りの日、三日後と言われた。


 わたしはすぐに師匠がその日まで無事か可能性を問いただしたが、エルは顕聖祭の意味を考えてと、そもそも師匠の命は大丈夫だと言う。


 ただ、お祭りが終わっても師匠が帰って来ない可能性の方が問題だと言う。

 もし終わってまた根原宮に引っ込んだら取り返せる望みが潰える。


——つまり、まとめるとこうだ。


 顕聖祭の始まりが三日後。

 この時期に来た師匠をコクマーがハイエルフだと知り捕える。

 顕聖祭はハイエルフを降ろすお祭り。

 つまり、必ず師匠がお祭りのハイエルフに使われる。

 その時がわたしたちの見える位置に師匠が現れる最初で最後の奪還のチャンスになる。


 そこに全力をかける!

 

「エル、凄い」


 わたしは、師匠の居場所も分からないまま根原宮に突撃することしか考えていなかった。


 こんな方法があるなんて気づきもしなかった。


 格好は仰向けで寝てるだけのエルフなのに……何だか上手く行く気しかしない。


 どっちにしても明日、必ずティアを取り戻す。


 その後は待っていて下さい、師匠!

 


【コクマー】

──────────


 他の十賢から招集がかかった。


——いつもならこんな唐突な招集はないのだけど。

 誰かに、違和感をもたれた?


 あれから一日、持った方か……でもカイル。

 まさかあれ程とは思わなかった。


 会っておいて正解だった。

 もしもこれで駄目なら諦めもつくわね。


 根原宮の奥の更に奥の降り続けた所にエルフでも我々『セフィラの十賢』だけが入る事を許される場所がある。


ブワン


 偽物や武器など異物を感知する『霊門』を通るとそこは大量の本棚に囲まれた広い空間に出る。

 その真ん中に木製の大きな円卓がある見慣れた場所が目に入る。


 円卓に目を向けると椅子に既に七人の十賢が集まっていた。

 

「おや、全員ではないのですね」


 私は一言漏らし、いつも座っている二番目の席に着く。


 一賢、王冠のケテルを筆頭に

 二、私、智恵のコクマー

 三、理解のビナー

 四、慈悲のケセド 欠

 五、峻厳しゅんげんのゲブラー

 六、美のティファレト

 七、勝利のネツァク

 八、栄光のホド 欠

 九、基礎のイェソド

 十、王国のマルクト 欠


 上座にケテルを据え、そこから左右に分かれて座を占める。

 特に力関係による序列ではない。

 だが、言葉を重ねるまでもなく、いつしかこの座順こそが我らの「実績」を象徴する配置となっていた。

 

「さて、始めよう」


 全員揃ってないのに、ケテルがいつも通り口火を切る。

 今回の議題は勿論『顕聖祭けんせいさい』、ただ始まったばかりだと言うのに『峻厳しゅんげんのゲブラー』はその二つ名らしく、意義を唱える。


 なぜ、残り三人が不在なのか、だ。

 ケテルは、その事に対して特に問題ないかの如くただ『欠席』だと言い放ったがそれで納得のいくゲブラーではなかった。

 そこに『基礎のイェソド』が入り議論が加熱する。


 (よい流れだ。このまま燃え上がる事を願おう)


 私にしてみれば、わざわざこちらから手札を出すつもりもない、このまま時間が過ぎればどれほどいいか。


 私の期待通り燃え上がった議論は『理解のビナー』のたった一つの発言で鎮火した。


 「無駄なやり取りに時間を割くなら終わりにしましょう」


 その言葉通り無駄なやり取りをしていた場が静まり返る。


 私からすればあまりいい流れではないが、仕方なかった。

 (どうせなら、貴方が欠席なら良かったのに)


 何て、頭で考えていると見透かした様に私を見て笑った。

 一番私の苦手なタイプだと改めて思う。


 議題は元に戻る。


 顕聖祭に添えるハイエルフを誰にするか。

 私からは何も言わない、流れが来るのを待つ事にした。


 色々な話が出る中、一番なさそうな『美のティファレト』からカイルの話が飛び出した。


「ねえ、昨日お祭りの前なのに、予定にない来訪者がいたじゃない?」


 まさかの角度からの発言に反応してしまった。

 この僅かな反応を見逃すビナーではなかった。


「あれ? コクマー、そのエルフの事知ってるの?

 知ってるなら君の口から聞きたいな」


 露骨に煽りも入れてくる周到さ、エルフなんて誰も言ってないのに、やっぱり知ってるのね。


 話すしか逃げ道がなくなった。

 仕方ない最初の計画は変更するしかない。

 こうなったのも貴方のせいよビナー。


「ええ、みなさんに見せたい者がおります」


 私は初めからこうなる事も予想して用意はしておいた。

 ただ、それには幾つか『禁忌』を破らないといけない。


「ケテル、ここの霊門切ってもらえる?」


 私の言葉にゲブラーが当然、異議を唱える。

 それも織り込み済み。


「ゲブラー、気になるなら門の外に居るから見て来てもらえる」


 気になるならみなさんもどうぞと促す。


 戻って来たゲブラーは霊門を切ることを了承した。

 ゲブラーを見て察したのか他に異議を唱える者は出なかった。


 あとはケテルだけだが、特に反対する事もなく禁忌を破る。

 こういう所はさすがというか、底が知れない。


「良いぞ」


 ケテルの権限で『霊門』が消える。

 門から現れたのは巨大な精霊。


 その姿を見た私とゲブラーとケテルを除く四人が立ち上がり驚きを見せる。


ガタッ


 驚くのも無理はありません。

 『封印の間』から出したら反動からか精霊がカイルに集まり出して集合体となった。


 これには私も驚いたが誰が疑うこともなく

 『ハイエルフ』

 反論のしようもないでしょう。


 少し心地よく思う気持ちを抑えて、私は流れを自分の方に手繰り寄せる為、動き出した。


「みなさんにご挨拶をお願いします」


「初めまして、カイルです」


 十賢に当てられて精霊が減りカイルの姿が見えて来ましたが。


 登場時の光景が焼き付いているのか、特に問題もなく話は進む。

 

「今回のハイエルフです。

 みなさん、異論は無いとは思いますが、ここからの私の言葉は真実です」


 ここからは、出来れば秘密裏にやりたかったけど『ビナー』のせいで巻き込むしかなくなった。


 仕方ない。


 この先はカイルに聞かせる必要がない。

 役目は終えたので退席させて、霊門を戻す。


 そして、私は人差し指を立てた。


「みなさんにこれが見えますか?」


「そ、それは」


 ケテルがすぐに反応を示した。

 さすがにすぐ分かりますよね。


 他の十賢も遅れて理解した。


「そう、お察しの通り『クリフォト』です」


 『クリフォト』は邪悪の樹と言われ『セフィロト』とは真逆の存在だ。


 私の人差し指に取り憑いた概念


 『一の無神論』


 今は押さえ込んでいるが近い内に私を破って溢れ出してくるだろう。


 時間がなかったが今回の『顕聖祭』と『ハイエルフ』の二つが揃えば上手く行くと言う説明を皆に聞かせた。


 この私の提案に一番難色を示したのが『勝利のネツァク』だった「祭りに来た民衆を巻き込む気か?」と、当然だ。私もそんなつもりはない。


 なので、ここでまた禁忌を破る。


 我々は別の場所で儀式を開始するのだ。

 ハイエルフを降ろす儀式ではなく、今回は『クリフォト』を移す為、儀式の場所もいつもの真逆、反転させた地点が一番成功率が高いと割り出した。


「あのハイエルフはどうするのだ?」


 当然の疑問だ、それはもう仕方のない事だ。

 この計画には最低一つの依代が必要になる、その依代は『クリフォト』に身を乗っ取られる。


 これは、確定していた。


「国と一つの命、天秤にかけるまでもないですよね」


——『クリフォト』が顕現してまだ完全じゃない瞬間に全員で滅ぼします。

 覚悟がない方は来なくてもいいと伝え、今日欠席した三人にもそうお伝え下さいと添えた。


 私はもう覚悟は決めている。

 全員を巻き込む時点で最後まで偽ろう。

 

 沈黙が答えだったようだ。


「今日はここまでだな。解散する」


 ケテルはいつもと変わらず場を閉めた。

 細かいことは後日になるのだろう。


 計画は『顕聖祭』に。

 




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