4-5 ようこそエルフの国へ 1
【アメリア】
──────────
馬車はエルフの御者に任せて私たちはエルフの首都まで向かう事になった。
当初とは違う道のりだが、エルも首都に行けるならその方が良いと言うので、今に至る。
今、馬車の中には師匠と私とエルと子供達五人が乗っている。
元々は六人乗りの馬車なのだが、子供五人と団子でも少し窮屈な位で問題はないのだから……
そこの子供!わたしの膝の上に来なさい。
師匠が迷惑です!
と、言えれば良いのですが……
「師匠、変わりましょうか?」
「ん?ダイじょうぶだよ」
師匠は少しお疲れなのか、言葉がぎこちない。
無理もないのだが、エルフの国に来るだけで一つ組織の拠点を潰してしまうし、一人でエルフの守備隊を制圧してしまう。
私も、もっと頑張らないと。
子供達に取り乱してしまいそうになった自分を恥じます。
外を見るとそこはもう木々の中に家がちらほらと見え始めていた。
「これって、もう首都?」
凄い……個性的だ。
木と家がくっ付いている、どうやって建てるのだろう。
「まだ」
まだなの?
結構外が賑わってきている。
なぜか馬車が通りかかる度にエルフの人達が跪き始めた。
これは、王族の通る姿に平伏しているみたいであまり好きではない……多分わたしではないだろう、エル?
「エルってまさかエルフの王族?」
「違う」
だよね、なら師匠? そういえばエルフが『ハイエルフ』って言ってた。
師匠の頭にいたヒアと会話していたから流してた。
そもそも、ここへ来たのはハイエルフの墓所の為だった。
「ハイエルフってそんなに凄い人なの?」
「うん」
「話し」
「長くなる」
「念話」
確かに、エルの言葉数だと大変だ。
師匠に繋いで貰わないと無理そう、いつも繋いでくれていたから気にしていなかった。
話を聞いていた師匠が動いてくれた。
「少し、待って」
(——できた。いいよ)
なんか、普段と少し違和感があるけど、やっぱり疲れているのかな?
エルが気にしせずに念話で話し始める。
(ハイエルフは——)
エルの話によるとハイエルフはエルフの国では伝説的で、魔力、精霊を使わずにあらゆる魔法を使え常に精霊にも好かれる存在らしい。
姿は白く、まさに師匠のような姿で、このエルフの国を建国した始まりのエルフだと言われている。
(始まりのエルフ?)
元々エルフは色々な森に小さな集落を作って暮らしていた。
そこに目をつけた人間が、エルフの集落を襲い始め奴隷時代が始まる。
人間とエルフの溝はこの時から生まれた。
それをたった一人のハイエルフが導き、大樹の木の元にエルフをまとめ上げ集まったエルフが国を起こした。
それが、これから行くエルフの国だと言う——
(ついた、見て。あれがエルフの国の中心)
ガラガラ
エルの言葉で窓を開け、馬車から顔を出して前を向いた瞬間。
エルフの国の静かでせせらぎの様な音と存在感一杯の大きな大樹が目に飛び込んできた。
「あれが、我らがエルフの始まりの大樹と言われる『エルト・セフィロト』だ!」
わたしに気がついたエルフの御者が説明してくれたが……光りが輝き、見上げても上が全く見えなく、天まで伸びたそのあまりにも凄まじい存在感に目を奪われて話が入って来なかった。
(凄すぎます!師匠見ましたか?)
(見たけど、僕には精霊が邪魔すぎて何にも見えなかった)
(え? そんな事はない、そこまでの量いない)
精霊が全く見えないわたしには師匠とエルの言葉が異質に聞こえてしまう。
(なんじゃ、妾にも見せとくれ!感覚だけじゃ分からん!)
わたししか、見てないのに一気に賑やかになる。
子供達は疲れたのかみんな寝てしまってる。
あれ?そういえば、ヒアちゃんが全然会話に入って来ない事に気づく……ヒアちゃんも寝てるのかな?
(ヒアちゃん?)
(…………はい、はーい! どうしたの?)
(あ、全然会話に入って来ないから心配で)
(大丈夫よ! ちゃんと見てるか……むぐっ)
何かあったと思い、師匠の頭の上を見るがフードで隠れて見えないのはいつもの事だ。
(どうしたの?)
(何でもないよ! ……凄い木だよねー)
何だろ、凄い適当な返し方だ。
ただ、わたしがこの話を言及する事は当分なさそうだ……馬車が首都『エルクレスト』に辿り着いたからだ。
「ここからは、検問を通ってもらう為。
お手間を取らせますが徒歩でお願いします」
わたしたちはその言葉で検問に案内された。
検問に着くと子供達の親族に話が伝わっていたみたいでそれぞれが親元に帰って行った。
「ばいばーい!」
「またねー……ぐすっ、元気でねー」
ヒアちゃんは別れ際も師匠の頭の上で少し涙ぐんでいた。
ただ……おかしかったのは何故か師匠はヒアちゃんに合わせたのか全力で手を振っていたのが印象的で違和感いっぱいだった。
その後、簡単な検査を受ける事になる。
それぞれが別室に連れて行かれ簡単なやり取りがあった、そこまでは良かったんだが。
「すいません。武器の持ち込みは禁じられておりますので、ここでお預かりします」
え……(ティアどうする?)
(どうもこうも……嫌じゃが、ごねてどうなるものでもないじゃろ)
(そうね)
一応、ちゃんと保管してと催促はさせてもらい、わたしはティアと国の入り口で別れる事になった。
「ようこそ、我がエルフの首都『エルクレスト』へ、歓迎しますよ」
キィィィ
扉が開かれたそこは、一直線に伸びた道の端々に緑溢れんばかりの木々が並び立ち、その木々一つ一つに色鮮やかな家が建ちエルフの人々が行き交っていた。
そして、道の奥に一際目立つ大きな大樹。
「先程見ましたが、こうやって改めて見るとやっぱり凄い」
一言で表すなら『生命力が溢れてる』だ、この存在感はまさに国を代表する大樹に相応しかった。圧倒されてるわたしに横から声がかかる。
「アメリア。行こう」
「おわた」
いつの間にか、師匠とエルが横にいた。
二人の話を聞くと、このまま道の通りにまっすぐ行くと大樹の下に大きな建物があると言う。
これから、そこまで案内してくれるエルフが来るらしいので、それまでここで待つ事になった。
【エルフ守備隊隊長】
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「はい、あれは『ハイエルフ』かと思います」
報告の為に『根原宮』に来たは良いもののまさか『知恵のコクマー』様に謁見する事になるとは……緊張で目眩がする。
「そうですか….わかりました。
貴方がここまでその方々を案内しなさい」
「はっ!」
「行っていいですよ」
「失礼します」
「——待ちなさい」
去ろうとしたら呼び止められた……何か間違えたか?急に身体中が熱を持つ。
「貴方、精霊はどうしました?」
な、何と答えれば良いだろう……
「はっ! ハイエルフ一行に出会ってから、精霊との対話が出来なくなってしまいました」
嘘ではない……だが「寝ていたから分からない」とは言えない。
「…………そうですか。
では、よろしくお願いします」
助かった……のか? 保身に走ったせいで、胸の奥がざらつく。
「はっ! それでは失礼します」
終わった……。 このまま入り口に向かうとしよう。
それにしても『セフィラ十賢』は恐ろしい方々だ。 一人だけでも、纏う圧が桁違いだった。
精霊が見えないのも恐ろしい。
精霊使いとは、どれだけ精霊を視認し、精神を通わせられるかで格が決まる。
格が上がるほど精霊を“隠す”のも上手くなる。
つまり、コクマー様の精霊が見えないという事は—— 自分の力では到底及ばないという証明だ。
多分、コクマー様も私の精霊が見えなかった事で、格の差に疑問を持ったのだろう。
そんな訳ないのにな。
はぁ……隊長なのに、また一から精霊に認めてもらわないといけないのか。
さて、今度はハイエルフ様か……
気持ちを切り替えて急ぐか。
【コクマー】
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——エルフの国を治める十賢の一人、コクマーは守備隊長の言葉を思い返していた。
……ハイエルフか……何故今この時期に。
あの方が消えてからどのくらいの時が経ったのか、それは我々エルフが長寿だからなのか昨日の事の様に思う反面、遥か昔の様な感覚もある。
「定めか……」
この運命、有効に使わせてもらうぞ。
他の十賢にはまだ伏せるか。
大樹よ、まだ未来は明るいのかも知れません。
【アメリア】
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「お待たせしました。
私が案内を任された者です」
迎えに来たのはあの時、私たちを襲ってきたエルフだった。
露骨に嫌な顔になる。
「そんなに嫌そうにならないで下さい。
どこか見たい場所はありますか?ないのでしたらこのまま向かいましょう」
そう言って歩き出す案内者。
あの時とは、全く違う対応の仕方に驚く……
それよりも、待っている間に師匠が街のエルフ達に挨拶されてはお供え物を貰い荷物がおかしな事になってしまった。
エルも普段より少し賑やかだと言っていたので何かあるのだろうか?
「あの、師匠の荷物どうにかなりませんか?」
そう言うと、快く私たちのために用意している宿に運んでくれる事になった。
そして、案内されるまま長い道を進んで行くと、急に宮殿の様な建物が見えてきた。
今まで見てきたエルフの住居は木をうまく使った家だったがこの宮殿は外からの手が入った様な豪華さだった。
「さぁ、着きましたよ。大樹の城と言われる『根原宮』です」
案内されて、門を通ると先程まで見えてた建物が一度見えなくなる。
少し高くなっている為だった。
短い階段を上がると、再び目の前に大樹の城が現れた。
大樹と一体化しているが、人工物の様な建物。
一目でわかる、わたしの国とは違う見た事もない素材だ。
国全体は暖かいのにここだけは酷く冷たい感じがする。
少し跳ねる鼓動を抑えて気持ちを切り替えた。
驚くばかりで周りが見えてなかったけど、落ち着いてふと気づくとエルが大分疲れている様だった。
「エル、大丈夫?」
「疲れた」
だよね。
かなり長い距離を歩いた……どうしよう、と思っていたらまさかの師匠が。
「エル、乗って!」
え? ヒアの声だ。師匠じゃない。
前にもヒアが勝手に喋ってたけど……今回も師匠の代わりに言ってるのかな?
いや、今はそんな事より。
「うん」
あぁ——エルが師匠の背に乗っていく。
おんぶを生涯でこれほど羨ましいと思った事があっただろうか……昔、お父様に……いや、ない!
疲れなかったこの体が仇となるとは。
「あの、そのまま入る気ですか?」
案内の人、もっと言ってやって下さい!
今から偉い人と会うんですよ?当然の疑問です!
「え?良いじゃん、疲れてるんだよ?」
なぜかヒアが楽しそう。
もしかして、わたしだけ置いていかれてる?
「そ、そう……ですか……?」
案内の人が困惑している。そりゃそうだ。
でも師匠は全く気にしていない。
諦めた……もう、いいや。
きっと何か意図があるはず!
そのおんぶに意味があるんですね、師匠?
わたしは師匠を信じる事にした。
なんか、おんぶで大事な事色々忘れてそうだけど……そんな思いすら忘れて、わたしたちは根原宮へと入っていった。
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




