1-4 王女、無視される
【カイル】
──────────
「あのぅ」
そうだ! 木の実とかならどうだろう。
あれなら、戦う事もなく食べ物を確保できる。
でも、どうやって探そうか。
……あ、忘れてた。
索敵すればいいのか。色々あったから頭が回らなかったよ。
ちょっと探してみよう。
……軽く周りを索敵する。
「やった。結構あるぞ」
よしっ。一番近くの木の実を取りに行きますか。
ずっと傍らにいた女性に、僕は気づきもせず歩き始めた。
「待ってくださーい」
——
いやぁ、大量、大量。
こんなに取れると思わなかった。
僕は大きな木の下に座り、大量の木の実の中から一つを選び始める……みんな同じ色だけど、この一番赤い奴を食べてみよう。
待ちに待った初食事だ。
手に持った木の実に勢いよくかぶりつく。
シャリ
「うまっ」
美味しい……。
味なんて本当、久しぶりだよぉ。
ほとんどない記憶に微かにある味を思い出し、自然と目から水が溢れ出す。
……泣くのも久しぶりだ。
僕はひとかじりを皮切りに、止まらなくなった。
【アルテル】
──────────
はぁ、はぁ……
視界の悪い森の中を歩いて、どのくらい経っただろう。
あの人はいったい、どこに?
空を見ると、陽が沈み始めたのか暗くなってきている。
このままでは……せっかく盗賊団から逃げられたのに、帰る事もできない。
お礼をと思って追いかけたのは失敗だった?
こんなに無視されるとは思わなかった。
確かに、あの時怒ったけど。
……無視は酷い。
見えなくなっちゃったし。
一人になっちゃった。
自分の状況に気づき、落ち込み出す。
……泣きそう。
王女に生まれてから厳しく躾けられて、一度も泣いた事なんてなかったのに。
無視されるのが、こんなにキツイなんて知らなかった。
「う、うっ……」
半べそをかきながら歩いていると、少し開けた大きな木の下で、白い物体が赤い物を食べて笑っていた。
余りの怖さに声が出ず、涙も引っ込み、後退りしながら逃げようと――よく見たら彼だった。
「うまっ、うまっ」
何かを貪りながら……うまうま言ってる。
その赤い食べ物、そんなに美味しいの?
どれだけ食べたらそうなるのか、白い服が赤く染まっていた。
ぐぅー。
……お腹が鳴る。
私はその音で、お腹が空いていた事に気がつく。
少し分けてもらえるかと思い彼に近づき……赤い食べ物をまじまじと確認して、また恐怖した。
「あ、あの、そ、そ、それ猛毒ですよ!」
【カイル】
──────────
この赤いの、メッチャ美味い。
最初は逃げて失敗かなぁって思ったけど、まさかこんな美味しい食べ物に出会うなんて。
僕はついてる!
誰だよ……運悪いって言ったの。
夢中で貪っていたら、左の袖を引っ張られる。
……気にはなったけど、今は食事中だ。
また、引っ張られる。
……何? 見てわからないの?
と振り向くと、何だか見覚えのある人が口をパクパクしていた。
人だと思って最初は驚いたけど、パクパクしてる姿は面白かった。
前に会った事あるし、今ならなんだか話せそう。
必死に僕の食べ物を指差して、パクパクしている。
……これ、食べたいのかな?
「はい。一個だけど、あげるよ」
バシッ
手を叩かれて、赤い物が転がって行く。
酷くない?
僕はショックのあまり、ゆっくり横になり、心を閉ざした。
そのまま眠気に襲われて眠った。
——
んっ、んー!
大きく背伸びする。
静かな夜だったなぁ。
昨日は、すぐ寝ちゃったよ。
……空を見上げる。
「まぶしっ」
朝日を感じたのは、いつぶりだろう。
贅沢を言えば、上の世界で使っていた布団が欲しかった。
けど、もはやそれも叶わぬ願いか。
ふぅ。下に目をやる。
……現実を見よう。
僕の横で寝ているのは、昨日の嘘つき王女だ。
どれくらいかは分からないが、気がついたら真っ暗な中で無言で泣いていたので、流石の僕もいたたまれなくなり、横で寝る事を許した。
でも、おかしいのは、ずっとパクパクしていたり無言だった事だ。
気を遣ってくれたのかな?
話さなくて良かったし、見た目は面白かったけど。
……あっ。
そういえば、音を遮断してた。
でも、おかしいな……
「あー、あー」
僕の声は聞こえる。
僕だけ対象外?
あの時は他の声が聞きたくなかったから、それが作用されたのかな?
まぁ、どっちでもいいか。
すぐ切ってみる。
……自然の音が周りに流れ始める。
全く気にしてなかったよ。
むしろ静かで快適だった。
まだ寝ている王女を見て。
「なんか……ごめん」
結果的に、僕が無視していた形になり、申し訳ない気持ちで一杯になる。
涙の後を見て、僕は考えた。
——
僕がお腹が空くくらいだから、きっと王女も空くだろうと思い、寝ている間に食事を調達して来た。
昨日は赤いので叩かれたから、緑のを幾つか取ってきた。
僕は二度、同じミスはしない。
もちろん試食済みだ!
赤いのとは違う美味しさがあった。
これで許されるかは分からないけど、準備は万全だ。
特にやる事もないので、王女が起きるまで赤いのを食べてよう。
「うまっ」
【アルテル】
──────────
ん……明るい。
重い瞼を開ける。朝になったみたいね。
数ヶ月くらい牢屋生活していたせいか、どこでも寝れそうで怖い。
……自分自身が王族だと、忘れそう。
私は昨日、泣き疲れてそのまま眠ってしまったみたい。
彼は、背を向けて急に静かになったかと思ったら、何の反応もしなくなり、無視され続けた私は最後に人目を憚らず泣いてしまった。
そしたら、彼が気づいてあたふたしていたのを覚えている。
顔が合わせ辛いけど、いい加減起きないと失礼ね。
起きて、横で何かしている彼に話しかけようと振り向くと、昨日と同じく毒を貪り、多少赤くなっていた服はさらに赤くなり、まるで血を浴びたかの様な真っ赤な姿に、思わず悲鳴を上げた。
【カイル】
──────────
「キャアァァァァ!」
起きるなり、急に悲鳴を上げる王女。
何? どうしたの。
怖い夢でも見たのかな?
こっちを向いて、まるで僕がその怖い夢の原因だ! みたいな顔をしている。
お腹空いて、気が立っているのかな。
ふふ……キミの為に、新しい木の実を取って来たよ。
さっき取って来た緑のをあげる。
「どうぞ」
王女は受け取らず、緑の木の実を凝視する。
「そ、それも……毒です」
両目を見開いて木の実を指差し、王女が凄い事を言った。
あ、なるほど。
この木の実って毒なのか……。
今の言葉で、昨日の行動も全部合点がいった。
王女は毒は食べられないのか。
美味しいのに、もったいないなぁ。
サシュ。
……美味しい。
僕が食べるたびにびっくりしている王女を見て、慣れてきたのか、気持ちが楽になり、もう少し頑張ろうと思った。
「あの、君は盗賊団じゃないの?」
一番の疑問を聞いてみる。
「⁉︎……ちがいます」
否定した。
違うのか。
また怒鳴られるかと思ったけど、今回は冷静みたいでよかった。
「こちらからも、いいでしょうか?」
僕の反応を少し待っていたが、特に何も無いので続きを話し始めた。
「……先日は助けて頂き、ありがとうございました」
深々と頭を下げてお礼をする王女。
え?
散々な目に遭わせた気がするけど、お礼を言われるとは。
「ぼ、僕は何もしてないよ。
寧ろ、こっちがごめんなさい」
向こうは、僕の言葉に驚いていた。
——さて、よくわからないけど。
色々誤解は解けたし、そろそろ行こうかな。
これ以上関わる理由もないし。
何だかんだ言っても、結局人だしね。
「じゃ、そろそろ行くね」
最後に一言だけ伝えて、僕は王女を置いて歩き出した。
「あの、ちょっと待ってください」
なぜか引き止められた。
……え? 終わったんじゃないの。
僕、結構頑張ったよ?
「貴方は命の恩人です。
よろしければ、お礼をさせて下さい」
なんで?
命を救う?……毒をあげようとしたから、寧ろ僕が知らずに奪おうとしてない?
「……いらないです。それじゃ」
歩き始めると、王女はしがみついて来た。
「待って、お願い!
お礼を……させて下さい」
この世界の女性は、しがみつくのが好きなの?
何なの、怖いよ。
僕より弱いみたいだから、なんとか最小限の力で逃げようともがいたが、中々離れてくれない……
「はぁ、はぁ……お願いします」
王女は結構頑張って、ボロボロの服がさらに泥だらけだ。
……めげない子だなぁ。
僕は、そんな王女の気迫に——負けた。
わかったよ。
どこにでも、ついてくよ。
お礼して下さい。
※毒は食べ物ではありません。
皆様もお気をつけ下さい。
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