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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
1章 逃げた先でも逃げたい
5/9

1-4 王女、無視される


【カイル】

──────────


「あのぅ」


 

 そうだ! 木の実とかならどうだろう。

 あれなら、戦う事もなく食べ物を確保できる。


 でも、どうやって探そうか。


 ……あ、忘れてた。

 索敵すればいいのか。色々あったから頭が回らなかったよ。


 ちょっと探してみよう。


……軽く周りを索敵する。


「やった。結構あるぞ」


 よしっ。一番近くの木の実を取りに行きますか。


 ずっと傍らにいた女性に、僕は気づきもせず歩き始めた。


「待ってくださーい」


——


 いやぁ、大量、大量。

 こんなに取れると思わなかった。


 僕は大きな木の下に座り、大量の木の実の中から一つを選び始める……みんな同じ色だけど、この一番赤い奴を食べてみよう。


 待ちに待った初食事だ。

 手に持った木の実に勢いよくかぶりつく。


シャリ


「うまっ」


 美味しい……。

 味なんて本当、久しぶりだよぉ。


 ほとんどない記憶に微かにある味を思い出し、自然と目から水が溢れ出す。


……泣くのも久しぶりだ。


 僕はひとかじりを皮切りに、止まらなくなった。



【アルテル】

──────────


 はぁ、はぁ……


 視界の悪い森の中を歩いて、どのくらい経っただろう。

 あの人はいったい、どこに?


 空を見ると、陽が沈み始めたのか暗くなってきている。


 このままでは……せっかく盗賊団から逃げられたのに、帰る事もできない。


 お礼をと思って追いかけたのは失敗だった?

 こんなに無視されるとは思わなかった。


 確かに、あの時怒ったけど。


……無視は酷い。


 見えなくなっちゃったし。

 一人になっちゃった。


 自分の状況に気づき、落ち込み出す。


……泣きそう。


 王女に生まれてから厳しく躾けられて、一度も泣いた事なんてなかったのに。


 無視されるのが、こんなにキツイなんて知らなかった。


「う、うっ……」


 半べそをかきながら歩いていると、少し開けた大きな木の下で、白い物体が赤い物を食べて笑っていた。


 余りの怖さに声が出ず、涙も引っ込み、後退りしながら逃げようと――よく見たら彼だった。


「うまっ、うまっ」


 何かを貪りながら……うまうま言ってる。


 その赤い食べ物、そんなに美味しいの?

 どれだけ食べたらそうなるのか、白い服が赤く染まっていた。


ぐぅー。


……お腹が鳴る。


 私はその音で、お腹が空いていた事に気がつく。


 少し分けてもらえるかと思い彼に近づき……赤い食べ物をまじまじと確認して、また恐怖した。


「あ、あの、そ、そ、それ猛毒ですよ!」



【カイル】

──────────


 この赤いの、メッチャ美味い。


 最初は逃げて失敗かなぁって思ったけど、まさかこんな美味しい食べ物に出会うなんて。


 僕はついてる!

 誰だよ……運悪いって言ったの。


 夢中で貪っていたら、左の袖を引っ張られる。


……気にはなったけど、今は食事中だ。


 また、引っ張られる。


……何? 見てわからないの?


 と振り向くと、何だか見覚えのある人が口をパクパクしていた。


 人だと思って最初は驚いたけど、パクパクしてる姿は面白かった。


 前に会った事あるし、今ならなんだか話せそう。


 必死に僕の食べ物を指差して、パクパクしている。


……これ、食べたいのかな?


「はい。一個だけど、あげるよ」


バシッ


 手を叩かれて、赤い物が転がって行く。


 酷くない?


 僕はショックのあまり、ゆっくり横になり、心を閉ざした。


 そのまま眠気に襲われて眠った。


——


 んっ、んー!


 大きく背伸びする。

 静かな夜だったなぁ。


 昨日は、すぐ寝ちゃったよ。


……空を見上げる。


「まぶしっ」


 朝日を感じたのは、いつぶりだろう。


 贅沢を言えば、上の世界で使っていた布団が欲しかった。

 けど、もはやそれも叶わぬ願いか。


 ふぅ。下に目をやる。


……現実を見よう。


 僕の横で寝ているのは、昨日の嘘つき王女だ。


 どれくらいかは分からないが、気がついたら真っ暗な中で無言で泣いていたので、流石の僕もいたたまれなくなり、横で寝る事を許した。


 でも、おかしいのは、ずっとパクパクしていたり無言だった事だ。


 気を遣ってくれたのかな?

 話さなくて良かったし、見た目は面白かったけど。


……あっ。


 そういえば、音を遮断してた。


 でも、おかしいな……


「あー、あー」


 僕の声は聞こえる。

 僕だけ対象外?


 あの時は他の声が聞きたくなかったから、それが作用されたのかな?


 まぁ、どっちでもいいか。


 すぐ切ってみる。


……自然の音が周りに流れ始める。


 全く気にしてなかったよ。

 むしろ静かで快適だった。


 まだ寝ている王女を見て。


「なんか……ごめん」


 結果的に、僕が無視していた形になり、申し訳ない気持ちで一杯になる。


 涙の後を見て、僕は考えた。


——


 僕がお腹が空くくらいだから、きっと王女も空くだろうと思い、寝ている間に食事を調達して来た。


 昨日は赤いので叩かれたから、緑のを幾つか取ってきた。


 僕は二度、同じミスはしない。

 もちろん試食済みだ!


 赤いのとは違う美味しさがあった。


 これで許されるかは分からないけど、準備は万全だ。


 特にやる事もないので、王女が起きるまで赤いのを食べてよう。


「うまっ」



【アルテル】

──────────


 ん……明るい。


 重い瞼を開ける。朝になったみたいね。


 数ヶ月くらい牢屋生活していたせいか、どこでも寝れそうで怖い。


……自分自身が王族だと、忘れそう。


 私は昨日、泣き疲れてそのまま眠ってしまったみたい。


 彼は、背を向けて急に静かになったかと思ったら、何の反応もしなくなり、無視され続けた私は最後に人目を憚らず泣いてしまった。


 そしたら、彼が気づいてあたふたしていたのを覚えている。


 顔が合わせ辛いけど、いい加減起きないと失礼ね。


 起きて、横で何かしている彼に話しかけようと振り向くと、昨日と同じく毒を貪り、多少赤くなっていた服はさらに赤くなり、まるで血を浴びたかの様な真っ赤な姿に、思わず悲鳴を上げた。



【カイル】

──────────


「キャアァァァァ!」


 起きるなり、急に悲鳴を上げる王女。


 何? どうしたの。

 怖い夢でも見たのかな?


 こっちを向いて、まるで僕がその怖い夢の原因だ! みたいな顔をしている。


 お腹空いて、気が立っているのかな。


 ふふ……キミの為に、新しい木の実を取って来たよ。


 さっき取って来た緑のをあげる。


「どうぞ」


 王女は受け取らず、緑の木の実を凝視する。


「そ、それも……毒です」


 両目を見開いて木の実を指差し、王女が凄い事を言った。


 あ、なるほど。

 この木の実って毒なのか……。


 今の言葉で、昨日の行動も全部合点がいった。

 王女は毒は食べられないのか。


 美味しいのに、もったいないなぁ。


サシュ。


……美味しい。


 僕が食べるたびにびっくりしている王女を見て、慣れてきたのか、気持ちが楽になり、もう少し頑張ろうと思った。


「あの、君は盗賊団じゃないの?」


 一番の疑問を聞いてみる。


「⁉︎……ちがいます」


 否定した。


 違うのか。

 また怒鳴られるかと思ったけど、今回は冷静みたいでよかった。


「こちらからも、いいでしょうか?」


 僕の反応を少し待っていたが、特に何も無いので続きを話し始めた。


「……先日は助けて頂き、ありがとうございました」


 深々と頭を下げてお礼をする王女。


 え?

 散々な目に遭わせた気がするけど、お礼を言われるとは。


「ぼ、僕は何もしてないよ。

 寧ろ、こっちがごめんなさい」


 向こうは、僕の言葉に驚いていた。


——さて、よくわからないけど。


 色々誤解は解けたし、そろそろ行こうかな。


 これ以上関わる理由もないし。

 何だかんだ言っても、結局人だしね。


「じゃ、そろそろ行くね」


 最後に一言だけ伝えて、僕は王女を置いて歩き出した。


「あの、ちょっと待ってください」


 なぜか引き止められた。


……え? 終わったんじゃないの。

 僕、結構頑張ったよ?


「貴方は命の恩人です。

 よろしければ、お礼をさせて下さい」


 なんで?

 命を救う?……毒をあげようとしたから、寧ろ僕が知らずに奪おうとしてない?


「……いらないです。それじゃ」


 歩き始めると、王女はしがみついて来た。


「待って、お願い!

 お礼を……させて下さい」


 この世界の女性は、しがみつくのが好きなの?

 何なの、怖いよ。


 僕より弱いみたいだから、なんとか最小限の力で逃げようともがいたが、中々離れてくれない……


「はぁ、はぁ……お願いします」


 王女は結構頑張って、ボロボロの服がさらに泥だらけだ。


……めげない子だなぁ。


 僕は、そんな王女の気迫に——負けた。


 わかったよ。

 どこにでも、ついてくよ。


 お礼して下さい。




 ※毒は食べ物ではありません。

 皆様もお気をつけ下さい。


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