0-4 アメリア奮闘記
【アメリア】
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今日も師匠は眠ったままだ……
急に目から血を流して、倒れてから三日が経った。
師匠を休ませるためにギルドでは迷惑がかかると思いすぐに宿に移ったが、宿ってこんなにお金が掛かるものだったのかと心底世間を知らなかったんだと痛感した。
毎日狩りに出かけては、その日の宿代を稼ぐために奮闘する毎日をおくっていた。
ガチャ
「エル、今日の仕事をちょうだい!」
わたしはノックもせずにギルマスの部屋に乱入すると、エルは嫌な顔せず一枚の紙を机の上に出してきた。
「はい」
受け取って内容を見ると『行方不明の捜索』と書いてあった。しかも、今までになく報酬がいい。
これを達成できれば五日分の宿代にはなる。
内容は——仕事で馬車に乗り北に向かった主人からの連絡が途絶えてもう二日になる。
探して欲しい。
もし、最悪な場合でも、遺品があってくれると嬉しいです……
「これ、怪しくない?」
明らかに、おかしな依頼だ。
確かに怪しいが身元はしっかりしている、報酬も全額ギルドに支払い済みとエルは言う。
わたしの事情を知っているから早めに回してくれている、受ける受けないはもちろん自由。
どうしようと悩んでいるだけ時間の無駄になる。遺品があれば成功でこの報酬なら….
わたしは依頼書にサインをして、受ける事に決めた。
——最後に連絡が入った所に来た。
最後に連絡が入ったのが、この街道の十二番目の『魔道灯』我が国では馬車が襲われてもすぐに連絡がいくように街道には幾つか設置されている。
自動ではないので多少手間がかかるが、魔道灯のおかげで早期解決した事件は多い。
もちろん受け手が報告をちゃんとした場合による。
今回は二日の間があるので、そこもおかしな所だ……
街道で襲われるのは、結構あることなので国も魔道灯を設置しているくらいだ。一般の人でさえ街道の移動には危機感を持っているのに異変を二日後に報告は違和感しかないが……
でも、絶対ではないか……
わたしは一度、疑問を捨てて探すことにした。
十二番目……次の街までは四十八個、魔道灯があるが、依頼者によると六個置きに連絡が入っていたらしい。
となると、十二番目から十八番目になる。
もう少し間隔を短めにしてくれればと思うが、馬車のスピードで、半日の半分程度の距離の中だ。
まだ広い……歩きで探すと中々に骨が折れる。
そんな時、空から声がした。
「進んで」
エルの声だ。
これは嬉しい誤算だった。まさか助けてくれるなんて……精霊が見えなくても声が聞こえるのは大きい。
少しの間だが協力してくれるらしい。
——声を頼りに探し始めた。
丁度、十七番目に差し掛かるところで馬車の跡が左に曲がっている所が見つかる。
エルからすぐに声がかかった。
「この先に少し大きな小屋があるけど、数が多いから私が戻るまで待っていて欲しい」と、急な用が出来てしまったらしい。
エルの特徴だからしょうがないけど、断片的で内容が難しい。
数が多いと言う話から読み解くと、野党か何かに襲われて小屋に……まさか、まだ生きてる?
生きている可能性が出てきた以上、待つのは正直辛い……
エルは悪くない、単純にわたしの心が弱いだけだ。
——ごめん……
可能性があるのに、立ち止まるなんて無理だ。
わたしはなるべく音を殺しながら街道からはずれ森の中に入っていく。
すぐに何人か人の声が聞こえてきた……
「なぁ、どれくらい待てばいいんだ?」
「しらねぇよ」
何かを待っている?
どうする……見えたのは二人。
木々が邪魔で気配も他に無さそうだが、他にいる可能性もあるし強さもわからない。
でも、ここで減らすのは得策かもしれない。
——行く!
敵の視覚から素早く剣の柄で首を狙う。
ドスッと鈍い音と共にもう一人の足を鞘で払い倒れた無防備な頭を力を入れて叩く、ドガッ。
(ふぅ……このぐらいの怪我は自業自得ね)
上着を剥ぎ取り腕と足を縛り付ける。
後は、口にその辺の草を詰め込んでおこう。
一応はこれでいい。
これで、敵の力はわかった。
少数ならわたしでもいける……周りから少しずつ減らして行くか、それとも一気に行くか。
どっちにしても、時間が惜しい。
小屋の方向に向かいながら考えよう。
——小屋が見えて来た。
ここに来るまでに五人無力化した。
思ったより、敵がいなかった……
エルの話だと数が多いと言っていたのに。
小屋の大きさは普通よりは大きいが、入っても十人そこらだろう。
確かに十人は多いのかも知れないがあのくらいの強さなら大丈夫だ。
ぱっと見て小屋の周りにも人の気配がない。
仕方ない……危険かも知れないが小屋の周りを探ろう。
——外からぐるっと小屋をまわったが特に何もなかった。
(中に入る? 窓にはカーテンがかかっている……)
聞き耳を立てても物音一つしない……これは居ない? 恐る恐る扉に手をかけゆっくり動かしてみた。
キィィ
(空いてる——)
中は暗いが、すぐに誰もいないとわかる。
緊張が少し緩和されるのが分かったが、無理矢理緊張に持って行く。
中央にあるテーブルの上にコップが二つ、人が二人いた形跡だ。
しかし、全く気配がない、そして奥の部屋に続く扉が二つ……
(もう、ここまで来たら——)
どちらも開けてみた。
(なるほど、そう言うこと)
そこには地下への階段があった。
もう、間違いなくこの下にいる……
数が多いとはこれの事だったのかと理解した。
下がどうなっているかわからないし、灯がない以上これはエルを待った方が……
と、考えながらわたしは階段を降りていた。
(降りてるし! いつも、こうだ……)
分かってはいるが身体が先に動いてしまう。
仕方がないのでもう覚悟を決めよう。
ゆっくり、足元を確認しながら降りて行く。
四十段くらい降りると下の方にほんのり明かりが見えてきた。
何故か安心してしまうと同時に人の気配がはっきり分かった。
気づくと同時に上から何かが落ちる音がして察してしまう。
バタンッ
——罠だった。
(多分、入り口を塞がれた)
そして、下からゲスな声が聞こえた。
「おい、武器を捨てて降りてこい。こっちには人質が居るぜ! 余計な事は考えるなよ」
最初からこれが狙い?
わたしを狙ったのか、馬鹿な冒険者を狙ったのか。少なくともわたしには人質は無意味だ。
王族は肩書きだけで語っている訳ではない。
歳が十を過ぎると生々しい事柄も教え込まれる、そこに人質などの教えもあった。
『人質を守るより敵を討て』
小さいながらにそれを聞いて、合理的だと思った。
だから、わたしは武器を右手に持ち階段を降りて行く。
明かりが広がり、目が慣れると中には見えるだけで十五人のクズと五人の人質がいた。
いつでも殺れるように人質全員にそれぞれ一人がついている。
「おいおい、聞いてなかったのか? 武器を捨てろと言ったろ? 殺せ」
ズサッ
すぐに一人が悲鳴を上げながら斬られる。
——わたしはそれを初めて目にした。
魔物が死ぬのは何度も見たことがあるが、人が死ぬのを目の当たりにしたのは初めてだった。
(おかしい……)
思っていたのと違う。
すぐに動いて敵を制圧出来ると思った……
でも、身体が言う事を聞かない。
カタカタ
(……ふ、震えてる?)
わたしの状況を見て、一番偉そうな奴が薄ら笑いを浮かべる。
「あーぁ……お前のせいで一人死んだぞ? どうすんだ? 早く武器を捨てないと」
自分で殺らせておいてふざけた事を言う奴に……怒りもある。心はまだ負けてない。
(動け——)
この状況で武器を捨てた所で意味がないのは教わった。
無駄なんだ、わたしが動きさえすれば良いだけなんだ。
「殺れ」
「やめろーーっ」
ザシュ
わたしは、自分の不甲斐なさから叫ぶしかなかった……唇を噛む。
痛みは感じるが、それでも身体は震えるばかりで動かない。
(……師匠、たすけて——)
気持ちが切れて弱音が出てしまった。
そのまま、力が抜けて膝が折れる……
「二人目だな! もう、お前はお終いなんだよ。第二王女様」
何を言ってるんだ? こいつは……
まさか……
(わたしを、知ってた?)
初めからわたしが狙い?
どこから? 最初から? ダメだ……おかしくなる——クズの勝ち誇った話は続く。
「割のいい話だったろ?」
「頭、その話は……」
「いいから言わせろよ。震えてるじゃねぇーか。どうせ、このガキはもう何もできねーよ」
何も出来ない……
「金がない第二王女の話が来てからすぐ動いて正解——」
話はこうだった。
わたしがお金のために色々な依頼を受けて動き出したのが三日前、行方不明者の話が二日前、情報を流して釣り始めたのが今日……こんなに簡単にわたしが釣れて笑いが止まらなかったらしい。
全部最初から仕組まれていた……
(悔しい……)
それなのに動けない。
何もできないわたしを見て呆れた様に呟き始めた親玉。
「もう少し楽しめると思ったんだがな、三人も残っちまった……」
人質もこの為だけに用意されただけ……
わたしを恨んでもいい、ただ、このままわたしが動けなきゃ本当に無駄になる——
(くそ、くそ、動いて!)
「あー、もういいや。お前たちも楽しめ! 顔以外にしとけよ」
周りの奴らが群がる。
それでも動けないわたしは、なす術なく一人一人が代わり代わりに暴力を振るうのを受け入れるしかなかった。
(師匠……会いたい)
(エル、勝手な事してごめんなさい)
(ヒアちゃん……食べすぎないでね)
(師匠……)
ボゴッガスッ——
どのくらいの間、殴られ続けたかわからない。
途中から痛みも感じなくなっていた……ただ、頭の中だけは段々と冷静に周りの人間を人だと思えなくなっていくのが分かった。
(強さが欲しい……)
そして——
また、感覚がおかしくなる。
殴られ過ぎてなのかわからないが、周りがよく見える……笑いながら殴って来る奴らを殺らないと……
右手が動く。
剣だけは握ったままだという事に気づいた。
この状況でも武器を離さない自分が微笑ましく思える。
(殺れる——)
(丁度いいや……こいつら殺ろう)
そのまま右手に力が入る。
横に振ってみた。
ザシュ
周りが騒がしくなるのが分かったが、何を言っているのか理解できない。
すぐに人質だと思う三人の所に向かい、押さえていた二人を斬り、三人目に向かう。
(わたしは冷静だ)
三人目は人質を斬ろうと腕を上げたが振り下ろす前に腕を飛ばす。
助けた人質に笑顔を向けながら敵の首を飛ばす。
人質は何故かわたしを見ても恐怖が消えてなかった……まぁいい、もう助けた。
周りを見渡す、全てが止まった様な感覚だ。
自分がやりたい事が全部出来る気がする……
次はあそこだ、あそこがいい。
六人固まって居たので斬りつける。
刃が簡単に入る——
人の形をした生き物が悲痛な顔をしているが、音が聞こえない、簡単に五人、六人と命が無くなっていく。
——その時、急に爆音が鳴り響いた。
ビビビビビビビ!!
「ふははは、今度こそ終わりだ」
急に音が聞こえて我に返る。
階段から多数の敵が降りて来る気配がする……
(馬鹿だ……数がどれだけ増えようと狭い階段から降りて来たら意味がないだろに)
階段前に立ち、降りて来る奴らから殺いで行く。
暗がりから急に明るくなるんだ目が慣れる前に……本当に無駄な死にたがり達だ。
どれだけ殺ったか知らないが、悪を切り裂いていく感覚が段々と現実になっていく。
周りはすでにわたしに斬られて見るも無惨な惨状になっていた。
背後から声が聞こえて我に返る。
(そうだ、あいつは何処だ?)
「な、何なんだ! お前は!」
声のする方を見ると、また同じように人質を取っていた。
「おい! こいつを助けたければ、武器を捨てろ」
こいつらは……まだ分からないのか。
何処までも価値の無い奴らだ……
わたしは再び心を落とす。
(何でだろ——今度は自分の意思で出来た)
この状態になると全部が恐ろしくゆっくりになる。
わたしが止まらない事を知ると人質に刃を立てようとしだすのが分かった。
ただ、すごくゆっくりだ……そんなに遅いと簡単に殺れそうだ。
「く、……来………る……な……!……」
今度は声も聞こえてきたが、凄くゆっくりだ。
もうどうでもいい、遅すぎて聞いてられない。
人質が殺される前に近づき、ただ剣を丁寧に身体に沿って背中から薙いだ。
「死ね」
ザシュ
周りを見るとこいつが最後だったらしい……
安心したら、そのまま力無くわたしも崩れた。
(終わった——)
全身に痛みが走り出し自分のした事を理解した。
【エルトゥア】
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姫に付けていた精霊からの連絡があり、無理矢理仕事を終わらせて精霊で見に来たけど。
依頼者とコイツらは繋がっていなかったからわからなかった、でもこれを見て罠だとわかる。
——短絡的だった。
これは……姫がやったの?
何人居たのかも分からないくらいに滅茶苦茶になったギルドのメインホールくらいの大きさの地下室、夥しい状況で一人膝をついている姫。
「うわぁぁぁぁぁーーーーーーっ」
(!?)
急に血塗れの姫が叫び出して、そのまま動かなくなった。
姫の状態を精霊を通して見たら……無理もない事が分かった。
服が所々破れ身体中に打撲の痕、肋骨が数本折れていたので、傷は私の精霊がすぐに治した。
とても一人でこの人数を斬ったとは思えないくらいの状態だったがもう大丈夫だ。
——私はすぐにギルドに手配して、姫と助かった人質三人を助け出す。
その後、姫はすぐに身体は元気になったが丸一日塞ぎ込んだ。
その間に少しずつだが話を聞けた。
人の命が奪われるのも奪ったのも初めてだったらしい。
そりゃそうだ……まだ十五、カイルが起きるまでに持ち直せば良いくらいだと思っていたら。
カイルの名前を出した途端。
目に力が戻って私にお礼を言い、今回の報酬を貰って飛び出して行った。
あの、白いのにどんな魅力があるんだ?
不思議でしょうがない……
でも、元気になってよかった。
【アメリア】
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わたしは何を落ち込んでいたんだ……
お金も稼げたし、何より師匠に会えるじゃないか!
くだらない屑の為に悩むだけ無駄だ。
あの時は、自分のしでかした惨状に恐怖で叫んでしまったが、結局は優先順位をしっかり定めておくのが大事なんだ。
散々、王女として習っていた事がこんな時に役に立つとは思わなかった。
『切り捨てた過去を振り返るな』
後悔する意味もない、あるとすれば人質を二人死なせた事だ。
私がもっと命のやり取りに慣れていれば少なくとも、もう一人は助けられた。
更に強ければ全員助けられたかもしれない。
二度と立ち止まらず強くなれば良い!
今回の事でいい技も閃いた……
(いつか師匠に見せたいな)
そして、今は師匠の為にもっとお金を稼がねば!
——わたしは師匠の所に帰りながら色々と覚悟を決めていった。
ガチャ
「ただいまー!」
「アメリア! 随分遅かったじゃない」
「ごめんね、色々あって……」
「心配だから、次は私も一緒にいく」
師匠はまだ寝ていたが、ヒアちゃんが出迎えてくれた。
その近くで寝ていた師匠を見るとやっぱり帰って来れた事に安堵した。
でも、未だ寝たままだ……頑張らないと。
「ヒアちゃん、今日は下でご飯食べよ!」
なんか少しお腹が空いた、ご飯の話でヒアちゃんも喜んでいる。
(師匠、早く起きるといいなぁ)
ガチャ
おまけにしては、長過ぎた……
1話でおさめるのが大変でした。
最後の方は少し駆け足だったかも。
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




