3-13 黒と白 2
【カイル】
──────────
殴りかかって来た人は怖すぎた。
僕は改めて思う。心底、人間が苦手だ。
確認のために意識を飛ばして見た時から、勝てないと悟ったほどだ……安請け合いはするもんじゃない。
エルの『人が』って話で不安だったけど。
魔物を黒くする人なんて、いるとは思わないじゃん!
助けに来たつもりが元凶だったなんてね。
目の前で見たら、もしかしたら……
戦闘が始まったら……
話し合いで……
全部無理でした!
でも、ほんとヒアには助かったよ。
「ヒア、今回ばかりはありがとうね」
「ふっふーん! もっと褒めなさい!」
頭の上で踊っているが、受け入れよう!
ヒアのおかげで何とか堪えられたし、
力みすぎて、初めて口に痛みが走ったと思ったら、唇を切ってそのまま血だらけになったけど。
ほんと、ありがたかった。
僕が気絶した時も、ヒアが必死で念話を続けてくれなかったら、戻って来られなかった。
——
ただ、意識を取り戻してびっくりした。
あの不快感が消えてたからだ。
恐る恐る目を開けたら、代わりに白髪の真っ黒で巨大な変な奴が笑って喋ってた。
不思議に思い情報を見ると『ロイ』と出た。
今までのことが、すぐにつながったよ……
あの男の人も被害者だと。
——元身内が本当にすいませんでした!
リディアの時もそうだけど、なんで争いを起こそうとするんだろうね。
僕は『認識阻害』をして、すぐに動き出した。
あの男を探すために。
でも、彼はいなかった。
ヒアに聞いても僕を起こそうと必死で分からなかったらしい。
元が分からないが、ロイと出ている以上ロイなんだろう。
こいつは、どうやってここに来て、あの男の人を巻き込んだのだろう。
色々考えたかったが、突然「キミノ、ナカマダロ」と口走った。
すぐに『浄化糸』で拘束した。
これ以上、こいつに余計なことはさせたくなかった。
いい加減、文句でも言ってやろうと姿を見せたら、攻撃しようとして来たので、反射的にバラバラにした。
結局、お前はこんな奴なんだな。
呆れるしかなかった。
変わり果てたロイに、最後の言葉をかけた。
「『お前でよかったよ。ありがとう』
これに懲りて、少しは反省しなよ?
僕はもう、お前とは関わりたくないからね」
と、言った。
——
さて、ロイを見る。
君のせいで色々な人に迷惑が掛かった。
一人の男の人の命を弄んだ。
ヒアにも酷い事をした。
片目も奪われた。
そして!
僕に人を嗾けた!
怖かった……凄く怖かった。
未だに目を閉じると……あぁ、駄目だ、怖すぎる。
今度会ったら、一発殴りたかったし。
このくらい、いいよね。
僕は長い髪を掴んで、ぐるぐる回す。
ブンブンブン!
そして、離した。
——シュンッ!
キランッ!
「バイバイ、ロイ」
スッキリした。
本当、お前が出て来たおかげで僕は助かった。
嫌な奴だが、感謝するよ。
君は、そのくらいなら『ギフト』で戻れるでしょ。
命までは取らない、取れるかもわからないし。
後は、最上神様に怒られるといい。
「ヒアは良かったの? ロイだったよ、あれ」
「ロイ様には関わりたくない……それに、カイル様がいるし」
ヒアとは唯一上を知ってる同士だもんね。
僕もヒアで良かったよ。
「そっか、ならこれで終わりかな」
ただ、あの男の人、どこ行ったんだろう。
バラバラにしても、お腹から出て来なかった。
ばらけた肉片を見てみる。
あれ?もぞもぞしてない?
「カイル様、これ何?」
「知らないよ……」
——覗いてみる……は?『再生』
それは、どんどんくっ付いて一つの塊になった。
ヒアが聞いてくる。
「だ、大丈夫だよね?」
脈打ってる、確実に何が生まれる。
『アレサン』って出てる。
ロイではないから少し安心。
「……分からない」
ヤバいのはわかる、体が震えてるからだ。
放置するのは良くない……
どうしようかと思ってたら、遠くからアメリアの声が聞こえた。
「師匠ーーーーー!」
あぁ、良かった。
信じてだけど、大丈夫でよかった。
安心からか思考が切り替わる。
「ご帰還じゃーーーー!」
あ、ティアもいたか。
「お疲れ様。大丈夫そうだね」
アメリアが笑顔で答える。
「はい! ティアのおかげです」
おぉ、やっぱり仲がいいね。
「それほどでも、あるのじゃ!」
お前は、ヒアと被るんだよ……
アメリアが塊を気にしてる。
そうだ——僕はまた塊に向き合う……
存在感がありすぎだ。
「師匠、この大きな塊は何ですか?」
何なんだろうね。
一度、思考が切り替わって少し冷静になれた。
「卵?」
うん、あの男なのかな?
だからこんなに震えが……
なんでロイの残骸がくっついて?
謎いね……
——突然、塊が割れ出す。
パキパキッ
パキッ
そして光出す。
ピカーーーーーーン
「おい、ティア!」
「わ、妾じゃないぞ! 断じて違う!」
生まれる?
僕はもうアレが出て来るとしか思えなかった。
人間だったよね……怖すぎる。
光が収まると……やっぱり、あの男が倒れてた。
僕が叫ぼうとしたら、先に——
「きゃぁぁぁぁぁああーーっ!」
アメリアが叫び出す。
「どうしたのじゃ、主人!」
叫びそびれた……まじで、分かります。
人が産まれた。
あれ? でもアメリア、人を克服したんじゃ?
「はだ、はだ、裸ですーーーっ」
裸? 服を着てないってこと?
何を……そういえば、お風呂以外は服着るね。
なるほど、そりゃそうだ。
パチンッ
裸の男に、黒い服を着せる。
なんか、僕と同じ色は嫌だ。
「師匠ーーー!」
「師匠ーーー!」
アメリアが飛びついて来た。
よし、よし。
……ティアは、どさくさか!
さて、ロイの被害者が復活して良かったけど。
僕にとっての悪魔が産まれ落ちた。
もう生き物なのかも疑わしいが、僕は人だと認識してるみたいで震えが止まらない。
もし、闘いになったら僕じゃ勝てない……
「アメリア。ちなみに、この人に勝てそう?」
胸の中にうずくまるアメリアに聞いてみる。
「無理です……うぅ」
胸に顔を押し付けながら首を振り否定する。
だよなぁ、どうしよう。
なんか、起きそう。
「うぅ」
起きたよ。
こんな時ばっかり当たるんだ。
「ここは……」
知らん。
とりあえず、目を瞑ろう。
そして、逃げられない現実。
アメリアにガッチリロックされている、背を向ける事すらできない。
どうする……どうしよう。
飛ぶか?いや、こいつを放置するのは良くない……ロイの塊から産まれたし。
敵対したら……どうしよう……誰か……
——そして、僕はダメ元でヒアに頼んでみた。
(ヒア、この人と話してみる?)
(いいの?やるやる)
即答!
まじ?ヒアは僕より凄いね。
(任せていい?)
(もちろんよ!)
後はどうなっても、責任は持つよ。
ヒア先生!お願いします。
「ねえ、筋肉の人!まずは謝りなさい!」
おおぅ、いきなりぶち込んだ。
(ヒア、そんないきなり)
(大丈夫、大丈夫!)
その根拠は、どこにあるの?
「……カ、カイルか。
生きていたのか……しかし可愛らしい声だな」
状況は見えないので、声だけで判断するしかないけど。
これは?……上手く誤魔化せてるのか?
フードの中のヒアの声を僕の声と、綺麗に誤解してる……これはいけるかも。
(ヒア、僕になりきってやってみて)
(え?にひひ、楽しそうね)
「アンタのせいで痛かったんだ、先ずは謝るのが筋だろ」
カッコいい台詞……知らない人だ。
どう見ても僕じゃない、ヒアにはどう見えてるんだ?これで上手くいくのだろうか。
「あぁ、そうだな。すまない」
おおー、謝らせた。
し、心臓に悪すぎる。
ヒアと男と鼓動の音しかしない。
「許す!」
はやいよヒア!
さっきまでの恐怖はどこへ行ったんだ。
「は?許してくれるのか?」
「謝れば、許すでしょ」
ヒアは偉いね。
大人だよ、僕には出来ない。
「まさか許されるとはな……」
「何、沈んでるの?でかい体して情けない」
「あぁ、だがな、俺は」
「あんたの悩みなんて知らないわよ」
「そうだよな……」
「いつまで、うじうじしてんの。あんた名前は?」
和やかだ、ヒアが常にハンマーでぶん殴っているのに会話が続く。
「ははは、違いない。
悪い、俺の名はアレサンだ」
アレサン、やっぱり肉の……ならロイの被害者か?それにしても、ヒアは無敵だな。
「ダサい。
うーん、『アレク』にしなよ」
ヒアの言葉に心臓が跳ねた。
ぶち込みが怖過ぎて、震えてくる……
「!?……俺もそう思ってたんだ。
『アレク』良い名だ、いいのか?」
通ったよ……怒らないのかよ。
鼓動がうるさすぎて呼吸をやめた。
「当たり前でしょ」
頭の上で気分よくドヤってるなぁ。
相性いいのかな。
僕の方は呼吸が止まり、鼓動が消えた。
これは良いね。
「ついでに、聞かせてくれ」
ヒアに何を無謀な問いを。
「何でも聞いて」
その強気はどこから来るんだ?
「……俺はこれからどうすればいい?」
ついでに、ヒアに人生相談……何処までも行くね。
「その身体で人助けでもすれば?」
デカいから強い、強いなら人助け。
うん、多分よく考えてない。
「あははははは」
笑ったー。
「すまない。
いいな!俺に相応しい」
「だよね!私もそう思う」
噛み合ってる……そのコミュ力、見習いたい。
——急に静まる。
この間を楽しめる神経がほしいよ……
「……本当に、ありがとう。
そちらの嬢ちゃんも怖がらせてるみたいだし、俺はもう行く」
嬢ちゃんってアメリアかな。
やっと終わった。
因みに僕も怖がってます。
「うん、頑張りなさい!」
もう、いつの間にか僕の真似とか忘れてるよね。
「あぁ。じゃあな、カイル。またどこかで」
「またねー」
ヒア様、爆誕!
何で名前知ってるのかとか、この際……
あぁ、ロイか? もういいや。
バイバイ。二度とやだよー!
(ありがとう、ヒア)
(楽しかった!)
(あぁ、普段は僕たちとだけしか、話せないもんね)
(そだよ、仕方ないけどね)
あんな怖い人と最後まで対面できた。
奇跡だ、何もしてないけど……
思考がぼやける。
今日は疲れた。
他の事は後にしよう。
……長い戦いが終わった。
ロイのせいで、ひどい目にあった。
アメリアは、男が居なくなっても力が抜けずにいる。
「アメリア、もう大丈夫だよ」
未だにうずくまるアメリアの頭を撫でる。
「!? ひゃ、し、師匠、ごめんなさい」
はや。すごい速度で離れた。
うん、謝らなくてもいいけど……
師匠は、もう限界です。
「あやつは、結局何だったんじゃろな」
何でもいいよ。
もう会う事もない。
頭から寝息が聞こえてくる。
くかーっ
ヒア……寝てたんかい!
さっきまで元気に……
あぁ、やっぱり僕もだめだ。
どっと疲れた。
「さて、もう帰ろう」
「はい!」
——
宿に戻って思う。
ガチャ
アメリアはいつものように下からちゃんと宿に入ってもらった。
エルに方向は……今日はもう無理。
みんなも疲れたんじゃないかな。
「ごめん。僕は、ちょっと寝るね」
バフッ!
お布団が、ふかふかだぁ。
「おやすみ」
「はい、師匠。
お疲れ様でした。おやすみなさい」
「おやすみなのじゃ」
くかーーー
【アレク】
──────────
……外か。
「まぶしっ」
明るいな、良い日差しだ。
なぜ、俺が生きているのかはいい。
何度も経験した。
特性が変わってないのだろう。
ただ、明らかに変化はある……自分だと認識できる、身体の中に燻る物がない。
もしかしたら、最後の命かもしれない。
俺はそれに、不満どころか喜んだ。
やっと命と向き合える。
——胸を触ると心臓が脈を打っていた。
カイルとのやり取りを思い返す。
「本当にでけぇ、人だった。」
がっかりしたのが申し訳ないと、思うくらいに。
「しかし、カイル。
名前で男かと思ったが女だったんだな……」
あんな華奢な体で、俺のすべてを受け止めたというのか。
女だと知っていたら、殴れなかったな。
——拳を見る。
「俺は、許された……」
あれだけ魔物を増やして身勝手に殴りつけて、命だけで済むならと思ったのにな。
後ろを振り向く、ダンジョンだったんだな。
俺の世界にもあった……ここより酷かったが。
落ち着かない感情を抑える。
「さて、『助けたら』か……どこへ行くかだな」
なるべく、危険なところがいい。
俺は結局、戦うことしかできない。
そこで、少しでも人助けできればありがたい。
カイルは俺に助けろと道をくれた。
奪い続けた俺にだ、胸が熱くなる。
「任せろ」
——空に片手を上げ思いっきり空を掴む。
この手に掴めるだけ掴んでやる。
「見ててくれ」
知らない世界で再出発か。
こんな未来があるとは、嬉しいな。
それに相応しい名も貰えた。
『アレク』いい名だ『アレサン』よりずっといい。
今までは、毛ほども信じなかったが……
「……白い神様、いや女神か」
ふっ、相応しいな。
——木の上に飛び、辺りを見渡す。
「風が心地いい」
それに、いい世界だ。
あっちが良さそうだな。
それじゃ。
行くか。
——その後の男は『黒い鬼神』と呼ばれ各地で人助けを行う。
その口癖は『俺より神様に感謝しな、白い女神様をな』だ、そうだ。
誰のことを言ったのかは知らないが、その後カイルを見た人がどうしたのかはこの物語で語られるかも知れない。
【アメリア】
──────────
師匠は布団で眠ってしまった。
あれだけの事があったのだから当然だ。
地上に戻ってみるとまだ、昼にもなっていなかった。
ダンジョンは闇の影響か、露骨に暗過ぎて時間の感覚が分からなかった。
多分、エルや冒険者達もまだ戦っているだろう。
(ティア、結局わたしは役に立てたのかな?)
(何を言うんじゃ? 当然であろう、主人のおかげで外に溢れる魔物は、ほぼ居なくなったのじゃ)
(そうかなぁ、結局、師匠が元を立ったから闇も消えたみたいだし)
私たちが半分くらい倒した時に、急に闇が掻き消えて、その後は普通の魔物を狩っていたくらいだ。
(じゃから、カイル様が強いと言っても一人で何でも出来る訳ではない、自信を持て)
(そう?……ありがとう、ティア)
そっか、外の魔物達も闇から解放されて多少は狩りやすくなるのかな?
わたしもティアが居なかったら狩るのは大変だったし、その辺は良かった。
眠れないなぁ、師匠を見る。
強いのにどこか抜けてて、優しい師匠。
これからも、一緒に冒険とかしてみたい。
その時はまたみんなで楽しく。
こんな事お城に居たら無理だった。
明日はどうなるかな?
気持ちが落ち着かない。
「うん、少し、外行こう」
「ほう、良いぞ」
やっぱり、エル達が気になる。
手伝って来よう。
「いって来ます」
ガチャ
(!?……静かにね)
パタン
答え合わせ回。
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




