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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
3章 ギルド編

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3-12 黒と白 1



【カイル】

──────────


 ヒアの食事が終わった。


 時間がない……闇がこの短時間で来た時よりも酷くなってる。


 僕は初めて、敵に恐怖を感じていた。

 今までは、本当に運が良かったんだね。


 僕にどこまで出来るかわからないけど、さすがに約束は破りたくないよね。


「準備は良いかな?」


 目の前の、まだ幼さを残す少女が。


「はい!」


 頭の上に乗っている食いしん坊が。


「うん!」


 未だに光る意味が分からない剣が。


「当然じゃ!」


 みんな、やる気が凄いよ。

 羨ましい。


「では、行きますか」


 僕たちは飛ぶ。


——


 木々に囲まれた広い空間の中央に出る。

 探すまでもなく、奥の方にそびえ立つ山の上にどす黒いオーラに塗れた男が座っていた。

 

 その山をよく見ると大量の魔物の亡骸だった。


「来てくれたか」


 男はすぐに僕たちに気づき、動き出す。


ベチャ、ベチャ


 亡骸を踏み潰し、前に歩き出す。


 コイツは無理だ。

 僕は恐怖に支配される。

 そんな事はお構いなしに、目の前の男が話しかけてくる。


「まだ……大丈夫。間に合ったぞ、カイル」


 僕の名前を知ってる?

 く、来るな! 知らないぞ、こんな奴。


ベチャ、ベチャ


 男が止まる。


「さあ、闘おう」


 男から、どす黒い闇が溢れる。


「グガアァァァァーーーッ!!」


 周りの骸が闇を受け、動き出す。

 その異様な光景に、アメリアが飛び出した。


「わたしがやります」

「妾もおるぞ」


 やめろ。無理だ!

 止めたいが、声が出ない。


ガキンッ


「なかなか、やるが……所詮子供か。戦場に出た以上、敵だぞ!」


 男が、肩を斬り裂こうとしたアメリアを見据え、虫を払うかの様に腕を薙ぐ。


 その腕を蹴り上げ、力に逆らわず後方へ飛んだ。


「ほう、子供だと思って甘く見た。

 だが、お前じゃ力不足だ」


 男から、また闇が広がる。

 今度は、意思を持っているかの様に。


「ゆけ! お前達は、あの子供をヤレ」


 生き返った魔物達が、一斉にアメリアの方へ向かう。

 この状況に、僕は少し安心した。

 目の前の男と戦うよりはマシだ。


 だけど、僕の状況は全く変わらない。


「さぁ。邪魔が入ったが、俺達の闘いはここからだ」


 くそ、せめて動いてくれ。


「ゆくぞ!」


 男が僕に向かって来る。


「うらぁぁぁ!」


 拳が迫る……無理だ。

 僕は男の拳を、まともに食らうしかなかった。


ドゴッ!


 無防備になった顔に拳が当たる。

 勢いで、そのまま後ろに吹っ飛んだ。


バリバリ


 木にぶつかり、支えきれない木を押し倒しながら飛んでいく。


 あー、マジでやばい。



【アメリア】

──────────


 普段、何を考えているのかわからない師匠が、今回はわたしでも分かるくらいに不安な表情をしていた。


 確かに、目の前の男は不気味だ。

 わたしも、足が震えるくらいに。

 直感が言っている。わたしでは無理だと。


 でも、不思議と怖くはない。師匠がいるからだ。


 男が何か言っているが無視だ。師匠が行かないなら、わたしが活路を作る。


「わたしがいきます」

「妾もおるぞ」


 ティアを、男の肩目掛けて振り下ろした。


ガキンッ


 硬い。コイツはやっぱり強い。

 男がこちらを向き、話しかけてくる。


「なかなか、やるが……所詮子供か。戦場に出た以上、敵だぞ!」


 当たり前の事を言ってくる。

 こいつも、子供扱いか。ふざけてる。


 何か言ってやりたいが、すぐに男の腕に力が入るのが分かった。


 やばい。ティアに力を入れて身体を浮かす。その反動を使って、男の腕を蹴った。


タンッ


 勢いが凄い。思ったより飛ばされる……体勢を立て直すため、回る。


ズササーーッ


(しまった)

 師匠と反対に飛ばされてしまった。


「戻らないと」


 足を出そうとした、その時。男の声が響く。


「——あの子供をヤレ」


 なっ!その声で、止まっていた魔物達が一斉に前方から押し寄せてきた。


 うしろは森、下がると面倒。

 ここは、無理にでも突っ切る。


 アイツは……あくまでも師匠狙い。

 早くしないと。


「落ち着けーい!」


 ティア?


「何? 急がないと」


「主人は、ここの敵を倒す事を考えよ」


 なぜ、今でもこんなに不安が……


「あれ? そうでもない」


「じゃろ? 師匠を信じよ。このまま魔物が増えると、此奴らが外に出てしまう。そうなったら……わかる筈」


 そうだ。魔物は増えると外に……エルや冒険者が居るけど、限度がある。


「分かった。信じる」


 わたしの戦いはここだ。

 アイツは任せます。


「ふぅ」


 全身を研ぎ澄ませる。


「刃こぼれなど、起こらん。力の限り行け」


 わたしは、一つの力を手に入れた。


 師匠が寝ていた時。

 外での戦いで、一度油断して死の間際を見た。


 ……我ながら、馬鹿だと今でも思う。


 でも、安全な場所では、きっとこの力は目覚めなかった。


「いくぞ!」


 この力に名前はない。

 ただ付けるとしたら、『師匠』それしかない!


「師匠!」


 ……発動しない。

 なぜ? 心が師匠でいっぱいに。


「主人! 何をしておる。前じゃ!」


 顔を上げると、魔物がそこまで来ていた。

 すぐに反応して、切り裂く。


バシュ!


「ありがとう」


「何か使おうとしておったのう?」


「師匠を!」


「何を言っておるんじゃ! よく分からんが、しっかりせい!」


 当たり前の事を言われて、はっとする。

 『師匠』じゃ、心を無にできない!

 まさか、こんな事になるなんて……


(主人……そんな事を考えとったんかい!)


 なんか、ティアに怒られた。

 え?


(なんで? 師匠が居ないと無理なんじゃ)

(妾を甘く見とるな! このくらい出来るのじゃ。正確に言えば、妾との絆が強まった結果じゃ)


(なるほど。どうすればいい?)


(阿呆じゃな。精神を空にするなら、師匠を考えたら逆じゃろ)


 なるほど、確かに。


「左じゃ」


ザシュ!


(冷静ね)

(当然じゃ。主人の師匠に任されたのでな)


(主人の考えはわかった。妾に同調せよ)


(わかった)


——前方から、一気に魔物が押し寄せる。


「輝け!」


ピカーーーーーーン


「ガアァァァァァァァァァァ!」


——突然の光に、たじろぐ魔物達。


(時間はない、行くぞ)

(ええ)

(主人のその技は、意識を空にして全身を刃とす……)


(名を『空刃からいば』)


(良い名ね)


 心を研ぎ澄ます。

  いける。


「ティア、ついてきて」


「当然じゃ」


 刃こぼれなし。素敵。

 思いっきりやる。


「空刃」


 心に、雫が落ちる。


ポトンッ


 全ての音が消える——


 その瞬間、光から解放されて動き出した魔物達が細切れと化した。



【???】

──────────


 何だ……コレは……


 目の前の白い男は、抵抗する事なく、俺に殴られ続けている。


 ただの人なら、一撃で消し飛ぶ力で殴っているのに、俺の不安と恐怖を受け入れる様に、殴られ続けている。


(そうじゃない、違うんだ。

 俺を殺してくれ。ただ殴られるだけじゃなく、お前の力で俺を消してくれ)


——心では悲鳴を上げ、身体は殴り続ける。


 白い男の顔が、赤く染まり始めた。


 当然だ。こんな事は、あの世界でもなかった。

 皮肉だが……俺は、あの時より強い。


バキッ

ボコッ


ドガッ

ドカッ


 ……この男では、だめなのか?


 だが、もう無理だ。止められない。

 俺が殴っているのか、もう一人が殴っているのか、分からなくなってきた……


 不味い……また溢れる。


——!? 表に漏れない?


「ガアァァァァア!」


 今までのとは違う。俺の肉体が膨張しだす。


(ははは……意識どころか、人でさえ望めぬか)


 目の前の男は強い。だが、俺の攻撃を受けるのみ。


 期待したが、結局は期待はずれだった。


 もう、俺を止める事の出来る奴はいない。

 抑えきれん……終わりだ。


「すまな——」


 男は意識を手放した。



【ヒア】

──────────


 カイル様のバカ!

 何で何もしないの!


 そんなんじゃ、勝てるものも勝てないよ。


 私は必死に、髪の毛を引っ張る。


(はは、ヒア痛いよ)


 笑ってる場合じゃないでしょ!

 声に出して言いたいけど、私の存在が知られたら、それこそ迷惑をかけちゃう。


 何とか、念話で……


 んー、んー。


(が……ま……で)

(がまで? 面白いね、ヒアは)


 違うよ!

 我慢しないで、戦ってよ!

 死んじゃう。

 やだ、やだ。

 カイル様の……ばかーーー!


(ばかーーー!)

(!……出来たじゃん。凄いや)


(やった! 聞こえる?)

(聞こえるよ)


 そうじゃない。戦わないと。


(なんで、戦わないの!)

(ごめん。僕じゃ、この男には勝てない)


(うそ! 戦わないで、何でわかるの)


(体が、動かないんだ……)


 何で? おかしいじゃない。


(ヒア、僕から離れるんだ)

(やだ! 一緒にいる)


(わがまま言わないで。意識が、もう途切れそう)

(なんでよ! やだよ、カイル様!)


(……)


(そんな! カイル様! カイル様!)


 私は、必死に叫び続けるしかなかった。


(カイル様ーーーーーー!)



【ロイ】

──────────


——それは、男の身体から、異形の姿として産まれ落ちた。


ブチャーーン!


「アソボウヨーーーーーーッ!」


「アハハハハハハハハハ」


 やっと、出てこれたよ。

 カイル、君のおかげだ。


……でも、許さないよ。

 ぼくを壊した罪は重い。


——あの時は、本当に焦ったよ。

 まさか、君にあんなカウンターを食らうなんてね。


 バックアップを切り離して、僕の世界に流して正解だった。

 当初の予定とは全く違ったけど、結果は完璧だ。


「ボクハ、ウンガイイヨ!」


 こうやって君のいる世界に来れたからね。


 言葉も姿もおかしいけど、そんな事は、この世界を壊してからで良い。


 足元の、血だらけのカイルを見る。


「マズハ、オマエダ」


 殴ろうとした手が止まる。


 ……でもなぁ、どっかで聞いた神話の英雄アレキサンダーを捩って作った、『アレサン』にも、手も足も出なかったなんて……


 正直、がっかりだった。


 ぼくが手を出さなくても……


——闇が、膨れ上がる。


「アア、ダメダ、ダメダ」


 この気持ちは、殺らないと晴れないね。


 空を見上げる。


「ハァ……」


 今から君を殴れると思うと、ワクワクするね。


 足元を、再び見る。


「アレ?」


 いない。どこ行ったの?

 辺りを見回すが、カイルが居ない。


「マサカ、ニゲタ?」


 情けなっ!

 笑いが、込み上げてくる。


「アハハハハハハハハハ」


 そういえば……全然、冷めない。


 なんか、嬉しいね。

 ぼくには何故か、呪いの様に、高揚すると冷めるプログラムが仕掛けてあった。

 それは、どんなに取ろうとしても無理だった。


 これは、最上神から逃れた?

 良い事づくめじゃん。


 周りを探し続ける。

 見つからないけど、どうせすぐ見つかる。


 カイル。逃がさないよ。


「アレ、キミノ、ナカマダロ?」


 カイルが居なくなってから、ずっと気になってた、あの小娘。

 あれ、楽しそう。


 殺ったら、きっと悔しがって現れるよね。


 ぼくは、軽快に動こうとした。


 その時。


——あれ?


「ウゴカナイ」


 何でだ?

 身体が、言う事を効かない。


 動く顔だけを必死に動かして、辺りを見ると——


 さっきまで、何も無かった場所に白い男が立っていた。

 しかも、無傷で。


「ニゲタンジャ、ナカッタノカ」


 傷がないとか、どうでもいいや。

 また、ぼくが染めてあげるよ。


 ありがとう、神様。


 ぼくの願いは、やっぱり、お前に復讐する所から始まる。


 身体が動かなくても、口さえ動けば、お前なんて……


——口を開き、力を溜める。


 何か変だ……攻撃しようとした僕は自分がおかしい事に気づく。


「ハ?」


 視界が、逆さまになっている。


——いや、首が落ちてる?


ボトッ


 両腕が落ちる。


ボトボトッ


 胴体が崩れる。


 そして、ぼくはバラバラになった。


 逆さ向きに見えるカイルが、ぼくの近くに来て、話す。


「お前で良かったよ。ありがとう——」


——何だって?


 わけがわからない。


 ぼくに殺される筈じゃ……


 意識が、薄れて来た。


 あぁ、またあの世界に戻るのかぁ。


 でも、もういいや。


 ここは、怖い。


 一からやり直そう。

 今度は、真面目に。


 出来るかな?


「……」


——最上神から逃れた彼は、二度と蘇る事のない、本当の死が迎えにくる。

 その事を知ることもなく、ロイは終わりを迎えた。


 



アメリアは凄く真面目でした。


面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)

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