3-2 ギルド登録
【アメリア】
──────────
入った瞬間。
ガヤガヤガヤ
外の賑わいがかき消され、冒険者たちの独特な喧騒に襲われる。
鉄や獣、花や木々などが混じった匂い。
音は、なぜか先頭でハインツ。
わたしと師匠が入った事で一瞬止まる。
……すぐ騒ぎ出すかと思った音は静まり返ったままだった。
「これは、姫の師匠の見た目に、やられてるな」
ハインツがその青髪を掻きむしりながら言う。
わたしも気づき後ろを振り向くと、中の薄暗さと外の昼前の光を浴びて神々しくも恐ろしい師匠がいた。
「な、何だそいつは!」
静寂を打ち破り、初めに声を張り上げたのはギルドの中でも目立つ一際デカい厳つい冒険者。
何を思ったか、ずしずしとこちらに迫ってくる。
「おい、このギルドにお前みたいな不気味な奴が何の様だ!」
ガタイの割に震えながら声を張り上げる冒険者に少し同情する。
師匠は強い。
戦いを見た事はないが、あの巨大な鱗を持つドラゴンを狩れるくらいだ。
そんな師匠に喧嘩を売ってどうなるか見ものだ。
「何とか言えや、見た目だけの腰抜けが!」
ボゴッ
急に殴った……コイツ。
師匠は何もなかったかの様にしているし、ハインツはニヤけてる。
ハインツの顔を見たせいで、わたしはもう限界だ。
わたしが声をあげようとしたら、急に師匠が私の背中を押して歩き出したので、わたしは抵抗せず歩き出すしかなかった。
「ひゃ。師匠?」
殴られたのに、何とも思わないのかどんどん受付に向かって行く。
それを許す訳もなく、後ろから師匠に殴りかかる冒険者。
ドガッドゴッ
「くそっ」
「よ、ようこそ。
トゥルークレストへ…… ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」
凄い受付さんだ。
この状況でも自分の仕事をするなんて……。
わたしはどうするべきだろう、普通ギルドってもっと賑やかで活気があるはずだ。
「あの、白いの『ブル』の攻撃受けながら受付してるぞ……」
それが、この状況でひそひそ声しか聞こえない……ブル?まんまだ。
「ぶ、不気味すぎる」
決して不気味ではないが、否定はしない。
今は受付に立つわたしの後ろに居る、師匠を殴り続けている冒険者以外、ほとんどの人が見守る状況だ。
誰も助けに入らないのはその異質さ故に?
師匠がそのつもりならわたしは受付を済まそう。
「はい、師匠の登録をお願いします」
わたしが普通に話しかけて来た事に驚いた受付のお姉さんは仕事をし始めた。
「し、師匠さんは……後ろの方で?」
普段は人気の出そうな綺麗な顔立ちをしている彼女の顔は、見る影もなく引きつっていた。
汗だくで対応してくれるプロな彼女が視線を向けた先には、今も無表情で殴られ続けている私の師匠がいる。
「そうです!」
私の師匠は凄いのだと、誇らしく胸を張った。
……わたしは間違っていた。
強さとはこういうものだと……師匠は凄い。
あの程度の罵声や攻撃など怒る必要もないと。
やり返さず全てを受け入れてるのだ。
ギルド内はもうこの後どうなるのか全員が静観モードだ。
「は、はい。それでは……」
この異様な状況が急に終わった。
急に聞こえてきた子供の声に、全員がそちらを向いた。
「何やってるの?」
【カイル】
──────────
僕は驚いた。
ギルドに入って、アメリアが急に止まってしまって。
こんな所に止まってたら邪魔だと思い受付ぽいところまで、手で背中を押した。
会話しても良かったけど声は外に漏れるし、念話は急に触れたら「ひゃっ」とか、アメリアが笑われてしまいそうで中々出来なかったから、意を決して背中を押しながら歩き出した。
思いの外うまくいって、多分……今は受付中だ。
その時、僕は二階から降りてきた一人の少女に目を引かれた。
僕は子供は平気だ、なのでボイドに子供は入れてない。
まさか、ギルドに子供が居るとは思わなかった。
少し興味がでる……この子だけ聞こえるようにしてみよう。
ギフトは言わばパズルみたいな物だと知った。
組み合わせたり外したり、色々出来てやってみると楽しい。
さて、思った通りに出来るかな?
「——状況は何?」
聞こえた!少し偉そうな少女だった。
アメリアの髪よりさらに輝くような金髪、この耳の長さは『エルフ』って種族なのかな?僕の管理していた世界にはいなかったな。
ただ、知識では知ってる。
実物を見たのは初めてだ。
そんな事を考えていたら、アメリアが話し始める。
「ギルドマスター、お久しぶりです。状況は見ての通りですよ。どう落とし前をつけてくれるのですか?」
ギルドマスター?凄く小さいけど、偉い人だよね?マスターに対してアメリアの威圧が凄い。
「迷惑かけた」
「二人こっち」
「あんたは外」
手のひらから光を放ったかと思ったら。
僕の後ろの何かに当たりギルドの外に光が飛んでいった。
それを見たアメリアが少女に言う。
「お見事です。師匠、行きましょう」
ギルドマスターがトコトコ、二階に歩いて行く後を追うアメリアの後ろをついて行くと、小さな部屋に通される。
もしかして?と思い、ボイドを解いたら、思った通り僕を入れて三人だけだった。
「はぁ、疲れた」
だいぶ長い事、ボイドでいたから声に出ちゃった。
「お疲れ様です!」
うん、何故か凄いキラキラした目でこちらを見てるアメリア。
「貴方」
「凄い」
「名前は?」
会話が独特だね……
何が凄いのかわからないが、座りながら話しかけてくる少女。
「カイルです」
特に隠す必要もないので、聞かれたら答えますよ。
「迷惑かけた」
「『エル・トゥア』よろしく」
なんか凄い雰囲気の少女だ。
周りに精霊が浮いてるし……
ぐーーー
その時、凄い音がした。
「お腹」
「減った?」
僕じゃないけどね、もうお腹の状態も自由になりました。
食べたい時に減らす。
素敵ですね。
さて、どうしよう。
「師匠。この方なら大丈夫ですよ」
そうなのか、なら。
空間から食べ物を取り出して、部屋の中心にあるテーブルに転がす。
「食べていいよ」
フードから急に飛び出すヒア
「ごはーん!ガブッ」
エルトゥアがヒアを見て目を細める。
「……珍しい」
「どこで?」
殺気か……アンより凄いけど。
見た目が少女なので全く怖く無い。
僕は臆する事もなく、テーブルの横のふわふわした椅子に座る。
アメリアもそれに続いた。
「ヒアは、僕の従者ですよ。
昔から支えてくれているんです」
コイツが支えていたかは知らないが、似てるし嘘では無い。
「お前」
「何者?」
これは、言うべきなのかな?
アメリアに知って貰ってた方が良いだろうし、今まで聞かれなかったから、気にしなかったよ。
「アメリアは聞きたい?」
目をパチクリしていたアメリアは僕と少女を交互に見て覚悟が決まったのか力を込めた。
「はい!」
良い返事だ。なら良いかな。
って、ルールはどうなってるんだ?ヒアは最上神様から作られてるし詳しいかも。
「ヒア、僕の事は伝えても良いの?」
相変わらず貪りついてるヒア。
「ひゃぶるなんめ」
羽を掴む。
「教えて」
ジタバタしていたヒアが本気だと知るとピタリと止まる。
「ルール上だめだよ。
言ったらどうなるかわからない」
まじ?あぶなっ。
ヒアが知らなかったらどうなってたの?
羽を離すと終わったと思い、また貪り始める。
そんなヒアを見て、初めて居て良かったと思ったよ。
「アメリア、聞いといてごめんね。駄目みたいだ」
「ひゃ……わたしは大丈夫です」
そう言って目の前のエルトゥアをみる。
「そう」
「話聞いた」
「遅い」
遅い?……そっか、僕たちはギルドに行けずにダンジョンに向かったからか。
「すいません。色々あったもので。
今日は師匠の登録に来ました。」
それを聞いたエルトゥアは引き出しを開けて紙を出す。
それと机にある大きな青いクリスタルを僕の目の前に置いた。
「これ書く」
「ペン」
「これ右手で触れて」
淡々としてますね。
紙とペンと青い球が出て来た。
変わった子だ。
僕は紙を見て、恐ろしい事に気がつく。
読めない……言語違うの?会話出来るからわからなかった。
「えっと。読めません」
スーっと紙を押し出す。
「姫」
「代わり」
言われて、慌ててアメリアが動く。
「はい、えっと。師匠、お名前と年齢と出身。
後、職業に特技をお願いします」
「名前はカイル。23歳。出身は……上。元管理者。特技は寝ること」
歳は見た目相応に。あとは正直に答えた。
二人が「上」という言葉に反応したのか、そろって天井を見上げていた。
「上」
「管理者」
「何?」
言えない以上そこは説明出来ないんだよなぁ
僕の沈黙に察したのか、エルトゥアが
「私が預かる」
「管理者、駄目」
「エルフにする」
と言って魔法を掛けてくる。
僕には効かないと思うけど。
それに気づいたのか驚く。
「!?……なぜ?」
「ちょっとフード取って」
焦ると少し饒舌?
言われたので取る。
「魔法」
「効かない?」
何がしたかったんだろう、エルフって事は耳を長くしたかったのかな?
……一応やってみよう。
パチンッ
それっぽく指を鳴らすと、あら不思議。
僕の耳がどんどん伸びていく。
自分の肉体なら簡単に弄れる。
これも、腹減りや汚れやめんどくさいことを無くしたり出したりしているうちに得意になった。
耳は横に座るアメリアにぶつかったところで止めた。
ちょっと長すぎたけれど、目の前の子より年上だし、これくらいでどうだろう?
「……同じに」
エルトゥアは頭を抱え。
呆れた感じで自分の耳を指差して
僕に言ってきた。
アメリアもビックリしてるので、同じくらいの長さに調整した。
パチンを忘れたので終わった後で鳴らす。
パチンッ
「いい?」
細目で僕を見据える子供。
「いい」
「次これ」
右でさわれと言われたクリスタルだ。
僕の世界みたいに丸くて青い。
懐かしみながら触れた。
シーン……
長い沈黙。
どれだけ待っても変化がない。
何か起こると期待したのに肩透かしだ。
「これでいいの?」
そんな僕の考えとは裏腹にワナワナしているエルトゥアがこちらを睨んでる。
怖くはない。
「……お前」
「人では、ないな?」
おーう。どうするのこれ?僕悪く無いよね?
嘘は嫌いなんだけど……それよりもルールを破ると何が起こるか分からない、誤魔化すしかないよね。
「まさか。どう見ても人だよ」
両手を広げこれでもかと人である事をアピールする。ついでに耳も元に戻す。
「三つ」
「人は」
「魔力が必須」
「精霊が見えない」
「触れると光る」
「偶然か?」
魔力……って僕にないの?
精霊見えてるのバレてる……目線のせい?
人だとこのクリスタル……光るのね。
あーどうしよう。
耳を伸ばして、言う。
「実は、エルフです」
殺気が一瞬、溢れてすぐに止まる。
ヒアはそんな中でも元気に貪ってるよ。
アメリアは……僕を見てる。
「いい」
「ハイエルフにする」
ハイエルフ?
「ねえ。ハイエルフって何?」
ニヤってされた。
「……知らない?」
しまったー!
エルフはハイエルフを知ってるの当たり前?言った側から忘れてた。
「知りません」
なぜか、元気よく手を上げてアメリアが入ってくる。
「はい!ハイエルフはエルフの上位種にあたる高貴な存在です。まさに師匠に相応しい」
最後なに……相応しいって。
「五点」
点数を言われて、アメリアが固まってる。
「二つは別物」
「人間の知識は、程度が悪い」
久しぶりに話したアメリアはこれでもかと沈んだ。可哀想に。
「魔力なしに」
「魔法を行使した」
片手を顎の下に置いて、私はわかってるぞ!みたいに微笑んでる。
もう、どう会話したら良いのかわからん。
「そうなんだ、ハイエルフって凄いね」
棒読み。
昔いたのか……会ってみたい。
「興味が?」
「え?」
「墓所が」
「私の里にある」
ほう、いずれ行ってみたいね。
「功績を上げれば」
「口利きする」
面白そうだ。
功績がどのくらいかわからないけど、行ける日が来たら行きたいね。
「ようこそ」
「ギルドへ」
立ち上がり手を差し出し、握手を求めてきた。
「歓迎する」
僕も立ち上がり、手を取る。
「よろしくお願いします」
さて、どうしよう。
「アメリアはいいの?」
ほぼ、何も話さなかったけど。知り合いっぽいし。
「わたしは、大丈夫です。
ただ、登録が終わったのでいくつか依頼をくれませんか?下に行くと騒がれるので」
ナイス。確かに下には行きたく無い。
「いい」
指をくるんと回して魔力の糸がいくつか紙を持ってくる。
ほう、それ凄い便利そう!
あれが使えれば、寝ながら物が取れるね。
「ありがとうございます。師匠!これで今日の宿が確保できます。狩に行きましょう」
よく出来た、弟子だ。
「僕からも、毎回ここで素材の査定してくれたりはしない?」
下は人が多くてさ。
「提案」
「模擬戦」
「勝ったら」
「叶える」
なんで?
ギルマス、独特過ぎて読みづらいと思いますが、いずれ理由が分かるかもしれません。
評価など頂けたら喜びます。




