3-1 師匠と悪友
【カイル】
──────────
あれから僕たちは、ギルドに向かうため歩き出していた。
道順はアメリアがわかるみたいなので先導を任せている。
「楽しみー。早く行こー」
頭の上でずっと喚き散らすヒア、もう完全に指定席が僕の頭に決まったようだ。
ぐー
ん?何だこの音は?
まぁ、いいや。
前方を歩いているアメリアに、追いつこうと足を前に進ませようとしているが、街に近づくにつれて足が重くなっていくのがわかる。
これは何度も感じた恐怖というやつだ。
アメリアは克服しつつあるコミュ症。
もう完全に人生の先輩だ。
ぐー
うるさいな。
上の奴がもうお腹が空いたようだ、道理で静かなわけだ。
僕はそれどころじゃないのに。
不思議空間から出した果実を転がす。
コロコロ
「ごはん!……ガブッ」
ゴロゴロ……
ヒアが飛びついたまま転がっていくのを確認して僕は重い足でアメリアの後ろを進む。
「アメリア、後どのくらいで着くの?」
ビクッとして振り向くアメリア。
何だろ、さっきから全然喋らないと思ったらアメリアもどこかおかしい。
もしかして、コミュ症再発?
これはヤバいなぁ……アメリアも駄目だとまた振り出しかな。
「し……師匠と呼んでもいいですか?」
突然すぎて、何の話かわからなくなる。
なぜ師匠?急にどうしたの……
「何でかわからないけど、別にいいよ」
特に断る理由もないので、了承する。
呼び捨てにしていいよが、最終的に『師匠』になるとはね。
「あの……師匠って具体的にどんな意味?」
剣の先生、みたいなものかな?
「はい!わたしの全ての先生だからです」
うん、許しを得たのですごい喜んでいるのは、わかる。
でも、発言の意味はわからない。
まぁいいか、僕なんかを先生にした事を、いずれ後悔するだろう。
その時は絶望している君の前で、僕は土下座でもするよ。
「それで、ギルドの話を」
歩くのを止めて喜んでいるアメリアに促す。
「は、はい。すいません。そろそろ、街が見えてくると思います。そこからだいたい、青六くらいです」
そう言って指輪時計を出す。
青六なので三十分。
更に今は黄色十一なので十一時なのか。
「カイル様ーーーーーっ!」
もう、戻って来たよ。
そのまま僕の頭に乗る。
「そろそろ、着くみたいだから。
ヒアは僕のフードの中に隠れていてね」
アメリアの話ではヒアは妖精族らしい。
違うんだけど、多分、管理者のロイの世界観なのかな?
これは神の塔の小妖精を完全に反映させてるよね。
この辺、細かいから先の嫌がらせと中々人物像が合わなくて掴めないんだよなぁ。
んー、考えると思考の渦にのまれるから、やめよう。
その妖精族はこの世界では愛玩用になり、見つかると余計なトラブルになるみたい。
こいつの何が良いのか、わからないけど。
トラブルになるのは避けたい。
最悪、認識阻害をかけるけど、あまり動き回られると制御が難しくなる。
なので大人しくさせるのが一番良い。
「はーい。大人しくしてます」
命令はちゃんと聞くんだよね。
「あ、見えて来ましたよー」
あー見えて来ちゃったかぁ……一つ提案しようかな、情けないけど。
「アメリアに全部任せてもいいかな?」
情けない師匠でごめん。
「ひゃい!わかりました。任せてください」
ありがとう、弟子よ。
これで、僕はボイドしているのに居ないふりができる。
通常は人にぶつかる恐れのあるボイドもアメリアのすぐ後ろに張り付けばそれはもう完璧な擬態になれる。
勝った!
「僕は、君のすぐ後ろからついていくから。
気にせずにギルドの手続きよろしくね」
「はい!師匠は着いて来てくれるだけで、心強いです」
良い子すぎますね。
【アメリア】
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言ってしまった!
そして、師匠呼びを承諾してもらえた。
やった。
カイル様を呼び捨てには結局……出来なかった。
でも、ずっと夢だった事があった。
それは、『師匠』この言葉に相応しい人を探していたが中々、現れなかった。
でも、ミノタウロス戦以降からずっと考えていた。
カイル様こそ師匠に相応しいと。
そして、今日!ついに、ついに。
許可された。わたしにはもう悔いはない。
ギルドでもなんでも……
「師匠!わたしに任せてください」
ただ、くっ付き過ぎだと思います師匠。
「あの、師匠。そこまで近くにいなくても……」
師匠は笑顔で「わかった。少し離れるね、僕の事はいない者と思って」と言ってくれた……何故か名残惜しいけど、これなら気持ちが楽です。
街の門が見えて来ました。
もう、覚悟を決めます。
「行きましょう」
——
門の前に何故か見覚えのある騎士団の人がいる。
多分、わたしに用があるのだろう。
「アメリア様!お待ちしておりました。」
この人は覚えている、副長の『ハインツ』だ。
「何の用?」
遠征やダンジョンなどコイツと何度も戦闘を共にした言わば悪友だ。
「お久しぶりです。ギルドまでお供せよと」
普段こんな話し方じゃないのに、コイツはやっぱり嫌いだ。
「普通に話しなさい、切りますよ」
威圧する。
その瞬間、背中に師匠の手が触れた。
「ひゃ。な、な、な、師匠、何を……っ!」
ハインツがびっくりしているがそんなのどうでもいい、急に何ですか師匠。
(ごめんね、急に威圧したから何事かと思って)
なぜ、こちらで話すのでしょう?
(い、いえ。旧友が少し……)
(あぁ、なるほど。どの辺にいるの?)
おかしな事を聞いてくる師匠。
(はい、わたしの目の前にいます)
見えてないわけないけど、不思議な方だ。
(ありがと……ほどほどにね)
ハインツがニヤけて話しかけてくる。
「師匠?いつの間にかそんな人を見つけたのか」
「……私は騎士団副長の『ハインツ』と申します。」
胸に手を置いて一礼した。
こういう所作は規律高い騎士団だけあって綺麗だ。
それを受けた師匠は何も言わずに笑顔で答えた。
「無口……なのかな?」
師匠を見たハインツは少し固まっていた。
師匠は、見た目は恐ろしいくらい白い方だ。
それは、わかるが……
「師匠は、こういう方なのです。」
もう相手にするのも疲れるので仕事をさせて消えてもらおう。
「わかりました。
先に行きなさい。
わたしは後ろをついて行きます。」
師匠もほどほどにと言っていたので、会話は最小限にしよう。
「はいよ、姫さんは後ろをついて来な」
何だその爽やかな笑顔は、気味が悪い。
「なぁ、ダンジョンに行っていたって聞いたが……大丈夫だったのか?」
歩き出してすぐにハインツが話しかけてくる。
会話はあまりしたく無いけど、何も言わないのも……
「見ればわかると思うけど?」
それにしても、城下に門から入るなんて久しぶり……それに、人が多くても平気。
「まぁ、確かにそうだな……ははは。
そういや、なんで師匠?」
急に何?教える訳ないだろ。
このままだと、色々聞かれそう……話したくないけど、こちらから会話するしかない。
「ここも、変わらない」
わたしの言葉にハインツは一瞬止まり、またすぐ歩き出す。
「そう見えるかい?今朝、ダンジョンから見たこともないデカさのミノタウロスの角が運ばれたって言うんで、いつもよりもざわついてるくらいだ」
そ、そうなの?でも、ドラゴンの鱗の方が……あぁ、姉様、上手いわね。
角に目を向けて鱗を秘密裏にか。
「そんなに凄い物なの?」
そもそも鱗の方が凄すぎて、気にもしなかったけど、単純に疑問に思った。
「は? あの角だぞ?
あれを狩れるパーティなんて、この国に何組いると思ってんだよ」
へ、へぇ……ソロなんだけど。
これも、師匠のおかげなのかな?
わたし、どのくらい強くなったのだろう……
考えこみながら歩いていたら急に立ち止まるハインツ。
こっちを向いて、両手広げて説明してきた。
「さぁ、着いたぜ!俺達の住む《シュトルス》で一番大きいギルド《トゥルークレスト》だ!」
見上げると……
大きな建物が目の前に広がる。
それと共に急に周りの音が入ってくる。
ギルドに出入りする人達。
忙しそうに駆けていく商人、昼前だからか大声で叫ぶ食事処や屋台の呼び込み。
少し圧倒されたのか、足が竦む。
でも後ろの師匠の存在がわたしを奮い立たせてくれる。
力強い。
「案内、ご苦労様」
ハインツに一言伝え。
わたしは久しぶりのギルドに足を踏み入れた。
ギィィー
3章開幕
やっと、ファンタジー定番のギルドの話に。
評価など頂けたら喜びます。




