2-8 スパルタの決着
【カイル】
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アメリア、凄いなぁ。
あれだけ居た魔物が、もう残り一匹だよ。
もちろん、一度に襲わせる数は調整している。
いくら戦いたいと言われても、その辺りの調整だけはさせてもらった。
一対一、一対二と計算してやってみたけど、最終的に五体同時までこなしていた。
それと、致命傷の時だけはこちらで手を加えた。
この戦闘で、たった二回だけだったのは、僕の予想を余裕で超えてきて驚いた。
回復は、頼られ過ぎても成長に繋がらないので、例外以外は一回一回の戦闘終了後だけにした。
まぁ、その例外も致命傷の時だけの二回だったんだけどね。
とにかく、アメリアの成長は凄まじかった。
僕は元々、世界の管理をしていたせいか、育成などが凄く好きなのかもしれない。
正直、途中から楽しんでしまった。
そして、今はまさに最終局面。
ボス戦である。
こんな大一番が、特等席で見れるなんて、感謝しかない。
「頑張ってね」
僕は、回復魔法っぽいものをアメリアにかけた。
「はい。ありがとうございます」
もう、その姿は、十分カッコいい剣士だ。
最後の魔物は、見た目は牛。
だが四足ではなく二足で立ち、開いた両手で大型の戦斧を持つ。
そして一番の特徴は、アメリアの四倍はある、その巨体だ。
さぁ、アメリア。
君の、このダンジョン最後の戦いだ。
【魔物】
──────────
コイツらはなんだ。
何故か突然、二人が現れ、今まで入れなかったこの俺様の領土に入れるようになった。
全部隊で襲いたかったが、少しずつしか戦いに行けず、徐々に削られていった。
そして、気がつけば、オレの部隊が全て居なくなった。
目の前の人間のガキは異常だ。
最初は、その辺のゴミ程度かと思ったら、どんどん成長しやがる。
傷つけても、傷つけても無傷になり、また動き出す。
アイツは不死身なのか?
何度か致命傷を与えた時も、不思議な力で阻止された。
だが、それが出来るなら、何故怪我を負う。
イカれている。
……イカれていると言えば、後ろの奴だ。
真っ白のアイツは、ただじっと人間のガキの後ろに控えている。
何もしないかと思えば、たまに笑う。
それが、魔物のオレでさえ不気味だった。
くそっ。
あのドラゴン共が潰れて、今度は俺たちがこのダンジョンを牛耳る筈だったのに、まさか、こんな事になるとはな。
オレも武人として、このダンジョンで生き抜いて来た自負がある。
いくらお前が強かろうと、最後はオレが勝つ。
行くぞ!
【アメリア】
──────────
カイル様が、見ていてくれているだけで、ここまで戦いやすいなんて思わなかった。
敵が、わたしに合わせてくれるかのように来てくれて、面白いくらいに色々出来るようになった。
自分が成長しているのが、わかる。
前回の戦いの、最後のような動きは、未だ再現できないけど。
……戦いに戦った。
周りを一度見る。
あんなに居た敵も、残すところ、目の前のミノタウロスだけです。
大型の敵。
今までの経験を、十分に活かせる相手。
アレには、片手だけじゃダメですね。
場面によって、臨機応変に戦い方を変えるのが最善。
あんな大物の魔物なのに。
震えるどころか、これから戦うのか、楽しみでしょうがない。
両手に力を込める。
「行きます!」
わたしは、魔物に向かって飛び出した。
「グガァアアアオオォォッ!」
ミノタウロスが咆哮を上げる。
つんざく大声に、片手で耳を押さえながら止まる。
くっ、出鼻を挫かれた……流石の大物ですね。
キーンと耳鳴りがして、音が遠のく。
流石の大物……けれど、怯みはしない。
武器を左手に持ち替え、敵の左をすり抜けながら足元を裂く。
意識を逸らした隙に背後へ回り、逆の足も撫で斬る。
だが、敵は、それを察知していたかのように、頭上から戦斧を叩きつけてきた。
肉を切らせて、ですか……。
刹那の状態で、勝手に身体が動く。
ドゴォーン!
あの時の、時間の止まるような感覚……
間一髪で斧を避け、振り下ろされた腕目掛けて飛び上がる。
両手で握り直した剣を、振り下ろした。
ザシュッ!
「ガアァァ」
ミノタウロスの右手が飛んだのを目端で確認し、違和感を感じて距離を取り、ついでに呼吸を整えた。
「ふぅ」
あの感覚は、すぐ消えたけど、死地に近い方が動く。
それに、体力の使い方も、だいぶ慣れた。
全力で行かなくても、十分戦える。
削りを織り交ぜて敵を崩し、チャンスを作る。
常に一撃で倒す必要はない。歪ませ、誘導する。
そうすれば、一撃も効果的に入る。
結果は言うまでもない。
少ない労力で、右手が貰えた。
……やれる。
だが、敵も黙ってはいないようだ。
敵の様子が、文字通り変わる。
違和感の正体は、コレだった。
「グガアァァァァ」
二度目の咆哮と共に、ミノタウロスの身体が赤く染まり始める。
それと同時に、大地が揺れ始めた。
「凶暴化……好きにさせるもんか」
揺れる大地を蹴り、敵の身体を足場にして頭上へと跳ぶ。
「残念、待ってあげない」
力を目一杯入れ、両手で掴んだ剣を、上から叩き落とした。
ガチンッ!
「うそ……」
余りの硬さに、剣ごと吹き飛ばされた。
空中で一回転して着地するが、最大火力の攻撃を弾かれた衝撃が、左の骨に走る。
「ぐっ……やっぱり、左手が痺れる」
左手だけで済んでよかった、と言うべきだろう。
ただ、この戦闘で、左手が戻る事は、もうない……。
状況は五分?
むしろ、分が悪い?
「ブシュブルルル」
相手は、準備完了のようだ。
通常、凶暴化は、理性と防御を捨てて攻撃力を上げると教わったが……おかしい。
左手の痺れもあり、細かく作戦を考えたかったが、そんな余裕を許す訳もなく、ミノタウロスが戦斧を振りかぶって投げて来た。
ガゴーン!
戦斧がぶつかった地面が抉れる。
直線的だったので、避けるのは簡単だったが、土煙が周りを覆い、視界が遮られる。
……しまった。本命は、こっちだ。
先程の事といい、凶暴化の考えは捨てる。
計算なら、この状況を見逃すはずはない。
わたしは、一つの考えを持って、煙の中を突っ切った。
煙を抜けた瞬間。
その瞬間を、待っていたかのように、ミノタウロスが突進して来た。
「わたしも、同じです」
すぐさま、生きている右手で、ミノタウロスの方向に剣を向ける。
相手もそれを見て、わたしに挑むようだ。
互いの意思が、ぶつかり合う。
双方の頭と剣先が、ぶつかる刹那。
右手が無くなり、普段より前傾が下がりきらないミノタウロスを、背を極限まで低く沈めて、無防備な腹下を、剣と共に滑り抜けた。
その圧力に、やはり右手だけじゃ押さえきれなくなるが、それを分かっていたかのように、剣の鍔の部分を左足で、思いっきり蹴り、そのまま押さえつける。
ズガガガガッ
硬い肉体が削げる、異質な音と共に、ミノタウロスが、そのまま地面に倒れ込む。
その瞬間、ミノタウロスの投げた、刺さったままの戦斧の柄を蹴って、高く舞い上がる。
「やぁぁぁぁ!」
ズシャン
鍔に足を乗せ、全体重をかけて首筋に突き立てた。
そのまま、切り落とす。
ザシュッ
今までの硬さが嘘の様に、あっさり切れ、転がり落ちる首。
その光景を見て、緊張の糸が切れる。
「はぁ……はぁ……ふぅぅ」
久しぶりの空気を味わうと、左手の痺れが消えていくのを感じた。
転がった首を見て、思う。
凶暴化、聞いていた物と違っていた……。
やっぱり、実戦だと、想定外は起こりますね。
一歩間違えれば、危なかった。
これで、流石に終わりですよね。
振り向くと、カイル様が笑っていた。
長いようで短かった戦いは、幕を閉じた。
【ビブリナ】
──────────
普段と同じ、ただの戦闘だと思いましたが、最後まで見入ってしまう程でした。
……このお子の力は、規格外と評すべきでしょうか。
リディアさんのせいで、手間が掛かりましたが、面白い状況でしたので、そのまま、カイルに感知されない観測の検証をしていましたが……予期せぬものを、見せていただきました。
結果的に、このお子への観測ですと、カイルには感知されない様です。
しかし、このお子の変貌は、カイルの関与があった故か。
直接干渉することで、その影響が増したのか。
状況だけ見れば、当然と言えば、当然の事。
なれど、もし此方が、その場に居たとして、あのような真似をするでしょうか。
……答えは「否」です。
当然です。
全くの無意味。
此方であれば、己が手で解決する方が早いと、断じます。
我らには、思いも寄らぬことを、あの子は考える……カイル。
これからも、其方は、其方のままで。
さて……此方はこれから、規律を破りし罰を、受けねばなりません。
数ヶ月の間、此方の座は空きますが、代わりの者が、其方を見守ることでしょう。
「おーぃ、ビブリナ様ー!」
……小妖精。
迎えが来た様です。
それでは、よしなに。
【カイル】
──────────
目の前で起きた激戦を、振り返る。
……いやぁ、強者同士の戦いは、迫力が違う。
短い戦いなのに、中身は、凄く濃かったよ。
途中、ニヤニヤが止まらなかった。
僕は、ゆっくりアメリアに近寄って、「お疲れ様」を言う。
そして、怪我を指摘する。
「足、折れてるよね。無理しすぎだよ」
回復してあげる。
「あ、ありがとうございます! カイル様。歩けるので、気づきませんでした」
振り向いた、その表情は、付き物が落ちた、スッキリした顔になっていた。
けど、折れても歩けるのか。折れた事ないから、分からなかった。
「あ、前も言ったけど、様はいらないよ」
……あれ。
僕の言葉を聞いたら、急に俯いて、考えだした。
無理言ったかな?
「無理にとは言わないよ。好きに呼んで」
「あ、いえ。呼びます! 呼ばせてください!」
なんだか分からないけど、凄い意気込みだ。
……僕は、アメリアの百面相を見ながら、待った。
——
「ア、アメリア? 帰ってからでも、いいよ?」
「ひゃい。い、いいえ、大丈夫です。今すぐに……」
すでに、何回目かのやり取りを終え。
これだけ時間が掛かると、逆に言いづらくなると思うよ……と、分かってても、共感してるので言いづらい。
あれから、どのくらい経っただろう。
もう、激戦の余韻も、なくなっちゃった。
……あ、そうだ。いい物、持ってた!
不思議空間から、取り出したるドラゴンの鱗!
デカくて、かさばるけど、アメリアにあげるなら、今しかない!
「アメリア、あの牛を倒した君に、僕からのプレゼントだ」
終わってくれ!
この、無謀な時間よ……。
「ひゃ……え? こ、こ、こ、コレは」
振り向いたアメリアは、僕のプレゼントを見て、数秒、触ったり確認して、フリーズした。
そして――
「ド、ドラゴンの鱗!」
と、言いながら、気絶した。
……帰ろう。
これで、本当に初ダンジョンは、幕を閉じたかに思われたが。
嫌な予感がしたので、入り口付近を索敵してみたら、案の定、ダンジョンの入り口に、凄い人数が押し寄せていた。
あれ、僕のせいかな?
無視したいけど、流石になぁ。
結局、一人では逃げるしかないので、アメリアが起きるまで、ダンジョンにいる事となった。
呼び捨てにするのは勇気いるよね。
それは、牛と戦うよりずっと……
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