2-7 言霊は劇薬
【アメリア】
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とても暖かい、陽だまりのような感覚の中、わたしは目を覚ました。
「……ここは」
不思議と、痛みで辛かった身体が今は何も感じない。
ああ、わたしやっぱり死んだんだ。
草の匂いと爽やかな風が心地いい。
「やぁ、おはよう」
声のする方に目を向ける。
光の差し掛かる中……目の前には、微笑んだカイル様がいた。
……真っ白で、神様みたい。
この不思議な状況は、聞いたことがあります。
死の間際に見られるという、弥留の幻という「夢」。
でも、夢の中でもいい。
最後にカイル様に会わせてくださり、ありがとうございます。
最後だし、悔いのないように話したい。
「カイル様、わたし最後までがんばりました」
あの時の記憶が蘇る。
最後の戦いは、今まで感じた事がないくらい凄かった。
それを誰にも見てもらえず、わたしは……。
「もちろん、知ってるよ」
にっこりと笑顔で答えてくれた、優しい声……。
わたしの都合のいい夢だからだ。
知ってもらえているわけがないのに。
……それだけで、気持ちが揺らぐ。
わたしが引きこもっていた時の記憶がフラッシュバックする。
まだ、カイル様を幽霊だと勘違いしていたあの時。
寝ていたわたしの手を、優しく握ってくれていた温もりを。
「さ、最後ですし……あの時みたいに、手を握ってくれますか?」
カイル様は、すぐにわたしの手を握ってくれる。
「え……最後? 言ってくれれば、いつでも握るけど」
……?
少し不思議な言い回しだけど、どんどん感情が込み上げてくる。
軽く握られた手から、カイル様の温もりを感じると、感情が溢れ、今までの想いが涙とともにこぼれ出した。
「せ、せっかく……カイル様と外に出たのに……まだ恩も返せてないのに」
「気にしなくていいのに」
夢でも、そんな事。
言わないでください。
「戦ったんです。誰もいない中、一人で」
カイル様の握る手に、力が入るのがわかる。
「ああ、本当にごめんね」
違うんです。
そうじゃない。
「わたし、負けてしまいました。最後まで戦えませんでした」
最後なのに、こんな事、言いたかったわけじゃなかったのに。
「うぅ、や、やっぱりわたし…………まだ戦いたいです」
あぁ、そっか。
結局、わたしは悔しいんだ。
それに、まだ本物のカイル様に、わたしの戦いを見てもらってない。
「そっか。でも、まだ寝てないと」
いやです。
このまま眠ったら、もう二度と目覚めない。
このまま一人でなんて、嫌だ……
「お願いします、カイル様……」
握られた手を、握り返す。
「まだ生きて……たたかいたい」
涙が止まらなかった。
【カイル】
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本当に、目を覚ましてくれてよかったよ。
まだ、ちょっと混乱しているみたいだけど。
アメリアの気持ちはわかった。
こんなになっても、まだダンジョンで戦いたいのか。
……僕が甘かったよ。
丁度いい。
あれを使おう。
せっかく来たダンジョンだし、嫌な思い出だけじゃなく、少しでもいい思い出に――と、綺麗な開けた遺跡を見つけていた。
二人で見学して、帰ろうと思っていた場所。
あそこなら魔物も沢山いるし、戦えもする。
戦うつもりが無かったから、今は結界で入れないように止めているけど、解除すればどんどん襲ってくるだろう。
行くつもりだったから、すぐ飛べるし、見つけておいてよかった。
アメリアの怪我を見て、弱気になっていた。
本人が泣くほど戦いたいと思っている以上、僕は尊重するよ。
でも、最後にもう一度、ちゃんと確認しておこう。
「本当に戦いたい?」
「も、もちろんです」
……凄い即答だ。
「アメリアの気持ちは、わかったよ」
「準備ができたら、行こう! いい場所も見つけている。」
「え? え、え……え?」
アメリア、どうしたんだろう。
急に立ち上がって、キョロキョロしたり。
自分のほっぺたをつねったり。
身体を叩いたり。
あ、止まった。
「ぴ……ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
【アメリア】
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わ、わた、わたし……生きてるの?
どどどど、どうしよう。
……色々、言ってしまった。
カイル様、見た目が紛らわしいけど、本物だった。
どうしてここにいるの?
嬉しいけど……なんで?
もう、むちゃくちゃだ。
名前も呼んじゃったような気がする……。
終わった。
人生、終わった。
死のう。
もう無理、恥ずかしい。
わたしは右手で剣を持ち、突発的に死のうとしたが……
逆の手を、カイル様に掴まれた。
「魔物もいないのに、剣を抜くなんて、やる気だね」
違います。
違うんです、カイル様。
「それじゃ、準備できたみたいだし。早速、行こうか。」
待ってください。
どこに行くんですか?
ずっと混乱しているわたしは、声を出せずに、カイル様のなすがままになる。
——
なんだかわからず、瞬きしている間に、いつの間にか広い空間に居た。
わたしとカイル様、それと、そこら中に魔物の群れがいる。
「あ、あの……ここは何でしょう」
強制的に冷静にさせられたわたしは、当然の疑問を聞いてみた。
「うん。アメリアの気持ちを尊重した結果だよ。」
カイル様、何を言っているのか、全くわかりません。
そのまま、思っている事を口にした。
「ごめんなさい……わかりません」
「え? 戦いたいって、言ってたよ。」
優しい声で、そんな事言われても、わたし…………言ってた。
あれ、現実だった……
って事は、これ、わたしの望みになるのですか?
せっかく生きてて、またカイル様に会えたのに。
また死ぬの?
さっきまで死のうとしてたけど……これじゃない。
「アメリア、僕は君を信じて、見守るよ!」
あぁ、カイル様……
凄く嬉しいことを言ってくれているけど、笑顔が怖いです。
断れない人の笑顔は、毎回こうだった。
これは、やらなきゃいけないやつです。
——わたしが覚悟を決めた、その時。
パリンッ
何かが割れる音と共に、何故か今まで動かなかった魔物達が、一斉にわたしに向かってきた。
前代未聞の、強制スパルタが始まった。
本音を言える、素敵ですね!
評価など頂けたら喜びます!




