2-2 ビブリナの悪夢
【カイル】
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ここは、森の名前からとってビブリナのダンジョンと言うらしい。
ただ、諸説あり、ダンジョンがビブリナの始まりだと言う説もあるとか、面白いね。
アメリアは何だかんだ博識なんじゃない?
道すがら聞いたら教えてくれた。
さて、現実逃避はやめて目の前の難題を考えよう。
ダンジョンに着いた僕の第一印象は……
「ダンジョンって人気あるねー」
だった。
僕たちは来て早々、目の前の人だかりにたじろいだ。
……このつまずき、何度目だよ。
今回は真面目にダンジョンに行きたい。
あの橋の状況とは似て非なりだ。
アメリアも凄い覚悟で睨んでいる。
気持ちは僕と同じくダンジョンに行きたいのか。
利害は一致している。
なら後は押し通るのみ!
僕はこの世界に来て色んな目にあった。
僕は常に逃げていた。
何とか逃げないで立ち向かう方法を僕は考えた。
街では使えなかったがここでは思いついたアレが使える。
このダンジョンのレベルは森の魔物と同等。
なら今の僕の強さなら、ここに来る冒険者にも効果はある。
引いてダメなら押してみろだ!
「アメリア。君は何も言わずに僕についてくるだけでいい。」
アメリアは無言で頷いたので、『認識阻害』と『ボイド』を彼女にかけた。
認識阻害で他者からは彼女が見えなくなりボイドで彼女から他者が見えなくなる。
もちろん僕だけは例外にしてあるので着いてこれる、今までの応用と複合技だ。
そして………『フィアー』を発動した。
【冒険者】
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俺たちは、今日このダンジョンに挑む。
準備は万全、体調もいい。
今までにない状況にメンバーの指揮も高い。
いける。
今日こそ攻略してやる。
……その時だった。
後ろの方から禍々しい瘴気が溢れ出て来た。
俺たちは冒険者だ。
長年やっていればそれなりの気配はわかる様になる。
だが、まだ存在すら見えないのに、気配だけで身体がおかしくなるほどの悍ましいものが、目に見えるほどの黒いモヤになり、一瞬にしてダンジョンの入り口付近までを覆う。
こんな事、初めてだった。
特にダンジョンの入り口がヤバかった……まるで誰も入るなと言っているかの如く瘴気が渦巻いている。
その瘴気に触れた冒険者達が一斉に震えだす。
「………これは!?吸い込んだらヤバいぞ!」
俺の声を聞いた全員が、咄嗟に口を覆う。
毒か?呪いか?触れただけで瞬時に影響があるなんて吸い込んだらどうなるんだ。
「な、なんだアレは……」
その黒いモヤの中から不気味なほど真っ白い人の形をした何者かが俺たちの方にゆっくり歩いてくる。
突然起こった現実離れした事態に、周りの冒険者達が耐えきれず「悪魔だ」「邪神だ」「魔王だ」「この世の終わりだ」と口々に言い逃げ出し始めている。
その波は冒険者で詰まっていた道を、どんどん押し流していく。
開いた道を、ただ真っ直ぐ歩き、すれ違う人たちに何かを呟き始める、白い物体。
それを聞いた冒険者達は、たちまちモヤに囚われ視界から見えなくなる。
あれは、もう生きちゃいないな……
「くそっ」
諦めかけたその時、この国でも有名な上級パーティー『炎の翼』が出てきた。
「アイツら今日、来ていたのか。」
何度もこのダンジョンの上級を探索している強者。
これは渡りに船だと思った。
同業者でライバルだが、こんな時は上級パーティーを有り難く思う。
下手なプライドは足手纏いにしかならない。
だからこそ、俺たちはそれを見守るしかできなかった。
「行くぞ!」
リーダーのアッシュ。
見た目は赤い逆立つ髪に全身が動きやすい赤い鎧を着ている。
武器は片手剣に盾を持つ戦士系。
噂では炎の魔法も使える。
まさしく炎の翼に相応しい男。
「ああ、サポートは任せたぜ」
パーティの中核を担うレンジャーのビル。
弓、短剣、罠など何でもできるオールラウンダーで更に探索、マッピングなどもこなす。
「ええ、任せて。」
後衛で支援を担当している神官のミリア。
神官服を着て司教杖を持つ。
バフからデバフ、回復に浄化など基本的な支援は何でも出来る。
薬や魔道具の知識も豊富らしい。
まさに『炎の翼』に相応しいメンバーだ。
「皆さんごめんなさい、まずは目の前の敵に集中しますので、もう少し耐えてください。ピュアリファイ!」
大規模浄化魔法の筈だが、パーティーの二人に集中している。
こんなことが出来るのか……格が違う。
「効果はそんなに長くは続きません。」
「ありがとうミリア。行くぞビル!」
「ああ!」
二人が飛び込んでいく。
「皆さんそれでは。」
一礼をして追っていく。
こんな状況なのに爽やかに白いヤツに向かって行く彼らに皆が希望を託す。
白いヤツも炎の翼に気付いたのか瘴気が更に強くなる。
そのまま、炎の翼は瘴気に包まれ消えていった。
…………どうなった?
何の音もしない。
頼む、頑張れ炎の翼、俺達を助けてくれ!
俺の細やかな願いは何事も無かったかの様に瘴気から出て来た白いヤツを見た瞬間。
叶わなかったのだとわかった。
どんどんこっちに近づいてくるがもう足が言う事をきかねぇ……仲間もみんな同じだ。
俺たちはここまでなのかよ。
「………悪夢だ。」
見たままをつぶやいた俺たちの前をソイツは歩きながらこちらを見て。
「ごめんね。」
と、言いダンジョンに消えていった。
その光景を見ながら膝をつき倒れたままの俺たちは、いつの間にか恐怖状態から解放された。
動ける様になってあたりを見回すと今まで溢れていた瘴気も何もかもがなくなっていた。
冒険者達もあれだけの事があったのに死者どころか怪我人すらいなかった。
今までのは幻覚なのかと残った全員が思ったが、いくら何でもこれからダンジョンに行こうと言いだす冒険者は一人もいなかった。
その日を境に、ビブリナの森に『新たな悪夢』の噂が根付いたのは、もはや必然だったのだろう。
【カイル】
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冒険者の人達には悪い事しちゃったかな。
一応、弱めにしたし、謝りながら歩いてみたけど。
ただ、途中ダンジョンの中に行こうとした冒険者が居たから入り口は強くしすぎちゃった……
それに勇敢にも僕に向かって来た人達もいた。
余りの怖さに抑えていた気持ちが溢れ出してそのまま見えなくなっちゃったけど、どうなったんだろう。
……あの人達には特に謝りたい。
でも、到底無理なので心の中で土下座した。
とにかく街とかで使わなくて正解だった。
今回は冒険を生業にしてる人達なら、そのくらいの修羅場は潜っているだろうとは思ったけど。
いざやってみると客観的に僕を見てるみたいで罪悪感でいっぱいになった。
……もう、これは余り使わない方がいいかも。
でもこれで、目的のダンジョンには入れた。
「アメリア、大丈夫?」
ポカンとしているので「おーい」と目の前で手を振る。
「ひゃぁー!ご、ごめんなさい。
………あれだけ居た人が誰も居ませんでした。」
アメリアには、ただ誰も居ない道を僕と一緒に歩いているだけだったと思うけど。
詳しく説明もしづらいし、少し緊張しているくらいがちょうどいいかな。
「何でもないよ。
じゃあダンジョンに行ける?」
ダンジョンって言葉を聞いて目に力が宿ったみたいだ。
「は、はい。」
アメリアの返事を聞き奥に進み出す。
とうとう初ダンジョンだ!
切り替えて行こう。
ダンジョンに行きたかった、だけなんです。
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