2-1 ギルドまでの道のり
【カイル】
──────────
「……大丈夫?」
「だ、だいじょぶ……です。」
僕たちは、城を出て街に入る前に、もう根を上げていた。
最初はよかった。
これからのことを考えて、気持ちも上げ上げだった。
お城からすぐの場所にある、城と街を繋ぐ大きな橋。
距離を聞くと、アメリアは「三つか四つくらいです」と不思議なことを言ってきた。
よく分からないので「時計ってあるの?」と聞いてみたら、
「時計って何ですか?」と返ってきた。
時間はどうやって測るのか聞くと、
「時を測るのは、これです」
と、指輪を渡された。
――まんま時計で、凄かった。
指輪に付いたクリスタルから、青い半透明の三角錐が現れる。
そこに目盛りが五分刻みで十二個。
五分経つごとに、青い色が濃くなる。
それが下から上まで貯まりきると一時間。
一時間経つと、薄い黄色が下から重なって一つ貯まる。
それがまた十二個で、半日。
これによると、アメリアの言った三、四個は十五分から二十分になる。
それを聞いた僕は、指輪を眺めながら楽しみに歩き始めた。
……地獄を知るのは、すぐだった。
気の遠くなるような、この橋は何?
半分を過ぎたあたりから、すれ違う人が増えに増え。
観光なのか、大量の団体さんにまみれ。
進むも地獄、戻るも地獄の生き地獄。
無理して橋を渡り切った頃には、体力も気力もゼロ。
予想を遥かに超えて、目盛りが八個も増えていた。
「あ、アメリア。ギルドって、あとどのくらい?」
「は、はい。まだ十分の一くらい、です。」
………詰んだ。
前に来た時は、アンのあまりの怖さに、橋がこんなことになっているなんて気づく余裕がなかった。
……帰りも然りだ。
今回は余裕しかなかった。
違いは明白だ。
アメリアも僕と同じ――
いや、もしかすると年上な分、僕の方がまだマシかもしれない。
なにせ、名前を呼んでも、あの癖が出ないほどだ。
……考えろ。
このままじゃ、どのみち……人混みに殺される。
冒険どころじゃない。
気が遠くなる意識の中、アメリアの手を探して掴む。
その手は、震えていた。
反射的に力が入り――
僕たちは、飛んだ。
——
次の瞬間、景色が変わる。
僕たちは、あの森に来ていた。
……二人で、安堵する。
「はぁ、はぁ……ごめんね。僕の都合で、急に飛んで」
「……いえ。わたしの方こそ、ご迷惑をかけ……うぅ」
泣いちゃった。
よほど辛かったんだろうな。
【アメリア】
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わたしは、安堵と不甲斐なさで泣いた。
カイル様と旅立つ。
こんなに嬉しいことはなかった。
わたしの引きこもりは、あの時よりは嘘のように良くなっていた。
でも、まだ身内だけだったと、今回のことで思い知った。
あれだけ、お父様と姉様に大見えを切ったというのに。
人混みにまみれて、パニックになった。
カイル様は、そんなわたしを案じて、あの地獄から救ってくれた。
——嬉しかったと同時に、また救われたという負い目が膨らみ、涙が止まらなくなった。
カイル様は、自分の都合で飛んだと仰った。
どこまでも、優しい方だ。
わたしが泣き止むまで、何も言わずに待っていてくれている。
何とか、お役に立ちたい。
涙を堪えて、わたしは覚悟を決めた。
【カイル】
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泣き止むまで、木陰でゆっくり。
まだまだ時間はあるし。
このまったりが、やっぱりいいなぁ。
——
「か、か、カイル様。お願いがございます」
ビックリした。
泣き止んだみたいだ。良かったよ。
僕も泣きそうだったけど、先に泣かれたら泣けなくなっちったしね。
「あ、お願いは全然いいけど。これからは仲間だし、“様”はいらないよ」
「え、あ、はい。あの……ギルドは、今回は諦めて。ダンジョンに行ってはみませんか?」
お、ダンジョンなんてあるんだ。
面白そう。でも、一つだけ聞いておかないと。
「そこのダンジョンのモンスターの強さは、どのくらい?」
「あ、あの……ここはビブリナの森ですか? 一度、訓練で来たことがある場所に似ているのですが」
質問で返されちゃったけど、この森、名前あったんだね。
何か意味のある名前なのかな?
まぁ、今はいいか。
「うーん……知らないなぁ。君たちのお城の近くの森なのは確かだよ」
「でしたら、話は早いです。
………ここの森の魔物と、同じくらいです」
凄く重い雰囲気で言うね。
でも、ここの魔物くらいなら大丈夫かな。
アメリアには、ちょっとキツそうだけど……そこは僕がいれば問題ない。
まぁ、寝ながら守ってもお釣りがくるね。
「そっか。アメリアがそうしたいなら、止めないよ」
僕は、笑顔で伝えた。
【アメリア】
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お金を稼ぐ。
ギルドを通さなくても、例外がある。
それは、国を通す方法だ。
もちろん普通には無理。
特例——この国の英雄など、誰もが認める国に信用のある者でなければならない。
結局、わたしはどこまで行っても王族なので、その特例に入る。
本当は使いたくない手だった。
けれど、今のわたしの状態では、これ以上の考えが思い付かず……無理だった。
そんなわたしの考えを、すべて見透かしたような笑顔に、唾を飲み込む。
わたしがギルドに行こうと言い出したのに。
その舌の根も乾かぬうちに、目的を変えた。
なのに——理由も聞かず、二つ返事で。
しかも、ここの森と同等の魔物が出るダンジョンに行くというのに、まったく恐れがない。
わたしですら、言葉にしただけで震えが止まらないのに。
でも、逃げない。
今のわたしから、戦うことを取ったら、もう何も残らない。
命をかけてでも、必ずダンジョンを攻略してみせる。
……その暁には、少しは対等になれるでしょうか。
カイル様。
それまでは、あなたの名前を呼ぶのをやめます。
【カイル】
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「さぁ、行こうか!」
「はい!」
僕たちは、結局ギルドには行けなかったけど、次なる目標ができた。
ダンジョンなんて、冒険の醍醐味。
しかも、特に危険はないと来ている。
僕の足取りは、今まで以上に爽快だった。
……あっ。
「ねえ、ダンジョンって、どこかな?」
人が多いと相変わらず無理です。
二章開幕です!
最後までお楽しみ頂けたら嬉しいです。
評価など、頂けたら喜びます。




