0-1 お風呂はゆっくり入りたい
【カイル】
──────────
僕はこの世界に来てから、初めての休日にだらけまくっていた。
トントン
この僕の休日を壊す誰かか来た。
ふわふわ絨毯のせいで足音が全く聞こえないのは、メリットでありデメリットだ。
分かりやすい居留守を使っていると。
「失礼します」
ガチャ
勝手に入ってくる知らない人。
……僕の意思なく入ってくるの、やめてほしい。
もちろん怖いので、布団を目深に被り引きこもる。
そんな僕を引き出す言葉が聞こえてきた。
「お風呂はいかがですか?」
ん? お風呂!?
今、お風呂って言ったよね。
入りたい。
まさか、入れる日が来るとは。
この世界にあったのか!
でも、どうしよう。
そうだ! アンの時に使った手を使ってみたら、もしかして。
僕はボイドして布団から出た。
そして、両手を横に上げて、後は身を任せた。
【メイド】
──────────
メイド長の言った事はこれね。
まさか、聞いた次の日に見れるとは思わなかった。
これは、お風呂に連れて行け。
で、いいのよね?
パンパンッ
「みんな、急ぎますよ」
私の合図で、扉の前に待っていた数人が一斉に、目の前で手を広げた方を運び出す。
びっくりするぐらい軽い。
この方……本当に人?
大変な仕事になると思ったけれど、あっさりと大浴場まで連れて来れました。
でも、おかしい……一向に同じ姿のまま動かない。
まさか、メイドの私たちに服を脱がせろと?
「どうします?」
これは聞くしかないです。
「わたしは無理です」
ですよね。
この状況で、一人元気に手を挙げるメイドが一人。
「はい! 私やります」
新しく入った新人の……しかし、英雄を新人に任せて良いのでしょうか。
仕方ない、今回は私が責任を負っています。
「わかりました。私とできる方、速やかに脱がせますよ」
【カイル】
──────────
そろそろいいかな?
間違って全部ボイドしてた。
快適すぎて、半分寝てた。
切ってみよう。
切ったら、目の前に人がいて叫んだ。
「きゃぁぁぁぁぁ……っ!」
反射的にボイドなんて結局出来なかった。
物凄い勢いでびっくりしたメイドさんが、部屋から出ていく。
……なんか、ごめん。
「ここは?」
お、あの先はお風呂っぽい。
湯気が当たっているのか、透明なドアが曇ってる。
もちろん、いくら僕でも服を脱いで入るくらいは知っている。
身体を見てみると、いい感じで裸だし、入ってみよう!
ガツッ
「あれ? 開かない」
ガツッ ガツッ
「ん?」
ガラガラガラガラ
スライド式!
分からないものだね。
湯気が凄い。
中に飛び込むと、そこは。
「おおお! 広い、凄い」
僕の部屋の十倍はあるんじゃ?
我慢できずに、飛び込んだ!
ザブーン
バシャー
「はぁ……気持ちいい」
こんな広くて無意味かと思ったけど、入ってみると、なんかどうでも良くなるほど幸せな気持ちになってくる。
「はぁ……ぶくぶく……ぶく」
落ち着く。
布団とは似て非なる幸福感。
一生、入ってられそう。
どのくらい入っていたのか分からないが。
お湯の中で目を開けると、誰かが居たので、お風呂の気持ちよさだけを残してボイドした。
【アルテル】
──────────
何事ですか?
今日はあの方に捉えてもらった、奴隷売買の話を詰めていたというのに。
先ほどから表が騒がしい。
トントン
誰でしょう?
「アン、お願いします」
ガチャ
「どうぞ」
扉が開いたら、アンの下に付くメイド達が慌ててなだれ込んで来た。
「メイド長、姫様、大変です!」
これは、ただ事ではないようです。
「貴方達、姫様の部屋ですよ」
私はアンを止めて、息を切らしているメイド達の側に行く。
「アン、私は大丈夫。何があったのか、ゆっくり話して」
そんなメイド達から、思ってもいない言葉が飛び出した。
「だ、大浴場に、し、し、死体が……沈んでいます!」
死体が沈んでる?
このお城の中で、そんな事があるの?
「落ち着いて……ちゃんと話して」
目の前のメイドは一呼吸おいて話し始めた。
「英雄様をお風呂に招待したんです。
そしたら急に叫ばれて、不敬をかったと思い。
お風呂の外で待っていたんです。
でも、中々出ていらっしゃらないので、何かあったんじゃと考え……初めは外から中を見たんです。見ても誰もいなかったので、おかしいと思い中に入ってよく見たら……真っ白い彼の方がお湯に沈んで浮いて来なくて……私は……」
うそ……。あまりの話にメイド達を慰めるのも忘れて、私はすぐに大浴場に向かった。
——
これは……大浴場に着いたら、そこは人だかりになっていた。
「あの方は!?」
私は急からか声量も考えずに目の前の使用人に詰め寄った。
「ひ、姫様。私も今来たところで」
私はなんて事を、自分の焦りに気づき冷静になる。
「ごめんなさい。中に入れてください」
私が入ろうとすると聞き覚えのある声に止められた。
「姫様!殿方の入浴している場に入るのはおやめください。」
セバスが私の前に立ち立ちはだかる。
「そんな事、言っている場合ですか!あの方は無事なの?入らせて」
無理矢理、中に押し通る。
流石のセバスも私の気迫に押されて通さざるを得なかったみたいだ。
中も人だかりで、大浴場の浴槽の周りに人が集まり、男の使用人達が今まさに、あの方をお湯から引き上げる所だった。
「大丈夫なのですか!?」
私はあの方が裸だとかそんな事はお構いなしに近寄り確認すると。
「スー、スー、スー」
え……寝息?
「これは、どういう事でしょうか?」
彼を抱えている使用人が私に告げた。
「ね、寝ております」
混乱している気持ちが、彼が生きている事に安心した気持ちとぶつかり、よくわからなくなって身体の力が抜け落ちお風呂場に屁たる私の目の前に裸の彼がいて私は叫んだまま気絶した。
「きゃぁぁぁぁぁぁあ……っ!」
【カイル】
──────────
「ふわぁ」
僕は目が覚めると、お湯には居なかったのでボイドを解いた。
ここは、布団の中だ。
誰かが運んで、寝かせてくれたのか。
ありがたいね。
初めてかってくらいの休日、堪能させてもらった。
はぁ、お風呂良かったなぁ。
トントン
えー、この至福の瞬間を楽しみたかったのに、誰だろう。
ガチャ
ほんと、僕の意思はないね。
誰か分からず、僕を確認して、また出て行った。
ガチャ
「大丈夫ですか!」
うお、今度は王女がいきなり飛び込んで来た。
「大丈夫だよ?」
目を開けて、聞かれた事に答える。
何の事だろう……分からん。
「良かった。本当にびっくりしました」
うん、全然分からないけど、びっくりさせたのなら謝ろう。
「ごめんね」
と言って、目の前の王女の頭に手を乗せた。
「きゃぁっ!」
え!
そんなに嫌だった?
顔を真っ赤にして叫ばれるとは思わなかった。
謝ろうと思ったら、突然の殺気が奥から放たれる。
アン……いたんだね。
油断してた。
怖すぎるよ。
「なんか、ごめん」
ちょっとしか言葉が出なかった。
それを聞いた王女が慌てて弁解するが、後の祭りだ。
アンの殺気に当てられた僕は、今日の入浴が黒く染まっていくのを感じるしかなかった。
完
いつもありがとうございます。
1-10であった、お風呂事件です。
カイルはいつものように何があったかは知りません。
おまけでした!
ぜひブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!




