1-11 お城は朝から幽霊がでます
【カイル】
──────────
昨日、一人きりの時。
どうして逃げなかったのだろう。
僕のバカ!
目の前の状況が、まったく理解できない。
どうして、見知らぬ子と二人きりで缶詰になっているのか。
——僕は今朝からのことを思い出した。
朝起きたらアンがいて、昨日のように
「おはようございます」
と言われた。
また休めるかな? と思ったら、
「少々お待ちください。知らせてまいります」
そう言って、アンは部屋を出て行った。
やることもなく窓の外を眺めていたら、王女が入ってきて、また挨拶を交わした。
にこにこ顔だったのを覚えている。
……今思えば、あれがもう罠だったのか。
しばらくして、今度は王様が僕の部屋を訪ねてきた。
目に入った瞬間、あまりの威厳に精神が飛ぶかと思った。
例えるなら、アンの殺気の二倍……。
いるだけで、だ。
見ただけで分かった。
この人が王だと。
でも、そんな王様がなぜだか、初対面なのに凄く馴れ馴れしい。
アンの殺気の二倍の王が、馴れ馴れしく接してくる……。
この城一番の地獄が、突然訪れた。
少し間を置いて、王様が怯えた僕に言った。
「会ってほしい娘がいる」
無言で頷いた。
あんな恐ろしい王様に言われて、断れる人いるの?
……さらに続ける。
「すまぬが、ついて来てほしい」
ついていく以外、なかったね。
……王様、無理でしょ?
今後もあんなフレンドリーに部屋に来られたら、休まらないよ。
仕事ないの? 暇なの?
とか、思考を別の方向に向けて逃げている間に部屋の前に着き。
僕は限界を迎え、逃げるように扉の中へ入った。
ガチャ
⸻
【アメリア】
──────────
わたしはアメリア。
少し前までは、神童などと言われていた。
そんなわたしは今、自分の部屋から出るのが怖いほどになってしまった。
あの日——
ねえさまが、他国へ視察の名目で旅立たれる時だった。
本当は、わたしが行くはずだった。
でも、どうしても行きたくなくて嫌がって、使用人たちを困らせた挙げ句、急遽ねえさまが行くことになった。
……わたしは、喜んだ。
それが、すべての始まりだった。
ねえさまが行方不明になったのは、全部わたしのせいだ。
助かった時は、ものすごく嬉しかったけど。
その時には、もう——
どうやって部屋から出ていたのかも分からないくらいになっていた。
何度もお父さまが来てくれて、最近では戻ってきたねえさまも部屋に来てくれる。
でも、わたしは「帰って!」の一点張りだった。
本当は会いたい。
でも、もう無理だと諦めていた。
ところが、そんなわたしの日常が、いきなり壊れた。
ガチャ
わたしは幼いながらも、王族として扱われている。
もしもの時のために鍵はかけていない。兵士たちが常に守ってくれているからだ。
……なのに。
突然、ノックもなく、真っ白い幽霊が入ってきた。
一瞬、本物かと思ったが、足がついていた。
どっち?
見た目は幽霊にしか見えないけど。
……存在感がありすぎて、分からない。
叫ぼうにも、叫べば人が来る。
そのことが頭をよぎり、目の前の幽霊を注視するしかなかった。
幽霊は、ユラユラと辺りを見回し、わたしを見つけた。
そのまま目が合い、気が遠くなるほど見つめ合う。
あまりの怖さに、息が止まる。
よく、怖い話に出てくる幽霊は、暗くなってから姿を現すと聞いた。
でも今は朝だ。しかも早朝。
……本物は、朝に出るの?
恐怖のあまり、目が離せない。
幽霊は椅子を見つけて腰を掛け、一息つくと、またわたしを見つめ続けた。
……怖すぎて、震えが止まらない。
⸻
【カイル】
──────────
部屋に入って辺りを見渡すと、アルテルと同じ色の髪をした小さな女の子が、ベッドの上で震えていた。
僕は、この状況を判断するため、女の子を見る。
目が合った。
合ったまま、考える。
子供はいい。
どれだけ見ても、怖くない。
髪の長さは肩くらいで、瞳は青。
ほぼ、アルテルを縮めた感じの子だった。
最初は「なんだよ」と思ったけど、これならいける。
でも、僕からは話しかけない。
なぜか震えているからだ。
待とう。
……うん。
向こうも話しかけてこないので、僕は椅子に腰掛けた。
さて、話しかけてくるまで待ちますか。
僕に勝てるかな?
どのくらい見つめ合っただろう。
目の前の子供は、急に胸のあたりを押さえ、倒れた。
震えていたので、もしかしたらと思ったけど。
この子、病気だったのか。
王様は、一言も言ってなかったよね?
ステータスの状態を確認する。
……失神?
危ない。すぐに気道を確保した。
……これで安心だ。
ん? もう一つある。
精神汚染。
病気で心が病んでいたのかな?
ついでに治してあげよう。
……心の深くまで根付いていたけど、これでいい。
状態の所には、もう何も表示されていない。
大丈夫かな。
ふぅ……。
これを、なぜ僕に頼んだのか。王様の意図は分からない。
でも、怖いし、ご飯くれるし。
……まあ、いいか。
それより、今後も王様が来たら嫌だなぁ。
あれ? ここから出たら、みんないるよね?
出られない。どうしよう。
……仕方ない。
とりあえず、外が怖いので、息が安定するまで手を握っておこう。
椅子を引き寄せ、手を握り、眠る少女を見る。
「元気になってね」
【アルテル】
──────────
彼が妹の部屋に入ってから、どのくらい経っただろう。
妹は、私が行方不明になる前と後で、別人のようになってしまった。
元々は活発で、言いたいことを我慢などせず、皆を困らせてはいたが、誰にでも愛される子だった。
帰還後、真っ先に会いに行った。
久しぶりの妹と喜びを分かち合えると思ったら、
「帰って!」
と言われ、ショックのあまり何度も扉を叩いた。
その時、アンが来て、事情を教えてくれた。
……私が行方不明になってから、今まで部屋から出ていないと。
心配で、その後も何度か会いに行ったが、駄目だった。
そんな身内の問題を、彼に任せるなんて。
お父様は、何を考えているのだろう。
私も、あの方ならもしかしたらとは思いますが。
これは、さすがに内に入れすぎでは?
……はっ!
もしかしたら、彼をこのまま、ここで。
パチン
両手で頬を叩く。
周りが驚いていますが、妹がこんな状態なのに、馬鹿なことを考えた罰です。
「お父様。かなり時間が経っています。そろそろ休憩をしてもらった方が」
お父様は、壁際の椅子に座ったまま答える。
「……確かに」
立ち上がり、部屋に入ろうとした、その時。
セバスがやって来た。
時間的に、仕事の話でしょう。
「すまぬが、急用だ。後は任せる」
お父様も大変ですね。
本当は、誰よりもアメリアを心配しているのに。
お父様を見送り、私は扉の前に立つ。
トントン
返事はない。
「入ります」
久しぶりに妹に会える嬉しさ。
拒否されるかもしれない不安。
彼が何とかしてくれているかもしれない期待。
それらを胸に、扉を開けた。
ガチャ
その光景に、私は息を呑んだ。
久しぶりの妹が、安らぎを得たかのように、ぐっすり眠っている。
その傍らで、恐ろしいほど白い彼が、手を取っていた。
まるで幻想画のような光景。
後ろのアンも、この光景に目を奪われていた。
——止まっていた時間が、彼の動きで進み出す。
彼は私たちに気づき、笑顔で言った。
「もう、大丈夫だよ」
⸻
【アメリア】
──────────
わたしは夢を見た。
幽霊に出会った夢。
とても白くて、とても恐ろしかった。
窓の外は、もう真っ暗だ。
いつの間にか、夜まで寝ていたらしい。
でも、いつぶりだろう。
こんなにスッキリした目覚めは。
布団が重い。
見ると、ねえさまがわたしに覆いかぶさるようにして寝ていた。
「……ねえさま」
不思議だ。
声に出すだけで、あれほど心を締め付けていた気持ちが、今は軽い。
「重いよ、ねえさま」
恥ずかしくなって、体を起こす。
「ん……んー」
ねえさまが起きた。
ちゃんと、顔を見られるだろうか。
「ア、アメリア!」
ねえさまが抱きついてきた。
「痛いよ、ねえさま」
その声に驚いて、離れる。
「あ、ご、ごめんね。久しぶりで、嬉しくて」
ねえさまの顔を見ても、何ともない。
あの時ぶりだ。
気が緩んだ瞬間、感情が溢れ出す。
「ご、ごめんなさい……。わたしのせいで、ねえさまが酷い目に遭ったのに……」
ねえさまは、また抱きしめてくれた。
「ううん。もういいの」
月明かりの中、
わたしたちは、今までのわだかまりを洗い流すかのように、泣き続けた——
泣きやんだ後の事
アメリア「ねえさま!わたし幽霊を見たんです。」
アルテル(彼の方ね……)
妹の頭を優しく撫でた。
アメリア「??」
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